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『ラストナイト・イン・ソーホー』感想(ネタバレ)…結末は鏡の中で反発して

ラストナイト・イン・ソーホー

エドガー・ライト監督の今度の仕掛けは?…映画『ラストナイト・イン・ソーホー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Last Night in Soho
製作国:イギリス(2021年)
日本公開日:2021年12月10日
監督:エドガー・ライト
性暴力描写

ラストナイト・イン・ソーホー

ラストナイト・イン・ソーホー

『ラストナイト・イン・ソーホー』あらすじ

ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学したエロイーズは、快楽に傾倒するルームメイトを始めとする寮生活になじめずにひとりアパートで暮らしをすることにする。ある時、夢の中できらびやかな1960年代のソーホーで歌手を目指す美しい女性のサンディに出会い、その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディを追いかけるようになり、いつしかシンクロしていく…。

『ラストナイト・イン・ソーホー』感想(ネタバレなし)

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エドガー・ライト監督の初の試み

映画オタクの間でも人気の高い監督というのは何人か挙げられますが、そのうちのひとりが“エドガー・ライト”監督でしょう。イングランド生まれのこの監督は、オタク感漂う作風でありながらもどこかこじゃれたタッチも合わせ持っており、作家性は際立っています。

ただ、その“エドガー・ライト”監督の評価にも注釈をいれないといけないとは思います。というのも“エドガー・ライト”監督が手がける作品は基本的に男性主人公ばかりで、いかにも男性オタク的な目線で物語が作られてきたからです。

ボンクラなオタクっぽい男たちが、自分の趣味嗜好を持てあましつつ、どうしようもない世界の中で自分をアピールしたり、好きな女の子に気に入られようとしたり…。

“エドガー・ライト”監督は映画オタクの味方!とは言うけれど、その「映画オタク」というのはおおむね「映画オタク男性」のことでした(もちろん“エドガー・ライト”監督作品が好きな映画オタク女性もいますよ)。こういうふうに「オタク=男性」と暗黙で前提ができあがってしまっている状況は常に意識的にならないとなと私としては思っています。

そんな“エドガー・ライト”監督でしたが、2021年、その映画オタク男性中心な作家性に新しい変化球を加えてきました。それが本作『ラストナイト・イン・ソーホー』です。

…とここまで期待を煽っておきながら、いざ『ラストナイト・イン・ソーホー』がどういう映画なのかというと、とても言及しづらい…。あまりにもネタバレ厳禁だし、監督も「ネタバレしないでね」と注意喚起しているぐらいだから…。

ただ、言えるのは『ラストナイト・イン・ソーホー』は“エドガー・ライト”監督初の女性主人公の作品になったということ。この女性主人公も元も子もない言い方をすればオタクなのですが、60年代のカルチャーが好きという趣味を持っており、これが物語に大きく関わってくることに…。

後は何も言えないかな…。まあ、“エドガー・ライト”監督のフィルモグラフィーをよく知っている人は、この監督のアプローチをわかっているでしょうし、いろいろ推察ができると思います。『ショーン・オブ・ザ・デッド』ではゾンビをだしたり、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』では想像を超える大殺戮が展開したり、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』では摩訶不思議なゲームの実体化を映像にしたり、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』ではアルコール依存症の話かと思ったらまさかのアレがでてきたり、『ベイビー・ドライバー』では音楽を聴きながらだと最高のドライビングテクニックを発揮できる若者が主人公だったり…。今まで散々“普通じゃない”奇想天外なストーリーを描いてきましたからね。

『ラストナイト・イン・ソーホー』はジャンルもなるべくは言いたくないけど…。

その何が起こるかわからないドキドキの『ラストナイト・イン・ソーホー』の主人公を演じるのは、『足跡はかき消して』で素晴らしい演技を披露して注目を集め、『ジョジョ・ラビット』『オールド』など多彩な映画で活躍している若手の“トーマサイン・マッケンジー”。『ラストナイト・イン・ソーホー』は“トーマサイン・マッケンジー”が主役として魅力全開です。

その“トーマサイン・マッケンジー”と対になるように共演するのは、『ウィッチ』で鮮烈に印象を刻み、以降も『スプリット』『サラブレッド』『EMMA エマ』などあらゆる映画で存在感を極め、最近はドラマ『クイーンズ・ギャンビット』でも圧倒的なパフォーマンスを見せた“アニャ・テイラー=ジョイ”。今回も相変わらずの禍々しさです。

他にも、『ドクター・フー』の11代目ドクター役として知られる“マット・スミス”、『女王陛下の007』の“ダイアナ・リグ”、『蜜の味』の“リタ・トゥシンハム”、『コレクター』の“テレンス・スタンプ”など。脇のキャスティングはいつもの“エドガー・ライト”監督らしいシネフィルな顔触れですね。

あとはもう『ラストナイト・イン・ソーホー』の魔力に引き寄せられてください。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:監督・俳優ファンは要注目
友人3.5:ビジュアルに惹かれるも良し
恋人3.5:ロマンス要素は無し
キッズ2.5:暴力描写あり
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『ラストナイト・イン・ソーホー』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ラストナイト・イン・ソーホー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):夢の中の彼女と…

家の中をノリノリに練り歩くひとりの少女。新聞で作った衣装ですが、映画に出てくる女優のつもりで本人はなりきっています。エロイーズ(エリー)は60年代の映画やファッションが好きで、とくにその時代に輝いていた女性たちに憧れていました。

今は祖母のペギーとコーンウォールのレッドルースという町の郊外で2人暮らし。母は亡くなりました。でも鏡の中にいます。エロイーズは亡くなった母が鏡で見えるという、ちょっと特異な体質の持ち主でした。

ある日、封筒が届きます。慌てて開けるエロイーズ。その中身を目にするなり「ロンドンに行ける!」とウキウキで大はしゃぎ。専門大学の「ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション」に入学することが決まったのです。

鏡の中の母にさよならを言い、家を出るエロイーズ。ついに夢に近づける。ワクワクです。

駅からタクシーに乗り換え、窓から都会の街を覗いてウキウキ。すると運転手に「モデルですか」と聞かれ、「デザイナーです」と答えます。その運転手の嫌な態度に不快感を感じつつ、店へ避難。

寮の入り口で大きなスーツケースを階段に引っかけていると、ひとりの同年代の男が手助けしようかと声をかけてきますが、断ります。

エロイーズの部屋にはすでにルームメイトがおり、ジョコスタという名前。ただ、田舎者扱いで嫌味な性格のようで、仲間に紹介されるも値踏みされる視線に戸惑います。そのジョコスタ含む4人の同期についていってバーに繰り出すも、下品もOKなノリについていけず、しかもトイレの個室に籠っていると自分の悪口で盛り上がる4人の会話を聞いてしまい、ひとり帰ることに。

そのとき、ある初老の男に目がいきます。何か不思議な感覚が…。

寮に戻っても賑やかな雰囲気に耐え切れず、気分は最悪。これではまともに学べない。そう感じたエロイーズは、学校の掲示板の下に落ちていた手書きの下宿物件の案内を見つけ、そこに向かいます。それはソーホーという地区にあり、アレクサンドラ・コリンズという名の落ち着いた老婦人の家の最上階の部屋でした。内装は古びていますが、60年大好きのエロイーズには絶好の佇まい。すぐにその部屋を借りることにします。

邪魔者はいないので安心して音楽をかけてベッドで眠りにつきます。

これは夢なのか。今、エロイーズは、60年代のロンドンのウエストエンドにあるナイトクラブ「カフェ・ド・パリス」の前にいました。そこへ吸い寄せられるように入っていきます。

すると鏡に映った自分は全くの別人だということに気づきます。自信に満ちた若い金髪の女性。名前はサンディというようで、彼女はナイトクラブで歌手としてデビューしたいと考えており、マネージャーに話すように言われます。そのマネージャーの名前はジャック。サンディのことをひとめで気に入ったのか、情熱的にキスをし、瞬く間に関係を深めます。

目覚めるとあの部屋のベッドの上。あれはやっぱり夢…。でもなぜか妙に生々しい体験でした。

そしてエロイーズはサンディの影響を受けていくことに…。

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視覚効果にうっとり

『ラストナイト・イン・ソーホー』を鑑賞すると真っ先に印象にガツンと残るのはそのビジュアル。

まず冒頭からド田舎のオタクであるエロイーズが見よう見まねでポーズを決めて自由奔放にごっこ遊びをしているシーンで始まり、その構図も含めて完璧です。まあ、“トーマサイン・マッケンジー”が演じているから絵になっているんですけど…(これがいつもの“サイモン・ペッグ”だったらギャグだから…)。

そしてついにエロイーズが60年代へとタイムスリップするシーンでいよいよビジュアルは極まってきます。この寝る前の赤と青の光の点滅による始まりのドキドキ感とかもいいですね。視覚効果としては『赤い影』(1973年)を参照にしているのかな。

本作の真骨頂、サンディとのシンクロ。でも単純に「サンディになりました」で終わらせておらず、鏡に常にエロイーズが映るという非常に手の込んだことをしており、この視覚効果トリックも見事です。VFXじゃなくて一部のシーンは特殊効果で撮っているというのだからスゴイですよ。

あのダンスシーンも素晴らしくて、次々にサンディ→エロイーズ→サンディ→エロイーズ→サンディ…と交互に変わっていくのを長回しで撮る…鮮やかすぎてウットリします。

演出上、“トーマサイン・マッケンジー”と“アニャ・テイラー=ジョイ”の2人を同時に拝めるのですから、なんとも贅沢な映画です。

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監督なりの映画業界への自己批判

『ラストナイト・イン・ソーホー』、ここから物語面のネタバレに入っていきますが、序盤から妙に主演の2人の女優をフェティシズムに撮っているなと思ったら、そこはしっかり意図的なものでした。

つまるところ、本作は女性への男性による性的加害・搾取をテーマにしたサイコロジカル・ホラーだったのでした。

このテーマ性に関してはおそらく“エドガー・ライト”監督なりの映画オタクとしての自己批判があるのだと思います。無邪気に「60年代の映画っていいよね~」とニヤついているのでいいのだろうか、その時代に映画などエンターテインメント界で起きていた女性への性的加害・搾取を黙殺はできないだろう、と。

そもそも“エドガー・ライト”監督も前作の『ベイビー・ドライバー』で出演していた”ケヴィン・スペイシー”が未成年への性的暴行で告発されてしまいましたからね。他人事ではいられないでしょう。

この『ラストナイト・イン・ソーホー』は全体的に“ロマン・ポランスキー”監督の『反撥』(1965年)という映画を土台にしているのが窺えます。あれも男性からの加害によってしだいに男性恐怖症に陥り、心理的に錯乱していく女性を描いたものでした。ここで重要なのはその『反撥』を撮ったのが“ロマン・ポランスキー”監督だということであり、ご存じのように彼は未成年への性的暴行で有罪となったにもかかわらずアメリカからフランスへ逃げ、今も映画活動を続けています。

“エドガー・ライト”監督はMeToo運動を踏まえ、自分なりに男性主体の映画界の問題点を突きつける作品を撮りたかったのかな。

今作は“エドガー・ライト”監督版『お嬢さん』みたいな立ち位置ですね(『ラストナイト・イン・ソーホー』の撮影は『お嬢さん』を手がけた“チョン・ジョンフン”)。二転三転するストーリーの中で、異なる2人の女性がシスターフッドを築いていき、男性支配に立ち向かっていく。どおりで特異な一作なわけです。

『ラストナイト・イン・ソーホー』は「“トーマサイン・マッケンジー”や“アニャ・テイラー=ジョイ”が可愛いな~。眼福だな~。好みとしてどっち派~?」みたいに群がってくる男観客にひと蹴り(ひと刺し?)いれる映画なのでした。

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まだまだ男性視点的な歪みがある気も…

その“エドガー・ライト”監督の正しくあろうという心意気は受け取ったのですが、『ラストナイト・イン・ソーホー』は個人的にモヤモヤする部分もあって…。

本作は女性主人公ではあるのですけど、やっぱり男性視点的な男性向け感はまだ払拭できていないかなと思うのです。

なんというか、物語の構成的に「純情な女子を穢れた男の手から守る」という主軸が見えてくるし、エロイーズの男性恐怖もとい性嫌悪的な側面を安易に演出に含めすぎているせいもあって、セックスワーカー嫌悪に見えてこないでもない構図にも思える…。もちろんサンディが騙されてああいう仕事に不本意についてしまうのは酷いことではあるのですが、別に「女性を男性加害から保護する」=「女性を性から遠ざける」ということではないと思うし…。

あと何よりも問題だなと感じるのは、性暴力を含む男性による加害性が本筋にあるのに、それが宣伝における物語上は伏せられているという点です。こういう要素をネタバレ厳禁な隠し玉として設定するのは不誠実じゃないかと…。「実は性暴力が題材でした~」で楽しめるのは被害経験なんてありえない立場の人だけで、結局はこの『ラストナイト・イン・ソーホー』も観客個人によってはトラウマポルノ的にしかならない気も…。ただでさえ、本作は生々しく執拗に、心理的トラウマを可視化するように描いていますから。

ざっくり言えば、『ラストナイト・イン・ソーホー』も『最後の決闘裁判』と同じように主に男性側が学ぶのに使われる素材みたいな印象も受けます。『ラストナイト・イン・ソーホー』の場合はエンタメ度が濃いので余計にそれが不真面目に見てしまうデメリットが露呈しているんじゃないかな。

ラストは下宿のコリンズの正体がサンディだと判明し、しかも言い寄ってくる男たちを殺害して家中に隠していたことが判明。炎上する忌まわしき家が60年代の女性の絶望を天に送っていきます。

2020年代は女性にとってもっと良い時代になればいいけど、いまだに続く酷い業界の実情を聞くと…。映画オタクだからこそ、映画業界の間違った姿はこれからも正していきたいものです。

『ラストナイト・イン・ソーホー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience 89%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED ラストナイトインソーホー

以上、『ラストナイト・イン・ソーホー』の感想でした。

Last Night in Soho (2021) [Japanese Review] 『ラストナイト・イン・ソーホー』考察・評価レビュー