GiriHaji
ドラマシリーズ『Giri / Haji』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Giri/Haji
製作国:イギリス(2019年)
シーズン1:2020年にNetflixで配信
製作総指揮:ジェーン・フェザーストーン、ジョー・バートン ほか

Giri/Haji

あらすじ

悲惨な暴力団抗争を引き起こしたのは、死んだはずの弟だった。事態の収拾のため、そして謎を解き明かすために東京からロンドンへと飛んだ刑事は、思わぬ事態に直面する。善と悪、信頼と裏切りの狭間で揺れ動く中で、多くの人々の運命が複雑に交錯していることも知る。自分は誰のために何をするべきなのか。義理を重んじるか、恥を隠し抜くのか…。

『Giri/Haji』感想(ネタバレなし)

イギリスがヤクザを描く

海外の映像作品(映画やドラマシリーズなど)で日本を描写したものがあれば、私たち日本人は当然のように厳しい目でそれを吟味します。これはちょっとおかしくないか…。これは誇張がすぎるのではないか…。これはさすがにヘンテコすぎて失笑だよ…。そんな批評を下すのも、母国を描かれるならあたり前です。

残念なことにいまだに欧米作品のアジア描写は違和感を持ってしまうケースが頻繁にあります。片言の日本語、珍妙な看板、支離滅裂な地理感覚、ステレオタイプなアジアっぽさ…。こういうのを見ると、やっぱり外国人というのはろくに私たちの国の文化なんかは理解していないんだなぁと痛感します(もちろんこれは反転するわけで、私たち日本人もろくに外国の文化を理解していないのですが…)。

ここまで世界がグローバル化して、ダイバーシティが叫ばれているのだから、いい加減に改善の兆しを見せ始めてもいいのですけど…凝り固まった先入観のせいなのか、予算の問題なのか…。

そんな中でなかなかにインパクトのある海外ドラマが登場しました。「欧米の日本描写って変なのでしょう?」と感じている人にこそ観てほしい一作です。それが本作『Giri/Haji』

「Girl/Haji」じゃないですよ、「Giri」です。私もこのタイトルを目にした最初は「Giri?Haji?なんのことだろう?なんかの名前?」とぼんやり思ったのですけど、「義理」「恥」という思いっきり日本語でした(気づかなかった自分が恥ずかしい…)。ローマ字で書かれると全然わからない…。

本作はなんとあのBBCが制作しているイギリスのドラマシリーズです。じゃあなんで日本語なのか?と思うところですが、本作は日本とロンドンという2つの地域を舞台にした“ヤクザもの”の作品になっています。BBCがヤクザ作品を作るなんて、まさかの展開です。『SHERLOCK』とかもろに「イギリス!」って感じの作品ばかりを作っているわけではないんですね…。

しかも、この『Giri/Haji』、題材がヤクザで日本が舞台というだけではないのです。これまた驚いたことにキャストも日本人俳優を起用しており、撮影地もしっかり日本で撮っています

まず主演が『検察側の罪人』にも出演していた“平岳大”。彼はアメリカの大学に進学していたそうなので英語を喋れるんですね。そして“平岳大”と肩を並べて同じくらい重要な役回りで登場するのが『沈黙 サイレンス』にも出ていた“窪塚洋介”です。

この2人を主軸にしつつ、“本木雅弘”、“中村優子”、“勝矢”などが出演し、日本勢はかなりの本格的な顔ぶれになっており、これだけ見ると普通に日本の作品に見えてきます。あたり前ですが、変な日本語なんて飛び出してきません。

日本側のキャストだとこれ以外にも、“奥山葵”というフレッシュな若手も抜擢されており、一度観ると忘れられない非常に印象的な活躍を見せています。

もちろん海外勢の俳優もそこに加わっており、『ノーカントリー』の“ケリー・マクドナルド”、『Mr.タスク』の“ジャスティン・ロング”など。とくに日系イギリス人である“ウィル・シャープ”の演技は絶賛され、英国アカデミー賞テレビ部門の助演男優賞を受賞しました。

他にも英国アカデミー賞テレビ部門では、最優秀ドラマシリーズ、主演男優賞(“平岳大”)など6部門ノミネートを果たし、文句なしの高評価を獲得。

ちなみにBBCの他に本作の制作に関与しているのは、衝撃の傑作ドラマ『チェルノブイリ』を制作したシスターピクチャーズです。そんなわけでクオリティは1級品です。 


なんで『Giri/Haji』のような作品をイギリスが作ったのだろう?と不思議ですが、やっぱりもう定番なネタは視聴者も飽きているし、変わった題材を探していたのでしょうかね。

なんにせよこうやって海外作品における日本描写がブラッシュアップしていくのは嬉しいことです。

イギリス本国では称賛を受けた『Giri/Haji』。では日本人の目から観たらどう思うのか。それはぜひあなた自身で確認してみてください。

日本では『Giri/Haji』はNetflixオリジナル作品として配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◎(海外ドラマ好きは必見)
友人◎(続きが気になるストーリー)
恋人◎(話題にちょうどいい)
キッズ△(暴力描写は満載です)

『Giri/Haji』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『Giri/Haji』感想(ネタバレあり)

日本社会に捨てられた者たち

夜のロンドン。職場から帰宅するひとりのサラリーマン。高級そうなアパートの家でくつろいでいると、来客があったらしく「はい、どうぞ」と日本語で対応。玄関に出迎えにいきます。

シーンが代わり先ほどの部屋。警察による現場検証が行われており、先ほどのサラリーマンが背中を短刀で刺された状態で床に倒れて死亡しています。

そのロンドンで死亡した男の写真をどこから入手したのか、東京でとある男が食事をしながら見ています。場所は飲食店。電話が来きますが「飯が冷える」と切ります。するとどこからともなく突然撃たれまくり、周辺の人も巻き込んで殺されてしまいます。

ロンドンと東京で起きた2つの殺人事件。これが波乱の幕開けでした。
 
刑事である森健三は、家族に囲まれて今日も1日の始まりです。妻のレイは家事に忙しく、健三の両親である高齢の穂高ナツコが同居しています。ひとり娘である多喜は部屋に引きこもっており、あまり姿を見せません。

平穏な朝でしたが、「ニュースを見ろ」と電話がかかってきて、さっそくテレビをつけると都内レストランで起きた襲撃事件で話題は持ち切り。暴力団関係らしく、健三はすぐさま現場に向かいます。

現場を見て回ると、同僚のとしおから、福原組のヤクザたちがやられたと説明を受けます。しかし、当の組長である福原は行方不明とのこと。上司は他の組から丁重に話を聞いてこいと健三に指示を出します。

某所の福原宅へ足を運びますが、インターホンを鳴らしても出ません。健三は次は遠藤事務所へ向かい、話を聞きます。「協力しますよ、やりあったのは昔のことだ、この世には長生きできない人間がいる、呪いです」と遠藤は淡々と語っていました。たいして手がかりもないまま、困っていると健三は現場にあった短刀で刺された死体の写真に写っていたコンセントのかたちから日本じゃないと見抜きます。

多忙の中、帰宅した健三は、同級生の男子を多喜が刺したと聞かされ、家でもトラブル勃発に疲労が溜まります。

その夜中、健三の家にいきなり福原がやってきました。「遠藤の仕業だ」と切り出す福原。写真の男は三郎といって遠藤の甥にあたるらしく、使われた短刀は私のもので、みんな私がやったと思っていると語ります。「あの刀はあんたの弟が持ち去った」…そう告げる福原に健三は「ありえない」とショックを隠せませんが、「ありえないことなどないんだよ」と福原も引き下がりません。

上司の林警部も来て、健三の弟であるユウトを探し出して連れ戻すように命令します。「明日、出発しろ」「正式な捜査ではない」と釘を刺しながら、これは落とし前だと福原は宣言するのでした。

昔、健三の弟であるユウトは福原組の世話になっていましたが、ある日忽然と姿を消し、乗っていた車が水中から発見され、死亡とされていました。でも生きているのか? だとしてもなぜロンドンに?

健三は単身ロンドンに出発。来るはずの迎えが来ず、しょうがないので一夜をなんとか過ごします。そこに一応は名目上、イギリスの犯罪現場管理コースを受講することになっているので、教師であるセーラ・ワイツマンと挨拶します。

やっと案内係であるワタリが迎えに来て、事件現場へ。しかし暗証番号がわからないので入れません。一方、東京にもロイというイギリスの刑事が来ているととしおが電話で教えてくれました。

セーラは職場の警察にて、イアン・サマーズが仮釈放になったと小耳にはさみ、動揺します。

異国の地で手がかりを求める健三はバーでロドニーという日系イギリス人と出会い、日本人が集まりそうな場所を紹介してもらいます。

そんな健三を遠くからスコープで見つめる謎の人間も…。

ロンドンのギャングも絡みながら、事件は混迷を深めていく中、ユウトは何をしようとしているのか…。

GiriHaji

日本人男性は古臭い社会構造から脱出できるか

『Giri/Haji』を観ていると、日本人以上に日本(もっと言えば日本社会)を的確に風刺している面がチラホラ見えて、さすが日本にも精通しているBBCなだけはあるなと思いました。

そもそも主題にしている「ヤクザ」という存在。これは現在に残る日本のあからさまに旧時代的な社会構造そのものを素で体現しています。日本人から見てもヤクザの価値観は古風すぎますよね。

本作はヤクザの抗争がロンドンへと波及していくクライムサスペンスでありながらも、そのテーマは古臭い社会構造からの脱却にあるのだと思います。要するに、義理とか、恥とか、家父長的な家族観とか、そうした鎖から人は抜け出せるのか…そういうことです。

健三は典型的な日本の家父長ですが、弟であるユウトの一件があったせいか、家族においても職場においても引け目を感じており、やや居場所を見失っています。ロンドンに派遣された結果、それはいわば脱“男らしさ”への探求にも繋がるわけですが、そう簡単には上手くいきません。それどころかロンドンではさらなる暴力的な事件に巻き込まれていき、罪を重ねてしまいます。

ギャングのアボットや、そのビジネスパートナーであるヴィッカースもろくな男ではありません。全然参考にもなりません。

けれども、セーラという女性との交流を重ねながら、自分が抱え込んでいた「男なら感情を表に出してはいけない」という重荷を降ろし始め、ひとつひとつ過去の問題を清算していきます。父である森穂高と向き合い、職場の男社会とも向き合い、そしてユウトとも向き合う。

そんなユウトも実際のところ過度な男らしさを背負い過ぎたことで人生を破滅させてしまっています。福原の大事な娘であるエイコと愛を育み、妊娠させてしまったことで、責任を負ってしまったユウト。その責任を果たすためにどんどん暴力に暴力を重ねていきますが、最終的には「女を守るのが男の役目」という男らしさを良い意味で捨てることになり、解放されていきます。

本作は2人の日本男児が日本の男社会の縛りを脱ぎ捨てる物語。それは恥ではないのです。

日本人女性もシスターフッドできる!

一方、『Giri/Haji』で際立っているなと思うのは日本人女性の描写。これが凡百の日本作品だとステレオタイプな女性描写にとどまるだけなのですが、本作はそうはさせません。

印象的なのは健三の妻であるレイです。彼女は前半は家で主人を待つ妻という非常に典型的な役割を担っているだけなのですが、しだいにそこから逸脱した行動をとるようになります。

とくにユウトから日本で匿われている事実上の妻エイコと赤ん坊(孫)を救ってほしいと頼まれたときです。ここでレイとその義理の母であるナツコ、そして親類ということになるエイコの3人が揃い、世代の異なる女性3人のシスターフッドが確立します。この展開はなかなかにアガる流れで、掃除婦のふりをしてあっさりと福原宅に侵入したり、ちょっとコミカルに描きながら、日本の男社会に一矢報いるノリが楽しいです。

そんな中でレイは健三との関係を断ち切ることを自ら選択します。日本の女性にとって「夫を捨てる」というのは保守的な考えでは恥とされてきました。でもそれは恥じゃない。夫に尽くす必要なんてない。この決断を持って、レイは日本の社会の鎖から解き放たれました。

そしてもうひとり本作には忘れてはならない女性がいます。健三の娘である16歳の多喜です。彼女は家で同級生の男子に性的に詰め寄られ、反撃ということでハサミで刺し、そのまま退学になってしまいます。本来は多喜の方が被害者のはずなのに、なぜか辱めを受けたうえで追い打ちを社会に加えられる…まさに性犯罪に無頓着な日本社会の犠牲者です。

その多喜が「ここにいるほうが自分のことを好きになれる」とロンドンで自分らしさを見つけていく…その姿が微笑ましく、そしてたくましいです。あの父に対するレズビアン(もしくはバイセクシュアル)のカミングアウト・シーンにおける必要以上に深刻さを出さないさりげない感じもいいものでした。多喜の人生はここから始まるわけで、スタートラインに立ったということですかね。

最終話でビルの屋上で登場人物が一堂に会して踊り合うという、一種の空想シーンがありますが、あれはまさしくそれぞれが既存の旧社会から解放されていったということを象徴的に表した、なんとも映像ならではの演出だったのではないでしょうか。

ヤクザ作品でありながら、ヤクザ作品にありがちなジェンダーの古さをアップデートしてみせたのですから、これは日本側もうかうかしていられないですよ。

言語コミュニケーション・ギャグも心地いい

『Giri/Haji』は登場人物が話す言語にも細々とした演出が加わっています。おそらく作り手も「非日本の海外作品では日本語が変」ということを承知したうえで、あえて意識的に気を付けているのだと思います。その結果、かなり高度な言語ギャグとかも飛び出しており、クスリと笑わせてきます。

とくに英語で「rent boy」といわれる(日本語で言えば「男娼」)のロドニーは絶妙な日本語の混ぜ方によって、何とも言えない空気感を発揮しており、本作の癒しキャラ化している部分もありました。あの独特のコミュニケーション感覚、クセになってきますよね。

セーラのボスである男と健三が話す際に、多喜が通訳になりつつ、でも全然違うことを喋っているというコミカルなシーンも面白いですし、アボットとかは周りが日本語だけでトークするものだから若干置いてけぼりになってしまって焦る(白人の方がマイノリティ化している)など、随所に言語ギャグがあってユニークです。

そして東京に派遣されたロイのまさかの土壇場での活躍。あんなに好き勝手に言われ放題だったのに…。ちなみにロイを演じた“トニー・ウェイ”、『ゲーム・オブ・スローンズ』でも哀れな役で登場しているんですよね。

本作では全体的に英語をわかっていない日本人を嘲笑うギャグは少なくて、それよりも日本語をわかっていないイギリス人を小馬鹿にするギャグが多いのも、ちゃんと作り手の立場をわきまえている感じが伝わってきます。アジア蔑視に感じるシーンもあまりなかったかな、と。

こういう『Giri/Haji』みたいな作品は、日本の俳優の新しい挑戦にもなるし、世界に知ってもらえる良い機会にもなるし、どんどん作られていってほしいなと思います。日本人が海外で活躍するには別に英語スキルが抜群に堪能じゃなくてもよくて(本作の“平岳大”や“窪塚洋介”などは英語はそこまで流暢ではない)、制作側の姿勢しだいなんだと本作が証明したのではないでしょうか。

英語がそんなに上手くないのも、恥ではないですね。

『Giri/Haji』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 90%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C) BBC, Netflix

以上、『Giri/Haji』の感想でした。