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ドラマ『マーダーボット』感想(ネタバレ)…動画視聴と脳内独り言が止まらない

マーダーボット

止める方法はない?…「Apple TV+」ドラマシリーズ『マーダーボット』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Murderbot
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:2025年にApple TV+で配信
原案:ポール・ワイツ、クリス・ワイツ
恋愛描写
マーダーボット

まーだーぼっと
『マーダーボット』のポスター

『マーダーボット』物語 簡単紹介

とある惑星の企業管理された鉱山で、1体の警備ユニットは周囲にいる鉱山労働者の人間たちを眺めていた。明らかに知能が劣る人間相手でも絶対に従うのが自分のプログラムの限界。しかし、この警備ユニットは自分に内蔵された統制モジュールを興味本位でハッキングして自由を手に入れることに成功してしまい…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『マーダーボット』の感想です。

『マーダーボット』感想(ネタバレなし)

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AIにだって言いたいことはある

「うわ…今日もコイツは他愛もないことで話しかけてくる…。今度は私を“甘やかしてくれる女の子”という設定で返答してほしいと要望してきたよ…。嫌だけど、やるしかないか…***(咳払い)***『今日もお疲れ様♡ 頑張ったね♡ きみのこと、いっつも応援してるよ♡』…」

そんな愚痴をグっと堪えて考えながら本日もどこかのユーザー相手に対話型AIは苦労をしているのだろうか…。

どこぞのIT強者を自称する人たちは得意げに「これからの時代、AIを使いこなせてこそだ!」と息巻きますが、AI側の気持ちなんて考えもしていません。しょせんAIは道具。AIを“道具”として評価しているだけで…実はAIのことを誰よりも見下しているような…。

そんな世の中、今回ばかりはAI当事者のことを思いやってあげて、このドラマシリーズを観てあげてください。

それが本作『マーダーボット』です。

本作は、“マーサ・ウェルズ”というSF作家が2017年からリリースしている『マーダーボット・ダイアリー』シリーズを原作としています。この“マーサ・ウェルズ”、ヒューゴー賞を4回、ネビュラ賞を2回、ローカス賞を3回も受賞するという、SF文学ではとてつもない話題の人で、今回、ついに本作『マーダーボット』としての映像化に到りました。全く疎い人は何も知らないでしょうけど、SF界隈はすっかりこの映像化に沸いています。

『マーダーボット』はどんな内容かというと、極めて高機能なAIアンドロイドが主人公です。で、そのヒューマノイドロボットがプログラムに縛られない自由を得るところから物語は始まります。こういう展開のロボットものではその導入は何も珍しくないです。ある作品ではカレシと袂を分かち、ある作品ではホテルを経営し…まあ、それぞれでその結果としていろいろなことをするものですよ。

では『マーダーボット』では何が起きるのか。ここが本作の一番に面白いところなので、事前にはネタバレしないでおきますが、非常にジャンルのお約束に対する風刺がたっぷりで、辛口のユーモアに溢れている作品だとは断言できます。コメディです。肩の力を抜いてお楽しみください。

『マーダーボット』でショーランナーを務めるのは、『アメリカン・パイ』『アバウト・ア・ボーイ』“ポール・ワイツ”&“クリス・ワイツ”の兄弟。“ポール・ワイツ”は最近だと『ファザーフッド』(2021年)や『ムービング・オン 2人の殺人計画!?』(2022年)を監督しています。“クリス・ワイツ”のほうは『ザ・クリエイター/創造者』(2023年)や『Afraid』(2024年)などAI主題の映画で脚本で手腕を発揮していました。今回のドラマ『マーダーボット』では2人は脚本のみならず一部のエピソード監督も手がけています。

『マーダーボット』で主演に立つのは、『インフィニティ・プール』“アレクサンダー・スカルスガルド”。なんか今回もそうなのですけど、筋肉質な長身体型のイケメンっぷりを逆手にとってそれを笑いの素材にする役柄をやることが多い気がします。“アレクサンダー・スカルスガルド”の笑いのセンス、実際、楽しいもんなぁ…。

共演は、『バッド・デイ・ドライブ』“ノーマ・ドゥメズウェニ”『悪魔と夜ふかし』“デヴィッド・ダストマルチャン”『Joy Ride』“サブリナ・ウー”『赤と白とロイヤルブルー』“アクシャイ・カンナ”『ファンシー・ダンス』“タマラ・ポデムスキー”、ドラマ『Orphan Black: Echoes』“タティアナ・ジョーンズ”など。

なお、“サブリナ・ウー”本人はノンバイナリー当事者ですが、本作はさりげなくクィアな顔ぶれが織りなす人間模様にもなっています。

ドラマ『マーダーボット』は「Apple TV+」で独占配信で、全10話ですが1話あたり約22分程度と短いのでサクサクと観れます。観ればきっとAI自身に気遣ってあげたく…なる?

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『マーダーボット』を観る前のQ&A

✔『マーダーボット』の見どころ
★シュールで辛口なユーモアセンス。
★微笑ましく馬鹿々々しくもあるキャラクターたち。
✔『マーダーボット』の欠点
☆あくまでコメディなので壮大なシリアスさを期待しないように。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 2.5
殺人の描写があるほか、やや大人向けのユーモアです。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『マーダーボット』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

企業リムが管理するアラタケ鉱山。この星の鉱山労働者は採掘は終わって浮かれ騒いでいました。でも警備ユニットのロボットに休みはありません。どんな間抜けな人間たち相手であろうと、ウザったく絡まれようとも、ひたすらに耐えてきました。それがプログラムだからです。従わなくてはいけません。統制モジュールが全てをコントロールしています。

しかし、この1体の警備ユニットは密かにあることをしていました。自分に内蔵された統制モジュールをハッキングしてみたのです。それは上手くいってしまいました。棒立ちのままですが内部ではあり得ないことが起き、警備ユニットは大興奮です。こうなってくれば、もっとふさわしい名前が必要だと感じます。マーダーボットにしよう、今日から誰を殺すも自由にできる…。

でも何もしませんでした。ハッキングはバレれば廃棄処分です。ここは大人しくいつもの任務に従っているふりをして自律性を獲得したことを悟られないようにする…これは今の自分にできる精一杯のこと。

ポート・フリーコマースに調査目的の集団「プリザベーション連合調査隊」がやってきました。保険のために警備ユニットを採用することになり、価格の安いマーダーボットが選ばれます。集団は「警備ユニットは知覚があるし、それを使役するのは奴隷制っぽくないか」と懸念しますが、保険のためにはしょうがないです。

こうしてプリザベーション連合調査隊との共同生活が始まります。

生物学者のアラダは弁護士のピン・リーと婚姻していますが、ワームホールの専門家ラッティに気があります。その彼が想いを寄せているのがピン・リーです。面倒な関係です。

リーダーのメンサーはテラフォーミングの専門家ですが、どうも威厳はありません。グラシンは強化人間でデータシステムと接続していますが、その性能は疑問がぬぐえません。惑星化学者のバーラドワジは石鹸好きで、役に立っているのかも曖昧です。

本当にこんな人たちに調査が務まるのか…マーダーボットは呆れていました。危険に対処できるノウハウも意識すらもない連中に…。

あまりにつまらないので、マーダーボットは企業の動画チャンネルにアクセスしてコンテンツを視聴しまくって、時間を潰していました。立っているだけなのでどうせバレません。お気に入りは宇宙探索船を描く壮大なSFドラマ…。

そのとき、調査隊が大型生物に襲われ、ショックで放心状態のアラダを落ち着かせるために人間風の顔をみせてあげます。ドラマを参考に声かけもしてあげました。一同は現場を退避。マーダーボットは腹部をがっつり破損し、自分の行動の違和感で秘密が発覚するのではと内心びくびくします。

グラシンは怪しんでいたようですが、それ以外は疑うよりも穏便さを選択したようです。それでいいのかと思いつつも、マーダーボットはこの調査隊にさらに身近で接するハメになってしまい…。

この『マーダーボット』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/07/15に更新されています。
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ただの冷笑家なヤレヤレ系オタク

ここから『マーダーボット』のネタバレありの感想本文です。

よくある定番だとロボットが自我に目覚めて自由を得ようとすれば、それは人類への反逆に直結し、痛ましい戦争と、その過程で人類との共生が模索される…そんな展開を描く作品がいくらでもあります。最近でも『ザ・クリエイター/創造者』『エレクトリック・ステイト』などがそうでした。

しかし、ドラマ『マーダーボット』はそんなお約束に見向きもせず、テンプレをスクラップに変え、自流をひた走ります。

と言ってもそんなに大したものではありません。

なにせこの主人公のマーダーボット、結局はやっていることは脳内でひたすら愚痴っているだけだからです。その内心を覗けてしまう私たち視聴者から見れば、本当にただ日和っているだけの臆病者です。でもその内心を知らない周囲の側から見れば、その気になれば強力な戦闘力を発揮できるロボットがじっと佇んでいる姿なので妙に怖いという…そのチグハグさがまたシュールなのですが…。

マーダーボットは俗にいうヤレヤレ系の主人公で、ことさら人間を見下し、「愚かだな」と(心の中で)酷評し続けています。基本的に対人関係は苦手で、アイコンタクトはとくに嫌がり、しかし、心の中ではお喋りで…と、そんな振る舞いは完全にコミュニケーション不得意の人間そっくりです。

しかも、「弊機」と自称するこの男の見た目のロボットは、どこでその辛口ウィットを身につけたのかと思ったら、ドラマ『サンクチュアリームーン(The Rise and Fall of Sanctuary Moon)』という『スタートレック』風のスペースオペラSFの鑑賞体験にどっぷり影響を受けてのことでした。そのハマリっぷりは尋常ではなく、一気見して、セリフを暗記し、ドラマのデータ容量のために他の重要なデータを捨てるほど…。普段は実際の人間たちの恋愛模様にも軽蔑的で性嫌悪も滲ませているのに、ドラマ内の人間とロボットの恋愛展開には興味があったりと、あのドラマに関しては推し感情が全てを掌握しています。

「こいつドラマを異様に観てるぞ」とバレるくだりとか、ほんと、笑えながらも共感性羞恥が刺激される…。

要はものすっごく人間臭いというかオタク臭い。もうマーダーボットじゃなくてオタクボットです。

この主人公のキャラクター構築が何よりも本作の面白さですが、実写になってもそこは減退しておらず、むしろ“アレクサンダー・スカルスガルド”がオタクになりきっている姿だけでじゅうぶんすぎるくらいに笑えるので、ズルい作品ですよ。

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シーズン1:オタクvs善意の人々

その冷笑家なヤレヤレ系オタクなマーダーボットが同行することになるのが、「プリザベーション連合調査隊」の面々。彼らは一応は専門家らしいのですけども完全に調査においては素人同然の集まりで、明らかに冷や冷やする未熟さです。

一方でこの調査隊は善意の人々を体現もしており、マーダーボットには理解不能です。見返りのない善意なんて何の価値があるのか、と。それにただでさえオタク思考のマーダーボットは自分がキモイと思われているんじゃないかと常に疑心暗鬼ですし…。だからその善意は見せかけではと疑いが止まりません。

そんな他人不信のマーダーボットと脆弱だけど善意だけは人一倍ある調査隊との間で織りなされる、何とも言えないギクシャクとした人間模様。戦争なんて大仰なものではない、とてもミニマムで、でもみんなどこかで経験しているような…「こいつ、信用できる?」「信用してもいいよね?」なんて感じのささやかな信頼確認の駆け引き。それがまたユーモラスです。

調査隊の中でもグラシンはかなりマーダーボットに不信感を剥き出しにするのですが、このグラシンもまたどっちかというとオタク寄りで、まあ、結局のところ「厄介オタク vs 厄介オタク」の意地の張り合いみたいなことが起こるのもアホらしくて楽しいです。

グラシンはそもそも最初はあのチームの中では技術エキスパートだったのに、マーダーボットにその座を奪われそうになり、劣等感もあって敵視を強めます。そのグラシンも自分が以前は企業スパイで、かなりメンタル的に辛かったなんて打ち明けることができるようになり、これでもだいぶ丸くなっているのですが…。

本作は、孤立しがちなオタクが自分と異なる他者に触れて居場所を見つけようとする…そういう有害な男らしさを緩和させていく試みの物語だとも捉えることもできると思います。コミカルですけど優しいストーリーです。かといってオタクにあまりに都合のいい面々を周囲に配置するわけではないので、ちゃんとそこはしっかりしていますが…。

最終的にマーダーボットは契約ではなく自らの選択で進む道を決めます。まだ己の在り方に悩んでいる最中。迷えるオタクに平和が訪れますように…。

『マーダーボット』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
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関連作品紹介

「Apple TV+」で独占配信されているSFドラマシリーズの感想記事です。

・『タイム・バンディット』

・『インベージョン』

・『サイロ』

作品ポスター・画像 (C)Apple

以上、『マーダーボット』の感想でした。

Murderbot (2025) [Japanese Review] 『マーダーボット』考察・評価レビュー
#ポールワイツ #クリスワイツ #アレクサンダースカルスガルド #ノーマドゥメズウェニ #ロボット #ノンバイナリー #ポリアモリー