共有はお好みで…映画『DROP ドロップ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年7月11日
監督:クリストファー・ランドン
DV-家庭内暴力-描写 恋愛描写
どろっぷ
『DROP ドロップ』物語 簡単紹介
『DROP ドロップ』感想(ネタバレなし)
鑑賞時はスマホの電源をオフに!
iPhoneなどApple製品には「AirDrop」という機能があります(Androidなど他社スマホにも似たような機能はある)。
これはWi-FiやBluetoothの近距離無線通信を通して、ある程度の距離の範囲内にいるユーザーの端末とファイルを共有し合えるサービスです。気軽にファイル共有ができる便利さが売りとなっています。
しかし、設定の問題から、近くにいる見知らぬ人から不要なファイルを受信してしまい、それが嫌がらせとして悪用される事件も発生しました。この問題は「サイバーフラッシング(Cyberflashing)」と呼ばれています。
どんなテクノロジーも何かしらの悪巧みに利用されてしまうご時世ですが、ほんと、人間は最もテクノロジーにふさわしくない生き物かもしれない…。
今回紹介する映画は、そんなサイバーフラッシングの被害から始まる不気味なスリラーです。
それが本作『DROP ドロップ』。
本作は、主人公の女性がデートで訪れた高級レストランで、ふと自分のスマホに嫌がらせの画像共有が頻発し、混乱している間にとんでもない事態に発展していくことになります。どうなるのかは観てのお楽しみ。「え? そんなおおごとに!?」ってくらいの展開をみせるので期待して良しです。
基本的にそのレストランの中だけで大部分が展開されるソリッド・シチュエーションであり、緊張感が持続するので目が離せません。
「通知や機能をオフにすればいいじゃないか」と思うかもですけど、それができない事情があって、そのあたりはプロットとして考えられています。
『DROP ドロップ』を監督するのは、『パラノーマル・アクティビティ』の続編シリーズの脚本で腕を磨き、2017年からの『ハッピー・デス・デイ』シリーズで才能が開花し、『ザ・スイッチ』(2020年)や『屋根裏のアーネスト』(2023年)などその後も精力的に監督作を生み出し続けている“クリストファー・ランドン”。


『ハッピー・デス・デイ』シリーズや『ザ・スイッチ』は超常現象が軸になっているスリラーでしたが、今回の『DROP ドロップ』はそうした要素はありません。そういう意味ではこれまで以上にシンプルです。“クリストファー・ランドン”監督らしく今作でもミニマムに面白さが詰まった恐怖を届けてくれます。
『DROP ドロップ』の脚本を手がけるのは、『トゥルース・オア・デア 殺人ゲーム』や『ファンタジー・アイランド』の“ジリアン・ジェイコブス”と“クリス・ローチ”。
主役を演じるのは、ドラマ『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』やドラマ『セイレーンの誘惑』の“メーガン・フェイヒー”です。『DROP ドロップ』は完全に“メーガン・フェイヒー”の代表作になるくらいにメインで作品を背負っています。他にも俳優はでていますけど、“メーガン・フェイヒー”が全部を持っていきますからね。
ちなみに今作で“メーガン・フェイヒー”演じる主人公の幼い息子役として抜擢されている子役の”ジェイコブ・ロビンソン”は、今回で映画デビューなのですが、以前からTikTokでバズっている話題のスターだそうで、両親が運営するTikTokアカウントは200万人以上のフォロワーがいるとのこと。こっちはこっちで凄い世界だな…。
ハリウッドが宣伝を期待してインフルエンサーを映画出演させて起用することは今では珍しくないのですけど、わずか6歳の子がその役目に該当する時代なのか…。
ということで『DROP ドロップ』を観賞する際は、スマホの電源は切って邪魔が入らないようにしてお楽しみください。
『DROP ドロップ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | 家庭内暴力(DV)のトラウマを描くシーンがあります。 |
キッズ | 殺人の描写があります。 |
『DROP ドロップ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
家にて痛々しく鼻血をだし、床に倒れているひとりの女性。階段からゆっくりとひとりの男が近寄り、力を誇示するかのように踏みつけてきます。女性は這って逃げようとするも、男は見下ろし、脅迫的に銃を突きつけるだけ。女性はそんな男に動じずに見つめ返します。すると男は女性に銃を渡し、自分を撃ってみろと煽り立ててきます。感情で頭がいっぱいになり、叫ぶ女性はその銃の引き金を…。
それから年月は経過。幼い息子トビーを育てるシングルマザーのバイオレット・ゲイツは、シカゴ在住で、セラピストとして自宅で仕事していました。オンラインでのカウンセリングを終え、今日はもう仕事はお終いです。
バイオレットは以前は結婚していました。しかし、夫のブレイクは死んでしまい、息子との2人きりです。ずっとその夫の死の出来事が頭にこびりついていましたが、最近になってようやく新しい一歩を踏み出そうと決心しました。
そこでマッチングアプリでデート相手を見つけることにし、今回、その出会えた男性と初めてのデートをする日を迎えたのです。これで人生を心機一転させることはできるだろうかと、不安もいっぱいでした。
無邪気な幼い息子トビーは家で妹のジェンに見てもらうことにし、バイオレットは出会い系アプリで連絡を取り合っていた写真家ヘンリー・キャンベルとのデートのための準備に取り掛かります。デート場所は高層ビル最上階の高級レストラン「PALATE」。久しぶりすぎて何を着ていけばいいか…それさえも不慣れです。
ついに家を出ます。「ただのデート」と自分に言い聞かせながら緊張した面持ちで高層ビルのエレベーターに乗り込み、38階へ。
ヘンリーは少し遅れており、先に到着し、上着を預け、席へ向かいます。エレガントな店内でした。他にも客がたくさんいて、静かに満喫しています。
カウンターでバーテンダーのカーラと談笑し、リチャードという年配の男性に人違いで話しかけられます。彼はブラインドデートのようで緊張している様子でした。飲み物を取りに来たピアニストのフィルも気さくに話しかけてきます。
そのとき、正体不明のユーザーからスマホの共有機能で意味のない画像が送られてきます。幼稚なインターネット・ミーム画像でしたが、その画像は止まりません。しだいに脅迫的な言葉が添えられ、なんだか怖いです。
しかし、ジェンがベビーシッターをしていて万が一の時は連絡をくれるので、スマホの電源を切るわけにも行きません。我慢するしかありませんでした。自宅の様子は設置したカメラで映像でも確認できます。
そうこうしているうちにヘンリーが到着し、2人は摩天楼を一望できる窓際の席に案内され、ウェイターのマットが料理を運んできます。息子に万が一なことがあれば連絡が来るのでスマホはテーブルに置いておき、ヘンリーにもそれを説明するとその事情を優しく受け入れてくれます。
ぎこちなくも会話を楽しみ始めますが、またしても例の画像共有が止まりません。ヘンリーは誰がそれをしているのかを突き止めようと提案。機能としては短い範囲にしか送れないので、このレストランの半径15m以内にいる誰かだと推測します。
その画像共有を無視しようとするも、エスカレートし続け、あるメッセージに戦慄することになります…。
舞台の活かし方

ここから『DROP ドロップ』のネタバレありの感想本文です。
自分が失敗できない大事な日の時間。その瞬間に限ってどうしようもない嫌がらせが割り込んでくる。考えてみると絶対に体験したくないですが、『DROP ドロップ』はそんな心理的な焦りを巧みに恐怖の開幕に利用してきます。
よくあるサイバーフラッシングは猥褻な画像を送りつける性的な嫌がらせを狙ったものが多いのですけど、今作ではかなり平凡なインターネット・ミーム画像から始まります。SNSのタイムラインで、とくに面白くもない画像が流れてくるようなものです。
なので、まあ、その気になれば無視できる程度の被害です。でもこれさえも相手の作戦のうちで、そうやって無視している間にどんどん引き返せない段階に進んでしまっていきます。
前半はレストラン店にいるであろうサイバーフラッシャーは誰なのかを特定するという、犯人捜しの論点が観客にも与えられます。
もちろん全員が怪しくみえてくるように嫌らしく配置されているのですが…。
本作が上手く演出しているなと思うのは、この舞台となるレストランの活かし方です。
最初にこのレストランに足を踏み入れたとき、そのゴージャスな内装と雰囲気に、バイオレットも観客も圧倒されます。当然、このレストランは撮影セットなのですが、相当に作り込み、やや誇張気味にデザインされています。そしてセットだからこそ何でも起きえます。事実、終盤は本当に滅茶苦茶なことになっていきますし…。
この豪華絢爛、別の言い方をすれば目移りするくらいにごちゃごちゃしている空間が、ひとたび嫌がらせの場として一転すると途端に全てが加害者に有利な空間に変貌するんですね。
どこに盗聴器が仕掛けられているかもわからないほど仕掛ける場所に困りませんし、セキュリティのための監視カメラが逆にこちらを監視する装置として機能してしまう。高級な雰囲気だからこそ迂闊に動けなくて、犯人探しもやりづらいです。
そして、犯人の狙いがわかると、それともちゃんとシンクロします。
今作の犯人は、要は不正の告発を押し止めるためのジャーナリスト潰しを狙って仕掛けているものでした。政治権力の横暴が俗悪に際立った事件です。フィクサーがどうしようもないインターネット・ミームを駆使しながらテクノロジーで嫌がらせしてくるあたりも、現実の酷さを映し出している滑稽な風刺かもですが…。
まるでこの高級レストランの表向きは品の高くみせている化けの皮が剥がれていくような真相であり、舞台とマッチしています。
こういうひとつひとつのディテールがスリラーの気持ちよさを引き上げているのが良いですね。
コントロールから一歩を踏み出す
『DROP ドロップ』は主人公のバイオレットの物語としてもスッキリさせてくれます。
冒頭で示されるとおり、バイオレットは加虐的な夫に苦しめられてきた過去があるようで、そのトラウマを引きずっています。単に夫との死別を引きずる未亡人ではありません。
何らかの男性による暴力や支配を経験した女性が、次なる場でまたそのトラウマを触発されるという、ジャンルとしては定番の図式です。同時に「自分をセラピーはできないセラピスト」という職業キャラクター特性としてもお馴染みのやつです。
バイオレットにとっては自己プロフィールに後ろめたさを抱えていることも滲ませます。セラピストなのに自分のトラウマを引きずっていることへの恥ずかしさ、また母親として育児してきたことしか自分はやっていないという過小評価は母親女性にはありがちな感情でしょう。その気持ちが余計にあの高級レストランという舞台で自分を委縮させます。
でも、ピアニストのフィルに対して「Baby Shark」(児童向けの曲として有名なもの)を持ち出したり、母親なりの培った経験による意地をみせたりもしていましたが…。
そんなバイオレットがこの事件に巻き込まれたことで、図らずも己の殻を破り、想定していた以上の一歩を踏み出すのが本作です。
これでもしデート相手のヘンリーが犯人であったならばトラウマの上書きになってしまうので、キャラクターの成長物語としてはやや足踏みになってしまいます。しかし、今回の犯人はそうではなく、襲ってきたのは家庭内の男によるコントロールから政治権力によるコントロールへと飛躍しています。
最終的にはヘンリーと良好な関係を築くエンディングをみせてくれ、こういう立場の女性に温かく寄り添う映画だったなと思いました。これは良い意味で理想のめでたしめでたしです。
苦言があるとすれば、終盤の自宅での緊迫のシーンあたりでは、ちょっと都合よくみんな無事すぎではないかとは感じましたけど…。
あとあれです。“クリストファー・ランドン”監督と言えば、近年はクィアなキャラクターエピソードも盛り込んでくれることに定評がありましたが、今回は“クリストファー・ランドン”が脚本を手がけていないせいなのか、あんまり目立っていませんでしたね。
あのウェイターのマットは、演じているのがゲイ・コメディアンの“ジェフリー・セルフ”だったので、クィアなユーモアが炸裂はしていましたが…。
ともあれ、『DROP ドロップ』はシンプルなスリラーとしての面白さをきっちり共有してくれる映画でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2025 Universal Studios
以上、『DROP ドロップ』の感想でした。
Drop (2025) [Japanese Review] 『DROP ドロップ』考察・評価レビュー
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