父親なら泣ける!? 実は家族ドラマです…Netflix映画『ホイールマン 逃亡者』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信
監督:ジェレミー・ラッシュ
ほいーるまん とうぼうしゃ
『ホイールマン 逃亡者』物語 簡単紹介
『ホイールマン 逃亡者』感想(ネタバレなし)
クロスボーンズ、車に乗る
強盗など犯罪を行った人物を現場から安全かつ速やかに車で逃亡させるドライバー…通称「逃がし屋」。こんな職業が本当に存在しているのかどうかは、私のような表の世界の凡人には知る由もないですが、映画では主人公映えするものです。
華麗なドラインビング・テクニック、寡黙で孤高な生き様…これらの要素は、男の憧れる理想像の代表的なもの。「逃がし屋」を主人公にした映画は、ウォルター・ヒル監督の『ザ・ドライバー』(1978年)からニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』(2011年)と、古今公開されてきました。
しかし、この“男の憧れる理想像”は現代では古臭くなりつつあり、『ワイルド・スピード』シリーズのような皆でワイワイ系のドライバー映画の大躍進を見ていると、さすがにもう今後は廃れていくのかなと思いましたが、そうでもないことを実感したのがエドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』でした。工夫しだいでいくらでも面白くできる!という逃がし屋映画の潜在的可能性をハッキリ示していましたね。
そして、本作『ホイールマン 逃亡者』も、逃がし屋映画の新しい潜在的可能性を引き出してくれる気がする一作です。
この映画の特徴は、シチュエーション・スリラーっぽいサスペンスが展開されること。基本的にカメラは主人公の運転する車の車内か車体を近接で撮るだけ。そのため車という小さい環境で次々と翻弄される感覚に味わえます。ジャンルは違いますが、『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』という全編車中のみで構成された挑戦的な映画に、雰囲気が少し似ています。
加えて、撮影スタイルだけでなく、実は本作は家族ドラマになっている点も共通しています。とくに父親なら思わず感情移入してしまうかもしれません。
主演は“フランク・グリロ”。最近だと『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』でブロック・ラムロウ(クロスボーンズ)を演じていた姿が印象的です。渋い顔立ちですし、ドライバー映画にぴったりですね。
本作を手がけた“ジェレミー・ラッシュ”監督、これが長編映画は初みたい(たぶん)。また、新しい才能の登場にワクワク。
『ホイールマン 逃亡者』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2017年10月20日から配信中です。
『ホイールマン 逃亡者』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):逃がし屋のはずだった
これはいつもの仕事のはずでした。仕事は夜に始まります。仕事のアイテムは車。それだけ。なるべく目立たない車がちょうどいいです。もちろんハンドルもブレーキもサスペンションも正常に動かないと話になりませんが。
用意された車にさっそく乗り込みます。赤いトランクなのが気に入らないですが、今はこれに乗るしかありません。走り心地を確かめないといけません。この仕事はスピードが命なのです。今日の車も上々。
男は仕事に取り掛かります。夜の街を走らせて…。
クレイに「早く電話をとれ」と留守電を残します。男にとってこのクレイが仕事をもたらす唯一の繋がり。コミュニケーションをとれないと話になりません。
そこに13歳のケイティがライブ音楽を聴く場所に行くと伝えに電話してきます。しかし、男は「行ったら外出禁止だぞ」と厳しく禁止。娘が不良の男たちと付き合うのがとにかく許せません。けれども「行くって決めたの!」と切れてしまいます。悩みの種は尽きませんが、今は仕事を片付けないと…。
男は後部座席に2人組を乗せます。無言。ひとりが「赤いトランクか。マニュアル車で運転する奴は初めてだ」と軽く言ってきます。そう言われても無言を貫く男。片方の男はやたらとお喋りです。
「あんた名前は?」「話したくない」
「なあ持ってるだろ。銃だよ」「寡黙だな。クリント・イーストウッドかよ」
「なんか呼び名がないとおかしいだろう」「俺は逃がし屋(ホイールマン)だ」
そんな特に意味もなさそうなやりとりをずっと続けます。確かに名前なんてどうでもいいのでした。男にとっては運転することだけが仕事です。会話する意味はありませんし、この同乗者と仲間になりたいわけでもないのです。
「セカンドスター・バンク」という銀行に到着。2人を降ろします。
あとはあの2人がやることを終えて金を持ってくるのを待つだけ。それが終われば自分はフルスピードで車を走らせ、現場を去るのみ。
そこへ地域外から電話がかかってきます。「誰かわかるか」…その声は一方的です。「元締めだろう」と答えますが「受け渡し場所を教えてくれ」と言ってもなぜか答えません。
「お前を知っているぞ」「今夜はこの番号以外の電話に出るな。金だけ積んであの2人を置いていけ」
そんな意味不明な指示を出してきます。
今日はいつもの仕事とはいかない。ここからは危険な道のりです。
その名は、ホイールマン
冒頭、暗がりがぱっと明るくなって車庫の車の中。帽子メガネ男が運転席に乗ってきて、別の男に配車します。そして乗ってきた男は、車の調子を確かめるようにアクセル全開。男の顔が映って、タイトル。この“寡黙な”オープニングから演出のカッコよさが感じられます。
この映画自体、本当に寡黙で、例えば、主人公の男は観客には名前がわかりません。「ホイールマン」と名乗るだけ。また、人間関係も匂わすだけで詳細は推察するしかないし、主人公だけでなく乗っている車も「黒い車に赤いトランク」と説明されますが、全体像は映し出されないんですね。
でもこの寡黙さがドライバー映画特有の主人公特性というだけでなく、ドラマのミステリーさも引き立てている効果があってGOODです。
モヒカン男と黒人男が乗った逃がし屋の男・ホイールマンの車は銀行に到着し、ショットガンを片手に降りていく二人。これであとはいつもどおり強盗が完遂するのを待つだけ…と思いきや、スマホに「地域外(Out of Area)」から着信が…。しかも、相手は強盗犯が金を詰めた袋をトランクに乗せたら強盗犯を置いて車を発進させろと、わけのわからない命令を言ってくる。なんだかこちらの弱みさえも握っているようで、高圧的な謎の声の言うことを聞くしかなくなったホイールマンはアクセルを踏んで爆走。ついに逃がし屋としての職を放棄し、自らが逃げる側になってしまいます。
ここからは、鳴りやまないスマホの着信やメッセージ、謎の追跡者、銃声と、事態は次々急転。畳みかけるような情報量の洪水、それでもなお走るしかない主人公。観客も一緒に緊迫できる体験型サスペンスが満喫できます。このジェットコースター感は非常に楽しめました。
こういう車内だけでサスペンスができるのは、やはりスマホというアイテムの登場のおかげであり、現代だからつくれる物語なのかもしれませんね。
逃がし屋の引退、そして復活
邦題の「逃亡者」のとおり、主人公の男は「逃がす側」から「逃げる側」になるわけですが、でもちゃんと最後は「逃がす側」に戻る…というのが本作のオチです。
その肝が「家族」。
謎の着信の正体、そしてクレイは敵か味方か、などいろいろ厄介な事態の頻発に頭がパニックになる主人公ですけど、それに追い打ち(?)をかけるのが、娘のケイティ。娘がカレシの男を家に招いて夜の映画鑑賞(意味深)をするというじゃないですか。パパ、焦る焦る。娘は13歳、男は年上。逃がし屋トラブルで俺も大変だが、娘の純潔も大変だ! 交互にスマホで対応する姿は必死そのもの。まあ、笑い事じゃないけど、なんか可笑しいシーンです。
で、今度は元妻が誘拐されてしまいピンチ。急いで娘に連絡するも、カレシ男は帰っちゃったので家で一人きり。帰れといったのは俺だけど、あのカレシを盾にすればよかった…というのは冗談にしても、父親としての自分が先走ったがゆえに娘にも危機が迫る皮肉な結果に。
免許のない娘に車を運転してこいと指示。自分は妻を奪還、娘に車を託します。このシーンはまさに「逃がし屋」廃業を意味するものであり、もちろん父親としても終わりを意味します。この覚悟を決めた姿がグッときますね。
ところが娘が意外な度胸を披露。さすが「逃がし屋」の娘。なんと娘が「逃がし屋」になり、父をピックアップ。この娘のドライビングにも寡黙なカッコよさがあって、おおっ!となります。
その成長した姿に感銘を受けた父は、娘から運転席を交代。「逃がし屋」に戻るわけです。逃がす相手は当然、娘。送り届ける相手は、かつて愛した女性。
本作はアクションについてはあまりダイナミックなシーンは少なめなんですが、こういう心理的ドラマの起伏は実はすごくしっかりしていて、カタルシスもある映画です。
店で母と抱き合う娘の姿を遠く外でじっと見る父。こんな温かい家族ドラマだったとは…。
父親感涙映画なんじゃないでしょうか。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 66%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『ホイールマン 逃亡者』の感想でした。
Wheelman (2017) [Japanese Review] 『ホイールマン 逃亡者』考察・評価レビュー