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『グリンチ(2018)』感想(ネタバレ)…アニメをイルミネがお届け!

グリンチ

クリスマスをイルミネがお届け!…アニメ映画『グリンチ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Grinch
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年12月14日
監督:ヤーロウ・チェイニー、スコット・モシャー

グリンチ

ぐりんち
グリンチ

『グリンチ』あらすじ

賑やかな村から離れた場所にひっそり暮らすグリンチはクリスマスが大嫌いだった。とにかく飾りを見るのも嫌で、歌も聞きたくない。そこでグリンチは愛犬マックスとともにクリスマスを盗んでしまおうと思いつくが…。

『グリンチ』感想(ネタバレなし)

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クリスマス離れの今だからこそ

子どもの頃、私は「クリスマス」を最高のイベントだと思っていました。なにせ欲しいモノが自由に与えられるんですよ。普通は何か欲しいと思ってねだっても一定の交渉が行われないと易々と欲しいモノは手に入らないことは重々承知していた子ども時代。このクリスマスだけは、そんなヤキモキするような交渉も必要とせず、無条件でプレゼントが与えられる。サンタがいるかどうかなんて関係ないです。この子ども時代の特権らしい何かをたっぷり味わっておかねば…あの頃の私は純真に欲求を満たしていました。いや~、本当に親に感謝です。

そんな私も大人になってしまい、あの純真さはどこへやら。私だけじゃないと思いますが、大人になると“人付き合い”とか“世間体”とかそういうクリスマスの負の側面ばかりが目立ってきてしまいます。

どうやらそのクリスマスへのネガティブな傾向は社会にも顕在化しているようで、最近では若い世代はクリスマスよりもハロウィンを楽しむようになっているとか。これについてある調査機関の分析が面白かったのですが、なんでも「クリスマスよりもハロウィンが若者に支持される背景には、クリスマスは深い人間関係を要求されるが、ハロウィンは広く浅い共有関係だけで済むからだ」とか。つまり、クリスマスはSNS世代には合わなくなってきているのかもしれません。もしかしたらクリスマスは数十年後に信じられないくらい衰退していたりとかもありうるのか…それも寂しいものです。

という将来のクリスマスの存続が不安になるなか、クリスマス映画の役割も重要な変化を迎えているのかも…本作『グリンチ』を観て、そんなことを思ったりもしました。

本作はアメリカの著名な絵本作家ドクター・スースの児童書「いじわるグリンチのクリスマス」を、黄色いうるさい奴らでおなじみ「ミニオン」で有名なイルミネーション・エンターテインメントがアニメ映画化したものです。今ではミニオンの一大ブームによって日本でもヒット確実の定番となったアニメ・スタジオですね(ちゃんと毎度のPVや映画始めのロゴ登場時にミニオンに「いるみね~しょ~ん」とスタジオ名を呼ばせているので覚えた人も多いのでは?)。

気づいている方もいると思いますが、この原作は2000年にこれまた『グリンチ』というタイトルで実写映画化されています。巨匠ロン・ハワードが監督で、ジム・キャリー主演で製作され、当時は話題になりました。とくにリック・ベイカーが担当した特殊メイクで、緑色の醜いエルフみたいな生物に変身したジム・キャリーはインパクトありましたね。少し古い作品ですが、あのメイクの凄さだけは全く色あせな技術です。

その『グリンチ』がイルミネーション・エンターテインメントでアニメ映画になるということで、どうなるかというのは予想がつきやすいはずです。いつものこのスタジオらしいノリで、ポップにキュートにテンション高くアレンジされています。良くも悪くも「子ども向け」に特化した感じで、これまでのイルミネ作品の中でも一番「子ども向け」だと思います。他にもいろいろと変化があるのですが、そこは後半の「ネタバレあり感想」で書くことにします。

ちなみにイルミネーション・エンターテインメントは、初期の頃にドクター・スースの別の作品を『ロラックスおじさんの秘密の種』としてアニメ映画化しているので、また原点に帰ってきたみたいな感じで懐かしくもあります。そういえば、なんでイルミネは「ミニオン」の黄色といい、「ロラックス」のオレンジといい、「グリンチ」の緑といい、原色強めのカラーのキャラばかりなんでしょうかね。そのかいもあって、とっても目にとめやすいキャラのキャッチーさを持っているので、そこはさすがですが。

本作を観て、文化に陰りを見せているクリスマスにもう一度、想いをはせてみるのもいいのではないですか。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『グリンチ』感想(ネタバレあり)

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実写版との違い

クリスマス“アンチ”状態になるほどこじらせてしまったグリンチがクリスマスを台無しにしてやろうと画策するも、クリスマスの温かさに触れて、最終的には改心していく。リアルでも実際にいる“リア充爆発しろ”的な怨念をため込んでいるクリスマス嫌いな一部の人には、グサリと刺さる話だったかもしれないですね。

この基本プロットは過去に作られた実写版と同じなのですが、大きく異なる点が3つあります

ひとつは、グリンチの境遇。実写版のほうでは、グリンチの子ども時代がハッキリ描かれ、そこで明らかに見た目のせいで酷い差別を受けている描写があります。なのでグリンチがクリスマス嫌いになる理由が、観客にもよく伝わります。対する、アニメ版では、孤児で寂しかったくらいのふんわりした動機になっており、かなりマイルドになっています。

2つ目に、悪役がいないということ。実写版ではフーの村(フーヴィル)の長がグリンチに対してひときわ敵対的に描かれ、対決することになるのですが、アニメ版はみんな良い人です。少なくとも実写版ほど極端な敵対者がいません。

3つ目に、恋愛要素がなくなりました。実写版に存在したグリンチが好意を向けている女性キャラクターはアニメ版ではカットされ、シンディという女の子との関係性だけがフィーチャーされています。このシンディとの関わりも終盤でようやく結びつくようなスローペースになっていました。

結果的に実写版にあった複数ラインのサスペンスは「クリスマスを盗むこと」だけに一本化され、非常にシンプルな物語になりました。

どうしてこのようにアレンジしたのか、気になる部分ではありますが、そもそもイルミネーション・エンターテインメントは昨今のアメリカの大手アニメ・スタジオでは珍しい、トリッキーなストーリーに頼らないシンプルなエンタメを作ることを特徴としているので、こうなるのも当然なのかもしれないです。

ただ、もしかしたら今のクリスマス事情の変化も反映しているのかもしれません。アメリカの最近のクリスマス映画を観ていても、宗教要素を排除し、極力シンプルにしたプロットの作品が多い気もします。多様な観客層にウケてもらうには、おのずとこうなるのか。実際にアメリカでは大ヒットしていましたから、この構成でアタリなのは間違いないです。まあ、クリスマス映画にそんなに小難しい物語を見たくはないというのもわかります。

これくらいが今のクリスマス映画の“ちょうどいいさじ加減”なのでしょうかね。

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意外と堅実

そういうアレンジによって薄味になったと感じる人もいるでしょうけど、中身はアニメーションになったことで、ハチャメチャ度が増大しています。

なによりイルミネーション・エンターテインメントの培ってきたものの集大成のような構成なのが印象的です。

主人公がひねくれた孤独な悪者で、ハイテクなメカを使ってどんどん計画を遂行していく姿は、まさに『怪盗グルー』シリーズです。

最良のパートナーが充実な犬で、犬と一緒に絆を深め、犬側の飼い主を思う気持ちも反映していくあたりは、『ペット』でも見た光景。

最後に歌の力でグリンチの心を解きほぐしていく展開は、『SING シング』に通じるものがありました。

シンディたち子どもの無邪気すぎる暴れっぷりは「ミニオン」を彷彿とさせます(ちなみにシンディと一緒にいる子どもの中に、そのまんまミニオンみたいな恰好をしている子がいましたね)。

このスタジオは作品ではぶっとんた展開も多いですが、作品づくりに関しては意外に真面目で堅実なんですね。

個人的には一番イルミネらしいと感じたのが音楽面で、本作でも“タイラー・ザ・クリエイター”を起用し、ヒップホップでグリンチのワルさをデコレーションしていくセンスは痛快な楽しさをパワーアップさせるのに大きく貢献していました。

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犬のマックスは本作最大の欠点?

キャラクターはみんな可愛らしくなって万人受けしやすいデザインになりました。

日本の宣伝がアピールしていた「ベビーグリンチ」がほとんど登場しないのは若干の詐欺ですが、まあ、ほらね(全てを察したような目)。前述したように“ひねくれもの”という部分だけが強調され、“醜い”という部分は消え去ったので、グリンチも普通に受け入れられる存在です。子どもが本作を観て怖いと感じることはほぼないでしょう。というか、実写版のジム・キャリー“グリンチ”が怖すぎだったと思うのですが…。

声を演じているのがオリジナルだと“ベネディクト・カンバーバッチ”、吹替だと“大泉洋”で、どちらも見事に多彩な演技を披露しているのは相変わらず見事。イルミネはなぜか知らないですが、悪そうな主役を関西弁で日本語吹き替えさせる傾向があったような気もしないのですけど、今回は“大泉洋”が割とスタンダードに(でも抜群に上手く)演じていて良かったです。「クリスマス=冬=北海道出身俳優」っていう連想だったのだろうか…。

犬のマックスは本作最大の欠点ですよ。なんでかって? これを観た子どもが「クリスマスプレゼントは犬が欲しい」って絶対に言うじゃないですか。あんなに犬は従順とは限らないし、飼育も大変なんだよと大人が必死に説明する姿が目に浮かびます。

「トナカイが欲しい」と言ってくる子どもがいるなら、その子とはハイタッチをしてあげたいところ。本作のフレッド、デザインがなんかアードマン・アニメーションズのキャラみたいですよね。なんなんだろう、あのサラサラヘア。このトナカイもアニメ版オリジナルなのですけど、実はオーソドックスな旧来のファミリーを体現しているあたり、実は重要な存在なのかもしれません。いや、ただのバカかもしれません(どっちだ)。

ちなみに犬のマックスの声は“フランク・ウェルカー”という動物の鳴き声をやらせたらトップクラスな大御所が担当しています(『スクービー・ドゥー』シリーズなどが有名)。こういう地味だけど定番をついてくるチョイスもイルミネっぽいです。

ドナはもっと物語に絡むのかと思いましたが、そこまで介入はしませんでした。こういう母親キャラはイルミネーション・エンターテインメントの定番になってきましたね。毎回、出てきている気がする、母親キャラ。なにかこだわりがあるのかな。

全体的に本音を言えば、もう少し特色の強いチャレンジングなプレゼントが欲しかったところですが、決して貰って嬉しくないものではありません。本作を観て「クリスマスなんて、けっ」となおも吐き捨てるデューティーな大人はもう更正不可能なので諦めましょう。ほら、『グレムリン』とか“クリスマスぶっ壊す系映画”もあるじゃないですか。そっちを観ましょう。

これからイルミネーション・エンターテインメントは、『ペット2』『ミニオンズ2』『SING シング2』と続編ラッシュになるので、しばらく新規タイトルに会えなくなります。そして、その後は世界で最も有名な日本のゲーム「マリオ」をアニメ映画化するとのことで、見逃せないスタジオであり続けることは変わりないでしょう。

次の映画のプレゼントも待っています。

『グリンチ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 57% Audience 58%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

(C)UNIVERSAL PICTURES

以上、『グリンチ』の感想でした。

The Grinch (2018) [Japanese Review] 『グリンチ』考察・評価レビュー