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『SING シング』感想(ネタバレ)…ぼくらはみんな生きている、生きているから歌うんだ

SING シング

ぼくらはみんな生きている、生きているから歌うんだ…映画『SING シング』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Sing
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年3月17日
監督:ガース・ジェニングス
SING シング

しんぐ
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『SING シング』物語 簡単紹介

コアラのバスターが劇場支配人を務める劇場は、かつての栄光は過去のものとなり、取り壊し寸前の状況にあった。このままでは夢も希望も何もない。追い詰められたバスターは劇場の再起を賭け、世界最高の歌のパフォーマンス・オーディションの開催を企画する。これが上手くいけば、この劇場はもう一度輝きを取り戻せるはず。そして、個性的な動物たちがそれぞれの想いを胸に、自分の歌を歌うために集まる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『SING シング』の感想です。

『SING シング』感想(ネタバレなし)

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イルミネーションも歌います!

怪盗グルー』シリーズで“ミニオン”という皆から愛されるマスコットキャラクターを生み出したイルミネーション・エンターテインメントは、次に続けと言わんばかりに新作をどんどん投入しています。そして、日本で昨年公開された『ペット』の次なる一手が、本作SING シングです。なんてシンプルなネーミングなんだ…。

『ペット』も『SING シング』も続編製作が決定済みということですから、成功なのかな?

『SING シング』は題名だけでなく中身も実にシンプルな映画で、タイトルのとおり“歌う”だけ。内容も、動物モノで、豪華声優陣で、往年のヒット曲の数々を劇中で披露する…これで全く受けなかったら、逆にオカシイだろうというくらいの、直球ど真ん中をバシッと投げてきます。子ども向けだろうと何だろうと気にしない…真っ当に子ども向け作品を作ろうとするその真摯なクリエイティブ精神こそがイルミネーション・エンターテインメントらしさでしょう。

こういう実在の歌モノ映画はその曲を知らないとノれないもので、本作もオリジナルは当然海外の曲ばかり。でも、本作の日本配給は今回、かなり頑張っており、吹き替え版では曲そのものが日本独自のものに変更するという気合の入れよう。もはや、吹き替え版というよりは日本アレンジ版です

正直、私は鑑賞前はきっと歌もあくまで子ども向けな満足度を狙っている程度なんじゃないかとナメていたのですが、もう全力で土下座しないといけないくらい全然本気な映画でした。

歌い手が凄いです。基本、メインキャラクターのほとんどが何かしらの歌を歌うのですが、オリジナル版の声を担当するメンツもなかなかの布陣。“トリー・ケリー”という完全に歌の方でプロなシンガーを起用したかと思えば、“スカーレット・ヨハンソン”や“タロン・エガートン”といった人気俳優も配置。“タロン・エガートン”なんてびっくりするほど歌が上手いです。かと思えば“セス・マクファーレン”や“リース・ウィザースプーン”など変化球なキャスティングもあって、とにかく多種多様な歌のダイバーシティがあります。

それを完璧に吹き替えようとする覚悟が伝わる日本語版の声優陣。MISIA、長澤まさみ、スキマスイッチの大橋卓弥、山寺宏一、坂本真綾と、各方面からの実力者が揃い踏み。なんというか、隙が無いメンバーで、こんなの某紅白歌合戦よりもガチでパフォーマンスとしてのレベルは高くなるんじゃないか。そう思いたくもなります。100点満点で120点の仕事です、ありがとう、日本の配給会社さん。

これも『ミニオンズ』が日本で爆発的にヒットし、イルミネーション・エンターテインメント作品が日本映画界で確固たる立ち位置を手に入れたからなんでしょう。たぶんそういうヒットの実績がなかったら、かなり味気ない吹き替えか、下手すると劇場未公開で終わりかねないですから。ミニオン様様ですね。

この時期、子どもと一緒に観て楽しい歌モノ映画は『ラ・ラ・ランド』ではなく、『SING シング』なのは間違いなしです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『SING シング』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):夢を叶えます

満員の劇場。幕が開け、盛大な音楽とともに大女優のナナ・ヌードルマンが華やかで荘厳な演出とともに舞台に上がり、満月を背景に熱唱します。

この瞬間こそすべての始まりでした。目をキラキラと輝かせてその舞台を眺めていた、小さな少年、バスター・ムーンは劇場というものに恋をしたのです。劇場のあらゆる要素に…。6歳の彼はコアラ初の宇宙飛行士になる夢を捨てました。それよりも夢中になれるものを見つけたのですから…。

こうして大人になったバスター・ムーンは自分の劇場を持ちます。バスター・ムーンの名はショービズ史に残るに違いないと確信して…。

そうはなりませんでした。公演者に払う賃金も滞っており、出演者が押し寄せてクレームを言うためにドアを叩く始末。その場を事務員のミス・クローリーに任せて、バスター・ムーンは劇場をこっそり抜け出します。

自転車で街を疾走して向かうのはレストラン。そこで友人の裕福な家柄のエディと食事し、出資の話を持ちかけます。「今度のショーは歌のコンテストだ」と自信満々に語りながら…。

すぐにミス・クローリーにチラシを作らせます。歌のコンテスト優勝者には賞金1000ドル。しかし、ミス・クローリーの目玉の手違いで賞金額が10万ドルで印刷されてしまい、その大量のチラシが町中に風に乗ってばらまかれてしまいます。

こんなコンテストに出たいと思う才能のある持ち主はいるのだろうか…。

いました。彼氏のランスとパンクロックのバンドを組んでいるもサブボーカルの立場ゆえに全開を指せていなかったアッシュ、ギャングの父の犯罪の手伝いばかりをしていてイマイチ不満が溜まっていたジョニー、美声を持つのに極度の恥ずかしがり屋で人前で全然歌えないミーナ、ストリートミュージシャンとして腕を振るうもその小ささから目立つことのできないマイク、25人の子どもの世話で日々を忙殺されている主婦のロジータ…。

それぞれが叶うわけもないと諦めていた夢を抱く者たち。そんな大勢が劇場に押し掛けます。

バスター・ムーンは大喜び。この大盛況は賞金額が10万ドルになっているせいでもあるのですが、そんなことは本人は気づいていません。

バスター・ムーンの劇場が誰かの才能を輝かせるときはついに訪れるのでしょうか。

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手のひらを太陽に

『SING シング』は、予告動画のとおり“困難にめげずに夢を追いかけて叶える”という王道なストーリーで、『ミニオンズ』や『ペット』といったイルミネーション・エンターテインメント過去作と比べてユーモア要素は少なめなのかなと観る前は思ってました。

ところが、実際に観たら、やっぱりイルミネーション・エンターテインメントのユーモアたっぷりでしたね。『ペット』の私の感想では、“イルミネーション・エンターテインメントの「笑い」のいいところは、メタなギャグに頼らず、子どもでもわかるスラップスティックで攻めていく点”と書きました。本作でもその要素は随所に盛り込まれてました。

なにより世界観。多種多様な動物たちが一緒に暮らす世界といえば、去年はアカデミー賞も受賞した傑作『ズートピア』が世を席巻しました。この作品の動物世界は、私たちの現代社会を鏡写しにするという狙いのもと、観客が気付かないくらい丁寧かつ繊細に作り込まれていたのが高い評価の理由。例えば、哺乳類だけを登場させ、しかも人間社会を連想させるペットやサルは出さないとか。使ってる道具などにそれとなく差を出して社会的な壁を示すとか。ただ、“動物いっぱいで楽しい”っていうだけじゃない作品でした。

一方、本作『SING シング』は、“動物いっぱいで楽しい”を徹底してます。他? そんなのどうでもいいんです。だって、爬虫類、両生類、魚、イカ、クモ、カタツムリが登場して、がっつり歌うんですから。イカは口そこじゃないだろ…とかそんなもろもろのツッコミは無視無視。もうしっちゃかめっちゃかです。まさに楽しければよしの世界。これ!これがイルミネーション・エンターテインメント!

そんな動物たちの行動も、動物の本来の生態とかは気にしていません。完全にビジュアルが面白ければOK!なノリです。

個人的な一番は、コアラのバスターが自分自身の身体で洗車し始めるシーンですけど。いいですよね、あの素の動物に戻った感じが。

歌ももちろん良いのは当然。やっぱり歌を歌うってのは、国を越えて老若男女、人間のテンションをあげさせる最も手っ取り早い魔法だなと思いました。ちなみに、きゃりーぱみゅぱみゅの歌を歌うタヌキのグループたちが登場しましたけど、アメリカでも日本の「Kawaii文化」が大衆に(とくに女児らしいけど)受けていることを再確認したしだい。この部分のギャグは字幕版のほうが際立ってて面白いと思います。ちゃんと歌でも多様性を表現しようという本気を感じます。

全体のテンポは悪くないのですが、ただ、108分よりもうちょっと短くても良かったかなとは感じました。あとは、群像劇なのでどうしても視点が絞れず、落ち着かないのが気にはなる…。終盤はとくにアレコレと各キャラのエピソードが矢継ぎ早に詰め込まれるので余計にね。

ただ、そんな御託を並べるのはもうラストパフォーマンスのパートでどうでもよくなります。あそこは各キャラクターのフラストレーションが溜まりに溜まって一気に爆発していくので、もうカタルシスという言葉では表しきれない、最高の脳みそ解放シーン。あんなの見せられたら鳥肌たちますよ。

ゴリラの少年ジョニーの「I’m Still Standing」(原曲:エルトン・ジョン)、ゾウの少女ミーナの「Don’t You Worry ‘bout a Thing」(原曲:スティーヴィー・ワンダー)の2曲はとくに異常なハイテンションにさせられます。「I’m Still Standing」はかなり元の曲に近い雰囲気がありますが、「Don’t You Worry ‘bout a Thing」はアレンジが効いていてかつパワーが増している、良いミュージック構成で、しかもミーナの素晴らしい歌力で後ろの背景が倒れて、そこに浮かび上がるのは満月という、この実に映画的なベタな演出もまたいい。

他にも子だくさんなブタの主婦ロジータとブタのノリノリなグンターという、ステレオタイプから抜け出そうともがく女性と、ステレオタイプから飛び出た姿を必死に認められようとする存在、この異なる両者をペアにさせるセンスも良い感じ。

それにしても、日本もこういう作品を現代で作ればいいのに…。「NHKのど自慢」風の、日本の名曲を各世代の様々な人たちが人生と重ね合わせて歌ってハッスルする物語とかいいんじゃないでしょうか。あれかな、JASR○Cや音楽レコード会社など権利の問題が面倒くさいのかな…。

『SING シング』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 72% Audience 73%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
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関連作品紹介

『SING シング』の続編の感想記事です。

・『SING シング ネクストステージ』

作品ポスター・画像 (C)Universal Studios.

以上、『SING シング』の感想でした。

Sing (2016) [Japanese Review] 『SING シング』考察・評価レビュー