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『ラーヤと龍の王国』感想(ネタバレ)…ディズニーは融和を描けるのか

ラーヤと龍の王国

コロナ禍を乗り越えて生まれたディズニー・アニメーション…映画『ラーヤと龍の王国』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Raya and the Last Dragon
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2021年3月5日(Disney+でも同時配信)
監督:ドン・ホール、カルロス・ロペス・エストラーダ

ラーヤと龍の王国

らーやとりゅうのおうこく
ラーヤと龍の王国

『ラーヤと龍の王国』あらすじ

聖なる龍たちに守られた平和な世界。多様な人びとが仲良く暮らすその世界を邪悪な闇が襲った。龍たちは自らを犠牲に王国を守ったが、残された人びとは信じる心を失っていった。500年の時が経ち、疑心暗鬼によって対立が激化した王国をふたたび魔物が襲う。聖なる龍の力が宿るという「龍の石」の守護者一族の娘ラーヤは、荒廃した世界を救う最後の希望として、姿を消した最後の龍の力をよみがえらせる旅に出る。

『ラーヤと龍の王国』感想(ネタバレなし)

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映画館にディズニーが帰ってきた

アメリカは、マスクしないで威勢のいいことを支持者にばらまいていたクセにこっそり自分だけワクチンは打っていたヘッポコ大統領が退場し、新しいリーダーのもと感染症対策が本格化したことで、2021年はようやく正常に戻るための体制が整いました(もちろん油断できませんが)。

これにともないコロナ禍で壊滅的になっていたアメリカの映画館興行も回復の兆しが見え始めました。とくに大方の予想どおり、3月は明るい変化の月です。ニューヨークで3月に映画館が1年ぶりに再開し、待ちに待った観客が足を運んだという嬉しいニュースも。

そして公開される映画のラインナップも増量。天下のディズニーも自社の最新作アニメーション映画を投入しています。それが本作『ラーヤと龍の王国』

『ラーヤと龍の王国』は2019年の『アナと雪の女王2』に続いてディズニー59作目となる長編映画。そしておそらくディズニープリンセスの扱いになるであろう一作でもあります。

舞台はディズニープリンセス初となる東南アジア。ディズニープリンセス作品はこれまでいろいろな国々をフィールドにするのが習わしでしたが、ついに東南アジアに手を出しました。今はアジア系作品が脚光を浴びていますから、なかなかに良いタイミング。同じアジアでも日本とは全然違う東南アジア文化圏。日本人でも新鮮に楽しめるでしょう。

監督は『ターザン』の脚本に関わり、『ベイマックス』で監督も手がけた“ドン・ホール”です。『ベイマックス』も日本要素が濃い作品でしたから何かとアジアに縁のある監督ですね。

そして『ブラインドスポッティング』の監督だった“カルロス・ロペス・エストラーダ”も共同監督になっています。『ソウルフル・ワールド』のときもそうでしたけど、最近のディズニー&ピクサーはこうやってアニメ界ではない外部の人(しかも人種的マイノリティ)を引っ張ってくるのがお約束になるのでしょうかね(おそらくそうやってクリエイター陣の多様性を高めていると思われる)。

脚本はベトナム系アメリカ人の“クイ・グエン”、『クレイジー・リッチ』の脚本家として話題となったマレーシア系アメリカ人の“アデル・リム”が務めています。

また、キャラクターに声を吹き込むのは、主人公を『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』で大抜擢されたベトナム系アメリカ人の“ケリー・マリー・トラン”。さらに『フェアウェル』など批評家からも絶賛されて多彩な活躍を見せる中国系アメリカ人の“オークワフィナ”。『キャプテン・マーベル』でも出演した香港系イギリス人の“ジェンマ・チャン”。『キリング・イヴ』で抜群の魅力を発揮した韓国系カナダ人の“サンドラ・オー”。『ドクター・ストレンジ』でおなじみの香港系イギリス人の“ベネディクト・ウォン”。他にも韓国系アメリカ人の“ダニエル・デイ・キム”など。

こんなにも製作陣がアジア系で賑わうアニメーション映画がディズニーが生まれる日が来るとは…。感慨深いです。

製作は『モアナと伝説の海』をプロデュースしたイスラエル人の“オスナット・シューラー”です。

そんな大注目の『ラーヤと龍の王国』なのですが、ひとつ残念なことも。

本作は劇場公開と同時に「Disney+」でも配信という構成をとっています。まだコロナ禍は続いており、子どもを感染リスクのある外に出したくないという親御さんへの配慮でしょうし、これは時期的にしょうがないと思います。ワーナーと違ってディズニーは動画配信サービス同時展開を継続する気はないようで、『ラーヤと龍の王国』以降の作品は今のところ劇場公開オンリーになっていますし。

ただ、日本では全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)が「これまで通りの形式で劇場公開をしない作品については上映しない」という姿勢を打ち出しているため、日本で『ラーヤと龍の王国』を劇場公開する映画館は大きく減ってしまいました。この姿勢は絶対ではないので従っていないシネコンもありますが、東宝など大手のシネコンは軒並み『ラーヤと龍の王国』を完全スルーしています。

映画館と動画配信サービスの対立(というか大手映画館企業側の拒絶反応)の根深さがまたも浮き彫りに。個人的には、あんなに公開する映画を欲していたのにいざ公開できる作品が提供されたら拒否する…というスタンスを自社ビジネスありきでとっていたら本末転倒だと思うのですが…(リバイバル上映とかは平気でやるのに)。

ともあれ、映画館でも動画配信サービスでもどこで映画を鑑賞してもそれは個人の自由です。小さい子を抱える家庭はどうしても映画館に行きづらいという場合も多々ありますから。あなたにあった適度な環境で映画を楽しんでください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(気分転換にリフレッシュ)
友人 ◯(ディズニー好き同士で)
恋人 ◯(エンタメとして気楽に観れる)
キッズ ◎(子どもも満足な楽しさ)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ラーヤと龍の王国』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):信じられなくなった人々

全ての始まりは500年前。「クマンドラ」という世界で人々は平和に暮らしていました。そこでは魔力を持った生き物「龍」が一緒に存在していました。

ところが「ドルーン」と呼ばれる心を持たない魔物が出現。触れたものを石に変えるその魔物は世界を混沌に陥れます。人間も龍も次々とやられてしまいますが、最後の龍「シスー」がドルーンを消し去りました。石にされたものは蘇ります。ただし、龍だけを除いて…。

いつのまにかシスーは消えました。龍の石を残して。

龍なき世界で人間は石をめぐって争い合い、大地には境界線がひかれました。こうしてクマンドラは5つの国に分断されたのです。

それから年月は流れ…。ある日、少女・ラーヤは罠が張り巡らされた場所をトゥクトゥクという小さな相棒と共に進んでいきます。その先にあったのは光るもの。伝説に語り継がれる龍の石です。

けれども「ここまでラクにいきすぎ」と警戒するラーヤ。すると目の前にベンジャが立ちはだかります。竜の石をまつった場所には近づかせないと言い放ち、戦闘に。ラーヤは圧倒され、軽口を叩くベンジャ。しかし、ラーヤの足のつま先は聖域に到達しており、見事に一杯食わします。

ベンジャはラーヤの父であり、ハート国の長です。「試験は合格だ」

「一族は代々龍の石を守る誓いを立ててきた、今日からはお前も龍の石の守り人だ」…そう言ってラーヤを一人前として認めました。

今日は他の領土から民がやってくるとのこと。ハート以外には、テイル、タロン、スパイン、ファングという4国があります。敵から守るために武器を準備しようと張り切るラーヤ。しかし、父は食事でもてなすつもりでした。クマンドラを復興させる夢を語る父。「こんな世界でお前に生きてほしくない、復活には誰かが一歩を踏み出さないと」…そう信じていました。

ついに集まった4国の長。ベンジャは「共に歩もう」と語るも、全く信じてくれず、不満タラタラです。そこへラーヤが前に出て「お腹すかない?」と言います。ファングからひとりの少女・ナマーリが前に出てきます。シスーの首飾りをしており、打ち解け合いました。

食事の席。ファングは貧乏でお米を食べる機会もほとんどないらしいです。ファングの言い伝えによるとシスーは生きているそうで、川の果てで眠っており、どの川か突き止められたら会えるかもしれないとのこと。復活できるかもと期待をするラーヤに、ナマーリは首飾りをくれます。

お礼にラーヤはナマーリに龍の石を見せました。するとナマーリは後ろから蹴り飛ばしてきて、戦いに。罠です。

聖域を守る父。他の国も参戦。互いを滅ぼし合うか、よりよい世界を築くか…剣を下げる父でしたが、攻撃され、奪い合いで石は落下。4つに割れてしまいます。

すると地響きとともにドルーンが復活。まだ石に魔力はあると、それぞれの国が欠片を持って逃げだします。どんどん石になっていく人々。父はもう動けず、石の欠片のひとつをラーヤに託し、ラーヤを川に投げ飛ばし、父は石になりました

6年後。荒れ果てたテイルの地で、18歳になったラーヤは黙々と探していました。シスーのいる場所を…。

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ミュージカル要素は無しで

『ラーヤと龍の王国』はディズニープリンセスの最先端を堂々と突っ切る清々しい一作でした。

古臭くなったクラシックなディズニープリンセスのイメージを転身することが今のディズニーの最大の使命のひとつです。『プリンセスと魔法のキス』『塔の上のラプンツェル』『モアナと伝説の海』『アナと雪の女王2』とその試みは着実に一歩一歩進んできました。

『ラーヤと龍の王国』ではもはや王子に恋するお姫様のステレオタイプは欠片もありません。王子様的な恋愛伴侶規範(アマトノーマティヴィティ)なんてものはゼロです。『モアナと伝説の海』を継承するような「使命を背負った女性」です。使命と言ってもあくまで自発的なものですが。

それだけでなく今作はもっと踏み込みました。まず恒例のミュージカル要素の排除。これはプリンセス系のアニメ映画では初の快挙です。歌がないなんてディズニーらしさがなくなって寂しいという人もいるかもしれません。まあ、その気持ちもわかるのですが、私は全然OKかなと思います。

そもそもミュージカルは西洋的な文化史を持っているので、東南アジア文化を題材にする『ラーヤと龍の王国』には食い合わせが悪いです。仮にミュージカル風にするとなんだかホワイトウォッシュではないですけど、東南アジアのカルチャーを西洋チックに上塗りしたみたいになってしまいます。題材となった世界観をリスペクトするならそこは大事です。

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物理戦闘力に特化したプリンセス

また、『ラーヤと龍の王国』はプリンセス作品ではかつてないほどにアクション要素が強化されました。従来の作品でも、太陽の力、水の力、氷の力と超越的な戦闘力を発揮してきたプリンセスばかりだったのですが、今作のラーヤは単純に物理の戦闘力に特化

宿敵となるファング国の首長の娘であるナマーリとは、キャプテン・アメリカ顔負けの激しい肉弾戦を展開。ディズニープリンセスがシラットみたいな武術を使う時代が来るとは…(エスクリマやカリと呼ばれるフィリピン武術らしいです)。

ラーヤのデザインもとてもワイルドかつクールです。個人的にはプリンセスで一番好きなデザインかな。着飾ったドレスは好きではないと冒頭でお喋りしていましたけど、18歳時の一見すると地味な旅衣装も細かい意匠が施されていてファッショナブルです。

王子様要素とミュージカル要素が無しで、物理戦闘力特化という点を見ると、実写版『ムーラン』と同系統になりますが、これからのディズニープリンセスが全部そうなるわけではないでしょうけど、こういう作品の在り方もOKとするのはいいことだと思います。

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ダンゴムシに乗るヒロイン

その一方で、ちゃんとディズニーらしいコミカルな要素も用意されているのはさすがです。

とくに今作のシスーという龍。初登場時から一気に物語の空気を変え、場をグッと和ませてくれます。もうこのキャラクターに関しては完全に“オークワフィナ”の独壇場です。人間の姿に変身したときなんか、“オークワフィナ”本人じゃないですか

動物系のキャラのマスコットとしてはトゥクトゥクも愛嬌たっぷり。アルマジロみたいですけど、東南アジアにアルマジロはいないので(南米の生き物です)、あれはダンゴムシを可愛くデフォルメしたキャラなんでしょうね(よくみると触角がある)。ダンゴムシに乗っかるヒロインなんて前代未聞だ…。

そしてノイ&オンギという赤ちゃん詐欺師と猿3匹。なんだろう、『ボス・ベイビー』といい、『インクレディブル・ファミリー』といい、こういうスーパー赤ちゃんを描くのがトレンドなのかな。

ディズニーは大人観客や批評家よりも子どものウケを第一に考えて、スクリーニング・テストでも反応を見て、そのうえで作品を修正しています(Disney+で配信されている『アナと雪の女王2』のメイキングなんかを見るとよくわかる)。たぶんノイ&オンギは子どもウケが良くてシーンを追加したんでしょうね。あの子、絶対将来凄い大物になるよ…。

こういう子ども・ファーストな姿勢は本当に大切だと思います。それこそディズニーですから。

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ディズニーが融和を描いて失敗した昔話

『ラーヤと龍の王国』のテーマは「分断と融和」です。これはもちろん現代社会の喫緊の課題ですから、それをチョイスするのは必然でしょう。

ただ、このテーマに関してディズニーは過去に痛い失敗をしてきた歴史もあります。

その最たるヘマは『ポカホンタス』(1994年)でしょう。こちらの作品はディズニーのアニメーション映画で、アメリカのインディアンの娘を主人公にしています。しかし、対立が激化するインディアン(先住民)と白人の入植者を前に、その主人公が両者を融和させる架け橋となるのですが、これがなんとも都合のいい融和で…。具体的にはインディアンを迫害した白人に寄り添った融和であり、映画自体も当事者のインディアンからクレームの嵐となりました。だいたい植民地支配に融和も何もないのですが…。

では『ラーヤと龍の王国』はどうしたのか。完全にフィクションにすることで歴史問題を回避しつつ、もっとわかりやすいアプローチを採用しています。

それがときに憎悪に飲まれそうになるラーヤとナマーリの対立と後の融和というアイコン。これは、女性同士という絵面もあって『シーラとプリンセス戦士』を思い出させますね。ナマーリも良いデザインしているし、絶対そういうヘッドカノン(脳内設定・二次創作)を刺激させる意図がプンプン感じる…。

…と思ったら、主人公のラーヤを演じた“ケリー・マリー・トラン”はラーヤを同性愛者である(ナマーリにロマンチックな感情がある)というつもりで演じたと語っており、ディズニーの公式発表ではないですが、確実に何かが変わってきているのかもしれない。

本作をレズビアン・ロマンスだと断言はできないかもしれませんが、後にとても重大な転換点となる作品として語り継がれるかも。

なお、「キスシーンもないし、これで同性愛なんて名乗っちゃいけない!」なんて意見には私は断固反対で…。なぜならアセクシュアルなレズビアンもあり得ますからね。そういうのを排除することには一切支持できません。

それでもまだまだ最高到達点とは言えない面もあるでしょう。例えば、複数の王国をまとめることが本当に良きことなのか。超大国主義に陥っていないのか。ちなみに邦題など日本語翻訳では「王国」になっているのですけど、クマンドラは王制なのかはよくわかりません。英語だと「みんなが平和だった世界」みたいなざっくりした表現になっている気がする。

また、本作の分断はそこまで構造的差別をともなう加害者性を描くまで踏み込んでいないので、ある程度融和も差し当たりなく描ける部分もあります。子ども向けとしてはこれでOKなレベルですが、大人が直面する差別問題に『ラーヤと龍の王国』精神を持ち出すのはやや無力ですかね。

まだまだ融和を描くことに関しては試行錯誤がいる感じ。私も正解はよくわかりません。

それでも現行の子ども向け作品としてはじゅうぶんすぎるクオリティであり、ディズニープリンセスのさらなる進化が楽しみになる一作でした。これからは「私、プリンセスになりたいから剣を買って…」「武術を学びたい…」とねだる子どもが現れるのかな…。

『ラーヤと龍の王国』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience –%
IMDb
7.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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関連作品紹介

ディズニープリンセスのアニメ作品の感想記事です。

・『プリンセスと魔法のキス』

・『塔の上のラプンツェル / ラプンツェル ザ・シリーズ』

・『モアナと伝説の海』

・『アナと雪の女王2』

作品ポスター・画像 (C)2021 Disney. All Rights Reserved. (C)2021 Disney and its related entities ラーヤ・アンド・ザ・ラスト・ドラゴン

以上、『ラーヤと龍の王国』の感想でした。

Raya and the Last Dragon (2021) [Japanese Review] 『ラーヤと龍の王国』考察・評価レビュー