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『ビッグマウス Big Mouth』感想(ネタバレ)…今日の授業は性教育お下品アニメです

ビッグマウス

今日の授業はお下品アニメで性教育を学びます…アニメシリーズ『ビッグマウス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Big Mouth
製作国:アメリカ(2017年~)
シーズン1:2017年にNetflixで配信
シーズン2:2018年にNetflixで配信
シーズン3:2019年にNetflixで配信
シーズン4:2020年にNetflixで配信
原案:ニック・クロール、アンドリュー・ゴールドバーグ ほか

イジメ描写

ビッグマウス

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『ビッグマウス』あらすじ

思春期に突入した子どもたちにとって避けられないもの。それは性の悩み。自分の性欲とどう向き合えばいいのか。恋人はできるのだろうか。どんどん魅力的に成長していく同級生ばかりで置いていかれる気分。生理ってどう対処すればいいの、避妊って何すれば、ゲイかどうかわかるものなの、あれもこれも…。不安だけが膨らんでいく毎日。そんな思春期1年生な子どもたちのあられもない姿をご覧あれ。

『ビッグマウス』感想(ネタバレなし)

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カオスな性アニメだけどこれでも真面目?

性教育は大切。でもそれを教えるのは難しいです。どうしたって生々しい話になってしまいます。それが本質的なことなのですから当然なのですが、でもなんとか上手いバランスにできないか、教える側は四苦八苦することに。

そんなときによく活用される手段が、性というものを「キャラクター化」するというアプローチ。リアルすぎることなく、本質を見失わない程度に少しデフォルメして受け入れやすくする。この方法なら性教育もやりやすくなるというものです。キャッチーになって関心を集めやすくもなります。

例えば、性教育を親しみやすい絵柄で丁寧に優しく伝えている「セイシル」というウェブサイトでは、性感染症の代表的なものをキャラクター化しています。性器ヘルペスウイルス感染症はコバンザメみたいになってたり、なかなかに斬新です(でも勉強になる)。

また、小山健による漫画で映画にもなった『生理ちゃん』はその名のとおり「生理の苦しさ」をキャラクター化しており、話題となりました。

しかし、このキャラクター化という術もリスクがあります。というのも知識もないままに安易にこの手に出ると逆に誤った知識を誇張して伝えかねず、逆効果になってしまうのです。

実際、先ほど挙げた『生理ちゃん』も作品内に生理に対する誤解を招く描写があったり、はたまた女性への偏見を助長する内容が指摘されて批判されたりもしました。

性教育をキャラクター化して伝えるのはやはりなかなか難しいものです。

そうした中、アメリカではもっと攻めに攻めまくった性教育のキャラクター化が実行されていました。それが今回紹介するアニメシリーズ『ビッグマウス』です。

なぜか日本のネット界隈では「アメリカはポリコレのせいで過激な描写がアニメでできない」と考えている、なんとも無知な認識の人がいるらしいですが、その人は本作『ビッグマウス』の存在を知らないのでしょう。

まず『ビッグマウス』の何かが凄いって、描かれている主役たちが子どもであり、しかも思春期に突入したばかりの12歳だということです。性教育的な題材の作品は他にもあって、実写だったら『セックス・エデュケーション』とか『17.3 about a sex』とかありましたが、それらはどれも高校生が主役。

でもこの『ビッグマウス』はティーン手前のギリギリ児童であり、それなのにペニスとか女性器とかガンガンに描いちゃってるんですね。作品内で「これって児童ポルノじゃないの?」「アニメだから大丈夫だろう」というメタな自虐を披露しているくらいです。ファンは『ビッグマウス』のことを「合法的に見られるチャイルド・ポルノグラフィ」と茶化しています。

ちなみにタイトルの「Big Mouth」というのは「秘密を守れずに何でもベラベラと喋ってしまうこと」を意味しますが、たぶんこれは卑猥な言葉遊びでもあって…。要するに、元カノの女性が「アイツのペニス、小さかったよ」と言いふらしていた際に、言われた男の方が「あいつは“big mouth”だね」…つまり、口が軽いという意味と同時に“アレをしゃぶれる大きい口を持っているだけだ”(だからオレのペニスは小さくない)…という反撃をする…そういうやりとりからのタイトルのピックアップ…なんだと思います。

そのアウトな境界をギリギリで弄ぶ『ビッグマウス』。性に悩む子どもたちの前に現れる自分にしか見えない存在、それが男性ホルモンや女性ホルモンを具現化したキャラクター。「ホルモンくん(Hormone Monster)」「ホルモンちゃん(Hormone Monstress)」などと総称されていますが、一応作品内では「モーリー」とか個別に名前がついています。

もちろん性欲や性行為だけでなく、生理や人間関係もテーマになりますし、LGBTQも漏らさずネタになっています。

一方で注意がひとつ。この『ビッグマウス』を性教育の教材には…しづらいです。なぜなら一般的にこの手の性教育的作品は作中で絶対に正しい助言をしてくれるメンターみたいな存在がいるものです。でもこの『ビッグマウス』はそういうキャラがひとりもいないんですね。みんなたいてい間違っている。というかダメだと言われたことを全部踏み抜くヘマをする。あの性ホルモンのキャラでさえ正しさを教えてくれるわけではなく、卑猥な話しかしない。端的に言えば、カオスなのです、このアニメ。カートゥーンの中でもクセの強さはトップクラス級です。

でもそれがリアルでしょ?という開き直りがあって、その“わからない”状態でパニックになることこそ思春期でもあって…。『ビッグマウス』はある意味で潔く誠実なのです。

その『ビッグマウス』、批評的には絶賛されており、エミー賞やアニー賞、GLAADメディア賞でも高く評価されています

1話30分以内でサクサク観れますし、このアニメで性に悩んだ思春期を思い出すのもいいかもしれません。今ならもう少し冷静に見つめることができるかも…。

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『ビッグマウス』を観る前のQ&A

Q:『ビッグマウス』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル・アニメシリーズとして2017年にシーズン1、2018年にシーズン2、2019年にシーズン3、2020年にシーズン4が配信中です。
Q:子どもでも観れますか?
A:大人向けです。ティーンなら観てもいいかもしれませんが、いろいろ気まずいかも…。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:性を見つめる良い機会
友人3.0:かなり仲良くないと…
恋人3.0:性の悩みを語り合えるなら
キッズ2.0:ティーンならなんとか
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『ビッグマウス』予告動画

『ビッグマウス』シーズン4 予告編 – Netflix
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ビッグマウス』感想(ネタバレあり)

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みんな恥や不安に悩む(#MeToo)

性の話題となると、何かと「男」「女」に分けて扱いがちです。確かに第二次性徴における体の発育は子どもたちを「男」「女」に二分しようとします。

けれどもこの『ビッグマウス』はそんな単純な話にはしません。結局のところ、ジェンダーが何であれ、思春期に直面する問題は同じだという軸をこの作品は常に持っています。それは「恥」「不安」といったものと向き合うこと。

アンドリューは同級生より二次性徴が濃いのか、すでに髭も生え、オッサン風の容姿になっており、溢れ出る性欲とどう向き合えばいいか焦っています。けど、できることは自慰くらいしかなく、ところ構わずやってしまったり、ポルノにドハマりしたり…。そんな姿を他人に見られたときには「自分は異常者なんだ」と自己嫌悪に…。

ニックは逆に二次性徴が遅く、親友のアンドリューの男らしくなったペニスを目撃し、動揺します。わずか2本の陰毛しかない自分に自信などあるはずもなく、このままでは一生童貞ではないかと恐怖にかられることに。あげくには他人不信になり、スマホ中毒になってスマホが恋人化したり、幽霊になって彷徨ったりと大変です。

ジェシーは初潮を迎え(「Everybody Bleeds」は名曲だった)、女らしくなる自分の体の成長を受け止められません。ブラジャーを着けて登校するのも嫌で、とにかく自分が「女」として性的に視線を向けられるのが苦痛です。両親の不和で家庭環境にも悩みを抱え、しまいには鬱状態に陥り…。

ミッシーはマイペースで生真面目、そしてオタク気質な女の子。でも裏では意外にもマスターベーションを明確に自覚せずにやっていたり、性に対してはフリーダム。そのミッシーも恋愛には消極的な存在として学校では認知されつつ、自分らしさをどこまで表に出せばいいのかモヤモヤと…。

それぞれの立場は違います。でも悩んでいる。恋人がいる男子も、いない男子も。胸が大きい女子も、小さい女子も。リア充か非リア充か、勝ち組か負け組か。そんな区分けは関係ない。

シーズン2第9話における学校お泊り会での恥色の魔法使いとの対決はまさにそのテーマのひとつのピークでした。

恥や不安にどう向き合って共存するか、それこそ性教育の主題。

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性に支配されるのではない、向き合える

その主題に対して『ビッグマウス』という作品は、ときにお下品ながらも芯の部分では「相互理解」の重要性を真面目に説いています。

例えば、男女の対立がよく勃発します(思春期あるあるです)。ここで大事なのは本作は「どっちもどっち」なんていうオチにはしないこと。それは最も風刺においてやってはいけない雑で才のない誤魔化し方ですよね。中立きどりみたいな…。

とくに本作でピックアップされるのは男子たちの「女性への無理解さ」であって…。なぜなら男子たちは自分たちの認識が「常識」だと思っているから。それがあくまで「男性(もちろんシスヘテロ)」の偏った価値観に過ぎないことをなかなか自覚できません。

女子が恋愛小説に感じるロマンチックな“ムラムラ”は男子とは違うし、露出度のある服装をしているからといってそれはセックスへのOKサインでは何でもない。でもそれがわからない一部の男子たち。

シーズン3の第2話の、服装規定に反発する女子があえてみんな過激な恰好で登校するスラットウォークをする回。そこでの勝手に女子たちに欲情する男子たちの「僕たちは動物だ」という開き直った横暴な主張なんか、ものすごくSNSとかで既視感がある…。

面白いのは本作は「ホルモン」のキャラがそばにいることで、決して性や欲というのは本能ありきで機械的に作動するものではないと表現されていること。「ホルモン」といくらでも対話して、ときに反抗だってできる。思春期の男子たちは性に目覚めたモンスターじゃない、むしろそのモンスターと向き合える存在なんですよね。

これは男子に限らずみんなにとって大事な認識ではないでしょうか。私たちは性に操られる生き物じゃない。性とコミュニケーションできる。

これは無論、性的同意にも関係することです。ローラが先生に足のマッサージを強要されるという回での性犯罪への暗示も同じ(「女がセクハラを利用して善良な男を破滅させようとしている」は犯罪者のセリフです)。ホルモンと向き合えないなら本当にただの性犯罪者になってしまいます。

一方で女子は何を理解するのか。女子が真っ先に向き合うことになるのは自分の身体でした。それこそジェシーが自分の性器とお喋りし(オーガズムを学ぶ回や大量出血生理の対処回とか)、不安を解消していったり。そして次に女子たちは性差別を受ける自分と向き合うことになります。自分が被害者だと認識するのは嫌です。でもそれも残念だけど動かぬ現実。

こうやって相互理解をしていく中で、間違いだらけの子どもたちは手探りで「正しさ」を見つけ出していく。それが結果、他者や自分を救うことになる。『ビッグマウス』の説教臭くない性教育の真髄です。

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反面教師で学ぶLGBTQ

『ビッグマウス』はLGBTQもテーマにしています。

まずセクシュアリティの自認。これがなんだかんだで一番の難しさ。

当初はアンドリューはドウェイン・ジョンソンのポール・バニヤン映画(なんだそれ)を観ただけで勃起するので「自分はゲイでは?」と不安になります。結局、答えは出ません。「100%の確信なんてあり得ない」というのはセクシュアリティを問ううえで最も大事なことでしょう。

ジェイバイセクシュアルへの自覚の過程はなんともユーモラス。無限大のセクシュアリティの中で自分らしさを見つけるのは大変だよね…。

ゲイをオープンにしているマシューの初関係性へのドキマギも苦労の連続。LGBTQ当事者の子どもは情報が不足しやすいぶん、こういうときも不安が多いものです。

一方で本作はLGBTQに対するやってはいけないことをあえて全部やるという失敗で覚えろ戦法となっています。例えば、パンセクシュアルの転校生のアリーは、それだけできっとエロいんだと男子に決めつけられ、女子からも尻軽的扱いになります。キャンプでやってくるトランスジェンダーナタリーも失礼な扱いをされまくりです。ジェシーの母はレズビアンな不倫関係にあり、それをアウティングされてしまいます。

本作を反面教師にするのはある程度のリテラシーがいるのですが、カートゥーンだからできるLGBTQへのアプローチかなと。

一番好きなストーリーはシーズン4序盤のキャンプ回。生理に悩むシスジェンダー女子(ジェシー)とそれを助けるトランスジェンダー女子(ナタリー)の友情が描かれて、なんか世に蔓延るトランス排除の闇を気持ちよく吹き飛ばす回ですよね。『ビッグマウス』は2021年のアニー賞でテレビアニメ部門の脚本賞に輝いたのですけど、納得です。

童貞であったスティーヴ先生への『クィア・アイ』とのコラボ回もカオスでしたね。すごい無駄使いだった…。

まだシーズンは続くそうなので他のジェンダーやセクシュアリティの登場にも期待ですね。

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声が変わりました!

性への話題が満載の『ビッグマウス』なのですが、性とは異なるテーマ性でなかなかに斬新なものがありました。それは人種問題なのですが…。

ミッシーは黒人の女の子です。しかし、声を演じていたのは“ジェニー・スレイト”という白人でした。しかし、キャラクターの人種が明確なときはその人種と同じように声優も当てはめるべきだという声が強まり、“ジェニー・スレイト”はシーズン4で降板となり、“アヨ・エデビリ”に交代となりました。

しかし、この『ビッグマウス』、それを作品内でネタにしてきているのです。

シーズン4ではミッシーは白人の母からの教育のせいもあって「アフリカ系らしくない」という自分を自覚し始め、人種的なアイデンティティに悩み始めます(私は「ニガー」とは言えない。意味わかるよね…というメタなセリフもあったり)。そしてどんどんブラック・カルチャーを積極的にものにしていき、自身を取り戻します。そこで“アヨ・エデビリ”に声も変わる。

この発想はフレッシュでした。ポリティカル・コレクトネスで作品表現の自由が下がると言う人は一部でいますけど、『ビッグマウス』のような取り入れ方もあると知ると面白いですよね。これぞクリエイティブ。

ちなみにミッシーの両親を演じているのは“ジョーダン・ピール”と”チェルシー・ペレッティ”。『ゲット・アウト』のあの“ジョーダン・ピール”です(”チェルシー・ペレッティ”とは本当に夫婦です)。作中でもオマージュがありましたが、なんだかミッシーの声変わりは“ジョーダン・ピール”っぽい仕掛けだなと思ったりも。

『ビッグマウス』、強欲に何でも大きな口で飲み込むとんでもないカートゥーン、侮れないです…。

『ビッグマウス』
ROTTEN TOMATOES
S1:Tomatometer 100% Audience 78%
S2:Tomatometer 100% Audience 81%
S3:Tomatometer 97% Audience 72%
S4:Tomatometer 100% Audience 73%
IMDb
8.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ビッグマウス』の感想でした。

Big Mouth (TV series) [Japanese Review]