かわいいは作れる、工場で作れる!…映画『コウノトリ大作戦!』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2016年11月3日
監督:ニコラス・ストーラー、ダグ・スウィートランド
こうのとりだいさくせん
『コウノトリ大作戦!』物語 簡単紹介
『コウノトリ大作戦!』感想(ネタバレなし)
赤ちゃんはどこからくるの?
日本ではコウノトリは絶滅危惧種で、野生では絶滅してしまったので、人工繁殖による再野生化の取り組みが行われているそうです。人間が頑張ってコウノトリの赤ちゃんを育てて各地へ運んでいるわけですが、昔から古く伝わるコウノトリの伝承ではコウノトリが人間の赤ちゃんを運んできてくれるというのは有名な話。逆転しているのが、なんとも考え深い。まあ、人間のせいで絶滅の危機に瀕してしまったのですから、頑張ってコウノトリの赤ちゃんを育てるのは当然のことですけど。
そんな今や昔懐かしいコウノトリの言い伝えを、ハイセンスなアニメーションを駆使して現代バージョンにリニューアルしたのが本作『コウノトリ大作戦!』です。
とにかく世界観がぶっとんでいます。まず、コウノトリたちが従業員として働く、まるでAmazonみたいにシステム化された大規模な宅配便社があります。そして、赤ちゃんが謎の技術で工場生産されている…。これだけ聞くとディストピアなのかと思いますが、この作品の世界ではいたって普通、大真面目です。
このアニメーションを製作するのは「Warner Animation Group」。あの有名なワーナー・ブラザースの抱えるアニメーション部門を再組織し、2013年に設立されました。設立の経緯はWikipediaなどを参照てほしいですが、なんでもピクサーのアニメづくりの手法を導入しているとか。「Warner Animation Group」の第1作は批評家からも高い評価を受けた『LEGO ムービー』。個人的にも大好きな一作です。
正直、3DCGアニメーション映画は氾濫しまくっており、その時代の流れの中で、オリジナリティを発揮するのは相当にハードルが高いはずです。表現における技術的にも今ではフォトリアルはほぼ完ぺきに再現できていますし、ストーリー面でもあの手この手で発掘されているのでもう新しい金鉱脈もない感じです。でもこの「Warner Animation Group」はまだそこに誰も見ていない、手も付けていない原石の眠る鉱山を見つけようとしている…のかもしれません。
日本では絶好調のイルミネーション・スタジオと比べたら、はるかに知名度の低いスタジオであり、全くと言っていいほどに目立っていません。劇場公開されているのが奇跡なくらいです。でも個人的には注目したいスタジオなので、積極的に取り上げていきたいところ。だから『コウノトリ大作戦!』も無視できません。
『コウノトリ大作戦!』は「Warner Animation Group」の第2作であり、『LEGO ムービー』の監督であるフィル・ロードとクリストファー・ミラーも製作総指揮に名を連ねています。『LEGO ムービー』ファンにも見てほしい作品です。もちろんそうではない人にも。
他社のアニメーション映画と比べてドタバタ劇という誰が見ても笑いのツボが理解しやすいシンプルなノリが売りになっているので、子どもでもすぐに楽しめると思います。
このエキセントリックな世界観設定、今年のアニメ映画でいえば『ソーセージ・パーティー』と肩を並べるかもしれない。
『ソーセージ・パーティー』と違って下ネタの一切ない世界ですから、家族でも安心して観れます。もし子どもに「私もコウノトリが運んできてくれたの?」と聞かれたら、自信をもって「そのとおりだよ」と言えるでしょう。うん、嘘はついていない。
『コウノトリ大作戦!』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):赤ちゃん、届けます!
はるか昔からコウノトリは赤ちゃんを届けていました。それがコウノトリの義務であり、信念、生きがいでした。でも赤ちゃんを届けるのは苦労が多くて…。
でも今は心配ご無用。業務内容は変わりました。赤ちゃんなんて面倒なものではなく、日用品を届ける人気の宅配業者になったのです。コウノトリの宅配員だけで構成される「Cornerstore.com」は今日も大繁盛。
そこで働くコウノトリ配達員のジュニアは配達100万個を達成し、勢いづいていました。するとボスのハンターに呼び出されます。「私は会長になるので、君は社長だ」
いきなりの昇進に心は動揺しますが、ボスの心得を教えられている中で「厄介なのはアイツだ」と言われます。それはチューリップというここで唯一の人間の社員でした。孤児でここで育ったのでした。
赤ちゃん配達をやめた理由を教えられます。18年前、ジャスパーというコウノトリ配達員が赤ちゃんを盗もうとし、親ナビが破損。配達先は不明になり、その子はそのまま。それがチューリップです。ジャスパーはどこかへ消えたものの、そろそろあのチューリップを人間界に返した方がいいとハンター。チューリップは足手まといで業績を下げるのです。「チューリップをクビにしろ」と命令されます。
さっそくジュニアはチューリップに会いに行きます。チューリップは変なメカを開発しており、飛ぶことに憧れているようですが、今回も大失敗。配達システムがダウンします。
ジュニアはなんとか上手いことを誤魔化しつつ、チューリップをクビにすると言えずじまい。そこでふと思いつきます。手紙仕分け係に任命しよう…と。今や手紙が全く来ないのでここなら問題にならないはず。チューリップは独りで暇を持て余します。
その頃、人間の少年ネイトは家で独りごっこ遊びをしていましたが、つまらなさを感じます。両親も仕事で忙しそうでこちらには構ってくれません。兄弟がいれば…。「弟が欲しい」と親に言ってみますが、「どこで僕を買ったの?」と聞くと両親は笑います。
諦めきれないネイトは「コウノトリが赤ちゃんを届けます」という古いパンフレットを発見。これだ…と思いつき、手紙を書くことに。親の名前を勝手に使って…。
こうして手紙は投函。手紙は上空にある「Cornerstore.com」に配送され、暇なチューリップのもとに。新生児係がどこなのか不明ですが、だったら自分でやってしまおうと部屋を飛び出します。
そしてその赤ちゃんを求める手紙を機械に投入すると、赤ちゃん工場が稼働。18年ぶりの赤ちゃん配達が始まってしまいます。
主役の鳥よりも輝くオオカミたち
スラップスティックなコメディがとにかく楽しい『コウノトリ大作戦!』。ドタバタギャグのオンパレードで、観ていて全く飽きませんし、絵だけで楽しませてくれます。だいたい登場人物が揉めだしても赤ちゃんの可愛さでメロメロになって丸く収まりますから、テンポがいい。可愛いは正義なんです。だからこそ、物語全体がギャグに集中できてます。
鳥であるということ自体がネタになっているのがユニーク。コウノトリ宅配便社ではコウノトリ以外の鳥も働いているのも良かったし、ガラスが見えないという習性もしつこいくらいギャグになっているのも馬鹿馬鹿しくて心地いい。この“しつこさ”は本作の最大の特徴で、本当に何度も何度も同レベルのギャグを繰り返します。鳥をバカにしすぎじゃないかっていうほどですが、まあ、事実、ガラスにぶつかりますし…。
でも、本作のギャグのチャンピオンはやっぱりオオカミ。あれはなんなんだ…もはやオオカミの習性とは全く関係ない、組体操というか連携技の数々に爆笑せざるを得ない。いや、オオカミは群れで行動する生き物ですよ、野生の世界ではそれで生き残るワイルドな奴らですよ。でもこうじゃない。「大作戦」してたのはオオカミのほうといえなくもない…終盤で出番がないのは残念なくらい惜しい奴らでした。オオカミは悪者として描かれることが多いという人もいますが、今作のように愛嬌のある、それこそ主人公以上に愛されるキャラクターになっているなら何も文句はないですよね。
ちなみにこのオオカミの声をオリジナルで担当しているのは、“キーガン=マイケル・キー”と“ジョーダン・ピール”というアメリカで人気のコメディアンなんですね。
オオカミの他にもまだまだ愛されキャラを用意してくる本作。次点で、ペンギンのサイレントバトルですかね。シンプルすぎるこのギャグ。静かな映像で、劇場の笑いが余計に目立つこのシーン。くそ、こんなので笑ってしまう自分が悔しい…でも面白い…。
全体的にワーナー・ブラザースの『ルーニー・テューンズ』みたいなノリでした。最後に小さい鳥たちが復讐するのも『ルーニー・テューンズ』っぽい。昔、ワーナー・マイカル・シネマズ(今のイオンシネマ)で上映前に流れていたバッグス・バニーたちを思い出しました。ちゃんとこの古き良きギャグのテンションを引き継いでくれる存在がいるだけで、私は大満足です。
赤ちゃんの出自はツッコんではいけない
ストーリーも単純明快で良いです。なにせ「赤ちゃんを届ける」…それだけですからね。ここにチューリップというワケあってコウノトリ宅配便社でずっと暮らしてきた人間のエピソードも混ざり合って、謎あり、暗躍ありのサスペンスになっていくのですが、誰でもわかる物語なので安心。
あんまり難しいことを考えたら負けな本作ですが、赤ちゃんの出生があのコウノトリ宅配工場以外にないのかという根本的なツッコミがどうしても頭に浮かぶのは仕方がないのか…。赤ちゃんのお届けを禁止した後は子どもは生まれないのかということになりますし。ただ、この点をあまり深くツッコむとそれこそ人身売買的な話になりかねないので、このバランスでいいのかもしれませんが。工場で生産されているその瞬間をガッツリ描いちゃっていますから。
まあ、アニメでしょ?と言われたら、そのとおりなのですけど。でも、低年齢の子どもも見るものとして考えるなら、もし子どもに「私も工場で作られたの?」と聞かれたら、若干困るという…。
ラストで、いろいろな人に子どもが届けられる場面で、同性愛のカップルやシンングルの人にも届いていましたから、本作における赤ちゃんは血縁や遺伝子に基づく生物学的な存在ではなく、皆の幸せを象徴するアイコンなのでしょうけど。
それでももうひと捻りは欲しかったなというのが正直なところ。なんというかピースフルなご都合解釈で逃げた感じもします。全体的に荒削りな脚本なので、もっとブラッシュアップを重ねれば良くなったのかもしれないとも思います。それでも、この題材をあえて選び、ここまでぶっとんだ内容のアニメーションを実現しただけでも評価したい。私はあのオオカミだけで80点くらい与えてもいいくらいですが(テキトーすぎる評価システム)。
最近はアニメ映画といえば、洗練された脚本や社会的テーマが注目されがちですが、こういうストレートなギャグ全開な作品も絶滅させることなく、大切にしていきたいものです。こういうタイプの作品は決して子ども向けではないし、大人だって楽しいですから。アニメ映画も一時は低迷しましたが、近年は各プロダクションの個性を発揮した作品が数々登場し、多様性が上がっているのがうれしい限り。今後も期待です。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 65% Audience 62%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
以上、『コウノトリ大作戦!』の感想でした。
Storks (2016) [Japanese Review] 『コウノトリ大作戦!』考察・評価レビュー