知っている?…映画『サトウキビは知っている』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:インドネシア(2025年)
日本公開日:2026年4月10日
監督:アウィ・スルヤディ
動物虐待描写(家畜屠殺) 性描写
さとうきびはしっている

『サトウキビは知っている』物語 簡単紹介
『サトウキビは知っている』感想(ネタバレなし)
インドネシア産ホラー映画、入りました!
イスラム教圏の国では検閲ばかりで映画産業は育たない…。確かにイランなど一部の国は映画製作者への迫害があるので状況は酷いですが、それをイスラム教の社会すべてに当てはめるのは偏ったイメージです。中には映画産業が発達しているイスラム教圏の国も紛れもなく存在しています。
そのひとつが東南アジアの「インドネシア」です。インドネシアは、人口の約87%がムスリムなので、イスラム教の文化が中心となっています。
そして同時に映画産業も独自に発達してきました。例えば、イスラム教の重要な祝祭日であるラマダン(ラマダーン;断食月)の終了を祝うお祭り「イード・アル=フィトル」(インドネシアでは「レバラン」とも呼ぶそうです)は、毎年賑やかですが、商業活動も活発化。セールが行われるだけでなく、みんなで映画を観に行くという習慣もあるそうです。当然、このイードを狙って劇場公開をする映画もあるとか。
さらにインドネシアと言えば、とくにホラー映画が盛況で、興行収入の上位に食い込むホラー映画はたくさんあります。
仏教や神道が中心の日本でも、キリスト教が中心のアメリカでも、信仰や民間伝承が土台のホラーは大衆に受けやすいですが、それはイスラム教でも同じなんでしょうね。インドネシアのホラー映画も、その地の民間伝承やイスラム教を反映した内容になっているものが多いようです。
今回紹介する映画は、2025年のインドネシアで話題作となって大ヒットしたホラーです。
それが本作『サトウキビは知っている』。
本作は内容としてはハリウッドでも定番の悪魔ホラーですが、インドネシアの社会文化の土壌でそのジャンルが構築されており、「インドネシアだとこうなるのか」という視点で眺めることもできます。
映画のタイトルに「サトウキビ」と入っているとおり、舞台はサトウキビ畑のある製糖工場です。製糖工場というのは、サトウキビから砂糖を作る工場ですね。日本にも各地にありますし、私の地元の北海道だと「てん菜」から砂糖を作る製糖工場があちこちにあります。インドネシアでも歴史的に盛んな産業です。
『サトウキビは知っている』はそのインドネシアの田舎にある製糖工場に繫忙期の季節雇用で集められた労働者の若者たちの群像劇になっています。
この『サトウキビは知っている』を監督したのは、今やインドネシアのホラー映画界隈で最も注目されているフィルムメーカーとなった“アウィ・スルヤディ”。2006年に『Gue Kapok Jatuh Cinta』というロマコメ映画でデビューし、「AKB48」の姉妹グループのひとつであるインドネシアのアイドルグループ「JKT48」の映画『Viva JKT48』を監督したり、いろいろなポップカルチャーに精通してきました。
そんな中で、“アウィ・スルヤディ”監督は『Danur』シリーズ(2017年~)や『KKN di Desa Penari』(2022年)をヒットさせ、その後もホラー映画を連発し、すっかりホラーの定番クリエイターになりました。
日本だと“アウィ・スルヤディ”監督作が全然公開されていなかったので観れないのですけど、ホラー映画だけでも観れるようになるといいのですけどね。
今回、『サトウキビは知っている』が日本劇場公開を果たし、ついに“アウィ・スルヤディ”監督が日本に紹介されてきました。ここからインドネシアのホラー映画が日本のホラー・ファンの心を掴んでいくといいなと思います。
『サトウキビは知っている』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | ゴア描写はありませんが、ジャンプスケアがやや多いです。また、虫が短い恐怖演出に使われるので虫が苦手な人は要注意。 |
| キッズ | 性行為の描写があります。 |
『サトウキビは知っている』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
2003年、東ジャワ州。ラジエーターが不調で立ち往生するトラック。「早く直せ」とひとりの男が急かします。荷台には大勢の男女が着の身着のまま鞄を持って乗っており、みんな工場の労働者でした。向かう先は少し遠くの製糖工場。この時期は忙しいのでこうやって労働者をかき集めるのです。
動かないトラックの荷台で立って雑談をする労働者たち。毎年のように近隣の村々から人々を雇っていることもあり、顔なじみも多いです。明るい空気のまま、トラックは動き出します。サトウキビ畑を通り抜け、トラックはひたすら進みます。
しゃがみこんで眠りこける労働者たち。気がつけばもう工場の煙突が見えます。
到着すると各自の部屋が割り当てられます。他にも多くの労働者がおり、列を作っていました。古びた建物をみるかぎりかなり歴史を感じさせます。今日からここで寮生活です。
男子部屋では、ファディル、ヘニング、フランキー、ドウィが一緒の部屋でした。
女子部屋では、ナニング、ワティ、エンダー、ラニが揃って、自己紹介。外も暗くなり、部屋で和んでいると、ボォーっと乾いた音が鳴り響きます。何かの合図なのでしょうか。
最初の夜中、ひとりで起きてちょっと水を飲みに行ったエンダーは人の気配を感じます。ルームメイトかと思いましたがそうではないようです。
外へ出て宿舎まで戻ろうとするも、霧が立ち込め、人影はないはずなのに、どうも誰かがついてくるような嫌な感じがします。工場内をうろついてみると、そこも当然のように静まり返っていました。
そのはずでしたが、工場内で何か音が聞こえます。好奇心のままに音のするほうへと歩みを進めると、あるドアに辿り着きます。音はそこからです。
横の高い位置にある穴から覗くと影絵芝居をしており、多くの人が集まっていました。なぜこんな時間にこんな場所で…。ふと気が付くとそこにいる人間全員がこっちを見つめています。
怖くなって逃げ出しますが、その後ろに異形の存在がいることには気づきません。
翌日、季節労働者の責任者であるマルニは、新しく到着した季節労働者たちを集合させ、朝から説明会を開きました。
ここでとくに重要だと説明されたのが、工場の門限です、日没後、労働者はすぐにそれぞれの宿舎に戻らなければならず、さらに午後9時に笛が鳴ったら、労働者はそれぞれの宿舎から出ることを厳しく禁じられるとのこと。あの昨日の夜の野太い音はその音だったようです。
しかし、それにしてもなぜここまで夜間の出入りを禁じるのか、イマイチ釈然としません。ただの工場のはずなのに…。

ここから『サトウキビは知っている』のネタバレありの感想本文です。
季節労働者の若者たち
『サトウキビは知っている』、冒頭はとても穏やかな空気で幕を開けますが(まあ、穏やかなのはこのシーンだけなのですが)、まずこの主役となる季節労働者の若者らのキャラクターが良かったです。
“アウィ・スルヤディ”監督は、過去作『KKN di Desa Penari』では、「KKN」と呼ばれる、大学生が1~2ヶ月ほど田舎に派遣されてそこで教育などの地域奉仕をするインドネシア特有の慣習を題材にしていて、そうやって田舎にやってきた若者が恐怖を体験する物語でした。
『サトウキビは知っている』は季節労働者の慣習をプロットに採用していて、こちらも若者が見知らぬ土地にやってくる背景を自然に組み込んでいます。
ハリウッドのホラーだと若者が辺境の田舎にやってくるのは、お泊り会やバケーションなどの享楽が目的だったりするところ、このインドネシアのホラーでは曲がりなりにも「努めるべき役割」をともなうという点が特徴ですね。
それはインドネシアの若者たちは常に社会に貢献する期待を背負っていることを意味し、そこには家庭の期待も当然あります。それら重圧の最中にほんのひとときの息抜きを見つける…。その瞬間にホラーが混ざり合うので、気楽すぎない緊張感があります。
今作の季節労働者の若者たちもそれぞれの事情があります。私はインドネシアの俳優に全く詳しくないので、各キャラを先入観なしで新鮮に楽しめました。
てっきりあれだけ登場人物数が多いからバンバン死んでいくのかと思いましたが、案外と生き残りましたね。
最初にメインで目立つのは、ジャンルの正統派ヒロインっぽくもありつつ、労働者としての真面目さも伺える佇まいのエンダー。演じているのは“エルシャ・アウレリア”で、最近のフィルモグラフィーを確認すると案の定ホラー映画だらけで、インドネシアでは若手女優は当然のようにスクリーム・クイーンになるのかもしれない…。
男性のほうだと“アルバニ・ヤシズ”演じるファディルがメインに立つのかと当初は思いましたが、あまり際立つような役どころは無かったかな。でもやっぱりこの手のホラーでは定番ですが、既存の宗教は無力になりがちですね。序盤からイスラム教の祈りを阻害するように悪魔に介入されていますし…。
それよりも中心になってくるのが、ナニングとヘンドラの2人です。ナニングはあからさまにセクシー枠みたいな役どころでしたが、“エリカ・カルリナ”の好演もあって、その言動はスリルの肝です。何気なく振る舞う“ブキ・B・マンスユル”演じるヘンドラと組み合わさることで、その関係性もより効果的になってきている感じ。
そのヘンドラと一応は婚約者関係だったのに蚊帳の外になってしまった不憫なワティは、ヒジャブをつけている敬虔な雰囲気から一転、後半は禍々しく宙に浮くわ、口汚く憑依されるわ、なかなかにホラーらしい暴れっぷりで楽しいキャラでした。“ワビ・ジハン”の演技が今作で一番好きだったかもしれない…。
そしてコメディリリーフとなるのが、“ベニディクトゥス・シレガー”演じるフランキー(ムルヨノ)と、“アリフ・アルフィアンシャ”演じるドウィ。そこまでホラーの緊張感をぶち壊さない程度に、しっかりコミカルさを提供してくれる凸凹コンビでした。
製糖工場とインドネシア伝統文化
『サトウキビは知っている』の舞台は製糖工場です。オランダによる植民地時代の頃に作られた製糖工場で実際に撮影したらしく、相当に歴史の古さを感じさせます(インドネシアは、18世紀~19世紀にインドネシア諸島におけるオランダの領土支配が続き、第二次世界大戦時は日本に占領統治されました)。
それだけ歴史があれば陰惨な過去もあるもので、ホラーの舞台としてはこのうえなく絶好の場所です。死に満ち溢れています。
『サトウキビは知っている』ではそこに民間伝承を盛りつけます。「ガムラン」(ジャワ伝統の打楽器)の音色に引き寄せられれば、インドネシアの伝統的な影絵芝居である「ワヤン・クリ」を目撃し、しかし、それは悪魔の世界の入り口でもありました。
そしてインドネシアと言えばこれと言わんばかりに「クダ・ルンピン」の舞踊が異様にテンションを高めます。ホラーならシャーマニズムの儀式が最も盛り上がるのは当たり前。けれどもこのクダ・ルンピンはそもそもがすでにどことなく怖さも醸し出しているので、シーンとしての効果は絶大ですね。
正直、儀式が全然効果ないのは火を見るよりも明らかですけども…。悪魔の攻撃はエスカレートするばかりですし、今作の悪魔は手数が多く、人間側の儀式よりも臨機応変に器用です。
最終的にカップルを供養するという儀式へと繋がるあたりといい、その場がサトウキビ畑のど真ん中で(そこでいいのか?)、『チルドレン・オブ・ザ・コーン』的な勢いを保ち続けます。
それぞれの要素としては日本語圏から観た私にはインドネシアの特徴がでているあたりは新鮮に感じられたのですが、全体としてはジャンルの類型に頼っている部分が多く、その点は斬新さは薄かったのはやや残念ではありました。
一番に捻りが足りないのは、ナニングとヘンドラの件ですかね。要はこの2人の展開は、「ふしだらで家庭に従順ではない者に罰を与える」という規範を律する流れになっています。ちょっと凡庸すぎる感じです。もしかしたら、宗教的にもそんな規範に反旗を翻すことを良しとする展開を大々的には描きづらいのかもですけども。
あとこれだけ歴史あるフィールドで物語を展開するなら、少し長い映画時間を用意するくらいであれば、観客を飽きさせないためにトーンを変えるべく、途中で過去を描くパートを挿入し(陰惨な死の真相とか)、ここだけシリアスな恐怖で攻めるのでも良かったかなとも思ったり。
ともあれ、せっかく『サトウキビは知っている』を観たのですし、今後のインドネシアのホラー映画の変化を観察していきたいと思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『サトウキビは知っている』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2025 MD Pictures
Pabrik Gula (2026) [Japanese Review] 『サトウキビは知っている』考察・評価レビュー
#インドネシア映画 #アウィスルヤディ #悪魔 #スターキャットアルバトロスフィルム
