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『邪悪なるもの(When Evil Lurks)』感想(ネタバレ)…結末の奥まで悪は潜む

邪悪なるもの

結末の奥まで悪は潜む…映画『邪悪なるもの』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Cuando acecha la maldad(When Evil Lurks)
製作国:アルゼンチン・アメリカ(2023年)
日本公開日:2025年1月31日
監督:デミアン・ルグナ
動物虐待描写(ペット・家畜屠殺) ゴア描写
邪悪なるもの

じゃあくなるもの
『邪悪なるもの』のポスター。

『邪悪なるもの』物語 簡単紹介

ある日、ペドロとジミーの兄弟は家の傍の森の中で無惨な変死体を発見し、さらには近隣に住むひとりの女性が自身の息子に現れた“悪魔憑き”を隠していることを知ってしまう。このまま放置をすると大変なことになるのは想像がつく。問題はどう対処するかだった。できる限りのことをしようとするが、焦りと恐怖ばかりが先走ってしまい、状況は事あるごとに悪化していく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『邪悪なるもの』の感想です。

『邪悪なるもの』感想(ネタバレなし)

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アルゼンチンの止まらぬ悪魔

2024年、サッカー界で世界最高の若手選手のひとりと称される人物がいました。2006年生まれとまだ非常に若いその選手の名は「クラウディオ・エチェベリ」。アルゼンチン出身で、愛称として「ディアブリート(El Diablito)」と呼ばれています。これは「小さな悪魔」の意味だそうです。

私はサッカーには疎いのですけど、スポーツ界全体でときどき見かけますが、「悪魔」って異名として当人は嬉しいものなんですかね。

だって「悪魔」ですよ? 悪魔というのは悪いことをする存在なのだし、スポーツで悪魔って言ったら、ズルとか不正なことばかりしてそうじゃないですか。誉め言葉になっているのが不思議です。いくら相手を倒してくれるから怖い存在になるってことで「悪魔」なのだとしても、ちょっと大仰じゃないかな。まあ、そんな細かいことを気にしないくらい熱狂させてくれるのがスポーツなのかもしれないですけども。

そんなアルゼンチンの小さな悪魔はサッカーボールを蹴って操るのが得意ですが、今回紹介する映画にでてくるアルゼンチンの正真正銘の悪魔は人間の脆弱な心を蹴って弄ぶのが得意です

それが本作『邪悪なるもの』

本作はアルゼンチン映画で、アルゼンチンが舞台になっています。原題の「Cuando acecha la maldad」も英題の「When Evil Lurks」も、意味は「悪が潜むとき」。邦題はややざっくりしてます。

この映画は2023年にアルゼンチンやアメリカで初公開となったのですが、普段は手厳しいホラー映画マニアからも大好評で、その年の隠れた傑作ホラーとして語られる一本となっていました。日本では2025年1月末にやっと劇場公開。ちょっと出遅れた…(いつもです)。

どういう中身なのかというと、タイトルがもう匂わせていますが、悪魔憑依のジャンルです。非常にベタなジャンルではありますし、「またそれか…」と思うかもしれません。正直、似たようなジャンル映画が量産されているところも否めません。しかし、『邪悪なるもの』は個性が光っていました。

そこまで超斬新!というほどの真新しさではないのですが、全体的によくできており、強烈な刺激もあって…。ネタバレ無しで魅力を語るの、文才と表現力の無い私には難しいな…。

アルゼンチンの田舎で暮らす2人の兄弟が主人公で、近隣で起きている悪魔憑きの事態に直面し、大変なことになっていく…。物語自体はとてもシンプルで、定番そうなのですけどね。ショッキングなスリルが加速し続ける物語の緊迫感が見どころなので、最初はゆっくりペースの話運びでも観始めるといつの間にか眼球が映像から逸らせなくなっていきますよ。

『邪悪なるもの』を監督するのは、アルゼンチン出身の”デミアン・ルグナ”。2007年に『The Last Gateway』で長編映画監督デビューを果たし、『Cursed Bastards』(2011年)、『You Don’t Know Who You’re Talking To』(2016年)、『テリファイド』(2017年)、アンソロジー『Satanic Hispanics』(2022年)などを手がけてきました。

日本だと2024年時点では以前に限定劇場公開された『テリファイド』くらいしか観る機会がなかったのですが、ついに『邪悪なるもの』で本格的にお披露目といった感じ。

あの“ギレルモ・デル・トロ”も認めるラテン系ホラーの才能溢れるクリエイターのひとりですから、これからも”デミアン・ルグナ”監督作を堪能できるチャンスが続いてほしいところです。

悪魔に憑りつかれている人が周りにいないかをよく慎重に見極めながら、この『邪悪なるもの』を観てみてください。

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『邪悪なるもの』を観る前のQ&A

✔『邪悪なるもの』の見どころ
★ショッキングなスリルが加速し続ける物語の緊迫感。
✔『邪悪なるもの』の欠点
☆胸糞悪い展開が多めなので見る人を選ぶ。

鑑賞の案内チェック

基本 幼い子どもが残酷な目に遭うショッキングなシーンがあるので、留意してください。
キッズ 2.0
残酷な暴力描写がたくさんあります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『邪悪なるもの』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

アルゼンチンのとある田舎。真っ暗な夜。ペドロジミーの兄弟は何か物音を聞きます。近くの森からのようで、銃声でしょうか。密猟者などいろいろな可能性も想定しつつ、2人はライフルを手に家の外にでます。人の気配はありません。今は静かです。

明るくなり、2人は農場の外の森へ歩いて様子を見に行きます。慎重に進んでいくと犬が何かを見つけました。それは上半身と下半身が切断された人間の死体。野生のピューマがやったにしては不自然です。切り口があまりにも鋭利に切れています。

傍には見たことも無い器具のようなものが地面に無造作に転がっており、どうやら殺された人の持ち物らしいです。そこには地図らしきものがあり、行く先を目印に進んでいたようでした。推察するにこの先にあるマリアという女性が住む家に行きたかったようです。

そこで2人はその小さな平屋の家を訪れることにします。しばらくマリアには会っていませんでしたが、事情を話すと深刻な顔の彼女は口を開きます。

なんでも長男のウリエルが悪魔に憑りつかれて肉体が変異してしまったのだとか。にわかには信じられない話です。

しかし、2人は中に入ると確かに異様に膨れ上がった見た目でベッドに横たわる存在がそこにはいました。言葉を失う2人。息はしているようですが手の施しようがないように見えます。マリアはまだ世話していますが…こんな状態になってかなり経つようです。死にかけているとしか思えません。

悪罵祓いの人を呼んだらしいですが、どうやら途中で何者かに殺されたと察せました。さすがに事態が切迫していると考え、2人は車で地元の警察のもとへ。

ところが、警察は関心を持たず、ペドロとジミーの懸命な言葉も耳に届きません。事を荒立てるのは嫌なようで、期待は全くできませんでした。

埒が明かないので地主のルイズに相談します。新しい悪魔祓いを待つ時間もないです。ルイズもその目で確認し、状況の深刻さを実感します。銃を向けて息の根を止めようとしますが、ウリエルはかろうじて声を振りぼって「ここから移動させてほしい」と懇願します。このままだと家族に危険が及ぶので殺すにしても離れた場所がいいと。

ペドロ、ジミー、ルイズの3人は悪臭に耐えながらこのウリエルの巨体をシーツでくるんで外にだします。とんでもなく重いので大の男が3人でもひと苦労でした。ウリエルの肉体は膿のようなものを吹き出しており、運搬には重労働。

そして車の荷台に乗せ、走らせます。途中で子どもが飛び出してきて避けるためにハンドルを切るというヒヤっとする出来事もありました。

しばらく走った後、やっとめぼしい場所に当直し、3人は荷台を確認しますが愕然とします。荷台からウリエルが消えていることに気づきます。一体どこへ…落ちたような感覚はあっただろうか…そもそも跡形もなく消失することなんてあるのか…。

考えても仕方ありません。3人は目の前の問題が消えたのなら、これ以上悩むこともなく、これで一応の解決だということにしてしまいます。そして3人は解散します。

翌日、ルイズの飼っているヤギのうちの1頭がおかしいことに妻が気づきます。それはまるで通常の動物の行動ではなく、得体のしれない何かが憑りついているような…。

惨劇はここから取り返しのつかないほどに悪化していくことに…。

この『邪悪なるもの』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/01/31に更新されています。
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着想元となったアルゼンチンの社会問題

ここから『邪悪なるもの』のネタバレありの感想本文です。

『邪悪なるもの』は悪魔憑依のジャンルであり、ラテン系ホラーとしては『古の儀式』などこれまでもボチボチとみられました。

ただ、そういうものはその地域の伝統文化、とくにもっぱら宗教を下地にするものがほとんどです。それに対して『邪悪なるもの』は宗教要素が限りなく薄めであり、「エクソシストが現れて信仰心で悪を退治する」というような展開も軸にありません。そのため、どうくるのかという流れが読めずにハラハラします。

『邪悪なるもの』の「悪魔」(作中では「encarnado」と呼ばれている)は、あのペドロとジミーの兄弟の母が語るように何かしらの昔から伝わる存在らしいですし、対処方法も語り継がれているようですが、信仰心が武器にはなりません。「処理人(クリーナー)」と呼ばれる対処できる人たちも妙に教会的なものとは距離が離れています。

本作の“デミアン・ルグナ”監督は無宗教だとインタビューで語っており、とくにビジネス化された宗教には興味なかった様子。『エクソシスト』の焼き直しをするつもりは欠片もないのでした。

そんな中、この『邪悪なるもの』の着想元となった物事があるとも監督は語っています。

それが中年米で社会問題として深刻化している環境汚染、とくに農薬などによる公害です。『悪夢は苛む』の感想でも書きましたけど、中南米ではところによって農薬公害は劣悪です。

農業地帯に暮らす人たちは知らぬ間に有害な化学物質に侵され、重度の健康障害を引き起こす人が続出しました。体は衰弱して見るも無残に変容したり、新生児が亡くなったり、おびただしい死に溢れる大地に…。

それでも農薬関連の大企業と癒着する行政はなかなかこの問題を認識せず、あえて触れないようにして放置するという腐敗もまた状況を悪化させました。

それを踏まえると『邪悪なるもの』の一連の描写や展開も風刺として捉えることができるようになります。

序盤のウリエルの症状もそうですし、死体や衣類などからも悪魔が広がるというシチュエーションはまるで化学汚染そのものです。人も動物も関係なく拡散していますしね。

そして警察のあの無気力な態度。問題に向き合わない隠蔽的な官僚の怠慢は、まさに現実の農薬公害問題でもみられた光景であり…。

ああいう田舎では自給自足というか、問題があろうとも自力での解決を良しとするところがありますし、それはそれでその地域のたくましさでもあるのですけど、ひとたびその自助努力の範疇を超える大問題が起きてしまうと何もできずに翻弄されるだけになってしまう…。

本作はその恐ろしさがじゅうぶんに詰まっている映画でした。

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ルール、わかってる?

『邪悪なるもの』はその人知を超える凄まじい悪魔に対しての対処方法が整理されています。しかし、ことごとくその対処のルールは破られてしまいます

そこで、この映画の主人公のキャラクター性も不穏な仕掛けになってきます。本作のペドロとジミーの兄弟は言ってしまえば非常に凡庸で何の取柄もありません。どっちかと言えばダメな奴らです。自身で解決できるほどの突破力もなく、覚悟もありません。それどころか流されっぱなしです。

ペドロの言動なんてとくにそうですけど、「お前、本当にルールわかってるのか?」とツッコミたくなるほどにマヌケなことをしたりもします。例えば、元妻の家に上がり込むくだりで、家に入ってから急に思い出したかのように自分の服を脱ぎだして全裸になるのですが、それはもう家に入っちゃった時点で意味ないだろ!って話で…。なんか鼻をだしながらマスクしている人みたい…。感染対策の意図をわからず惰性で対策してる風の振る舞いの人ね…。

で、案の定、大惨事が起きます。可哀想なことに周りの人から犠牲がでる…。本作のショッキング展開は本当に突然起こるから怖いですね。

そこでもこのペドロは姑息です。あの元妻と新しい夫の間にできた幼い女の子の安否は、まあ、ペドロにはわりとどうでもいいのでしょうね。自分の2人の息子の安全確保にだけ努めて、あの幼い女の子がおそらく悪魔に憑りつかれたなと察してこっそり退散しようとする…この卑怯さね…。一周まわって笑いそうになるほどに行動が利己的…。

長男に対しての態度もなかなか酷いもので、長男は発話によるコミュニケーションが上手くとれないですが、それをいいことに勝手に解釈して話をひとりで強引に進めていきます。全部裏目にでていくのですが、もう自己反省もしません。

あのペドロはもともと対人の付き合い方に非常に問題を抱えている人間で、だからあんな田舎で暮らすほかないほどになってしまったのだろうということは作中の人間関係から示唆されますが、そんな人間にルール遵守は土台無理な話でした。

終盤のウリエルとの再度の対峙ではもはやヤケクソになっていましたからね。人間ってどうにもできなくなるととりあえず物理で対処しがち。よくあるよくある…。上手く起動しない家電をバンバン手で叩くのと同レベルだけど…。

ペドロにとっての絶望エンドが待っているわけですが、そりゃあそうなるだろうという自業自得でもあって…。あえて言うなら最初の行動から間違いのドミノ倒しは起きてました。

「どうしたらいいんだ!?」とペドロは思って泣き叫んでいたのかもですけども、まずはルールをゆっくり落ち着いて確認しよう…ね…。

『邪悪なるもの』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)2023 Digital Store LLC ウェン・イビル・ラークス

以上、『邪悪なるもの』の感想でした。

When Evil Lurks (2023) [Japanese Review] 『邪悪なるもの』考察・評価レビュー
#アルゼンチン映画 #悪魔 #憑依