韓国ゾンビの集大成!…ドラマシリーズ『今、私たちの学校は…』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
脚本:チョン・インソル
性暴力描写 イジメ描写 ゴア描写 恋愛描写
今、私たちの学校は…
いまわたしたちのがっこうは
『今、私たちの学校は…』あらすじ
『今、私たちの学校は…』感想(ネタバレなし)
韓国ゾンビ作品の集大成にして到達点
韓国ゾンビ作品もここまで来たか…。
韓国のSF的なパニック・ジャンルと言えば、もっぱら宗教を土台にしたオカルトものでした。やはり韓国と言えば宗教文化が根強いです。オカルトは親和性が高いですよね。
それ以外だと『グエムル 漢江の怪物』のようなモンスター・パニックものもありましたけど、ジャンルが定着するほどの勢いはなく…。壮大なスケールでパニック要素を描きたいなら戦争映画を作る方が需要もありますし、わざわざそれ以上のジャンルを開拓する必要もなかったのかもしれません。
しかし、今の韓国は違う。あるジャンルが全盛期を迎え、新興宗教のごとく凄い勢いでエンタメ業界を席巻。それは韓国のみならず世界すらも無視できないレベルに到達しています。
そのジャンルが「ゾンビ」です。
新時代の韓国ゾンビ作品の始発駅となったのが2016年の『新感染 ファイナル・エクスプレス』。これが世界的に高評価を記録し、流れが変わりました。
この作品以降も韓国はゾンビ映画を連発し、完全にこのジャンルを自分流に染め上げるコツを掴み、我が物にします。ドラマ『キングダム』を観て私も「あ、韓国はゾンビものと相性が抜群だったんだな」と実感しました。運命のベストパートナーですよ。
さらにここで思わぬ天変地異がこのジャンルを激震させます。コロナ禍です。それまで言っても突拍子もないジャンルに思えていたゾンビ・パンデミックという現象がいきなり私たちにとって最も身近な最悪の事態に転身したのですから。これが怪我の功名になり、韓国のゾンビ・ジャンルはもっと急成長を見せそうな予感がしまくっていて…。
そんなところで2022年、この韓国ドラマの登場。完全にコロナ禍以降に作られた本作は韓国ゾンビ作品の集大成にして到達点となったと思います。
それが本作『今、私たちの学校は…』というドラマシリーズです。
本作はゾンビ・パニック作品であり、邦題のとおり「学校」を舞台にしています(タイトルの「…」はあれなのかな、ゾンビ映画『28日後…』をなぞっているのかな)。学校でゾンビと言えば、日本でもアニメや実写映画にもなった『がっこうぐらし!』がありましたけど、この『今、私たちの学校は…』はスケールが桁違いです。
まずこの『今、私たちの学校は…』は学校がゾンビ・パンデミックの発生地であり、普段どおりの学校が一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図に変貌するさまを、大迫力の緊迫感で映像化しています。さらにそれが学校から市内全域に拡大し、軍隊がその収拾に追われる姿を生々しく描いており、そのリアルさも凄まじいです。やはりこの現実味というのはコロナ禍を経験したからこそ、作り手も本気でやらねばと思ったはず。
韓国はゾンビ・パニックの分野ではハリウッドに匹敵するというか、もはやハリウッド以上にジャンルを描くのが卓越するようになったのではないかなと思います。
そして『今、私たちの学校は…』は学校が舞台で、群像劇ながらメインの主人公たちの大半は生徒です。なのでしっかり青春モノとしても完成されていて…。近年観てきた学園青春作品の中でも私は『今、私たちの学校は…』は面白かったですね。
そういう作品なので登場人物はかなり多いです。第1話はかなり面食らうと思いますが、話数が進めばすぐに馴染みます。それくらい各キャラクターが特徴的ですから安心してください。
若い俳優陣の名演も見どころ。『はちどり』の“パク・ジフ”、『君の誕生日』の“ユン・チャニョン”、ドラマ『賢い医師生活』の“チョ・イヒョン”、ドラマ『チョコレート』の“ユ・インス”、ドラマ『ショッピング王ルイ』の“パク・ソロモン”、ドラマ『イカゲーム』の“イ・ユミ”、ドラマ『ザ・キング: 永遠の君主』の“ハ・スンリ”などのアンサンブルが毎話楽しめて最高です。大人側としては“キム・ビョンチョル”が『シーシュポス The Myth』に引き続きなんだか企んでいる役柄で相変わらず顔だけでもう怖い。
ドラマ『今、私たちの学校は…』はNetflixで独占配信。全12話で1話あたり約50~70分。ちょっとボリュームがありますが、一度見始めたら続きが気になってやめられなくなるでしょう。
なお、かなり残酷なイジメ描写があるのでその点は注意をしてください。
オススメ度のチェック
ひとり | :ゾンビ作品として良作 |
友人 | :話題性はじゅうぶん |
恋人 | :ロマンス要素も多数 |
キッズ | :残酷描写・イジメ描写多め |
『今、私たちの学校は…』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):学校は息苦しい
雨が激しく降る建物の屋上。ジンスという少年は同級生のグループにイジメられ、そのうちの何人かに殴られていました。すると一方的にやられていた少年は急に攻撃性を発揮し、不自然な動きで掴みかかり、勢いあまって下へ落下。地面で動かなくなります。
病院に駆け込むひとりの中年男性、イ・ビョンチャン。病室のベッドに横たわる息子を見つめますが、そのジンスは血走った目で震えながら「奴らを殺してやる」と感情を発し、少年は父の手に噛みつこうとします。後ずさりする父。父は息子を聖書で殴りつけます。何度も…。
その後、ビョンチャンはキャリーケースを引きずりますが、その中から腕が飛び出します。脈を調べると、急に掴みかかってくる手。蠢くそれは…。
ヒョサン高校は普段どおりの日常でした。生徒たちは元気にじゃれています。そんな中、科学室で寝ていたひとりの女子、キム・ヒョンジュ。掃除をサボってひとりこの科学室に取り残されましたが、備品室で物音を聞き、近づいて行きます。そこにいたのは…可愛いハムスター。すっかり安心し、手を伸ばした瞬間、そのハムスターに噛まれます。異様に暴れまわるハムスター。ヒョンジュの背後には理科の先生のビョンチャンが…。
学校が終わると、ナム・オンジョは同性親友のユン・イサクと、幼馴染の男子のイ・チョンサンの親が開業したばかりのチキン屋に行きました。実はチョンサンはオンジョのことが好きでしたが、オンジョはスヒョクという男子に片思いしていました。理科の先生の行動が不審で、死臭がする…そんな話題もしつつ、解散。
翌日の学校。ユン・グィナムは使われていない古い校舎内でキム・チョルスという男子がジンスの件を教師に密告したのではないかと問い詰め、報復にミン・ウンジという女子の服を破って写真に撮らせます。そこにスヒョクが入ってきますが、スヒョクはもうそんな彼らと関わりたいと思っていませんでした。
オンジョは学校に入っていくスヒョクを見つけ、「お昼を食べたら屋上に来て」と約束をとりつけます。
担任のパク・ソナ先生が生徒のスマホを回収、そこでヒョンジュがいないと気づきます。科学室の掃除当番から帰っていないのか。パク・ソナ先生は科学担当のビョンチャンのもとに向かい、ヒョンジュを見ていないか聞くものの「見ていません」と彼は答えます。
ビョンチャンは備品室に引っ込み、「学生がハムスターに噛まれた。鎮静剤を投与し、感染を遅らせているが時間の問題だ」と動画記録を残します。その場には縛り付けられたヒョンジュの姿が。彼女は呻き声をあげ、異常な状態になっており…。
英語の授業。パク・ヒスはトイレに行きたいと教室を出ていきます。その後、急に血だらけのヒョンジュが倒れて教室内に入ってきて騒然とします。「科学の先生に閉じ込められて…」と息絶え絶えに語るヒョンジュ。とりあえずスヒョクとオンジュはヒョンジュを急いで保健室に連れて行きます。体温が異様に低く、先生はすぐに救急車を呼びます。
ベットに寝かせると、ヒョンジュは「科学の先生が変な注射を。私を殺そうと。みんな殺してやる」と言いつつ、オンジュたちを噛もうと暴れ…。
この日、この学校は変わり果てることに…。
セットだから迫力満点で撮れる
『今、私たちの学校は…』は何よりも映像の迫力が素晴らしかったです。
一般的にこういう学校を舞台にした作品というのは、実際にある学校で撮影されることが多いのですけど、本作はそうではなく、ほぼ完全にセットで撮影されているそうです。だからこそセットゆえに好き放題できるという利点を活かし、ダイナミックな映像が撮りまくっており、とても気持ちがいいですね。
第1話のラストから第2話にかけて展開される食堂での大パニック・シーンからもう完成度が凄い凄い。スプリンクラーが稼働して水浸しになる中で、広い食堂でゾンビと生存者が入り乱れる右往左往の群衆アクションの場面を長回しで撮る。あの映像だけでゾンビ作品として満点ですよ。
そこから教室に一同が避難してからは定番の籠城アクションになり、そこから屋上にどう辿り着くか、どうやって学校から出るか…という知恵を絞ったゲームステージ・クリアのような攻略感が楽しめます。ここでも窓づたいに降りたり、登ったりと、セット撮影の利点が光ってましたね。
個別のアクションはあくまで普通の生徒にすぎないのでアクロバティックな戦闘はできません。それでもなかなかに肉弾戦が多数展開し、本作はかなりアグレッシブ。さすが普段から飛び蹴りが炸裂する韓国作品界隈なだけある。まあ、アーチェリー部のチャン・ハリとかは百発百中なのでもはや「ホークアイ」みたいでスーパーヒーロー化してた部分もあったけど…。
ベスト悪役賞をあげたい
『今、私たちの学校は…』は登場人物もみんな魅力的。全部紹介しきれないので何人か抜粋だけしますが…。
個人的に本作の肝になる良いキャラだったなと思うのは、グィナムです。あそこまで徹底して悪役で振り切ってくれるとは…。確かに序盤からグィナムは倫理的に赦される一線を越えた悪事をイジメの中でやりまくっており、本作は「そんな彼にも裏の同情したくなる背景があって…」なんてことはしない。もう完全なる悪。半ゾンビ化してからのヴィランのオーラは見事なものです。あのしつこさがたまらないですね。2022年の個人的ベスト悪役賞の候補ですよ…(そんな賞はないです)。
一方で表面的には悪役だったけど本心は…という複雑な役どころで存在感を見せたあの“嫌な女子”であるイ・ナヨンも良かった。あの音楽室の備品室にひとりで隠れて後悔という恐怖に孤独に耐え続ける。そこからついに反省しようと勇気を振り絞った瞬間にあのゲス野郎のグィナムの刃が…。悪い奴が良い奴になろうとするのはこのジャンルにおいては死亡フラグ…。こういうナヨンのようなキャラを丁寧に描けるあたりも本作の上手さだったなと思いました。ナヨンを演じた“イ・ユミ”、『イカゲーム』に続いて良い役をもらってるなぁ…。
全体的にシリアスな作品ですが、ユーモアもところどころにあって、笑いを一番に届けてくれるヤン・デスは心の回復薬でしたね。歌が上手いギャップ萌えと、それでいて大声と筋力で窮地を幾度も救い、チャン・ハリへの愛の告白が失敗することで死亡フラグをへし折り…。私はとくに火おこしがゆっくりすぎるっていうギャグが好きです(チョコバーのくだりも笑えたけど)。
他には喫煙不良女子のパク・ミジンも一部の人の心臓を射止めたはず。大会で結果を出せずに追い込まれる3年生のチャン・ハリとのあのベタな恋愛や友情とは違う独特の親密さ、すごく好きな人は大好きなペアリングだと思うし…。
ギスギスしている雰囲気も多かったですけどメイキングを観るとみんな仲良しそうでホっとする…。
アンチ青春として
『今、私たちの学校は…』は韓国作品らしく社会風刺を忘れていません。
パンデミックが起こってそれを封じ込めるというのはもろにコロナ禍の体験に重なりますし(無症状の感染者の出現に慌てるところとかも)、軍隊が制圧する展開はやはり1980年代の軍事独裁政権の弾圧や虐殺を思い出させるものでしょうし…。
ただ、『今、私たちの学校は…』のベースにあるのは学園青春モノ。これがシニカルに効いているのは、恋愛とかそういう青春っぽいことが成立すると、それ自体がこのゾンビ・ジャンルにおいては死亡フラグになるってことですね。だからおのずと青春へのアンチテーゼっぽくなります。
作中では『ブレックファスト・クラブ』的な立場の異なる生徒が本音を吐露して絆を深めるという、焚火のシーンがあり、ひとつの名場面ですが、あそこさえもこの世界では後の悲しい展開のカウントダウンにも思えるような…。
事の発端であるビョンチャンが「小さな暴力を見逃した結果がこの世界だ」と言うように、本作はイジメ問題を足掛かりにこの社会の偽善を暴きます。つまり、青春だなんだと大人は都合よくもてはやすけど、その青春の中で苦しんでいる子どもたちを救ったりはしないじゃないかという…。それは最終話で救出された後のスヒョクの「何で見捨てたんですか?」という子どもから大人への怒りとして純粋に向けられます。
ラストの後味なんかもハリウッド大作にはだせないものだったなと思います。どうしてもアメリカだと“勝った負けた”という戦争ゲーム化しますけど、本作はどことなくアジアっぽい鎮魂の祈りで終わる。最終話の後半は半ゾンビ化した委員長ことナムラが学校で暮らしていて、他の半ゾンビたちをコミュニティとして支えようとしているのがわかります。あそこはアジアらしい死生観が滲み出ている現実味のない場面としてよくできているなと感じました。同時にこれは現在進行形で感染症と戦っている人たちへの応援でもあるのでしょうけど…。
「大人は子どものことなんて何も考えてない」と言われないためにも、「GoToトラベルだ」「マイナポイントだ」と同じことを懲りなく繰り返して息巻いている日本の大人たちも立ち止まって考えてほしいものです。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 83% Audience 78%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
韓国ゾンビ作品の感想記事です。
・『#生きている』
・『新感染半島 ファイナル・ステージ』
作品ポスター・画像 (C)Netflix 今私たちの学校は
以上、『今、私たちの学校は…』の感想でした。
All of Us Are Dead (2022) [Japanese Review] 『今、私たちの学校は…』考察・評価レビュー