削除されます…映画『シェルビー・オークス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2025年12月12日
監督:クリス・スタックマン
しぇるびーおーくす

『シェルビー・オークス』物語 簡単紹介
『シェルビー・オークス』感想(ネタバレなし)
YouTuberから新たな映画監督登場
YouTuberを始めとする動画クリエイターは今やクリエイティブの最前線の勢力となっており、多種多様なコンテンツが凄まじい勢いで生み出されています。あまりに多いので、映画以上に全てを把握するのは不可能に近いですよね。
そんな中、自身の創造のホームタウンであるYouTubeをあえて離れ、逆に映画の世界に乗り込んで新しい挑戦をしようとする人たちもでています。
近年も『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』の“フィリッポウ”兄弟などYouTuber出身で映画監督デビューを果たした人が続々と現れていますが、2024年にまたニュー・フェイスが登場しました。
その人が手がけた映画が本作『シェルビー・オークス』です。
この映画を監督して長編映画監督デビューを果たしたのが“クリス・スタックマン”という人物で、もともと20代の頃からYouTubeで最新映画のレビューを投稿し始めたビデオブロガーだったそうです。本格的な活動は2009年あたりからで、映画だけでなく、ドラマシリーズ、アニメ、ビデオゲームなど幅広いレビューをしていたのだとか。
私も動画ではなくてテキストですけど、似たようなことをしている身として親近感を抱いてしまいますが、“クリス・スタックマン”はもっと人気で多才な人ですから、肩を並べることもできませんけどね。
なにせ“クリス・スタックマン”、自分で映画を作ることに挑戦したのですから。2001年から製作に取り組み始め、クラウドファンディングで139万ドルも集め、あの“マイク・フラナガン”の協力も得て、ようやく完成に至ったのがこの『シェルビー・オークス』です。
ジャンルは王道のスーパーナチュラル・ホラーなのですが、特徴はYouTuberの失踪事件を主題にしていることで、YouTubeクリエイター業界に精通している“クリス・スタックマン”だからこそのリアリティになっています。「餅は餅屋」じゃないですけど、やっぱり本職の人がやれば当然精密さは保証できますね。
物語はその失踪したYouTuberの謎を追いかける姉の視点で展開していきます。
『シェルビー・オークス』で主演するのは、『She Talks to Strangers』の“カミール・サリヴァン”(カミーユ・サリバン)。“クリス・スタックマン”監督は『デストラップ 狼狩り』での“カミール・サリヴァン”の演技に惚れ込んで今回抜擢したそうです。
共演は、『セキュリティ・チェック』の“サラ・ダーン”、『神は銃弾』の“ブレンダン・セクストン3世”、『NOPE/ノープ』の“キース・デイヴィッド”、『ソウ X』の“マイケル・ビーチ”、『The Last Stop in Yuma County』の“ロビン・バートレット”など。
この『シェルビー・オークス』ならそのままYouTube上で配信されていてもそれはそれで臨場感がでそうですが、残酷な表現があるので、きっとアップロードしたら規約違反で削除されるでしょうね(「映画」という枠で扱われるなら別ですけど)。YouTubeの一般動画では見れないショッキングなホラーが観れる…やっぱり映画にはまだまだ意義がありますよ。
『シェルビー・オークス』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 残酷な描写が多いです。 |
『シェルビー・オークス』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
2008年、YouTubeの人気ホラー実況チャンネル「パラノーマル・パラノイド(Paranormal Paranoids)」のメンバーであるライリー・ブレナンが忽然と姿を消しました。ライリーはローラ・タッカー、デビッド・レイノルズ、ピーター・ベイリーと一緒にこのチャンネルを運営していました。
ある日、廃墟となったオハイオ州のシェルビー・オークスに調査に向かったはずでした。ところがライリー以外の他のメンバーは遺体で発見されるという悲劇に終わりました。
2台のカメラのうち1台が回収されたものの、そこに映っていたのは何か怯えるライリーの姿。ある部屋で「怖い…」と恐怖に硬直し、カメラの前でそれ以上の説明もなく佇んでいたライリーは、急な物音に驚き、ゆっくりとドアを開けて暗がりへと進んでいきました。「ミア…」と呟いて…。それからライリーは行方不明です。
メディアも盛んに報道し、他のチャンネルでもそのショッキングさから注目を集めてしきりに話題になりましたが、手がかりは何もありませんでした。
12年後、ライリーの姉ミアはライリーの失踪事件を題材にしたドキュメンタリーのインタビューを受けていました。姉妹は幼い頃は無邪気な普通の子どもでしたが、いつしかライリーは悪夢に苦しむようになっていました。何かの監視されているような感覚に襲われていたようです。
YouTubeチャンネルは気軽に始めたもので、4人で楽しそうにやっていました。超常現象があるような場所ならどこへでも向かい、カメラを回していました。ライリーは霊感のようなものがあるらしく、ときに異変を感じて調査した場で取り乱すこともありました。コメントには演技だろうと辛辣な反応もありました。それでもその動画に超常現象が映ったと騒ぎになることもあり、登録者数は増加していきました。
ミアはそんなライリーを信じており、超常現象をでっちあげるような人間ではないと断言します。
そのライリーたちが最後に調査で向かったのがシェルビー・オークスです。この町は1990年代からゴーストタウンで、廃棄された車や建物があちこちに広がっていました。それゆえに他の人は滅多に近づく場所ではありません。
例の事件は残忍に殺された遺体の発見で発覚しました。しかし、何が死をもたらしたのか全く不明です。警察も打つ手がないようで、すっかり迷宮入りとなっています。
ミアはライリーがまだ生きていると考えていましたが、他の関係者は口々に何も断定できないと言葉を濁します。あの映像の窓には何か影のようなものが映っているようにも見えます。
そんな中、見知らぬ男がミアの家の玄関前にやって来て、「やっと解放してくれた」と言い残し、何の躊躇いもなく拳銃で頭を撃ち抜いて自殺します。
その男は「シェルビー・オークス」と書かれたテープを握りしめていました…。

ここから『シェルビー・オークス』のネタバレありの感想本文です。
YouTubeは宣伝の場ではなく…
『シェルビー・オークス』はその導入部分は、ファウンド・フッテージとモキュメンタリーの手法を組み合わせたものになっています。低予算映画と言えども、この導入のファウンド・フッテージ&モキュメンタリーの作り込みは非常に本物感が高いです。
それもそのはず、あの「パラノーマル・パラノイド(Paranormal Paranoids)」という動画チャンネルは、本当に2021年からYouTube上で実際に公開していたんですね。もちろん映画の宣伝だとは明かさないゲリラマーケティング・キャンペーンの一環だったわけですが、当時は「これは本当に超常現象を映しているのでは?」と反応するコメントもあったとか。
そのため、ほぼ本気で制作された動画コンテンツです。リアルなのは当然です。
それを素材にして本作ではモキュメンタリーとしてさらに「あの動画の真相は?」というかたちで、フィクションにフィクションを重ね掛けしていることになります。
このフェイク・ドキュメンタリーもまるで実際にそんなドキュメンタリーがあるかのように淡々と構成されており、隙がありません。わざわざいろんな人のインタビューを交えていますし、動画の反応にいたってはこれ自体は本当にあったことなので完全な嘘でもありません。巧妙に嘘の中にわずかな事実を混ぜれば、「100%嘘ではないですけど!」と言い張れますし…。
ファウンド・フッテージ形式のホラーは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を始め、いろいろ量産されていますが、『シェルビー・オークス』は本当に製作したYouTubeコンテンツに基づくファウンド・フッテージとモキュメンタリーによって、その実在感がこれ以上ないほどのクオリティでした。
YouTuberとして場数が違う熟練者の“クリス・スタックマン”監督は、YouTubeの特性もよく捉えていたと思います。YouTubeってただの動画配信サービス…というだけではなく、実質は動画を軸にしたコミュニティサイトです。特定の動画やその配信者を中心に、多くのユーザーが集まってなんだかんだとわいわい盛り上がります。動画はそのコミュニティを育てる土壌のようなものです。
本作のゲリラマーケティング・キャンペーンは単に一時的に注目を集めることを狙った宣伝手法ではなく、こうして土壌を用意するもので、そこに根を張った人たちはその動画のコミュニティに溶け込みます。
たぶん似たようなことをマネて宣伝してみようと手を出す他の配給もでてきそうですけど、この製作陣はYouTubeをちゃんとメインとして捉えているからこその本気度のなせる技なんじゃないかな、と。
このYouTubeのコミュニティの構造は視点を変えればそれこそカルトっぽくもあり、それを意識するとこの映画の物語が行きつく結末が悪魔崇拝的なカルトなのも納得です。
何かに夢中になり、その夢中になったもの同士で集い、のめり込んでいく…それ自体の楽しさも描かれると同時に、それが歪んで傾いたときの怖さも無視させない…。
また、本作は“クリス・スタックマン”監督の「エホバの証人」と関わることで疎外の経験をしたという姉妹にも基づいているようで、コミュニティとコミュニティが作用し合い、自分や大切な人がどのコミュニティに属するのか、その静かな駆け引きも浮き彫りにさせているような物語でもあったなと感じます。
後半はもっと刺激がほしい
『シェルビー・オークス』はこのリアルなファウンド・フッテージとモキュメンタリーの合わせ技で映画全編を描き切ってもよかったのに、それはしません。ある程度そのスタイルで始めた後、ミアの前でいきなり自分の頭を撃ちぬく謎の男が現れ、標準的な物語形式へと移行して切り替わります。
そこからオープニングクレジットも流れ、いよいよ映画が本格化するわけですが、このショッキングな掴みはバッチリですね。もうこれをやりたくてしょうがなかったのではないだろうか…。
これこそ生のコンテンツを土台とするYouTubeから、高度に編集された映画へとステージが翻る瞬間であり、一体何が起こるのかとワクワクさせます。
ここからはミアの調査パートになっていくのですが、インキュバスやヘルハウンド、オカルトな儀式、はたまたそもそものあのシェルビー・オークスの謎…。いろいろな情報が示されますけど、要するに『ローズマリーの赤ちゃん』的なオチに行きつきます。
この後半はジャンルの定番が多いので新鮮味は薄いのが惜しいところです。何よりもドラマチックな物語の面で展開を引っ張っていく能力不足を感じます。
例えば、『WEAPONS ウェポンズ』のような近年の作品と比べると雲泥の差だったかなとも。

別にこの後半がいい加減に作られているわけではありません。情報の提示は整理されていますし、わかりにくさもありません。むしろ綺麗にできあがっています。でも綺麗にできていても面白いかどうかは別の話。
調査パート、ノーマの家パート、その後のパート…この3つのバランスはもっと起承転結を味つけ濃いめでハッキリさせてほしかったですし、個人的にはユーモア不足も欠点だったかなと思いました。
このあたりはホラーの好みにもなってしまいますけど、私はホラーとコメディは紙一重だからこそスリルが生まれると思っている人間なので、そのスリルがこの映画には乏しいのは最大の物足りなさでした。シリアス一辺倒すぎるのは逆に怖くない…ということ、あるんじゃないかな。
再撮影でインパクトのあるシーンを追加したらしいので、最初はもっと薄味だったのかもしれませんが…。
『シェルビー・オークス』は“クリス・スタックマン”監督の一発だけの実験作なのか、今後もさまざまな挑戦を映画を媒体にトライしてみるのか、それはわかりませんが、もし何かやるならYouTubeと映画のクロスオーバーをもっと開拓してほしいです。きっと光があたるのを待っている「新たな面白さの可能性」はまだまだ転がっているはずですから。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『シェルビー・オークス』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2024 SHELBY OAKS LLC All Rights Reserved シェルビーオークス
Shelby Oaks (2024) [Japanese Review] 『シェルビー・オークス』考察・評価レビュー
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