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ドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』感想(ネタバレ)…解説や考察が欲しくなる異色すぎる世界観

ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路

解説や考察が欲しくなる異色すぎる世界観…ドラマシリーズ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Lovecraft Country
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2020年にスターチャンネルで放映・配信 ※以降HBO系サービスで配信
製作総指揮:ミシャ・グリーン、J・J・エイブラムス、ジョーダン・ピール ほか
人種差別描写 ゴア描写 性描写

ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路

らぶくらふとかんとりー きょうふのたびじ
ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』あらすじ

1950年代、アメリカは人種差別が充満していた。そんな国で生きるひとりの黒人青年は、行方不明の父親を探すために旅に出ていた。その道中では当然のように陰湿で残酷な人種差別に遭遇することになる。アフリカ系アメリカ人というだけで自由と平等は奪われる。しかし、それだけではなかった。得体の知れない非現実的恐怖が襲ってくる。それはときにおぞましい怪物に姿を変え、魑魅魍魎の世界へと誘う…。

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』感想(ネタバレなし)

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考察を刺激しまくる怪物ドラマの出現

映画やドラマを観るとき、考察を必ずしもしないといけないということはないと私も思います。この感想サイトだって考察に特化したコンテンツにはなっていません。それは私なりの「考察ありきだと疲れるし…」というラフなスタイルの表れでもあるのですが…。

でも考察するのが楽しくなる作品だってあったっていいとも思います。解説を読んで「なるほど!」と理解が進んでいく感覚、もしくはストーリーを観れば観れるほど「そうかこうでああなるのか!」というパズルピースが合わさる快感…こういうものは何物にも代えがたい興奮を与えてくれます。

まあ、要するにバランスです。たまにはコッテリした食べ物を食べたくなるように、たまには考察で脳をフルに活用するくらいのカロリー高い作品を観たくなるのです。

そんな中、ここ最近の考察脳を最大級に刺激してくれた一作がありました。それが本作『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』というドラマシリーズです。

本作、まずどんな作品なのか概要を説明したいところですが、ここからして語りづらい。

ジャンルがとにかく多岐にわたり、横断的に重なっていくのです。ホラー、スリラー、サスペンス、アクション、戦争、SF、ミステリー、ロマンス、社会派ドラマ…もう全部のジャンルを網羅しているんじゃないかなというほど。

ただ、この『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』には作品のキーワードとなる主軸と土台があります。

そのひとつ、主軸になっているのがタイトルにもある「ラヴクラフト」、つまりあの1990年代前半に活躍した著名なアメリカの小説家「ハワード・フィリップス・ラヴクラフト」のこと。異形な化け物が満載の「クトゥルフ神話」でおなじみです。日本でもラヴクラフト関連の映画として最近も『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』が公開されていました。

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』はこの「ラヴクラフト」の要素が登場します。主人公がラヴクラフト作品が好きなSFオタクであり、そして自分の目の前にクトゥルフ的な怪物まで出現。こう語るとモンスターパニックのジャンルに思えますが、そういう側面もありつつ、文学的な嗜好をかなり細かく刺激する仕掛けが盛りだくさんで、単に「クトゥルフ的な怪物を映像化する」だけの作品でもありません。

さらに本作の土台になるのが「人種差別」、アフリカ系アメリカ人への差別の歴史です。本作はジム・クロウ法時代のアメリカを舞台にしており、陰惨な差別の実態がかなり生々しく描かれます。主人公も黒人であり、作中の多くの登場人物がアフリカ系としてこの壮絶な差別的憎悪に直面することに。

その人種差別の恐怖とクトゥルフ的な怪物に襲われる恐怖が巧みに重なり合い、風刺をともない、ある種の啓示ももたらす、そんな多層的な作品になっているのがこの『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』なのです。

各所で絶賛されたドラマ『ウォッチメン』『トワイライト・ゾーン』を混ぜ合わせたような作風といえるかな。

本作の製作総指揮には『ゲット・アウト』『アス Us』で話題沸騰となった“ジョーダン・ピール”が加わっており、まさに“ジョーダン・ピール”っぽいアプローチです。

そして奇抜な本作を企画したのは“ミシャ・グリーン”という若手であり、これはもう今後の映像業界大注目の新鋭になるでしょうね。

同じく製作総指揮には“J・J・エイブラムス”も参加しています。このメンツで『スター・ウォーズ』をなんで作らなかったんだよ、JJさん…。

俳優陣は、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』の“ジョナサン・メジャース”、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の“ジャーニー・スモレット=ベル”、『バース・オブ・ネイション』の“アーンジャニュー・エリス”、『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』の“コートニー・B・ヴァンス”、『獣の棲む家』の“ウンミ・モサク”、『ボクらを見る目』の“マイケル・ケネス・ウィリアムズ”、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の“アビー・リー・カーショウ”、『エンジェル ウォーズ』の“ジェイミー・チャン”など。俳優たちのアンサンブルも最高の魅力です。

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』はジャンルだけでなく、とにかく多方面からのサンプリングで緻密に成り立っている世界観です。文学、人種、歴史、音楽、映画、科学…。語り口はいろいろ。なので非常に考察や解説を求められる類の作品でもあります。観れば「なんだこれは…」となりますし、正直、一般ウケはしないかなとも思うのですが、ぜひ考察脳をフル回転して楽しんでほしいです。

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『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』を観る前のQ&A

Q:『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』はどこで配信されていますか?
A:スターチャンネルで扱われており、2020年後半には「Amazon Video」でも配信されていましたが、2020年12月いっぱいで撤退。その後、2021年に「U-NEXT」がHBO系ドラマシリーズ作品の独占配信に乗り出したので、そこで配信されています。

オススメ度のチェック

ひとり 5.0:ハマる人はハマる
友人 5.0:考察の語り合いが白熱
恋人 4.5:趣味に合うなら
キッズ 3.5:残酷描写が満載です
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):一体何なんだ!?

1928年。そこは戦場。兵士たちが猛火の中を戦っています。その相手は…地球外生命体

ひとりの黒人兵士は円盤から降りてきた赤い肌の女性のような存在と邂逅。抱きしめられ、不思議な感覚でいると、そこに謎の怪物が出現。しかし、それをバットで叩き割る野球選手も登場。その男は、黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソン? それでも復活する怪物。男はバットで迎え撃ち…。

夢から覚める男。アティカス(ティック)・フリーマンは、バスの後部、黒人用の座席に揺られていました。変な夢だった…。

そのとき、バスは煙を上げて停止。外で待ちぼうけをくらうアティカス。直りそうにないので乗客はトラックに移りますが、黒人であるアティカスともうひとりの黒人女性は乗せてくれません。しょうがないのでトボトボ歩くことになり、アティカスは「火星のプリンセス」を読んでいたと道中で女性に説明します。

シカゴに到着。さっそく叔父のジョージのもとへ。本がいっぱいです。叔父はグリーンブックを作っていました(詳細は映画『グリーンブック』を参照)。

「ホラーが好きだったのか」とジョージはアティカスの趣味に言及。ジョージも無類のジャンル本が好きなマニアです。

アティカスには目的がありました。それは行方不明になった父・モントローズを探すこと。「失踪して2週間ほどか」とジョージ。なんでも家族の起源がわかったとかでどこかへ向かったきり。「まだ死んだ女房について調べているのか」とジョージは呆れ顔です。アティカスはそれだけではないと意味深な手紙を読みあげます。そこには「お前には秘密の遺産がある、場所はラヴクラフト・カントリー」と記されています。「ラヴクラフトがセイラムをモデルにして作った町だ、存在しない」とジョージは関心を持ちません。

アティカスは街の隅で偶然にゲイの男性を発見。「モントローズの息子だろう」と話しかけられ、今はいるのかと尋ねましたがいないようです。

一方、レティーシャ(レティ)・ルイスは義母姉妹のルビーとノリノリで歌っていました。聴衆は大盛り上がり。レティは路上でいる昔なじみのアティカスに気づきます。

夜、アティカスは家に戻り、「モンテ・クリスト伯」の初版を手にすると、おもむろに韓国に電話をかけます。しかし、韓国語で話してくる女性の声が「家に着いたのね」と語るのを聞いた瞬間、すぐ切ってしまいました。

翌日、アティカスはジョージとレティとともに父の手掛かりを探しに「アーダム」という場所に向かうことにします。ジョージの妻であるヒッポライタと娘のダイアナに別れを告げ、車で出発。

白人からのからかいを受けつつ、3人旅は続きます。途中、ダイナーへ。しかし、店員が通報しているのにレティはすぐに気づき、みんなで逃げます。間髪入れず車がやってきて全く躊躇なく撃ってきたのです。

必死に逃走する一同の車。そこにシルバーの車が間に入り、すると追っ手の車はシルバーの車にぶつかってもいないのに吹き飛びました。降りてきたのは金髪の白人女性

一同は森の道路で停車していると1台の車が後方に。警官らしき白人男性が近づいてきて身分を名乗るように言ってきます。またも逃げることになりますが、車は追跡して、ぶつかってきます。日が沈む…。逃げ切れた…ホッとしたのもつかの間、検問です。白人グループに捕まり、銃を突きつけながら森へ進まされることに。

絶体絶命。その瞬間、謎の怪物が襲ってきて、車は滅茶苦茶になりましたが、なんとか命からがら逃げだせました。

3人は血まみれになりつつ、歩いてアーダムに到着。その屋敷をノックすると、扉を開き…「ウェルカム、ホーム」と白人男性が出迎えてくれます。

奇妙な物語はまだ序章です。

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怪物より醜悪な差別の歴史

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』は前述したようにとにかく考察というか解説が欲しいですよね。凄い膨大な教養を総動員しないと全容を掴めないですから。残念ながら日本語での解説は乏しいのですが、一番詳細に揃っている映画評論家の町山智浩氏の解説記事のリンクを以下に掲載しておきます。

本作で何よりも重要なのは黒人差別の歴史です。「ジム・クロウ法」なんてものは当然知っている初歩として、その他にも相当な差別の断面が本作には散りばめられています。

例えば、第1話。なんであんなにアティカスたちは逃げ回らないといけないのか。あれは「サンダウン」と言って「日が沈んだら黒人はそこには滞在してはいけない」という町が本当に実在していたんですね。

第3話は黒人が受けた生体実験の話になっており、あれは事実がベース。黒人への非道な医療人体実験を描いた史実モノの『ミス・エバーズ・ボーイズ 黒人看護婦の苦悩』という映画もありましたし、『ハンター・アシュリー』という作品もありました。

第8話はエメット・ティルの一件を知っていないと全然わからないですよね。詳細はWikipediaに丸投げしますが、本当におぞましく吐き気のする最低の事件です…。

ただ、本作は黒人を単に被害者一辺倒で描いているわけでもありません。

例えば、第4話ではアメリカ先住民の要素が登場。そこで「トゥー・スピリット」が現れます。これはインディアンの人たちの中で普通に存在していた男女二元論にあてはまらないジェンダーの人のこと。そんなトゥー・スピリットをモントローズは殺してしまいます。先住民虐殺の歴史をピックアップすると同時に、ここはセクシュアル・マイノリティへの憎悪も混ざった展開になっていました(モントローズはゲイで、それを自分自身も恥じている)。

さらに第6話では韓国のテグを舞台に、朝鮮戦争時の虐殺事件に実はアティカスは関与していたことを描き出します。ここもかなりショッキングな描写です。

本作は被害と加害、そこに生まれる差別や偏見を、とても交差的に描き出す挑戦的一作でした。

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アティカスは”間”で揺れ動く存在

そんな『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』の主人公はアティカス。彼の立場は「間で揺れ動く存在」と表現できるかもしれません。

ラヴクラフトの作品も好きで趣味にしている典型的なオタク。その一方で、そのクリエイターであるラヴクラフトは実は差別主義者だったとも言われています。作中で言及される「ニガーの創造」のように、それはもう露骨に差別的でアウトなものでした。

でもアティカスは黒人だけどラヴクラフトの作品は好き。作者は差別的、作品は大好きなのに…。こういうジレンマは今のオタクもよく抱えている問題ですね。ちょうど宇佐見りんの「推し、燃ゆ」と同類の構造とも言えますし。

また、先ほども言ったようにアティカスは韓国人の殺害に関わった加害者でもあるわけで…。差別の被害者は、別の側面では差別の加害者にもなっている…。こうした複雑性を象徴しています。

彼がラストでは犠牲になって死ぬのですが、それは人間のあらゆる業を背負って処刑されるという意味合いとも受け取れます。

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シーズン1:どのエピソードも強烈

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』が面白いのは毎話でジャンルがガラっと変わること。

第1話「Sundown」はロードムービー…かと思いきやマンハントものに。このエピソード監督が『ベルファスト71』の″ヤン・ドマンジュ”なのが、ナイスな起用です。

第2話「Whitey’s on the Moon」は古典的な屋敷ホラーですね。「サンズ・オブ・アダム(アダムの息子たち)」という謎の秘密結社も登場、以降の物語で暗躍します。

第3話「Holy Ghost」は『死霊館』などのお祓いホラーの定番に。ここに実際の白人たちが行った嫌がらせも加わり、半ば「白人と幽霊の嫌がらせ、どっちが怖い?」みたいな対決になるのもシュール。

第4話「A History of Violence」は『インディ・ジョーンズ』のような冒険モノに。極細一本道を渡るハメになるコテコテのシーンはなんかちょっと笑える…。

第5話「Strange Case」は別人入れ替わりモノ。王道で面白いですし、後に出てくるクリスティーナの脱皮セックスとか、グロテスクとエロティックの狭間で形容しがたい映像センスだった…。

第6話「Meet Me in Daegu」はアジアン・ホラー&戦争史。ジュディ・ガーランドと重ねつつ、ジアが男を誘い込み、顔の穴という穴からニョキニョキ…。そうだった、これクゥトルフだった…と思い出す衝撃の九尾の狐でした。

第7話「I Am.」はまさかのサイエンス・フューチャー。私はこのエピソードが一番好きです。アフロ・フューチャリズムブラック・フェミニズムが織り交ざり、中年女性ヒッポライタのあるべき姿が模索されていく。ちょっと『ソウルフル・ワールド』に似た匂いがあったかな。

第8話「Jig-a-Bobo」はピエロ・ホラー。このエピソードは2番目にお気に入りかも。あの迫りくる赤リボンアフロ双子の存在は『シャイニング』的であり、『IT』のピエロ的でもあるのですが、ミンストレル・ショーの象徴でもあって…。黒人の子どもが抱える心理的恐怖を上手く表現できていたな、と。

第9話「Rewind 1921」はタイムスリップ。ドラマ『ウォッチメン』でも描かれた1921年のタルサの大虐殺の時代に。空爆の炎の中を悠々と歩くレティが良かったです。

そして最後、第10話「Full Circle」はロードムービーに戻るという見事な円環。それにしてもあの主人公チームは「アベンジャーズ」も凌駕する強烈なチームアップじゃないですか。怪物を操れる男に、絶対防御結界を有する女に、時空を超える中年女性に、九尾の狐を宿す女もいるんですよ。旅の最初のやけに楽しそうな車内のシーンがベストショット。みんなこの先に地獄が待っているとわかっているからこそ…。

ジアの描き方については黒人差別と比べたら深みがないですし、「アジア系女=娼婦」的なイメージを引きずっているともとれるのですけど、なんだかんだで死なずに終盤で共闘してくれたし、今後に期待できるので総合的には満足。

シーズン1は漫画「オリシア・ブルー」を書くの趣味なダイアナのまさかの変貌で終わっていました。これはシーズン2も期待しちゃいますよ。

『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 88% Audience 63%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0

作品ポスター・画像 (C)Warner Bros. Television Distribution ラブクラフトカントリー

以上、『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』の感想でした。

Lovecraft Country (2020) [Japanese Review] 『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』考察・評価レビュー