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『ナイト・ハウス』感想(ネタバレ)…彼の家には何もないが何かある

ナイト・ハウス

彼の家には何もないが何かある…映画『ナイト・ハウス』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Night House
製作国:アメリカ・イギリス(2020年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:デヴィッド・ブルックナー

ナイト・ハウス

ないとはうす
ナイト・ハウス

『ナイト・ハウス』あらすじ

長年連れ添った夫の唐突な死はベスにとって大きな喪失感を生むことになった。夫の残した静かな湖畔に建つ家にひとりで佇む虚しさに耐えられず、心は荒れていく。そんな中、自分以外は誰もいないはずの家で妙な気配を感じるようになる。初めは錯覚だと思っていたが、その生々しい気配は日に日に強くなり、それもなぜか夫の死と関係があるかのような雰囲気を漂わす。そして、自分の知らないこの家の真実を目撃することに…。

『ナイト・ハウス』感想(ネタバレなし)

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自分の知らない我が家の秘密

皆さんは自分の家の「間取り図」は見たことがあるでしょうか。さすがに初めてそこに住むとき、一軒家でもアパートでも不動産屋から間取り図は提示されることがほとんどですし、そもそも間取り図を見てこの家に住むかどうかを決めたという人もいるはず。その家の情報を知るうえでは間取り図はとても有用で便利な情報です。「玄関の位置はここで…トイレはここにあって…居間の広さはこれくらいか…」なんて具合に判断するものでしょう。

でも「建築図面」は見たことがありますか? え? 間取り図と同じではないかって? いいえ、間取り図と建築図面は違うものです。間取り図というのは正確ではなく、あくまで資料に使うイメージに過ぎないです。だから実際の家の構造と少し食い違うこともしばしば。なので実際に家や部屋を目で確かめるのが大事なんですね。一方で、建築図面は建築の際に使うものなので正確でないと困ります。しかし、その建築図面は入手しようと思って手続きでもしないとなかなか住人は目にする機会がありません。

そんなこともあって意外と自分の住んでいる家の詳細を知らないという事態もあり得ます。ちょっと不気味ですよね。自分が普段暮らしている最も安心できるはずの空間について把握しきれていないというのは…。

今回紹介する映画もそんな自身の住み慣れたはずの家にまつわる、恐ろしい物語です。それが本作『ナイト・ハウス』

『ナイト・ハウス』はサイコロジカル・ホラーであり、心理的にじわじわと恐怖が広がっていく展開が見ごたえのある作品。主人公は夫を亡くしたばかりの女性。悲しみは大きく、人生にぽっかり空いた穴を埋めることは今はとてもできそうにない。夫は建築関係の仕事をしており、今住んでいる湖畔に建つ家も夫が設計して建てたものでした。その家にひとり取り残されて失望に沈んでいると、何やら異変が…。そんな出だしです。

この『ナイト・ハウス』の恐怖の正体は何なのか。それを言ってしまうと本作最大のお楽しみを消してしまうことになるのでネタバレできませんが、かなり二転三転する揺さぶりをかけてくる巧妙なストーリーなので目が離せません。「こういうことじゃないか?」という観客の予想をいとも容易くひっくり返してきます。『ラストナイト・イン・ソーホー』みたいな…。

監督は『ザ・リチュアル いけにえの儀式』を手がけた“デヴィッド・ブルックナー”というアメリカ人。長編映画のキャリアは浅いのですが、その実力を評価され、カルト映画『ヘル・レイザー』のリメイク企画に監督として抜擢されています。

“デヴィッド・ブルックナー”監督は人間の心理を揺さぶる演出や話運びがとても上手いのですが、この『ナイト・ハウス』でもその才能が十二分に発揮されているのがわかると思います。

主人公の女性を演じるのは、『PASSING 白い黒人』で見事な監督デビューを飾った”レベッカ・ホール”。今作ではほぼ”レベッカ・ホール”のひとり芝居状態ですが、素晴らしい演技を見せています。

他にはドラマ『バリー』の“サラ・ゴールドバーグ”、『ハリエット』の“ヴォンディ・カーティス=ホール”、『アーカイヴ81』の“エヴァン・ヨニグケイト”、『ポップスター』の“ステイシー・マーティン”など。

『ナイト・ハウス』は日本では劇場公開されることなく、「Disney+」で配信されています。1月に同サービスで独占配信が始まったホラー映画『アントラーズ』と同じ扱いなのですが、ただし『ナイト・ハウス』は「Disney+」での配信と同時に他の動画配信サービスでもデジタル購入で動画を視聴できます(見放題になっているのは「Disney+」だけということ)。

購入してデジタル上でも手元に残したいなら他の動画配信サービスが良いかもしれませんが、単純な安さで考えるなら「Disney+」での視聴がオススメです。他にも良質なホラー・スリラー映画が続々配信されると思いますしね。

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『ナイト・ハウス』を観る前のQ&A

Q:『ナイト・ハウス』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年1月26日から配信中です。
Q:怖いのが苦手でも観れる?
A:心理的なスリルが多め。極端な残酷描写はありません。
日本語吹き替え あり
坂本真綾(ベス)/ 佐古真弓(クレア)/ 塾一久(メル)/ 遠藤大智(オーウェン)/ 小林希唯(マデリン)/ 田所陽向(ゲイリー) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり4.0:心理スリラーが好きなら
友人3.5:緊張感のある展開を一緒に
恋人3.5:夫婦サスペンスを共有して
キッズ3.5:暴力描写が一部あり
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『ナイト・ハウス』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ナイト・ハウス』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):何も無かった

湖畔に佇む1軒のモダンな家。ひと気はなく、静かな室内。夫婦の写真が壁に飾ってあり、生活の痕跡があります。そこに「話したくなったらいつでも電話して」と友人女性のクレアに心配されながら食事を受け取る住人の女性。名前はベス

ベスはひとり家に入り、ため息をつき、ひとりっきりの室内でキッチンのゴミ箱にもらった食事を無造作に捨てます。ベスは落ち着かないようにワインを飲み、戸棚からさらにアルコールを引っ張り出し、幸せな夫婦のかつての映像を眺めるのでした。

もう夫はここにはいない…。二度と傍にいてくれない…。

ベッドに寝るベスは隣の誰もいない場所に手を這わせます。するとノックの音。どんどんどん。こんな時間に? ここは人里離れた場所なので普通は人が来ません。確認しに行くも家の周囲には誰もおらず…。

朝。家を出ようとします。そのとき、湖へのゲートが開いているのに気づき、足跡らしきものが湖の方へと、まるで湖から誰かが現れたように続いていました。ベスは小舟に目をやります。その瞬間、銃声が…。

職場の学校へ。教師たちに不安な目で見つめられ、クレアにも「大丈夫なの?」と声をかけられます。机で作業しているとき、「パーチン先生」と呼びかけられ、子どもの保護者が成績のことで相談に来ました。心が荒れているベスは投げやりに対応し、「先週の木曜に夫が頭を撃ち抜いたんです。ボートで湖に行って」と自分の現状を自嘲気味に吐露。さすがに引いてしまったその保護者はお悔やみを述べて帰りました。

帰宅。桟橋から唯一のご近所であるメルが現れます。この家はベスの亡き夫であるオーウェンが建てたものでした。ベスを心配するメル。ベスは「今朝、何か撃ったりした?」と聞きますが、メルは知らないようです。あの銃声は気のせいなのか…。

家で写真を処分していると図面の本を見つけます。夫が残したものなのか。「オーウェンへ Bより」と書いてあり、それをペラペラめくっていくと家の建築図面が描かれていました。「混乱させる模様」「だませ、聞くな」「カエルドロイア」「僕らの家」「反転間取り図」…などと意味の分からない言葉が書き記されており、わけがわからず捨てます。

寝ていると急に音楽が鳴りだし、オーウェンから「下りてきて」とスマホにメッセージがきました。電話をかけてみると通話中になり、「誰なの?」と呟くと「ベス…」と雑音とともに声が聞こえ、「窓の外を見て」と言葉が…。窓から外を見ると、湖の上に全裸のオーウェンが立っていて…。

目覚めるベス。夢なのか。なぜか自分はバスルームで寝ていました。

オーウェンの遺留品を物色していると、彼のスマホに映っていた女性の写真が気になります。自分の姿の隠し撮りに見えます。でも違和感。こんな服は持っていない…。

教師の飲み会に参加したとき、ベスは「幽霊を信じる?」と同僚に聞きます。そして遺書を朗読。

「君が正しかった。何もないんだ。何も君を追ってこない。もう安全だ」

これだけの短い遺書です。あまりにそっけない…。

ベスはクレアにだけ話します。実はベスは17歳のとき、事故で4分間心停止していたのです。そしてそのことをオーウェンには話しました。その4分で得た死後の体験…よく話に聞くような天国とかはない、“何もなかった”ことを。あのときのオーウェンは信じなかった…。

今のベスが感じている気配。これはオーウェンなのか…それとも…。

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ひとりで呪術廻戦

いきなりオチの話。『ナイト・ハウス』は見始めると情報の小出しが上手く、観客は「こういうこと? いや、そういうことか?」と翻弄されます。

最初は謎の自殺を遂げたオーウェンの幽霊が出現しているかのように思わせます。夫の無念の心霊がベスに作用しているのだろうか…と。しかし、話が進んでいくとこの家には秘密があるという疑いが強まり、ますますオーウェンが怪しくなってきます。ドッペルゲンガー説も浮かんでくる中、写真に写っていた女性が自分ではなく別人の女性のもので、これによって不倫の可能性が濃くなります。

ところがさらに物語は発展。どうやらオーウェンは複数の女性を連れ込んでいるようで、そのひとりであるマデリンや目撃者であるメルからは何かの“衝動”があったという話も。これだけだと何かしらのフェティシズムの持ち主だったのかと思えなくもないのですが、森の中の別の家の床下から複数の遺体を発見し、オーウェンは殺人を犯していたことを知ります。つまり、それは“殺人”衝動だったのか…。愛していた夫はサイコパスなのか…。

ここでさらにさらに物語がひっくり返ります。“見えない存在”の気配をかつてないほど間近で感じ、「あなたに会いたい」と複雑な心境をこぼすベス。そこでその“見えない存在”の思わぬ言葉。「私はオーウェンではない」

ここから怒涛の恐怖の連発ですが、結局の真実。ベスはおそらく10代のときの死から生還した経験以降、死へ引きずりこもうとする“見えない存在”(死神的な何かなのかな)に狙われていたのでしょう。オーウェンはそれを把握し、密かに妻を守るためにベスによく似た女性を捧げて“見えない存在”を騙していました。さらに騙すためにわざわざ反転した家を建築。

ここで建築図面に登場する「カエルドロイア(Caerdroia)」というのは、ウェールズ文化に登場する迷路のことで、儀式的なことにも用いられるようです。また、作中で登場する不気味な人形。あれはエジプト文化で古くから見られる呪術人形。相手を意のままに操作する用途があるのだとか。

つまり、オーウェンは自分なりにあれこれと知識を集めて、ひとりで呪術廻戦を繰り広げていたのでした。最終的に騙しきって安全になったと思ったオーウェンでしたが、“見えない存在”はそれを見抜いており…。

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演出が巧みでゾっとする

『ナイト・ハウス』は演出が素晴らしくて、とくに個人的にはあの“見えない存在”の演出が最高です。

最初にノックの音が聞こえてベスが1階で確認する際の場面で、しっかり窓の反射で人影が映っているのですが、他にもあちこちで絶妙にモノを組み合わせて人の輪郭を錯視させるという演出が炸裂。音で驚かせるのではない、錯視でギョッとさせる恐怖演出は新鮮でした。この恐怖感は『透明人間』以上に上手かったと私は思います。

『ナイト・ハウス』の物語自体は『透明人間』にも通じるものがあり、いわば「主人公の女性が精神的に追い詰められて虚実も曖昧なままに錯乱していく」というタイプ。本作の場合は、夫が味方なのか敵なのかという部分にまずは関心が集まります。ストーリーテリングがとても巧みで、しっかり夫の詳細な情報を伏せている(回想シーンもたっぷり入れない)のも観客を惑わせます。

そして『ナイト・ハウス』は男女のジェンダー対立だけでない、もう少し複雑な構造を持っているために解読がさらに必要になってきて、そこも面白いところ。

オーウェンは妻想いかもしれませんが、その手を染めた行為は罪深いです。多くの女性が犠牲になり、人知れずに殺されているという点では歪んだフェミサイドの恐怖を描いているとも言えます。同じ姿の女性を連続で殺めていく動機として、今作は幾重にも真実に辿り着きづらいのが嫌らしいですが…。

一方でベスはゴーストな夫相手でも愛を分かち合うような展開になってしまうのかと思いきや(こうなっていたらちょっと苦笑せざるを得ないけど)、夫婦の間に割って入る、人智を超えた存在のせいで一気に恐怖は迫真のものに。あの正体が夫だとしても気持ち悪いけど、あの存在だったのも怖いですよね…。

全体を振り返ると、『ナイト・ハウス』は大切な人の死という喪失感と向き合うドラマだったともまとめることもできます。最近はこういうメンタルヘルス・ケアを描くうえで丁寧な描写を重ねる作品が増えてきた印象も受けます。本作でもさりげないですが友人であるクレアの存在は重要で、最後も果敢に湖に飛び込んで拳銃自殺直前のベスを救出してくれますし、やはり友人のサポートは大切だということを描いていますし…。

まだあの小舟に“見えない存在”が佇んでいるのがラストでも映し出されたように決着はついていませんし、解決もしていません。ベスが自分のメンタルをケアしていくという本当の戦いはこの映画の終わり以降に起きていくのでしょうね。

『ナイト・ハウス』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 87% Audience 69%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Searchlight Pictures ナイトハウス

以上、『ナイト・ハウス』の感想でした。

The Night House (2021) [Japanese Review] 『ナイト・ハウス』考察・評価レビュー