レズビアン吸血鬼ジャンルは飲みやすくなりました!…ドラマシリーズ『ファースト・キル』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
監督:ヴィクトリア・シュワブ
性描写 恋愛描写
ファースト・キル
ふぁーすときる
『ファースト・キル』あらすじ
『ファースト・キル』感想(ネタバレなし)
レズビアン吸血鬼というジャンルの歴史がやっと…
吸血鬼モノはお好きですか?
2022年も吸血鬼作品は話題です。『モービウス』は映画の興行はあんまりでしたけど「It’s Morbin Time!」がネットミームで大流行りしました。
私のマイ・フェイバリットな吸血鬼作品はたぶん永遠に『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』だと思います。
そんな中、新たな話題沸騰の吸血鬼ドラマが登場しました。それが本作『ファースト・キル』です。
本作『ファースト・キル』はレズビアンの吸血鬼を主題にした学園青春モノのカップリング・ドラマだということが何よりも特筆されます。レズビアンと吸血鬼の組み合わせが珍しいのかなと思う人もいるかもしれませんが、この2者にはとんでもなく根深い因縁があります。
その原点として著名なのが、アイルランド人作家“ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ”が1872年に著した怪奇幻想文学「カーミラ」です。カーミラは女吸血鬼ですが、同時にレズビアンの象徴として解釈されています。当時は女と女の同性愛を堂々と作品で表現できず、ゆえに女の血を飲む女吸血鬼というかたちで暗示する…いわば典型的な「クィア・コーディング」のひとつですね。
以降、レズビアンを示唆する吸血鬼女性モノは映画でも多数作られて様式化しました。
古いもので『女ドラキュラ』(1936年)に始まり、『血とバラ』(1960年)、『バンパイア・ラヴァーズ』(1970年)、『恐怖の吸血美女』(1971年)、『ヴァンピロス・レスボス』(1971年)、『Daughters of Darkness』(1971年)、『鮮血の花嫁』(1972年)、『オカルトポルノ/吸血女地獄』(1973年)、『ドーターズ・オブ・ドラキュラ/吸血淫乱姉妹』(1974年)、『Mary, Mary, Bloody Mary』(1975年)、『ハンガー』(1983年)…。挙げだすと本当に多いです。
ただ、これらをレズビアンの表象だね!と単純に喜べない事情があって…。というのもこれらの作品のほとんどはレズビアンを消費的に利用しているだけで、偏見を助長しかねないものだったからです。欲に溺れて女を襲う女、猟奇的な殺人鬼、不気味な影の存在、病的な異常者…もしくはポルノ的に扱われるか…。明らかにそれはレズビアン当事者にエンパワーメントを与えるものではなく、レズビアン吸血鬼という搾取的なフェティシズムを満たす素材に過ぎませんでした。
一方で「吸血鬼」というジャンル全体で見れば大きな変化が起きます。それまでは怪奇モノというマニアックなジャンルでしたが、もっと身近になり始めたのです。その転換点になったのが、1997年から放送された『バフィー 〜恋する十字架〜』(『吸血鬼キラー 聖少女バフィー』)というドラマシリーズ。これは吸血鬼とその吸血鬼を狩るスレイヤーが主で登場する学園青春ドラマという異色の作品。これが後のカルチャーに多大な影響を与えるほど大ヒットしたのです。
そしてこの吸血鬼の若者大衆化は、2005年の“ステファニー・メイヤー”著のティーン向け小説シリーズ「トワイライト」へと繋がり、その映画シリーズも大人気に。
そういう経緯を踏まえると、2022年にレズビアンの吸血鬼を主題にした学園青春モノのドラマである『ファースト・キル』が登場したのは「ついにこの時が来たか!」という待望であるのがわかると思います。レズビアン吸血鬼がちゃんと当事者でも楽しめるエンタメとしてやっと結実したのです。LGBTQメディア「them.us」では本作のレビューの中でこの歴史的偉業を「レズビアン吸血鬼がサブジャンルとして確立するのに150年かかった」と述べていますが(「カーミラ」が1872年なので偶然ですけど2022年は150年の節目の年になっている)、全くそのとおりだと思います。長かった…。
ちなみに『バフィー 〜恋する十字架〜』は女性同士のキスが当時のテレビ界隈では珍しく明確に描かれ、レズビアン表象としても重要な作品と言及されることが多いです(ただしキスし合うのは吸血鬼ではなく魔女で、あまり良い関係の顛末を迎えない)。なので『ファースト・キル』はその雪辱を晴らしているとも言えますね。
『ファースト・キル』はヴァンパイアとヴァンパイア・ハンターの女子高校生同士が恋に落ちる物語。しかも異人種カップルであり、そこも表象として画期的。作中では同性愛差別的な描写もなく(その代わりヴァンパイアは差別を受けるけど)、ストレスなく楽しめる気軽なエンタメです。「こういうのを見たかった!」という人の期待に間違いなく答えてくれます。中身はよくあるヤングアダルトものらしいガバガバな世界観なので、後はツッコミながら眺めてください。
『ファースト・キル』はNetflixで配信中で、シーズン1は全8話(1話あたり約50分)。
ジャンルに血が通いだした瞬間をぜひその目で!
オススメ度のチェック
ひとり | :待ち望んでいた人に届けたい |
友人 | :関心ある者同士でワイワイと |
恋人 | :同性愛ロマンスは濃密に |
キッズ | :セクシャルな絡みの描写も |
『ファースト・キル』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):誰にでも初めてはある
悪夢で目が覚めると喉の渇きを痛感するジュリエット。自分の部屋から出て、リビングに降りると両親がくつろいでいました。母のマーゴットはこの家を仕切っており、父のセバスチャンは検事です。「誕生日から3週間よ、不安だろうけど始めなきゃ」と母は声をかけます。そのとき、エレガントでセクシーなドレスで自信満々な姉のエリノアが登場。ジュリエットにとってはそんな姉の姿を目の前にすると自分の自信を無くします。
気軽に話せるのは昔からの友人のベンだけ。車で迎えに来てくれて、ノリノリで熱唱する2人はそのまま登校。ベンは人気者です。ジュリエットはそんなベンに話していないことがひとつだけありますが…。
学校のロッカー前で頭痛に襲われ、急いで赤いカプセルを飲むジュリエット。今夜はノアのパーティがあるそうです。するとランチ中にある女性に視線がいきます。ジュリエットはその転校してきたばかりというカリオペ(カル)に好意があるのですが、全然話しかけられないでいました。今までも恋はしてきたけど今回は特別な気がする…。
ボサっと歩いていると、そのカルにぶつかってしまい、持っていた赤いカプセルを落としてしまいます。ぎこちなく会話。「クラシックな名前でいいね、パーティがあるけど」とさりげなく話題にします。カルの反応は…好感触なのか?
授業中でも目線はカルに釘付け。なんとか彼女に話しかけようと追いかけますが消えました。落ちていたアクセサリーを拾おうとすると手に痛み。トイレの鑑の前で自分の口を覗くと牙が…。落ち着くと戻ります。危ない、迂闊だった…。
帰宅。夜、両親に呼ばれ、1人選ぶだけと急かされます。「覚悟はできていない」とジュリエット。母は「あなたのせいで家が危険にさらされるの、安全に暮らせているのはパパのおかげよ、いつか自分自身を制御できなくなる」と忠告します。
パーティへ行くと、カルを発見。ゲームで2人きりになり、ジュリエットは思わずキス。激しく求め合う2人。そして衝動が抑えられなくなったジュリエットは、カルの首にガブリと牙を突き立て…。
ジュリエットはヴァンパイアでした。
一方でそれでは終わりません。唐突に噛まれたカルはジュリエットを杭で刺したのです。あらかじめ予期していたように…。
なぜならカルはモンスターハンターの一族だから…。
カルは気づいていました。カルの両親のジャックとタリア、2人の兄であるアポロとテオ、家族は揃って怪物退治を生業にしています。しかし、カルは未熟者扱いで不満でした。なんとか自分の実力を証明したい…。そんなとき、学校にいるジュリエットは吸血鬼だと勘づきます。これは自分にとって大きなチャンスになるかもしれません。
まさかそれが大恋愛の幕開けになるとは知らず…。
シーズン1:キスすれば何かが落ちる
『ファースト・キル』の原案は“ヴィクトリア・シュワブ”という人で、作家であり、子どもやヤングアダルト向けの作品を多数手がけてきました。そして同性愛者でもあります。
本作もそんな“ヴィクトリア・シュワブ”の作家性のど真ん中を突っ切るスタイルなのでしょう。出し惜しみはありません。「このドラマはレズビアンの関係性がメインですけど、それが何か?」…という堂々たるオーラを感じる出だしです。
メインの主人公となるジュリエットとカル。この2人のカップリングもいい感じ。
ジュリエットは「ロミオとジュリエット」が由来の名前ですが、本作のジュリエットは、なんというか、絶妙に抜けている雰囲気のあるティーンです。地に足のついたありがちな10代であり、あの姉のカリスマ性とは真逆。犬に例えるなら、姉はボルゾイ、ジュリエットは柴犬みたいな…。
ジュリエットを演じた“サラ・キャサリン・フック”は本作では主役として大きなキャリアの足跡となったでしょうけど、ハマっていたのではないでしょうか。
対するカルは最初はジュリエットと違って知性派なのかなと最初は私も思ったのですけど(ギリシャ神話のカリオペの名を冠しているし、フラナリー・オコナーの「賢い血」を読んでいたし…)、案外と蓋を開けてみるとこっちも、あの言っちゃあれですけど、クール見せかけのアホっぽくて、良い意味でジュリエットとどっこいどっこいなバランスというか…。
カルを演じている“イマニ・ルイス”はカッコいいんですけどね。
こんな2人が繰り広げる、ヤるかヤられるかのロマンチック・サスペンス。ドラマ『キリング・イヴ』みたい緊迫の接戦を想像してしまいますけど、実際はすごく10代っぽい初々しい駆け引きでした。これがまた本作の妙な軽さを生み出している源でもあるのでしょうけど。
それぞれの初体験を経験しながら、互いの関係をまどろっこしく深めていくこのイチャイチャっぷりを観客は眺めていくことになります。
本作は演出も妙に安っぽさがあるんですよね。桃がぼたぼた落ちるシーンとかもそうですし、ジュリエットが欲動を感じるたびに画面が赤くなるのも、なんかベタだなっていうね…。
第4話でまたもキスをして、完全にノーストップな関係性へと吹っ切れ、ラストは手を繋いで走り去っていく。これで「めでたしめでたし」でも別に良かったのですけど…。
シーズン1:この地域、もうダメだ
そうは簡単にハッピーエンドにならない『ファースト・キル』。
シーズン1の残り4話は何をするかと思えば、家族とのいざこざです。もうこの両者の家族が面倒くさい奴ばっかりで…。
まずジュリエットの家庭は家母長制で、カルの家庭は家父長制なのですけど、どっちもうざいのなんの…。というかここまで来ると家族総出でアホに見えてくる…。
レガシーという由緒ある吸血鬼を継承するジュリエットの家族は、よくこいつらは長い歴史の間で滅びなかったなと言いたいほどにはまとまりとしては雑です。典型的な裕福な白人家庭のマヌケさと言えばそれまでですけど、賢い統治というほどのものがまるでない。
一方のカルの家族も、武器はやたらと所持しているけど、その統率には疑問符がつくレベルで、終始「大丈夫なのか…」と不安になってくる…。あの父親、威勢はいいけど絶対に強くないよ…。家族だけでなくギルドそのものが頼りなく思えてくるような…。
そんな両者の低次元な争いをずっと見せられるので、観客としては正直飽きてくるのもわかります。もう少し緊迫感ある抗争を見れたらいいんですけどね。双方の家庭が失態続きですから…。
その低レベル「ヴァンパイアvsハンター」戦争の中で、第3者の勢力がそこにさらなるカオスを生み出します。エリノアの双子の兄で家を出てしまっていたオリバーです。彼は魔女と手を組み、この地をモンスター戦争のフィールドへと変えようとしており、町を支配したいらしいです。そんなに大事な町なのか…。
加えて住民や学校関係者も不安視するしかない情けなさなので、たぶんこの地域、ダメです。捨てましょう、ええ。ジュリエットとカルはさっさと家を出て、2人で新天地で愛の生活を送った方がいいですよ。それかみんなでシェアハウスして仲良く暮らしませんか?
そんな感じでツッコミは山ほどあれど、こんなボヤきもしながら鑑賞できる作品が生まれたのは良かったです。カジュアルなレズビアン吸血鬼モノ、万歳!…というとりあえずの感想でいいかな。女と女は殺し合うのではなく、愛し合えるってことです。
あえて苦言があるとすれば、血を吸うことが性行為のメタファーである以上、アロセクシュアルなレズビアンばかりの独占場になってしまうのがちょっと残念かな…。
シーズン1最終話ではエリノアに襲われて瀕死となったテオがジュリエットの力で吸血鬼へと転身。その息子を殺せない母はテオをジュリエットの家へ送ります。そしてカルに嫌われたジュリエットは涙の退散。それを心残りのままに追うカル…。桃の木がここにもあればなんとかなったかもしれない…(無理です)。
今後はシーズン2があるのなら、この際ですしバカ方向に振り切って、レズビアンな狼人間とか、レズビアンな透明人間とか、レズビアンな悪魔とか、レズビアンなフランケンシュタイン怪物とか、いっぱい登場しまくってほしいですね。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 57% Audience 93%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
レズビアンを題材にしたドラマシリーズの感想記事です。
・『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
・『ハーレム』
作品ポスター・画像 (C)Netflix ファーストキル
以上、『ファースト・キル』の感想でした。
First Kill (2022) [Japanese Review] 『ファースト・キル』考察・評価レビュー