それでも手を繋ぐのはやめられない…映画『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:オーストラリア(2022年)
日本公開日:2023年12月22日
監督:ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ
自死・自傷描写 交通事故描写(車) 恋愛
TALK TO ME トーク・トゥ・ミー
とーくとぅみー
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』あらすじ
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』感想(ネタバレなし)
またもYouTuberです
「手を繋ぐ」という行為は世界中でいろいろな意味があるものですが、概ね親密さや恋愛感情などの象徴のようになっています。
日本語で「手を繋ぐ」とネット検索すると、「こういうときに手を繋がれたらどういう意図がある?」とか「どんなタイミングで手を繋ぐべき?」とか、そういう話題ばかりでてきます。みんな、気にしているんですね…。
科学においては、肌と肌の接触によってオキシトシンというホルモンが生成され、精神的苦痛を軽減し、心身の健康に非常に良いことが明らかになってもいます(Cosmopolitan)。
もちろん手を繋ぐ相手も大事です。誰でもいいわけではありません。嫌な相手と無理やり手を繋がされてもストレスでしかないですから。
一方で、手を繋ぐことが支配や束縛に直結することもあります。主従関係にあると手を繋ぐことの意味合いは大きく変わります。
親と小さい子の関係を見るとわかりやすいです。この組み合わせで手を繋ぐのは愛情を示すことにもなりますし、同時に子どもが勝手にどこかに行かないようにコントロールする意図もあるでしょう。
今回紹介するホラー映画も、手を繋ぐ行為が重要になってくるのですが、どういう意味があるのか…考えてみると面白いのではないでしょうか。
それが本作『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』。
本作は、霊を憑依させて遊ぶチャレンジ・ゲームがSNS上でバズっており、それを安易に試したことで若者たちに戦慄の恐怖が巻き起こっていきます。憑依するタイプだと最近も『エクソシスト 信じる者』がありましたが、そういうオールド・クラシックな雰囲気ではなく、完全にZ世代のアプローチで攻めているのが特徴です。
どういう展開に転がっていくのかは事前にネタバレは当然できませんが、「そっちにいっちゃうか~」って感じです。物語にアっと言わせる意外性があるというよりは、題材に対する語り口がやっぱり今っぽいですね。素材はシリアスだけど全体はシリアスになりすぎずにあえて軽く突っ切るという思い切りの良さが観終わった後の私の印象でした。
これも監督の持ち味なのかな。というのも本作『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』を監督するのは、オーストラリアの双子の“ダニー・フィリッポウ”と“マイケル・フィリッポウ”。この2人はYouTubeチャンネル「RackaRacka」で知られる超人気YouTuberで、ネットの潮流には敏感です。いきなりの映画デビューでも抜群の才能を発揮しています。
『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』の“ボー・バーナム”監督や、『残された者 北の極地』の“ジョー・ペナ”監督といい、最近はYouTuberからの映画監督誕生も全然珍しくなくなってきました。
ただ、今回の“ダニー・フィリッポウ”&“マイケル・フィリッポウ”は、なんでも『ババドック~暗闇の魔物~』(2014年)に撮影クルーとして参加していたらしく、映画ノウハウは結構あるのかもですけど。
主演はドラマ『エデン:8つの真実』の“ソフィー・ワイルド”。『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』が長編映画デビュー作ですが、新たな若手として脚光を浴びていきそうな予感。
共演は、ドラマ『レットダウン:ママはつらいよ』の“アレクサンドラ・ジェンセン”、ドラマ『セカンド・チャンス:私たちのアカデミー』の“ジョー・バード”、『パパに教えられたこと』の“オーティス・ダンジ”、ドラマ『ナイン・パーフェクト・ストレンジャー』の”ゾーイ・テラケス”など。ちなみに”ゾーイ・テラケス”はノンバイナリーでトランスマスキュリンです。
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』は『M3GAN ミーガン』と並んで2023年を代表するホラー映画となりましたので、ぜひ。
なお、『死霊のはらわた ライジング』のような憑依エンターテインメントに振り切りつつも、ゾっとさせる心霊系のようで、最終的には胸糞悪い系の後味です。心理的にキツイと感じる人もいるでしょうから、そこは個人の判断で…。
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :恐怖を堪能 |
友人 | :ホラー好き同士で |
恋人 | :後味はキツイけど |
キッズ | :激しい暴力描写あり |
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):やめられない
夜に家で集まってパーティーで盛り上がる大勢の若者たち。ガンガン音楽が鳴り、フラッシュが点滅し、プールでも室内でみんな飲んで騒いでいます。
コールはそんな中を歩き回り、兄のダケットを探していました。部屋に籠っているらしく、突進してドアを壊して中へ。ダケットは様子がおかしく、抱えて部屋を出ます。
しかし、ダケットはコールをいきなり刺し、自分の頭にも包丁を突き立てるのでした。
ところかわって、ミアは母親とのやりとりをイヤホンで聞いていました。母は2年前に亡くなりましたが、今も喪失感は癒えていません。一緒に暮らす父マックスとの関係は気まずい状態で、会話は乏しいです。
ある日、親友のジェイドから弟のライリーを迎えに行ってほしいと頼まれ、車で拾います。帰り道、ノリノリで歌っていると、道路の真ん中に瀕死のカンガルーを発見。交通事故に遭ったようです。ライリーはこれ以上苦しませないように轢き殺すべきではと言いますが、ミアはやらずに通り過ぎます。
家にいても居心地が悪いので、ジェイドとライリーの家でゆっくりしていると、2人の母のスーが帰ってきます。スーは一緒に悲しみを共有してくれる相手です。
次にジェイドとライリーと共にジョスとヘイリーの小さなパーティーに向かいます。ジェイドはボーイフレンドのダニエルと楽しそうにしており、ミアは少し退屈です。
そんなとき、ジョスが最近流行っている憑依チャレンジをやろうと言い出します。これは「手」の置物を使って霊を呼び出せるというゲームです。
むしゃくしゃしているミアは自分がやると言います。椅子に固定され、陶器でできた片手が机に置かれます。蝋燭がセットされ、準備万端。
みんなが見守っている中、ミアはその手を握って「Talk to me」と呟きます。すると目の前に見知らぬ男性が一瞬だけ出現して、驚きます。それが見えてない他のみんなは笑って面白がり、スマホを向けながらもっとやれと囃し立てます。
また手をつなぐと別の人が…。そして憑依させます。
雰囲気が変わって不気味に笑いだすミア。普段とは違う声で暴走し、無理やり手を引きはがすと、我に返ります。「凄かった…」とミアは感想を述べ、場はひとまず熱狂。
後日、親のいないジェイドの家にて、ジョス、ヘイリー、ダニエルも集まって、またあの憑依チャレンジをやってみることにします。
代わる代わる手を繋ぐことで憑依し、この憑依によって奇想天外な体験ができて、すっかり調子に乗っていると、一番年下で未成年のライリーもやってみたいと言い出します。ジェイドは反対するも、ミアは「50秒だけなら…」と許してしまうことに…。
『リング』から続く批評性の最前線
ここから『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』のネタバレありの感想本文です。
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』はビジュアルとしてはかなりチャラチャラしたノリになっている中、実は構成はすごく洗練されていて、ロジカルに楽しめるホラーです。全体的に「手を繋ぐ」という要素を多解釈的に活用するのが上手く、それでいて遠慮のない若者文化批評としても研ぎ澄まされていました。
若者文化批評も兼ねたホラー映画と言えば、最近だと『ボディーズ・ボディーズ・ボディーズ』などがありましたが、その系譜ですね。
本作の「憑依チャレンジ」を面白半分で試す若者たちは、本当にノリだけです。最初にミアが試した際もあれだけ異様なことがあっても止めずにむしろ盛り上がってしまいます。今の若者は憑依されても教会に駆け込んだりはしません。エクソシストも要りません。スマホのカメラを向けるのです。バズるチャンスですから。
あの狂乱っぷりは明らかに薬物使用の比喩になっており、ここで「手」が用いられるのもまさに重なります(覚醒剤を腕に打つのと同じ)。
加えて単に憑依するだけでなく、それが快楽としてSNSを通してバイラル的に拡散していくというのは、メディアを駆使した心霊表現の古典である『リング』からの現代的進化として最前線。ことさらこの『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』はそのネット文化の空気を取り込むのが巧みでした。
メディアを前提にした心霊表現は日本映画においても『ミンナのウタ』『忌怪島 きかいじま』『貞子DX』など近年もいっぱいあるのですけど、こういう『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』などの海外の映画(今回はオーストラリアですが)の良さは有名俳優を全然起用しないことです。どうしても有名な俳優をメインでキャスティングしてしまうと、その俳優イメージに引きずられますし、下手したら俳優ファン向けの方向性も見えてしまいます。それはそれで面白い作品が生まれる余地もあるのですが、もっとフラットにホラーで何かを批評したいと思ったら、やはり知名度の低い俳優がでているほうが目移りしません。
本作を観てあらためて思いましたが、ホラーというジャンルは低俗だといまだに思われがちですが、そんなことはなく、他にはない社会への批評性を発揮できるポテンシャルを持ったジャンルなんですよね。
「Talk to me」と「I let you in」
だからと言って『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』は今の若者たちを小馬鹿にしているわけでもなく、しっかりその心の苦悩に寄り添っています。
本作の主人公であるミアは、どうやら母を自殺で失ったらしく、ミア自身は母がなぜ自死を選んだのかということに悩み、納得もいっていません。もちろん、自殺というのは理路整然とした理由が用意されるものじゃないので(元気そうな人が自死するのも珍しくない)、残された者がそうやって苦しむのはよくあることです。
ここで「手を繋ぐ」という行為がもうひとつの意味、つまりミアの愛情に飢えている心情を反映しているとも解釈でき、ミアががむしゃらに母の霊との対話を求める姿とも一致します。
同時に「Talk to me」という始まりを告げる言葉も意味深いです。言ってみれば、「私に話して」というのはカウンセリングなどのセラピーの導入でもあります。ミアに必要なのはセラピストだったであろうに、霊という危険なものに頼ってしまった…。そこが運の尽きです。
また「I let you in」の言葉で憑依が始まるのですが、このセリフもいろいろ考えることができます。「let だれだれ in ~」という表現は「中に入れる」というそのままの意味だけでなく、「打ち明ける」とかそんな意味でも使います。作中でもミアは苦しさを他人に打ち明けたかったでしょう。
ライリーが酷い目に遭ってから、ミアの錯乱は増すばかりで、行動は読めなくなっていきます。本作はその背後にあるものをあやふやに描いていますが、これは悪霊にそそのかされているように描きつつ、その内実は希死念慮そのものな行動だったのだとも思います。
結局、ミアはライリーを病院から連れ出して道路で轢かせようとする素振りを見せましたが、ジェイドが駆け付けると、結果的にミアだけが車で轢かれます。
ここからさらに虚実曖昧な展開になりますが、傷だらけのミアがふらっと立ち上がり、事故現場を去っていくシーン。もうここでミアはすでに死亡しており、霊体になったとみなせます。病院で退院するライリーを見つめるしかできないミア。
かなりバッドエンドな着地ですが、最後にギリシャっぽい場所で男たちがあの「憑依チャレンジ」をやっていて、ミアが手を繋いで呼び出されるシーンで終わる。この終わり方の切れ味が、この映画の一番の今っぽさかな。センチメンタルにせず、全く終わらない負の連鎖。懲りずにあの「手」は継承されてゲームは続いているようですしね。
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』は「A24」が配給権を獲得し、なんだかんだで「A24」史上で最大級の大ヒットを記録したそうで、もう続編も決定済み。正直、「A24」が興行収入ありきで動いていくのはあんまり嬉しくないのですけど、“ダニー・フィリッポウ”&“マイケル・フィリッポウ”監督はフランチャイズにノリノリだそうなので、また何か面白いことを考えてくれるでしょう。
手を繋ぐときは、同意をちゃんとして…でも霊とは同意があっても手を繋がないほうがいいかもしれません。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 82%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
「A24」配給の映画の感想記事です。
・『その道の向こうに』
・『aftersun アフターサン』
・『Pearl パール』
作品ポスター・画像 (C)2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia トークトゥミー
以上、『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』の感想でした。
Talk to Me (2022) [Japanese Review] 『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』考察・評価レビュー