ちはやふる 結び
映画『ちはやふる 結び』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:ちはやふる 結び  
製作国:日本  
製作年:2018年 
日本公開日:2018年3月17日 
監督:小泉徳宏 

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★

あらすじ

瑞沢高校競技かるた部の1年生・綾瀬千早がクイーン・若宮詩暢と壮絶な戦いを繰り広げた全国大会から2年が経った。3年生になった千早たちは個性派揃いの新入生たちに振り回されながらも、高校生活最後の全国大会に向けて動き出す。一方、藤岡東高校に通う新は全国大会で千早たちと戦うため、かるた部創設に奔走していた。そんな中、瑞沢かるた部ではある出来事が起こる。

ネタバレなし感想

「ちはやふる」が支持される理由

前後編という日本で今流行りの映画製作スタイルは、小説や漫画など原作モノ映画において膨大な原作要素を可能な限り映像化するための苦肉の策ですが、正直あまり上手くいっているとは個人的には思っていませんでした。興収も後編の方が落ちるのは当然として、それ以上にどうしても無理に2部構成にしているような違和感が残るのですよね。

しかし、そんな前後編映画の乱発時代において、この『ちはやふる』シリーズは稀有な成功を遂げたと思います。

2016年の3月に『ちはやふる 上の句』、2016年の4月に『ちはやふる 下の句』が公開されると、高く評価する人が続出。「今の私には“ちは”しか見えない」状態です。

なぜそうなったのだろうと分析してみると、まず『ちはやふる』シリーズを観た人は3つの層に分かれると思うのです。

1つ目は、まさに今が青春真っ盛りで、原作のファンでもあったりする、中高生層。

2つ目は、こういう青春のキラキラを見るのが好きだったりする、大人層。

3つ目は、別に青春映画を好んで見る方ではない、シネフィル的な映画マニア層。

1つ目と2つ目の層の人たちが『ちはやふる』シリーズを褒めるのは容易に理解できます。原作への愛もありますし、キャラ映画として非常に魅力的でしたから。あとはエモーショナルな名場面でもあれば、手を叩いて喜ぶでしょう。

でも3つ目の層、つまり一番“めんどくさい”人たちは説明しづらいですよね。そういう私もどちらかといえばその部類。邦画に氾濫している青春学園モノはエモすぎてドラマもわざとらしいし、ちょっと…という人はいます。そんな人でも『ちはやふる』シリーズを評価した人がいた事実は大きく、かつ異例であり(『桐島、部活やめるってよ』とかがありましたが、あれは例外的かなと)、その理由はきっと個々人で違います(もちろん評価していない人もいますけど、それはそれで良しです)。

なので、あくまで私の個人的評価理由しか語れませんが、やっぱり全体的なクオリティの高さですかね。正直、特別秀でたオリジナリティはないし、王道をストレートで行く作品です。でも、個々のポイントで高パフォーマンスな技を決めていってくれるおかげで、得点が積み重なり、多少のミスもカバーされ、結果、優勝という、つまり羽生結弦選手みたいなものです(わかりにくい例え)。

あとは青春学園モノを映画的に一番ダメにする要因は「恋愛」要素ですかね。男女でイチャイチャグチャグチャしているだけでなんとなく感情論で、はい、エンディング!みたいな作品が多いわけです。どうしてもリアルには描かず、漫画的な「理想」の映像化で終わってしまったり…。

その点、『ちはやふる』シリーズは恋愛要素もあるのですが、それを主題となっている競技かるたでメタ的に描き出すのが良さです。これは歌人の和歌がそもそも恋心を密かに表現したものであるという歴史と重なるという最もな説得力があります。つまり、“壁ドン”なんて漫画的な「理想」表現をあえて作らなくても、日本の古来から恋を表現する方法があるんですよ…ということを教えてくれる作品でした。

そんな『ちはやふる』シリーズは前後編スタイルでは異例の好評により、3作目が作られることに。そして、生まれたのが本作『ちはやふる 結び』

そのクオリティについては語るまでもないのですが、語らないと感想にならないので、「ネタバレあり感想」で。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

リアルとシンクロして成長する俳優

先にも書いたように、“羽生結弦選手”的高パフォーマンス連発型の作品なので、イチイチ良い部分を言及しているとキリがないのですが、「結び」が過去2作と違う良さの部分は、作中でもリアルでも約2年が経過したことで若手の役者陣が一緒に本当に成長している部分ですね。

“広瀬すず”を始めとするそれぞれの若手俳優たちがこの間にいくつも作品を経験し、キャリアアップしたことで、実力と自信をつけているのがよくわかります。そこに今作での“優希美青”や“佐野勇斗”といった新入生枠の初々しさがリアルで合わさって、良い化学反応を生んでいました(二人は撮影初日、本当にガチガチに緊張していたとか)。

個人的には、“國村隼”の印象が一番変わってましたけど。コクソン病にすっかり罹った私は「ちはやふる」世界でも奇声をあげて祈祷合戦を繰り広げるんじゃないかとヒヤヒヤでしたよ…。
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欠点さえも克服する映画の成長

ただ、本作の一番感心した部分は、前2作で「これはちょっとな…」と思った惜しいところをしっかり改善している点です。
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例えば、音楽の過剰演出。前2作はガンガンとなるBGMが耳障りに感じるときもあったのですけど、今作は抑え目。それどころか音楽をぶったぎって止めるBGMギャグを入れてきたりして、ちょっと音楽を弄ぶ余裕すらあるのがまたいいですね。

他にも、それ以外の無理やりな環境演出は極力抑えられ、逆にアニメーションといった日本らしい、そして題材となる百人一首に関係のある演出や伏線が増えたことで、変な違和感はなくなりました。まあ、かるたプロたちの強さの少年漫画的インフレ具合は正直ついていけないぞとは思いましたが、でも、綾瀬千早視点でかるたの世界が見えるシーン(“スーパーマン”モードと勝手に命名)はテンション上がりますね。

さらに、メンター役の変化。前2作での原田先生は個人的にあまりにも聖人然としすぎていて、格言を言うくだりもわざとらしいかなと思ったのですが、今作では周防久志という新キャラに冒頭で負けたくだりから示すかのように、メンター役に周防久志が追加。このキャラがまた青春に対して影のある人物で、これが青春映画でありながら青春を美化しすぎない良いバランスになっていました。

あとは、「競技かるた」は団体戦といっても個人どうしの勝敗の足し算の比較で決まるという現実に対して、精神論や根性論ではなく、戦術を見せてくれたのも嬉しいポイント。

こんな風に改善を如実に感じると、なんか自分の教え子の成長を見るようで気分に勝手になり、喜び倍増です。ここまでのハイクオリティな青春学園映画が日本で作れるのかと驚きました。

ちはやふる 結び

ラストのオチに欲しい要素

ここまで絶賛しておいてなんですが、しかし、唯一気に入らない部分があるとしたら、エンディングのオチですね。

思いっきりラストのオチを書いちゃいますけど、最後はクイーンになって成長した姿の綾瀬千早が、大会で母校のかるた部の生徒たちに指導をしている場面で終わります。

個人的にはこれだと普通すぎると思って、せっかくここまでのテンション上がっていたものが落ち着いてしまって…。クイーンになること、後輩の指導役になること。どちらも予定調和が目立つよねと。そういう人たちは作中で散々映っていたわけですから余計に。それに劇中ではかるたの迫力に大方の生徒たちはドン引きしていたのだから、それがあっさり集まっているのもね。

私としては、本作にもあった進路の紙に「クイーン」を書いて先生から呆れられる綾瀬千早を見たとき、その夢を突き通すことで誰も切り開いていない道を見せてほしいなと思ってました。真島太一が学歴社会、綿谷新が地方社会という、日本が若者に課している闇を背負っているなかで、綾瀬千早はそれとは違う、「この子はどこまで成長するんだ」と観客にさえも想像していない未来を提示してほしいですよね。

妄想エンディング

ここからは完全に妄想です。

大勢がガヤガヤと集まる広い和室。そこでは“かるた”の説明が行われている。講師として登場した女性は、かつての同級生の友達から教わった“かるた”の歴史を語っていく。“かるた”のおかげで私も恋を学びましたと冗談を交えながら。そして、チームプレイというスポーツとしての楽しさも口にする。それを熱心に聞く若者たち。中高生だろうか、でも、肌や目の色はみんな違う。そして、さっそく“かるた”をやってみましょうと、みんなに言う。姿勢を整え、初めて触れる文化に興奮する人たち。「静かに、音を聴くことが大事です」と語るとシーンと静まり返る。いよいよ最初の歌の一文字を言おうとするその女性の口元から音が発せられる瞬間、エンドロール。

こんなオチだったらなぁ…(繰り返しますがただの妄想です)。

やっぱり、かるたを次世代につなげるなら世界を広げるべきじゃないでしょうか。それこそ古来の百人一首が社会の上流にいる富裕層の遊びであり、それが今や子どもでも楽しめる一般的な遊びになったのですから。今度は多種多様な国の人たちに伝えてこそ、本当のステップアップでしょう。単に「結ぶ」だけでなく「広げる」こともしてほしい。これは日本人が一番苦手なことですけどね。

そういう意味でも本作シリーズは世界でぜひ公開してほしいものです。こんなに日本文化が詰まった日本らしい映画もないですよ。『KUBO クボ 二本の弦の秘密』のような海外の作った日本文化を描いた作品に負けてられません。
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これを日本のエンタメ青春学園映画の究極・完成形とはせず、新しい時代の始まりの起点となる一作として、まだ見ぬ未来へ羽ばたいていくといいなと思います。

↑『ちはやふる 上の句』。全てはここから始まった。

(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社