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『ホット・サマー・ナイツ』感想(ネタバレ)…もしも波動拳が使えたら

ホット・サマー・ナイツ

もしも波動拳が使えたら…映画『HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ』(ホットサマーナイツ)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Hot Summer Nights
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2019年8月16日
監督:イライジャ・バイナム

ホット・サマー・ナイツ

ほっとさまーないつ
ホット・サマー・ナイツ

『ホット・サマー・ナイツ』あらすじ

1991年、最愛の父を亡くしたショックから立ち直ることができないダニエル・ミドルトンは、夏を叔母の家で過ごすため、美しい海辺の小さな町ケープコッドにやって来る。周囲の人たちとなじむことができないダニエルは、複雑な家庭の事情を抱え、地元ではワルで有名なハンター・ストロベリーとつるむようになる。それが人生に与える刺激は良いものなのか、それとも…。

『ホット・サマー・ナイツ』感想(ネタバレなし)

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アメリカ的「夏休み」事情

夏休みシーズンです。映画館は子どもやティーンでいっぱいで、閑散期とは打って変わっての大賑わいで、“よしよし、もっと映画を観ろ観ろ”と私は心の中で思いながら過ごしています。

日本では夏休みは基本、未成年&大学生にしかないものなのですが(なんでなんだ)、学校がずっと続く中で“好きに遊びまくれ”と許されるこの一定の時期はとても大切なイベントだったなと、今でも自分の思い出を振り返ってもそう思います。たぶんどこの国でもこういうバケーションは大事ですよね。

しかし、日本とアメリカでは同じ夏休みでも、それが抱える背景が少し異なっています。日本ではただの長期的な休みですが、アメリカの場合、新生活の切り替えタイミングでもあります。つまり、日本でいうところの春休みに近い特性をアメリカの夏休みは持っているんですね。

例えば、日本だと、高校を卒業するのが3月、大学に入学するのが4月。この1か月程度が春休みとなり、しばしの空き時間が発生します。引っ越しの準備やら、仲間との最後の思い出作りをするやら、何だか慌ただしくも過ぎ去っていく感じです。一方で、アメリカだと、高校の卒業が6月初め、大学の入学が遅くとも9月初めなので、最長で約3か月の空き時間が発生し、これが夏休みに該当します。長いです。当然、余裕もあるため、暇な人は暇です。日本以上にやれることの幅が広がります。長期旅行に出かけるとか、全く別の場所で暮らしてみるとか…。

この高校から大学への束の間のチェンジ期間に佇む青年たちを描く映画というのも結構あります。最近だと『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』なんかはまさにそれでした。

一生に1回しかない独特な時期ということもあり、アンビバレントな心の揺らぎを描くにはもってこいの題材なのです。

前置きが長くなりましたが、そんなシチュエーションにあるひとりの青少年のスリリングな危ういひと夏を描くのが本作『HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ』です。

主人公は高校卒業後、大学進学までの間、叔母のいるマサチューセッツ州のケープコッドで気分転換的に暮らすことになります。そこで恋もしていくし、やや危険な体験をもしていく、一種の青春スリラー映画ともいえますね。

ただ、近年は1980年代を舞台にした青春スリラー映画が多い印象でしたが(『サマー・オブ・84』など)、『HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ』は1990年代の設定です。これが大きな要素のひとつ。

また、もうひとつの忘れてはいけない要素が、先ほどから言っているように高校から大学へ移ろいの間だけいる夏休みですので、舞台となるケープコッドのリゾート地は主人公にとっての地元ではありません。当然、地元愛なんて欠片もないです。だから、すごく冷めた刹那な付き合いであり、これが物語に深く絡んできます。

監督は“イライジャ・バイナム”という新人で、本作が映画監督デビュー作で、しかも本作以前には映像関係の仕事のキャリアは全然ないという、本当の新参者。そんな彼の才能を見いだしたのが、映画ファンならご存知「A24」という映画会社。相変わらず人材発掘に精を出しています。

「A24」ならば名作というセオリーができあがりつつあって、日本の配給も「A24」を当たり前のように宣伝材料に使っています。しかし、『HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ』は「A24」作品のわりには、興行的にも批評的にもあんまり芳しくない結果に終わったみたいですが…。脚本自体はブラックリストに入っていたくらい、評価は高かったのですけどね。

主演は、今まさに絶好調の美青年俳優といえばこの人、“ティモシー・シャラメ”です。『君の名前で僕を呼んで』『レディ・バード』『ビューティフル・ボーイ』とその存在感を増していっていますが、『HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ』はそれ以前に撮った作品らしく、“ティモシー・シャラメ”の注目度もそこまでではなかったもの。若干の初々しさは残っている感じもします。

いろいろな切り口で観られる映画だと思うので、それぞれのお好みの視点で鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(俳優好きは観る価値あり)
友人 ◯(映画ファン同士で)
恋人 ◯(恋愛要素もあるにはある)
キッズ △(犯罪シーンあり)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ホット・サマー・ナイツ』感想(ネタバレあり)

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ホットで、ハイな、サマー

1991年の6月。世界では湾岸戦争が勃発したりと、大きな激震で始まった年でしたが、この「ダニエル・ミドルトン」という青年にも激震が襲っていました。ダニエルの最愛の父が亡くなり、その喪失感をどう受けとめるべきかもわからずに、ただ自分の部屋で時間を潰すことしかできない自分。高校を卒業し、大学という新しい生活を控えているはずの彼ですが、そんな高揚感などまるでありません。

活力を失っているダニエルを見かねてか、母は叔母のいるマサチューセッツ州の東端にある海辺のケープコッドへ息子を連れていかせます。環境が変われば何か心にも良い変化があるはず。そう信じて。

若者が集まるパーティに参加してみるダニエルですが、当然、よそ者であるダニエルがそんな簡単に馴染めるわけもなく、ひとりで浮いていると、その会場に赤いスポーツカーで颯爽と現れる、ひとりの男が。この男は「ハンター・ストロベリー」という名らしく、地元では有名なワルのようです。いろいろな人に話を聞けば、みんなが口々に「人を殺した」と噂するハンターの伝説。

ある日、ダニエルは偶然にもこのハンターが普段からしているマリファナ商売に些細なかたちで手を貸してしまったことをきっかけに、ハンターに招待されてマリファナを吸う機会を得ます。未知の体験に放心状態になるダニエル。バタン、キューで、「Oh my god」です(バタンキューは死語だったかな)。

ここでタイトルの挿入。なかなかに唐突な演出でびっくり。

そんな出会いで始まったダニエルとハンターの関係ですが、ハンターは噂に聞いていたとおり、人殺しをするかは不明ですけど、かなりの攻撃性を抱えた男で、ダニエルの目の前で相手をボコボコにして血まみれにするくらいは普通にやってのけます。血しぶきを浴びながら、茫然とするダニエル。
一方、ダニエルには「マッケイラ」という気になる女性も登場。ダニエルが口に咥えて舐めている棒付き飴を、一時“ちょうだい”して自分も舐めて返すという、ちょっとなかなかマネできない荒業でダニエルにストレートパンチをかまし、ここでは彼の心がバタン、キュー

しかし、この地元のマドンナ的存在であるマッケイラ、実はハンターの妹であり、兄妹の仲はある理由で悪いようです。マッケイラに近づくなと言われるも、やめるつもりもなく、マッケイラというドラッグのような中毒性にハマっていくダニエル。

さらにハンターとのドラッグ・ビジネスもどんどん拡大させていき、危険も承知で荒稼ぎをしていきます。まさに人生がハイになっていくなか、それはいつまでも続きませんでした。

ちなみにドラッグを売りまくるダニエルを演じる“ティモシー・シャラメ”は、主演作の『ビューティフル・ボーイ』で薬物依存症に苦しむ青年を演じていましたから、正反対ですね。どっちも絵としてさまになる俳優です。

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スト2の全盛期

『HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ』の舞台となるのは「ケープコッド」です。マサチューセッツ州東端にある、まるでアッパーをかます腕みたいな形をしている半島ですね。

本作はこのケープコッドの要素が随所にあるので、一種のローカル映画としても楽しめます。

海に面していますから、当然、漁業が盛んで、昔は捕鯨の基地もありました。ちなみに捕鯨をテーマにした映画『白鯨との闘い』で始まりの舞台となる「ナンタケット」はケープコッドの少し南に位置しています。

しかし、やっぱり今のケープコッドといえば、リゾート観光で栄えている街です。夏には観光客や別荘所有者が大挙して押し寄せ、広い砂浜でのんびり海水浴をしたり、はたまたロブスターなど海産物を食べまくったり、さらにはホエールウォッチングをしたり、好き放題に過ごしています。羽振りのいい裕福な観光客と、そうではない平凡な暮らしをする地元住人が同居する場所なんですね。

なので、たぶんですけど、ダニエルみたいな見慣れない青年がフラッと現れても、地元民にしてみれば、まあ、よくあることなので、とくに違和感も目立ったりはしないのでしょう。最初から瞬間的な付き合いをするにはもってこいの土地柄。つくづく日本ではあり得ない環境だなと思うしだいです(日本には数か月単位のバカンスという概念がないですからね)。

そして、1990年代らしさも作中ではいたるところに散在しています。

当時を象徴するようなファッションセンスもそうですし、マニアックなところだとゲームセンターにある「ストリートファイター2」とかも、そうでした。「スト2」も当時から大人気でしたからね。1994年には『STREET FIGHTER』として映画にもなりました(黒歴史)。

またドライビングシアターで上映されている映画も時代感が出ていました。『ターミネーター2』とか、そういえば1991年でしたね。

ちなみに当時はドライビングシアターは勢いもすっかり下火になっているはずですけど、やっぱり観光地だから、ある程度存続できるのでしょうかね。日本にはドライビングシアター文化が全然根付かないまま終わったので、なんかこういうメモリアルな映画体験があるのは羨ましいものです。まあ、でも映画を観ているのかな。たいてい映画内でドライビングシアターが出てくると、映画鑑賞以外のことをしているのですけど。

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ハリケーン・ダニエル

『HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ』は“イライジャ・バイナム”監督が地元の大学に在学中に出会った二人の若者にインスパイアされて生まれた物語だそうで、一応、実話風に語られています。
この映画を観る前はベタな青春映画として、ひと夏の経験をいろいろ重ねていくのかなと思ったのですが、観終わってみると、案外、冷静になればなるほど残酷な作品でした。

本作はダニエル目線で描かれていきますが、実はハンター目線で描くこともじゅうぶんできた物語です。ハンターにも主人公としての素質があります。演じている“アレックス・ロウ”も魅惑的な俳優でした。

そしてハンター側でストーリーを回想すれば、とんでもなく酷い話です。だって、よそからやってきたよくわからない青年にそそのかされるように危険な沼にズブズブとハマっていき、自分で引き返そうとすると、呼び止められ、そのまま取り返しのつかない一線を越えてしまい、命を落とすのですから。しかも、当の危険を招いた張本人である青年は、地元ではないので、周囲を気にもせずに自分勝手に行動し、最後は何事もなく関係性すらも忘れて立ち去っていくのみ。

本作はハリケーン接近を知らせるニュースがたびたび流れ、不吉な空気に包まれていきます。これは実際にこの地で1991年にハリケーンが来襲したことに由来しているのですが(『パーフェクト ストーム』というディザスター映画にもなっています)、ただの演出では終わりません。考えようによっては、ダニエルの存在自体がハリケーンみたいなものだったとも解釈できます。

ハンターを含む地元に甚大な傷跡を残し、過ぎ去っていったハリケーン・ダニエル。あとに残ったのは真偽不明な噂のみ。

相変わらずといいますか、アメリカ映画では単純なノスタルジーにおさまらず、青春の加害性みたいなものを必ずといっていいほどに描きますね。

あなたの人生の若かりし頃にもハリケーンみたいな神出鬼没な無自覚な破壊をもたらす人間はいたでしょうか、それともそれはあなた自身だったでしょうか。

『ホット・サマー・ナイツ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 43% Audience 56%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.

以上、『ホット・サマー・ナイツ』の感想でした。

Hot Summer Nights (2017) [Japanese Review] 『ホット・サマー・ナイツ』考察・評価レビュー