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『サマーフィルムにのって』感想(ネタバレ)…キラキラ恋愛よりも映画愛が好き

サマーフィルムにのって

キラキラ恋愛よりも映画愛が好き…映画『サマーフィルムにのって』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:サマーフィルムにのって
製作国:日本(2020年)
日本公開日:2021年8月6日
監督:松本壮史
恋愛描写

サマーフィルムにのって

さまーふぃるむにのって
サマーフィルムにのって

『サマーフィルムにのって』あらすじ

高校3年生のハダシはとにかく時代劇映画が大好きだが、所属する映画部で作るのはキラキラとした青春恋愛映画ばかり。自分の撮りたい時代劇を作る機会もなかった。そんな不完全燃焼のハダシの前に、武士役にぴったりの理想的な男子、凛太郎が現れる。その出会いに運命を感じたハダシは、幼なじみのビート板とブルーハワイを巻き込み、個性豊かなスタッフを集めて渾身の一本となるような映画制作に乗り出す。

『サマーフィルムにのって』感想(ネタバレなし)

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映画オタクには女子もいる

私は自分の通っていた学校に「映画部」なんてものはなかった(と自分では記憶しているのだけど)のですが、もし映画部があっても入部することはなかったかもしれません。まだ小中高の子ども時代はそこまで映画にドハマりしていたわけではないですし、ふわっとしか映画に触れていなかったからです。まあ、当時はジェンダーやセクシュアリティにも悩んでいたので、部活みたいな共同コミュニティがどうも性に合わなかったのもあるけど…。

なので一般的に映画部というのが何をしている部活なのか私にはさっぱり実感としてわかりません。映画を観て語り合っているの? 映画を撮っているの? …実際この2つは全く違う行為だと思いますし、どうなんでしょうか。

でも今の時代は生徒レベルで映画を撮るハードルは格段に下がったのだろうなとは思います。なにせ映画を撮るのに最も欠かせないカメラは今では学生でも誰でも持っているスマホで事足りますからね。今のスマホの撮影性能は本当に高くて、「こんな高性能、何に使うの?」というほどのオーバースペックなのですが、加えて最近は映像編集までスマホでできたりするし…。さらにその完成した映像作品をインターネットを使えば世界に発表できてしまう。作るのは簡単になったので、後は作り方をどう学ぶかですかね。このあたりは業界の教育体制の問題もあり、日本なんかはまだまだ作り方を学びづらいと思いますが…。

そんな2020年代の今の日本の映画部の素顔を撮った…のかもしれない映画が今回紹介する作品。それが本作『サマーフィルムにのって』です。

映画部を描いた日本の青春映画と言えば、映画ファンの間で大きな話題となった“吉田大八”監督の『桐島、部活やめるってよ』なんかがありましたが、この『サマーフィルムにのって』はその日本の学校という閉じた世界でオタク熱を溜め込んでいる映画部のボンクラを描く最新版。

『サマーフィルムにのって』ならではの新鮮なところとしては、『桐島、部活やめるってよ』はかなり男性オタクの男性的願望が投影されていたのですが、今作『サマーフィルムにのって』は映画オタクは映画オタクでも女子が主役になっており、女子でも映画オタクなんですよというすごく当たり前の事実を素直に描いています。

物語は、恋愛映画を撮っている映画部の中にひとりポツンと鬱屈を抱えている女子高生が主人公。この主人公は実は時代劇映画オタクであり、本音では自分も時代劇映画を撮りたいと思っていますが、そんな機会はあるわけもない…。ところがある出会いをきっかけに、友人も合わせて女子3人で念願の時代劇映画制作をしようと敢行。そのへんにいる暇そうにしている男子をかき集めて映画を撮り始める…というストーリーです。

前述したようにとても女子主導で物語が展開し、男子たちは脇にいてズカズカと前に出てくることもない、女というステレオタイプで消費されるわけでもない(“オタサーの姫”とかそういうのではない)…こういうタイプの実写のオタク題材作品は日本ではかなり珍しいのじゃないかなと思います。ましてや時代劇なんてものすごく男のコンテンツとされてきたものですし…。

『サマーフィルムにのって』の監督は、CMやMVなどの映像を手がけてきた“松本壮史”。2021年はECサイト「北欧、暮らしの道具店」で2018年4月より配信された短編ドラマ『青葉家のテーブル』を長編映画化した作品も劇場公開しました。本格的に長編映画として脚光を浴びた『サマーフィルムにのって』が公開から日本映画ファンの間で話題となったので、これを機に注目の監督になるのかな。

『サマーフィルムにのって』は俳優陣の演技もとても良いです。

主人公を演じるのは、2011年から「乃木坂46」一期生メンバーとして活動していて今は俳優業を主にしている“伊藤万理華”。私はアイドルに全然興味がないので知らなかったのですけど、俳優として素晴らしい逸材だと本作で納得。“伊藤万理華”あってこその映画になっています。

他には、『佐々木、イン、マイマイン』『由宇子の天秤』の“河合優実”、『Dressing Up』『ファンファーレが鳴り響く』の“祷キララ”、『ナラタージュ』『殺さない彼と死なない彼女』の“金子大地”、『アンダードッグ』『ライアー×ライアー』の“板橋駿谷”、『台風家族』の“甲田まひる”など。

『サマーフィルムにのって』は単なる青春映画というだけではない、そこにSF要素も入ったりと、なかなかに縦横無尽にジャンルを抱きかかえる作品なのですが、青春を斬りながらも青春にのめり込むティーンのもどかしさを爽やかに撮ったラストの清々しさ含めて、2021年の顔になった良作青春映画ではないでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:青春映画好きなら
友人4.0:映画愛溢れる者同士で
恋人3.5:異性愛ロマンスあり
キッズ3.5:映画を作りたいなら
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『サマーフィルムにのって』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『サマーフィルムにのって』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):あなただから撮りたい!

「大好きだー!」と男子高生がひたすらに叫び、女子高生は難聴にでもなったのかその言葉が聞こえないと繰り返す。そのやりとりがずっと続く映画の一場面。

『大好きってしかいえねーじゃん』はこの学校の映画部が現在制作中の作品。取り仕切る花鈴は青春恋愛映画が大好きで、この作品もそんな彼女の想いが詰まっています。他の部員もそんな甘酸っぱい映像のハイカロリーな盛り合わせにキュンキュンしている中、後ろの方でひとりだけ不服そうな顔で座っている女子がひとり…。

その女子は教室を出ると、窓から見える屋上で天体望遠鏡を持っている別の女子に「ハダシ!」と呼びかけられます。その子はこっちまでやってきてハダシも「ビート板!」と返事。ビート版は「あそこ、いく?」と持ちかけ、ハダシもノリノリです。

2人がやってきたのは高架橋の下の秘密の場所。そこで映画を観るのが密かな楽しみでした。観るのはいつもハダシの心から愛する時代劇映画

するとブルーハワイと呼ばれる女子が道着のままでやってきます。そして『座頭市』を3人で鑑賞。ハダシは「勝新って色気がハンパないんだよね~」とうっとりです。ビート版は「時をかける少女」の小説を読んでおり、どうやらSFにはハダシは詳しくはない様子。

今映画部で撮っている作品の話題になり、ハダシは「セリフで好きしか言ってないんだよ」と不満たらたら。ハダシも『武士の青春』という脚本を考えているようですが、実現の見通しは無し。外でハダシとブルーハワイは傘で剣劇ごっこをして時間を過ごします。

ひととおり遊んで別れる3人。ところがハダシは異変に気づきます。ふと目の前にいる男子生徒3人が時間停止しているような…。気のせいかと思って枝を振り回すと後ろに男子がいてびっくり。「うわっ」と後ろに倒れますが、あらためて見渡すと誰もいません。

翌日、学校で3人で談笑。「撮ればいいのに」「私、殺陣指導やるよ」と友人は言ってくれますが、イマイチな反応のハダシ。「主役がこいつだって人が見つからないんだよね」とボヤき、変わっていく景色を見つめる悲し気な視線の男性を求めているのだとか。

気分転換に名画座を訪れてウキウキと席に座っていると、挙動不審な若い男を見かけます。上映終了後、余韻に浸っていると、先ほどのあの男が涙ぐみながら立っており、ふと男が振り返って顔を見た瞬間、ハダシはピンときました。自分の映画の主演にピッタリだと。

しかし、なぜかその男も「ハダシ監督…」とこちらを驚愕の顔で見つめて、一目散に駆けだします。必死に追うハダシ。男は川にまで飛び込むも、ハダシも飛び込み、「あたしの映画に出てください」と猛アピール。

秘密基地で体を拭きつつ、映画の概要を説明。男、凛太郎「でませんよ」と拒否するも、ハダシは「でます!これ決定事項」と強引。なぜか凛太郎はあちこちにある映画の品々に興奮しており、おそらく同じく時代劇映画好きなのがわかります。

「俺はでないけど、絶対に撮った方がいいと思います」と凛太郎は発言し、「あなたじゃないと撮りませんから」とハダシも抵抗。

ついに映画制作の最大の懸案事項だった主役の不在が解消され、ハダシのやる気は爆発。「文化祭でゲリラで流す。映画部はリア充の場所じゃない!」と息巻いて、撮影に必要なスタッフを独自にかき集めます。

自分の撮りたかった映画は撮れるのか…。

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3人の女子オタクだからできる空気感

『サマーフィルムにのって』の見どころ“その1”として、生徒たちの映画制作のドタバタがとてもテンポよく描かれていて気持ちがいいです。

まず“伊藤万理華”演じるハダシというキャラクターが良くて、あの何とも言えないオタクっぽい言動がいいですね。無我夢中で時代劇のポーズをするところとか、映画撮影が上手くいかずにふてくされている表情とか、すごくリアルなオタク感がある。決して女子だからといって愛嬌ありきでデフォルメされることもない。“伊藤万理華”のあの演技のさじ加減が良くて、私は“伊藤万理華”のことをよく知らないですが、たぶん“伊藤万理華”も何かしらの根っからのオタクなんだろうな…と。

そのハダシの周囲にいる友人のビート版とブルーハワイもこれまた良い感じのオタクで…。ビート版はSFオタクで対人関係が苦手そうで、ブルーハワイは剣道の腕がピカイチながら体育系の圧みたいなものが微塵もない。

この3人が揃ったときの安心感。とくに3人が女子であるというのが良い効果をもたらしていて、もし『サマーフィルムにのって』が3人の男子が主人公であったらたちまちホモ・ソーシャル化していたと思うんですね。恋愛に毒づきながら自分は理想の女が内心では欲しいみたいな典型的な劣等感。対する本作の女子3人は“恋愛的なもの”に表面上は距離をとりつつも、奥底で恋心を隠すビート版と恋愛モノが好物であるブルーハワイがいて、その本性が明かされてもギスギスすることはない。“女の敵は女”みたいな感じもない。そこには有害さを発する構造を持っていない女子オタクならではのシスターフッドを築ける確かさがあって…

一方で本作には男子も映画制作スタッフとして招集されるのですが、そんな彼らはこの女子3人をちゃんと邪魔しない距離感で描かれていて、そこも適切で…。しっかりハダシを監督としてリスペクトしてくれるし、仕事を的確にこなしてくれる。かなり恵まれた制作環境があります。日本の男性主体の映画界もこうなってくれたらいいのに…。

男子たちの愛嬌も最高で、照明デコチャリ・ヤンキーの小栗なんて画面に映るだけで面白いし(あれで照明になっているのか)、ダディボーイのあの無害化された過剰な男性っぽさもシュールだし、増山&駒田の運動系の世界では日陰の存在がこの映画撮影ではスキルが輝く姿もほっこりするし…。

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このラストシーンを超える傑作を未来に

『サマーフィルムにのって』の見どころ“その2”。ジェンダーを意識しているかどうかはわかりませんが、プロットの展開が上手いなと個人的には思いました。

本作はビート版が読んでいた「ときかけ」が伏線であり、『時をかける少女』と同様にガール・ミール・ボーイなSF青春作品です。だとしたらハダシが凛太郎に恋をしていくのがベタな展開として容易に想定されるのですけど、本作はそこにちょっと変化球を加えています。

確かに後半になるとハダシは凛太郎に特別な想いを抱いていることを自覚していきますが、それは私の受けとらえ方だとロマンティックな方の愛ではなく、おそらく映画愛なのでしょう。ビート版が凛太郎に抱く片想いとは違う。ハダシだからこその愛です。

それは未来からタイムトラベルしてきた凛太郎に教えられた「未来に映画はない。未来では映像は5秒がスタンダードで、1分だと長編だ」という事実によって芽生えます。当初は自分の撮りたい映画が撮れればいいという欲求、あのリア充恋愛映画集団を打倒できればいいという野望ありきだったのが、突然映画業界の未来を憂うことになってしまう。

でもそれが発端になって、あの花鈴とも意気投合できる。花鈴もなんだかんだで映画愛の人間なのです。ジャンルが違うだけで。このあたりの展開は、絶対にインセルな男子映画オタクには許せない流れだと思います。本作は劣等感と承認欲求を克服する話ですし(この葛藤は『映画大好きポンポさん』とかなり対極にあるなと思います)。

ここでハダシと凛太郎がベタな恋愛規範的な構図に落ち着くとガッカリではあるのですが、本作はそうならず(凛太郎が絶対にハダシを恋愛対象に見ないのがまた効いている)、最後まで過去と未来、2人の映画愛の継承という切れ味を見せ続ける。あの気迫の映画愛をぶつける殺陣。

私は『アルプススタンドのはしの方』の感想で「青春を謳歌できなかった者たちが他人の青春に感化されて輝いていくのはあんまり…」と苦言を書いたのですけど、『サマーフィルムにのって』は世間の規範に同調せずにしっかり自分らしさを貫くラストだったのが個人的には良かったです

SF的な設定のツッコミを全部ビート版の自論ありきの考察で誤魔化しているところとか、親を一切登場させないとか、脇の部分も無駄なくきっちりまとめあげているのもさりげなく上手かったかな。

『サマーフィルムにのって』みたいな青春時代劇SF映画を撮れるのは、やっぱり日本映画の面白さですね。

『サマーフィルムにのって』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会 サマーフィルムに乗って

以上、『サマーフィルムにのって』の感想でした。

It’s a Summer Film (2020) [Japanese Review] 『サマーフィルムにのって』考察・評価レビュー