それが私の結論…映画『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:ノルウェー・デンマーク・ポーランド・スウェーデン(2025年)
日本公開日:2026年1月16日
監督:エミリア・ブリックフェルト
セクハラ描写 児童虐待描写 ゴア描写 性描写 恋愛描写
あぐりーしすたー かわいいあのこはみにくいわたし

『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』物語 簡単紹介
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』感想(ネタバレなし)
今年は健康を第一に
2025年は病気がちだったので、2026年は健康にもっと気をつかおうと思ったのですが、よくよく考えると、私は新年早々の1月から不健康そうな人たちがでてくる映画ばかり観ている気がする…。
映画が鑑賞者の体調に悪影響を与えたりはしないよね…。そうだったら私はもう早くもボロボロになるよ…。
今回紹介する映画も、それはもう…不健康の極みみたいな状況に陥る主人公を描いています。健康の悪化というか、虐待なんですけどね。
それが本作『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』。
本作はノルウェー映画なのですが、童話の『シンデレラ』を基にしています。それもとんでもなく大胆に翻案しており、俗にいう「シンデレラ・ストーリー」に対して、非常にアンチズムなカウンターを炸裂させています。
物語としては、恋愛伴侶規範の中で若い女性に圧し掛かるルッキズムが主題であり、美を追求しすぎるあまり、自身の身体を危うくさせる主人公が描かれていきます。
「ホントは怖い御伽噺」みたいなダーク童話なのですけども、本作はハッキリとホラーです。具体的にはボディ・ホラーとなっており、非常に残酷で目を背けたくなるような強烈なゴア描写が満載です。その点を踏まえて、鑑賞してください(苦手な人は…ショッキングなシーンで目を閉じて)。
テーマ的にもジャンル的にも近年の映画だと『サブスタンス』に似ているところが多いですが、『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』は現代ではなくどこか昔の見慣れた童話の世界で展開するぶん、余計に露悪的な部分も目立つかもしれません。
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』を監督・脚本で生み出したのは、これが初監督デビュー作となった新人のノルウェー人の“エミリア・ブリックフェルト”。なんでも映画学校時代に構想していたらしいですが、“ジュリア・デュクルノー”監督の『RAW 少女のめざめ』などを観たりして、ボディ・ホラーの魅力にハマり、一気にこのジャンルに飛びついたそうです。
ボディ・ホラーの良い連鎖反応が最近は起きていますね。新進気鋭の若手が増えてくれるととくに嬉しいです。
ということでディズニーは絶対に作りそうにない『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』を観て「他者からの承認のために健康を犠牲にして美を得る必要なし!」と気持ちをあらたに2026年を過ごしていきましょう。
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 肥満恐怖症の心理が生々しく描かれるほか、関連して摂食障害を示唆するシーンもあります。また、母から子への虐待の描写も多いです。 |
| キッズ | 直接的なヌードや性行為の描写があります。 |
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
10代のエルヴィラは母レベッカの再婚によってスウェランディア王国に移り住んできました。ステキな王子様と結ばれることに憧れるエルヴィラは、この地で夢が叶うのではないかと心をワクワクさせていました。なにしろこの国のユリアン王子は素晴らしい男性だと巷で有名です。
エルヴィラには妹のアルマがいましたが、母レベッカの結婚相手である年上の未亡人オットーには、アグネスという娘がいました。このアグネスは美しさを自然に放つような可憐な同年代の女子でした。今もゆったりしたドレスが似合っています。今日からこのアグネスはエルヴィラの義妹です。
オットーの屋敷に到着し、部屋の窓に目をやると、あの憧れのスウェランディア王国のユリアン王子がいるであろう城も見えます。母と結婚相手の家は、互いにそれほど裕福ではないですが、新しい人生が待っているのは間違いありません。
ところがその日の食事中に、オットーは急死してしまいます。この家長の死によって、家を取り仕切るのはレベッカとなりました。そうは言っても経済的に豊かではなく、どうすればいいのか途方に暮れるしかありません。
アグネスも父を失った悲しみに沈み、エルヴィラと仲良くしているような場合ではありません。
そんなとき、王室の使者がやってきて、「すべての貴族の未婚の若い女性を舞踏会に招待し、そこで王子が花嫁を選ぶ」という知らせを届けます。
これは千載一遇のチャンスです。あの願い続けた夢が手の届くところまでやってきたのです。これは母にとっても絶好の機会。この崩れかけている家を一気に変える最高の手段。王子のお相手となれば、何でも叶うでしょう。
しかし、エルヴィラはお世辞にも美しい容姿ではありません。そこで母はエルヴィラの顔を改善することにします。まずは歯、次に鼻。美容整形に精通している専門家を呼んできます。エルヴィラはされるがままです。これで美しくなれるのなら…。
所作も磨くことにします。ダンスから礼儀作法まで、エルヴィラに上流階級の女性として最高峰になるための全てを叩き込みます。しかし、顔が美しくないという理由で、エルヴィラは常に目立たない場所に配置され、ここでもアグネスが注目を集めるのでした。
これでは王子に近づくことができない…。焦りを感じるエルヴィラはますます美への欲求をくすぶらせていき…。

ここから『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』のネタバレありの感想本文です。
純真で無垢な男性幻想を抱くヒロイン
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』は、この感想前半に「とんでもなく大胆に翻案」と私は説明しましたが、実のところ、古典的過去作とまるで別物の方向性に改変しているわけでもありません。
『シンデレラ』の正確な起源は不明ですが、古い作品のひとつとして有名なグリム童話の『アシェンプテル』は残酷な内容で知られている一作です。このグリム童話版では、シンデレラの義理の姉たちが自分の足に合うようにするため、自身の踵とつま先をナイフで切り落とす…という展開が描かれます。
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』の終盤を観てもらえればわかるとおり、本作はこのグリム童話版の影響をかなり受けており、その異様さをさらに露悪にしたような物語で全編を上書きしています。一種のグリム童話の極悪バージョンみたいな感じですね。
もちろんただ残虐にしているというだけでなく、“エミリア・ブリックフェルト”監督は恋愛伴侶規範の中で若い女性に圧し掛かるルッキズムを童話の中に風刺として落とし込むのがとても上手いなと思いました。
まず本作の主人公のエルヴィラのキャラクター性。こういうテーマであれば、いかにもわざとらしく極端な醜女としてデザインした人物を登場させることもよくありがちなのですが、本作はそうしていません。
エルヴィラは年相応の容姿の不完全さがある、どこにでもいそうな女の子です。オシャレをすれば、いくらでも可愛くなりそうな垢抜けなさがあり、そんな徹頭徹尾で醜いと中傷されるほどでもありません。
だからこそエルヴィラ本人も「王子と結ばれる」という未来を夢見ることができているのでしょうし、母による容姿改善にも乗っかってしまうのでしょう。身近にいるアグネスの整った美形も、敗北を突きつける落差ではなく、「負けられない!」と向上心を芽生えさせる、ある意味で刺激になっています。
言ってみれば「私はまだまだ可愛く美しくなれる」と純真に信じている…そういう心の持ち主です。
この純真さこそが多くの女性がとくにまだ幼い頃に抱いていたことがある感情であり、それゆえにこの映画が切実に自分事のように突き刺さってきます。
そのうえ、本作のエルヴィラは性的にも無垢であり、それはアグネスとの対比で露骨になります。本作のアグネスは一歩進んで大人の世界を知っており、厩務員のイサクと性的関係を経験しています。それをエルヴィラが目撃した際、よくわからなさそうに眺めつつ、嫌悪感を抱いていることが示唆され、エルヴィラの中の「無垢な男性幻想」が顔を覗かせます。
これはユリアン王子のプライベートな姿を森で目撃するシーンでも同じです。あの王子は実はかなりミソジニーで下品な男なのですが、それを知ってもなおも「ステキな王子様に違いない」という幻想を保持します。
本作におけるアグネスも母のレベッカもエルヴィラにとっては直接的には悪影響を与えるのですが、よくよく考えれば「家父長的社会に対する付き合い方」としては熟練した手本をみせているとも言えます。「男に幻想を抱くな。狡猾に利用するくらいの心構えでいろ」ってことです。
でもそれがあのエルヴィラにはできません。できたら幾分かラクになるのに、できない。その未熟な歯がゆさが、眺めるしかできない観客の気持ちを焦らしていきますね。
虫系ホラーとしての評価
『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』はジャンルとしては、“エミリア・ブリックフェルト”監督は本当に新人なのかとびっくりするぐらい、手際のよいボディ・ホラーの見どころをテンポよくみせてくれます。
初手で「鼻」の整形として激痛表現があり、そこからの次は「目」。見たくないところを全部強制的にみせてくるこの意地悪さ。
そして身体自傷として終盤の自分のつま先の切断に繋がるわけですけども、ここでも一気に自分では切り落とせず、しかも本来切るべき足をあろうことか母が躊躇なくぶった切るという…。
あと、忘れがたいインパクトを残してくれる本作のMVPのサナダムシ。一応書いておくと、サナダムシにそこまでのダイエット効果はありません。本作はあの尋常じゃない量といい、完全にフィクションのサナダムシですが、「見どころはうちらに任せてください!」と言わんばかりにサナダムシが頑張っていました。なんだ、早くも2026年のベスト・アニマル賞の有力候補がやってきてしまったんじゃないか。
摂食障害を示唆する表現のあり方として、たぶんもっと直接的な表現もいろいろ検討できたでしょうが、あえてそれは避けて、サナダムシというファンシーな演出で攻めているアイディアがナイスです。
そのサナダムシに対比させているかのように、アグネスには蚕が破れたドレスを補修してくれる幻想的なシーンがあって、この「虫」繋がりの演出も良かったです。
誤解のないようにこれも補足しておくと、蚕は昆虫ですけど、サナダムシは昆虫ではなくてプラナリアとかの仲間ですからね。でも実質「虫食い」映画だったな…。これも昆虫食への嫌悪を投影した映画の代表例に加えてもいいかもしれない…(“昆虫食”陰謀論の解説記事を参照)。
そんなサナダムシお姉ちゃんになってしまったエルヴィラを、献身的に支えてくれた妹のアルマ。本作における救いの存在ですが、サナダムシを手で引っ張ってくれる妹なんて良い妹に決まってますからね。大事にしてほしい…。
ホラーで虫系の生き物を組み合わさるやりかたとして、わりと個人的に最高のバランスのものを作ってくれたなと満足でした。私の『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』の最大の評価ポイントはそこです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Mer Film / Lava Films / Zentropa Sweden / MOTOR / Film i Väst / Mediefondet Zefyr / EC1 Łódź 2025 アグリーステップシスター
The Ugly Stepsister (2025) [Japanese Review] 『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』考察・評価レビュー
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