キュア 禁断の隔離病棟
映画『キュア 禁断の隔離病棟』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:A Cure for Wellness 
製作国:アメリカ・ドイツ 
製作年:2017年
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー
監督:ゴア・ヴァービンスキー 

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★

あらすじ

ニューヨークの金融会社で働くロックハートは、アルプスの療養所に出かけたまま戻らない社長を連れ戻すように会社から命じられるが、会えずに終わる。ホテルに戻る途中、車で事故に遭って脚を骨折したロックハートは療養所に戻ることになる。ロックハートは社長を捜しながら治療をしていくうちに、この施設の恐るべき秘密を知るのだった…。

ネタバレなし感想

現代版ゴシックホラー

昨今はアメリカのホラー映画の調子がすこぶる元気で、『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』など日本でも若者に受けてヒットする作品も生まれています。
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それでもまだまだ埋もれている作品もあって、本作『キュア 禁断の隔離病棟』なんかは劇場公開されずにビデオスルーとなりました。

この映画、『ニンフォマニアック』2部作で映画デビューを果たしたファッションモデルの“ミア・ゴス”が全裸で、しかもウナギでいっぱいのバスタブに浸かっている衝撃的な映像でアメリカでは一部話題となったホラーでした。

しかも、監督はあの“ゴア・ヴァービンスキー”です。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ1~3作を手がけ、ディズニーに湯水のごとくお金をもたらした功労者であり、その後のフィルモグラフィだとカメレオンを主人公した異色の西部劇アニメーション『ランゴ』や、個人的にはこのアホなノリも嫌いになれないド派手大作『ローン・レンジャー』を監督。どちらかといえば大手配給の下で大味でコミカルな作品を作る人というイメージでした。

そんな“ゴア・ヴァービンスキー”監督の次なる作品となった本作は、比較的には小規模作で、しかもオリジナル作ということで、かなり自分の好きなように作った感じです。

ホラーというと、“ゴア・ヴァービンスキー”監督は『ザ・リング』も手がけていたので、初めてじゃないのですが、かなり独創的な世界観になっています。

医療施設が舞台でそこに男が迷いこんで恐怖の真相を知るという流れから、マーティン・スコセッシ監督の『シャッター アイランド』を連想する人が多いようですが、私としてはそれよりも本作は往年の怪奇映画のエッセンスが強めな印象を受けました。だから、昨今のエンタメに徹したホラーと違って、ちょっとどこか古めかしいゴシックな様相も感じられると思います。こういうタイプの作品はイマドキ珍しいですよね。こんなのを好き好んでやるのは『クリムゾン・ピーク』を作ったギレルモ・デル・トロ監督くらいです。

宣伝ではサイコ・サスペンスと表現されていますが、「現代版ゴシックホラー」と呼ぶ方が適切かもしれません。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

怪奇映画の世界に変わっていく

本作が「現代版ゴシックホラー」と呼ぶのにふさわしい理由はたくさんあります。

まずはなんといっても舞台です。城ですよ。これぞ「ザ・中世ヨーロッパ」というようなわかりやすすぎる場所。作中ではスイスという設定ですが、ドイツのホーエンツォレルン城で撮影したようです。だいたいゴシックホラーはロケーションで全てが決まるみたいなところありますからね。

その城は療養施設に改修されて近代化しているわけですが、ところどころにある昔の名残がまた雰囲気を醸し出しています。そして、物語が進むごとにその城の隠された秘密が明らかになるという展開の中でどんどん舞台も過去の時代に逆行していく演出も効いてきます。事務的なオフィスと古めかしいアイテムが並ぶ地下室、病室の無機質なベッドとハンナが押し倒されるゴージャスなベッド…これら現代とゴシックの対比が登場するのも印象深いです。

極めつけは、終盤の展開。ついに全ての真相が明らかとなり、ハンナと交わろうとする院長ヴォルマーのもとに駆け付けたロックハート。ここからの“ロックハートvsヴォルマー”は『パイレーツ・オブ・カリビアン』を彷彿とさせますが、上階で行われている舞踏会と重なり、炎上しながらの流れはまさにこれぞ怪奇映画。ここはテンションが上がりました。炎上する屋敷とそれでも踊り続ける老人たちの姿がなんとも儚げ。つまり、中世ヨーロッパの終焉と老いによる生命の終焉を表現しながらも、当事者である老人たちは悲しげではないという構図なんですね。

印象的なメロディの音楽といい、ゴシックな世界に浸れました。

ウナギの意外な関係性

映像面で大事なキーワードはやはりウナギです。ここまでウナギが大活躍するホラーは初めて見ました。

終盤の口にホースを突っ込んでウナギをダバァーのくだりは、映像的にもインパクト大で最高。ウナギの踊り食いですよ。さすがにウナギ大好き日本人もこれにはドン引きだなぁ。

ここで「そもそもなんでウナギなの?」と疑問に思う人もいるかもしれませんが、実はウナギとゴシック的な中世ヨーロッパは関連性があるのです。というのも、当時の中世ヨーロッパでは、ウナギは高級な食材で、上流階級の人たちは好んで食べていたんですね。つまり、ヴォルマーの正体を考えると、ウナギに執着しているのも納得の設定なのです。

加えて、ウナギはその生態の謎の多さから神秘性の象徴にもなったりしています。

ちなみに日本にもウナギとホラーの組み合わせはあって、昭和6年に岡本綺堂によって書かれた怪談「鰻に呪われた男」というのがあるんですね。釣ったウナギを生でそのままムシャムシャ食べる男の話なんですけど、まあ、たぶん“ゴア・ヴァービンスキー”監督は知らなかったと思いますが。

あと、ウナギ以外だと序盤のシカ交通事故シーンがなかなか凝ってて好きでした。フロントガラスにシカが突き刺さり、しばらく走行する映像は新鮮だったなぁ。

キュア 禁断の隔離病棟

やっぱり長いゴア・ヴァービンスキー

「現代版ゴシックホラー」としての現代要素という点では、主人公がバリバリのビジネスマンなのが設定として上手く活かされています。仕事一筋の男が療養所で自身の過去と向き合い、スッキリして新たな一歩を踏み出すドラマともいえます。最後に会社の同僚と決別し、自分の足で踏み出したロックハートのニンマリ顔が良いです。世間的にはバッドエンドだけど、俺的にはバッドエンドじゃない…みたいな感じですね。

こんな風に、世界観、ストーリー、ビジュアルとどれも私としてはドハマりなのですが…さすがに146分は長かった。ずっと城から出られないシチュエーション・スリラー的要素もあるのかと思ったら、途中であっさり出てしまうし、これなら結構簡単に脱出できる気がしてきますよね。もう少しコンパクトにできれば、グッと良くなったのに、結果、ウナギのような掴みにくい映画になってしまいました。

この「長い」という感想は『ローン・レンジャー』でも思った気がする…。

それでも現代版ゴシックホラーとしてじゅうぶんフレッシュだったので個人的には満足です。

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