機械人形にも給与はでますか?…映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2024年2月9日
監督:エマ・タミ
児童虐待描写
ふぁいぶないつあっとふれでぃーず
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』物語 簡単紹介
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』感想(ネタバレなし)
夜間警備員の皆さん、主人公です!
日中は大勢の人たちが練り歩く商業施設でもオフィスビルでも、真夜中になれば静まり返ります。そんな場所でその時間帯に密かに働いている人…それが夜間警備員の仕事です。
決して目立つ仕事ではないですし、ほとんど世間に認識されないまま、朝になればいなくなってしまうので、場合によっては全く出会ったことがないということもあるでしょう。でも私たちの社会を陰ながら支えてくれる働き手です。
そんな夜間警備員が一番目立って活躍するジャンルと言えば、やっぱりホラーですね。ホラーにこんなぴったりな職業もないです。夜の建物を公然と歩き回れる…仕事内容自体がもはや肝試し状態。まあ、実際の夜間警備員の人たちはホラー的な現象に遭遇しやすいのかどうかは知りませんが…。
当の夜間警備員の人は日々の生活費を稼ぐのに精いっぱいでそれどころじゃないかもしれません。幽霊に出会えるならその映像でも配信してひと儲けしたいくらいかな…。
今回紹介する映画はそんな苦労を背負う夜間警備員の気持ちに寄り添い、ねぎらってくれる作品です。
それが本作『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』。
ゲーマーならタイトルでピンとくるとおり、本作は「Five Nights at Freddy’s」というホラーゲームを映画化したものです。このゲームは「FANF」の愛称で親しまれていますが、2014年にリリースされて以降、世界中でプレイヤーを熱中させてきました。
どんなゲームかと言うと、架空のファミレスで夜間警備員をすることになった主人公が五日間の間に恐ろしい目に遭い、生き延びようとする…というもの。その恐怖の存在が、レストランに徘徊するアニマトロニクス(機械人形)で、主人公はレストランに普通にあるような代物でなんとかこの存在自体が凶器となっている機械人形から逃げないといけません。
“スコット・カーソン”というクリエイターが開発したこのゲームはフランチャイズ化し、熱心に愛してくれるファンダムも根付きました。キャラクターもマスコット的に受け入れられ、コスプレやグッズも盛況。なので映画化も納得です。
今回の映画は“スコット・カーソン”自身が製作&脚本に参加しており、かなり原作ゲーム準拠。ゲームを知っている人ならば「これだね!」というネタにも気づけるはず。もちろんゲームを知らない人も何も問題なく楽しめます。
その映画化を全面で支えるのは、ハリウッドのホラー映画界を先導するヒットメーカーの“ジェイソン・ブラム”率いる「Blumhouse Productions」。ブラムハウスもついにホラーゲームのフランチャイズに手をだしたか…。でも『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は『スプリット』を超えてブラムハウス最大の興行収入を記録したので、今後はこの方向で攻める感じで増していきそうです。
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』を監督するのはドラマ『イントゥ・ザ・ダーク』の“エマ・タミ”。『The Wind』という映画で長編監督デビューしました。
主演は、『ハンガー・ゲーム』シリーズの”ジョシュ・ハッチャーソン”。共演は、ドラマ『YOU 君がすべて』の“エリザベス・レイル”、『ダニエル』の“メアリー・スチュアート・マスターソン”、『スクリーム』でもおなじみの“マシュー・リラード”、『サマーキャンプ』の”キャット・コナー・スターリング”など。
ホラー映画では毎度の子役枠として起用されたのは、ドラマ『フォー・オール・マンカインド』でちょこっとだけ出演していた“パイパー・ルビオ”です。
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は殺人系のホラー映画ですが、ジャンプスケアもほぼなく、ゴア描写も全くないので(予告動画を見るといかにもありそうな雰囲気ですけど本編内では暗くてよく見えないです)、見やすい部類なんじゃないかなと思います。
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽にホラーを |
友人 | :ホラーを一緒に |
恋人 | :ジャンル好きなら |
キッズ | :多少の暴力描写あり |
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):5日間だけでも勤務は地獄
マイク・シュミットは目覚ましで辛そうに起きます。最近はいつもこうです。眠れず、いざ眠っても目覚めは最悪…。
そんなマイクは幼い妹のアビーと2人で暮らしています。マイクが親代わりです。アビーは自分の部屋で、布で仕切った秘密の空間でくつろいでいました。無邪気な年ごろの子です。
ある日、警備員として職場にしているショッピングモールにいたところ、マイクは男に引っ張られる少年が目に入ります。誘拐犯だとすぐさま判断。慌てて追いかけて掴みかかり、噴水に押し倒し、一心不乱に殴りつけます。しかし、普通にあの子の父親でした。
こんなことをしてしまった以上、当然、解雇になってしまいます。
マイクがあそこまで激昂したのは理由があります。実は幼い頃に家族でキャンプ場にいたとき、弟のギャレットが誘拐された経験があるのです。それから弟は戻らず、マイクはずっと後悔を抱えています。でも言い訳にはできません。
キャリア・カウンセラーのスティーブ・ラグランのもとへ行き、何か仕事ないかと頼みますが、こんな経歴であるゆえに「簡単には見つからない」と言われてしまいます。落ち込んで帰ろうとすると、ある仕事を紹介されます。
それは廃墟のレストラン「フレディ・ファズベアーズ・ピザ」で夜間警備員をするという内容。夜はアビーもいるので無理だと仕事を断ります。
帰宅し、ベビーシッターのマックスに挨拶。眠ればまたあの弟の誘拐場面を垣間見る悪夢です。
翌日、社会福祉課を同伴して叔母のジェーンがやってきて、涙ながらにアビーの親権を引き取ると切り出してきます。このまま無職だとアビーを失います。
やむを得ず、マイクはあのレストランの夜間警備員の仕事を引き受けると電話で返事します。
さっそく夜に現場に到着。鍵を開けて中へ。ブレーカーをあげて建物全体に電源を通し、警備室でモニターを見つめます。誰も近づかせるなという仕事内容です。でもこんなところに人は来そうにありません。スティーブの発言は妙に意味深でしたが…。
レストランの宣伝ビデオがあったので流すと、アニマトロニクスで動く人間サイズの人形が売りなようで、肝心の人形のシーンはノイズが入り、説明する女性の映像も止まってしまいます。
ロッカーの警備員服を一応着て、ライトで店内を歩きまわります。壁には子どもが描いたような絵がいっぱい貼ってあります。
最小限の明かりなので真っ暗。物音がした気がしてそちらに向かうとあの人形が保管されている場所を見つけました。
その後、警備室で居眠りしてしまい、また悪夢。でも今度は5人の子どもたちが逃げる夢でした。目を覚ますと、1日目を終えて帰宅。
2日目。また仕事中に悪夢。子どもを追いかけ、腕に怪我を負わされる夢でした。
起きると点滅とノイズが起きています。急いでブレーカーを落とすと、本当に腕から怪我していることに気づきます。しかも、訪問者がいて警察官のヴァネッサ・シェリーと名乗ります。彼女はマイクを新しい警備員だと把握すると、何かを察してレストランの中で手当してくれます。
それによれば、多くの警備員はここをすぐに辞めてしまうそうで、さらに20年ほど前にこの店で5人の子どもが次々と行方不明になってそれで閉店になった裏話があるとか…。
人形は本当に動かしている
ここから『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』のネタバレありの感想本文です。
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は、開幕早々にダクトを通るために必死にネジを回す男が映ったりと、ゲームを知っているファンをクスリとさせる仕掛けに満ち溢れていました(ゲームではオルゴールのネジを定期的に回し続けるというプレイが要求されたりする)。
ゲーム開発者の“スコット・カーソン”がきっちり脚本まで手掛けていることもあって、メインのアニマトロニクスの機械人形のビジュアルを含め、ゲームの世界観は違和感なくぞんぶんに楽しめます。
このアニマトロニクス(フレディ、フォクシー、ボニー、チカの4体)はCGIではなく、実際に実物が作られているそうで、しかもその人形を作って動かしているのがあの『セサミストリート』や『マペット・ショー』でおなじみの“ジム・ヘンソン”というレジェンドが設立した「Creature Shop」というスタジオだというから驚き。『ダーククリスタル エイジ・オブ・レジスタンス』などでもわかるように、今もあのアナログな伝統芸能というべき人形使いの技を継承するこの職人たちの素晴らしさ。それが『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』とコラボする時代が来るとはね…。
もちろんあのアニマトロニクスは人間サイズより少し大きいくらいのデカさなので、動かすのも数人がかりでやっています。当然、撮影にもいろいろな制限が生じたはずです。
それでも存在感たっぷりに表現されており、たぶん現場にいた俳優が一番臨場感を楽しめたのではないかなと思います。
そういう意味でのクリエイティブは称賛したいところ。ただ、それはゲーム的なインタラクティブな面白さの代用にはならなくて、エンターテインメントとしては別物になってきます。
もともとのゲームはアニマトロニクスに殺されそうになって追いかけられるという緊張感に全てのハラハラドキドキが一点集中しているのですが、映画になると主人公の構成上、「ああ、このキャラは生き残るな」という生存のオチがだいたい読めることもあって、そんなにスリルはありません。
これはゲームの映像化では常々言っていることですけど、このインタラクティブな面白さをどう補うかが、どうしたって作品の完成度に直結してしまいますね。
あの俳優に負けてしまったのが残念
映画となった『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』はそのインタラクティブな面白さをどう補うかを何も考えていないわけではなく、キャラクターのストーリーを明確に設定することで観客が視聴しようとする土台を用意はしてくれています。
ここはゲームと設定が違うのですが、本作の主人公であるマイクはかなり共感しやすいキャラクターになりました。雇用を手に入れるのも大変で、監護権に基づく子育てとの両立に苦労し、それでも子を愛する大人としての正しさを持つというスタンダードなプロフィールです。
夜間警備員という職業の扱いの低さとか、そういう労働問題も滲む…。
しかし、そこに過去の弟の誘拐事件というトラウマが心に影を落としており、それがいかにもホラー映画らしい主人公の小さな歪みになっていて、サスペンスを生んでいます。
そのマイクの妹であるアビーは映画オリジナルのキャラクターですが、子ども視点でアニマトロニクスと触れ合う存在として、ゲームにはない別の味わいを与えてくれます。ちょっとファンダムを代表する立場にもなっていますね。
ヴァネッサは大きく設定が変更され、このフランチャイズで最も重要と言える殺人鬼ウィリアム・アフトンの娘としての最大の影を背負う存在になりました。この殺人鬼の設定は小説で最初に組み立てられて明確に描かれていますが、映画では独自に再構成されています。なのでゲームプレイ済みの人も新鮮に驚けます。
この3人を主人公組として引き連れれば、たいていの物語の展開はできそうです。
問題はこういう人形系のホラー映画はすでにめちゃくちゃ数があって、個性をだしづらいことです。『チャッキー』シリーズや『アナベル』シリーズなど子どもサイズの人形だと、最近は『M3GAN ミーガン』のようにもうビジュアル一発でキャッチーに作ったものがバズるなど、成功例があります。
大型の人形だと『バナナ・スプリッツ・ホラー』などがありますが、今回のゲームからインスピレーションを得て作られた『ウィリーズ・ワンダーランド』(2020年)というホラー映画が本家の『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』よりも一足先に面白いことをやっちゃっているんですよね。しかもこっちの『ウィリーズ・ワンダーランド』は“ニコラス・ケイジ”主演で、キャスティングの時点でネタとして頭ひとつ飛びぬけているのがズルくて…。
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』はゲームの映像化という点では丁寧な一作なのですが、既存のホラー映画と比べるとオリジナリティに乏しく、そこは批評的に評価が低くなるのはやむを得ないところなのかなとも感じました。
とは言え、大ヒットしたのですでに続編は制作決定済み。ゲームからしてまだまだ描ける要素はいくらでもありますし、ここからもっと新しいエンターテインメントを見せてほしいです。単にゲームをリスペクトしてなぞる以上の、思い切った方向性へのジャンプが求められます。
アニマトロニクスを動かす人形使いの人も準備運動しています。
そして全国の夜間警備員の給料をあげてください…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 32% Audience 87%
IMDb
5.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2023 Universal Studios. All Rights Reserved. ファイブナイツアットフレディーズ
以上、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』の感想でした。
Five Nights at Freddy’s (2023) [Japanese Review] 『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』考察・評価レビュー