フェミニストからのメッセージ
Netflixドキュメンタリー『フェミニストからのメッセージ』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Feminists: What Were They Thinking?
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:ジョハナ・デメトラカス

あらすじ

フェミニズムの新たな波が押し寄せた70年代。時代の息吹に目覚めた女性たちの姿を捉えた1冊の写真集に光を当て、男性中心社会に抵抗した女性運動の飽くなき挑戦を振り返る。 

ネタバレなし感想

そうだ、本人に聞こう

突然ですが「フェミニズム」という言葉の意味を知っていますか?

昨今、日本でもジェンダーの問題が再び注目されるようになり、政治でもマスメディアでもネットでも話題の種になっています。それに影響するように、「フェミニズム」、またその考えを主張する人を指す「フェミニスト」という用語も急速に見聞きする機会が増えました。ただでさえ、今はネット社会。言葉が独り歩きするスピードだけは“チーター”級に速いです。

一方でその尽きない話題のネタは論争を日々起こしてもいます。最近であれば「絵本をイマドキの萌え絵にする」問題とか、はたまた「政府の作成したセクハラ防止ポスターは逆にセクハラでは?」問題とか。これらはジェンダー(とくに女性)に関連した問題として議論されることもしばしばです。

でもこれらの問題は「フェミニズム」なのでしょうか? そもそも「フェミニズム」ってどういう意味なのでしょうか? 男女平等、女性の権利…つまり、どういうこと? はっきり回答できる人は少ないと思います。言葉が独り歩きするスピードだけは“チーター”級なネット社会ですが、理解力は“カタツムリ”級です。

しかも、悪い事に残念ながらネットには、「フェミニズム」という言葉の意味を、悪意に基づき歪んだかたちに曲解している人もいるので厄介です(例えば「フェミニスト=口うるさく文句を言ってくる女」くらいのニュアンスで侮蔑的に使用している人もいます)。

フェミニズムについてちゃんとした情報源でしっかり学びたい。そういう人はどうすればいいのか。

答えは簡単。過去のフェミニズム運動に前線で携わってきた活動家に教えてもらえばいいのです。

そんなの無理だって? 大丈夫、ぴったりなドキュメンタリーがあります。それが本作『フェミニストからのメッセージ』です。

内容はシンプルで、フェミニズム運動には長い歴史がありますが、本作では1970年代のアメリカを中心に活動してきた女性たちと、現代の女性たちの声を交えながら、“フェミニズムとは何だったのか”を解説していくものです。

そこまで切り込んだセンセーショナルなテーマ性はなく、わりとあっさりした中身なので物足りない人もいるかもしれませんが、入門編としては最適です。難しい用語も、複雑な議題もありません。アメリカがメインの舞台ですが、日本とたいして変わらないので問題もなしです。

何よりも生の声というのは力強いもので、当時のパッションを感じさせる“生き生きとした”フェミニストの姿が輝いています。活動家といっても彼女たちは普通の女性。仕事をしたり、家事をしたり、子育てをしたり、恋をしたり、夢を追いかけたりする、どこにでもいる人間です。

どうしてもフェミニズムというと“堅苦しそう”とか、“説教くさそう”というイメージが先入観となって避けてしまうことも多々ありがちですが、本作を観れば、とても身近に感じるのではないでしょうか。

ネット上のわけのわからない論争にずっと浸っていると疲れるだけです。こういう本当の生の声を聞くことは大事なことだと思います。今の時代はなおさら。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

当時の女性の苦しみ

「仕事か母親か、どちらかを選べ」

女性は必ずこの“T字路”を通過しないといけません。当然、悩みます。仕事をとれば母親としての自分の評価を大きく損なうことになるし、はたまた母親をとれば仕事としての自分の成功をつかむ可能性は限りなく低くなります。かといって、うだうだと答えを出せずにその場で停止していれば、仕事としても母親としても自分の居場所を得られずに、社会から落伍者のように“下”に見られます。なので、やむを得ず流されるままにどちらかの道を選ぶしかない人も多数です。

では、男性は? もちろん、エスカレーターでどんどん上に登っています。エスカレーターに“T字路”はありません。

そんな「女性である」という理由だけで突きつけられる苦しみの数々が、このドキュメンタリーではそれを経験した女性たちの言葉で語られていきます。

先述した「仕事か母親か」を含む、そのいくつかは現代社会でも起こっている問題なので、比較的実感しやすいものだったと思います。しかし、70年代の女性にのしかかっていた「性的バイナリー(男か女、2つの性別しかないという考え方)」の中には、今では考えられないほどの過酷なものも存在したことにあらためて驚きます。

例えば、「女性は怒ったりしない」という偏見。現代感覚で言えば、男女関係なく怒るのは当たり前だろうと思いますけど、当時は女性が怒りの感情を示すのはイレギュラーなことでした。そのため、女性が怒りを爆発させたり、パニックをみせたりすると、「ヒステリー」として病気扱いとなり、精神病院に送られることもしばしば。クリント・イーストウッド監督の『チェンジリング』(2008年)など、安易な理由で精神病患者扱いされる女性の苦悩を描いた映画もありました。今でも“怒る女性”にネガティブなイメージがつきまとう場合があるのは、昔の偏見の残存ですね。

また、別の偏見に「女性には性欲はない」というものも指摘されていました。女性が性を示すのはタブーであり、女性は純粋な愛の信者で、ひとりの男と添い遂げて子どもを産むのが基本。そう考えられていたわけです。作中のフェミニストのひとりが、自分がオーガニズムを初めて知った話を赤裸々に話し、性に奔放なのが印象的でした。今なら『シェイプ・オブ・ウォーター』のように女性の性をストレートに描き出した映画も普通にありますし、今さら女性と性を分離するようなことをするほうが変です。ただ、日本に関しては性のタブー意識がまだ色濃く残っている気もしますが…。

70年代のフェミニズム運動で女性のイメージが覆る前の、古い女性像が最も強く見られるのは、映画ファンとしては残念なことですが、やはり映画です。

作中でも紹介された『紳士は金髪がお好き』(1953年)に代表されるような、登場人物の女性たちはまさに“(男性にとって)理想的な正しい女性像”そのもの。そう考えると、当時の女優たちは「女性」を演じていたんですね。

フェミニストからのメッセージ

フェミニストの苦しみ

その恐ろしいまでの頑強な「女性」というステレオタイプに対抗してみせた女性たち。写真家のシンシア・マカダムズが「EMERGENCE」でまとめた、当時のフェミニストの肖像には、そんな押し付けられた女性イメージなど微塵も感じさせない女性の姿がありました。

ただ、一方でそんなフェミニストたちにもフェミニズムを掲げているがゆえの苦労もあることが、彼女たちの口からこぼれてきます。

その一番の苦難は、フェミニストというだけで嫌悪感を持たれること

差別主義者の人たちからの攻撃は別にして、なんでもない一般的な人からも距離を置かれることもあり、男女平等を支持する人でもフェミニストを名乗ろうとする人はあまりいないという実情も。

その理由の一因として説明されたのは、フェミニストと公言すれば全ての男性が敵に回ると思っているという危惧でした。反男性というレッテルを貼られると、なにかと社会で生きづらくなる。実際はそんなことはないのに、そのイメージが怖い。
 
また、若い映像作家の女性が語ったイマドキな若者のフェミニズム感覚も興味深いものでした。「フェミニストかという質問は意地悪な質問よね」と語り、友人同士ではその言葉は使わないし、男女平等を訴えてもその言葉は用いないとか(むしろその言葉を使うのはカッコつけたがる男子だけというのが笑えますが)。これなんかはネット時代を生きる若者の炎上しないラインを見定めながら活動するバランスなのでしょうね。

さらに別の問題として、人種と絡めた問題提起がアフリカ系のフェミニストからあがっていました。人種問題では性は語れない、ジェンダーでは人種は語れない…どうすればいいのか。これもフェミニズムの議論の複雑さを物語っています。

少なくとも言えるのは、“女性への偏見”に挑んでいるフェミニストは、“フェミニズムへの偏見”にも挑まなければいけないということ。バッシング覚悟でリスクを抱えて活動しているのがフェミニストの勇気でもあります。だからこそ称賛されているのですが。

今日からあなたもフェミニスト

もしあなたの身近にフェミニズムについてよく理解していないような人がいたとしたら(それが会社の上司や政治家、マスメディアなど重要な職業ならなおさら)、本作をさりげなく勧めると良いのではないでしょうか。

誤解のないように書いておきますが、本作で説明された「フェミニズム」は一面的なものにすぎません。実際はもっと複雑で、いろいろ側面があります。

例えば、リベラルなフェミニストもいれば、保守的なフェミニストもいます。「同性愛を認めるか」「中絶を認めるか」「ポルノを認めるか」…そうした論点ではフェミニスト同士でも対立することも珍しくありません。本作で映し出されたフェミニストはリベラル寄りでしたね。当然、女性全員がフェミニストとは限りません。なかには自ら女性差別的な意識に身を投じていることを良しとする女性もいます。一方で、男性がフェミニストを名乗るのだって別に構いません。また、フェミニストであることを強要するものでもありません。

なので「あの人はフェミニストだ」という形で安易にイメージを勝手に固定化するのは良くないとは思います。当人が何を主張しているのか、その個人の想いに耳を傾けないといけないのでしょう。

本作だけを観て理解したつもりになるのでなく、他のドキュメンタリーを観るなどして、知識を高め続けることも大事です。

しかし、フェミニストが社会を大きく変えてきたのは紛れもない事実です。なにか文化革新が起こった時、そこにはフェミニズム運動が並行していました。そのムーブメントがなければ、世界は抑圧的で閉鎖的な傾向が強まるばかりだったでしょう。

今の私たちは過去のフェミニストの先人たちの活動を足場にして恩恵を受けて生きています。女性も、男性もです。では今の私たちは未来の世代のために何ができるでしょうか。

「女らしく」でも、「男らしく」でもない、「自分らしさ」を追い求めること。そう考えれば、フェミニズムも身近に思えてきませんか?

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 80% Audience 72%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

関連作品紹介

フェミニズムを題材にしたドキュメンタリー

  • 『グロリア・オールレッド:女性の正義のために/Seeing Allred』
  • …女性の権利のために率先して活動してきた、メディアを賑わす話題の弁護士グロリア・オールレッドに迫ったドキュメンタリー。敵を作りながらも自分を見失わない強さがあります。
  • 『彼女の権利、彼らの決断』
  • …アメリカで長年の間、論争の火種となっている中絶問題をテーマに、賛成派、反対派、双方の主張をまとめたドキュメンタリー。中絶問題の根深さが身に染みてよくわかります。
  • 『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』
  • …劣悪な性暴力が女性を苦しめているコンゴで、支援活動を行う人たちと被害者女性の姿を追いかけたドキュメンタリー。被害者からリーダーへと育っていく女性の姿に感銘を受けます。
『シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声』感想(ネタバレ)…性暴力を乗り越えて
(C)Netflix