グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル
Netflixドキュメンタリー映画『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Great Hack
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:カリム・アーメル、ジェヘイン・ヌジェーム

グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル

あらすじ

2016年の米国大統領選挙をきっかけに明らかになったSNSの闇。その象徴ともいうべきデータ会社ケンブリッジ・アナリティカと一連の事件に関与した人々を追う。私たちのデータはどのように利用され、どんな影響を世の中に与えているのか。ベールに包まれていた大規模テクノロジー企業によるデータビジネスの全貌が明らかにされようとしている。

ネタバレなし感想

信じるか信じないかは…

この文章を読まれている方ならお分かりだと思いますが、このブログでは広告が表示されています。ひとつは、「Livedoor Blog」運営側(LINE株式会社)が表示している広告。もうひとつは、このブログの執筆・運営者(私です)が表示している広告(Google AdsenseとAmazonアソシエイト)です。前者は強制表示なので私にはどうすることもできません。後者は私の意志で設置しているもので、プライバシーポリシーにも明記しています。この私の掲載する広告でほんのわずかな収入が得られています(そしてその収入は私の映画代金の一部に消えます)。

今やインターネットの世界では、このような広告を見ないということはあり得ません。もうネットユーザーであれば慣れっこでしょう。

これらネット広告は商品やサービスを売買・利用したか、もしくはクリックしたかで、収益が発生し、やりとりが行われます。これは理解できます。リアル社会の商売とたいして変わりありませんから。

しかし、このネット広告はそれらとは異なる、別のビジネスが“見えない裏で”行われているのを気にしたことはあるでしょうか。

それは「データ・ビジネス」です。

どんな人がどんな情報に興味を持つのか、どんな特性を持っているのか、ネット広告はそれらの情報収集媒体となり、その情報に基づいてまたネット広告が表示され…その無限ループです。つまり、私たちネットユーザーの“データ”が利用されています。

問題なのはこの“データ”がどんな情報で何に利用されて誰に渡されているのか、具体的にさっぱりわからないということ。このブログもデータ・ビジネスのいちパーツになっているでしょうけど、当の私も蚊帳の外です(単に文章を書いているだけの人に過ぎない)。利用規約やプライバシーポリシーを熟読しても「当社が本サービスを通じて取得し、管理する個人情報は、次の目的のために利用させていただきます」とざっくりしたお決まりのことを書いているだけで、具体例は全く不明です。

「どうせたいしたことないだろ…」と思いたいところですが、そうは言っていられない衝撃的な事件が世界を震撼させました。その事件を追いかけたドキュメンタリーが本作『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』です。

本作はSNSのパイオニアである「フェイスブック(Facebook)」が2018年に大きく報道された情報流出事件を題材にしています。この事件。日本では”情報流出”という扱いでマスコミも軽く伝える程度にとどまっていたせいか、ほとんど騒がれませんでしたが、実際は単なる”情報流出”ではありません。もっと深刻な、それこそ現代社会の在り方を根幹から問い直すほどの極めて重大な問題でした。

噛み砕いて言うと、インターネット上で大企業によって収集されている私たちのデータを利用して、選挙結果すらにも影響を与えられるほどの、マインドコントロールのためのシステムが一部の者の手で運用されている…という問題。

「そんなまさか! 陰謀論じゃあるまいし」…そう思いたいのもよくわかる。SF映画そのものです。でも、本作では内部告発者の口からその実態が生々しく語られていき、見て見ぬふりはできなくなっていきます。

信じるか信じないかはあなたしだい。しかし、作中ではこんな言葉がでてきます。
「誰もがプロパガンダの成功を認めない。なぜなら感化されやすい自分、プライバシーの欠如、プラットフォームへの依存による民主主義の崩壊を認めたくないからです」
“信じないこと”は誰でもできます。一方で“信じること”はとてつもなく難しいです。とくにそれが自分にとって不都合な事実ならなおさら。

でも“学ぶこと”は、誰にでもできて、そこまで難しくもないことじゃないでしょうか。

『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』は、特定の組織や個人を断罪・批判する作品ではなく、私たち全員に等しく問いかける作品です。学ぶにはうってつけのはず。

SNSで膨大に流れてくる情報に目を動かすのを一端止めて、ちょっとだけ本作を観る時間を作ってみませんか。

オススメ度のチェック
ひとり◎(深く考えさせられる)
友人◯(議論が盛り上がる)
恋人△(恋愛気分とは無関係)
キッズ◯(教育的な意義はある)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

ケンブリッジ・アナリティカ

インターネットは世界や人々をつなげるもの…それらテクノロジーを支えるテック企業は新時代を切り開いた先駆者…。

そんな現代の価値観の基盤が、2016年のアメリカ大統領選で崩壊し、幻想であることが判明しました。ドナルド・トランプを大統領に椅子に座らせたこの選挙は、分断を生み出し、その引き金となったのがインターネットでした。

「プロジェクト・アラモ」と名付けられたトランプ大統領の宣伝キャンペーン(名前の由来は、テキサス独立戦争における戦闘である「アラモの戦い」)。選りすぐりのエキスパートが集められ、選挙戦に勝つためのあらゆる戦略、とくにネットマーケティングが計画・実行されました。1日100万ドルをフェイスブックの広告に使ったというから驚きです。

そのトランプを勝利に導いたネット戦略プロジェクトに重要な役割として参加していた企業が「ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica;CA)」でした。CAはイギリスに親会社がある企業で、専門業務は選挙コンサルタント。CEOである「アレクサンダー・ニックス」いわく、国民のパーソナリティを予測し、標的を絞った動画コンテンツを配信する革新的なシステムを提供しているのだとか。行動心理学+ビックデータ+ターゲティング広告…これらを合わせたビジネス。

トランプ以外にも、トランプが勢力を強める前に大統領選の先陣を走っていたテッド・クルーズの躍進を支え、イギリスのブレグジット(EU離脱)にも関わっていたCA。

もはや世界の政治に大きな力を持っているのではないかと疑われてもしょうがないほどの存在感であり、デイビッド・キャロル准教授はCAの影響力を危険視するひとり。

もしCAが中立的ですらなく、ただのプロパガンダのためにデータを悪用しているなら大問題ではないか。というのもCAの副社長が「スティーブン・バノン」なのでした。社名の名付けでもあるというスティーブン・バノン…知っている人は知っているとおり、非常に保守右翼的論客として知られる人物です。

しかし、やはりネット広告は実態が表からは全く見えてきません。それこそ内部関係者でもないかぎり、何が行われているのはわからずじまい。

そしてそれを知る機会がやってきます。

二人の内部告発者

『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』では、二人の元ケンブリッジ・アナリティカの内部告発者が登場します。

ひとりが、赤髪の「クリス・ワイリー」。CA社の元社員でデータサイエンティストだった男性。彼いわく、「CA社はデータサイエンスやアルゴリズムの会社ではない。フルサービスのプロパガンダ製造機だ」とのこと。ひとりひとりの心理プロファイルを作り、気づきもしないうちに、国全体の心理を操ることが可能だとか。

そして二人目が、CAの経営トップ陣だった「ブリタニー・カイザー」という女性。彼女が内部告発者側に回ったことは、さすがのCAにも衝撃だったようで。当然、中枢にいた人間なので、彼女のメール受信箱やハードドライブには、インパクト大の爆発を起こす情報だらけ。

ブリタニー・カイザーの口から語られるのは、さらなる詳細なCAの手口。標的は全員ではなく、意見を変えられそうな人…説得可能者(the persuadables)をチョイス。激戦州の説得可能者を抽出し、とくに激戦な投票区に焦点を絞り、ブログ、記事、広告、動画で情報攻めにする…それこそ“望み通りの思想になるまで”。もちろん、投票させない、無関心にさせることもできる…と。

あまりにもいけしゃあしゃあと言うものだから、恐怖を通り越して“何言ってんだ、こいつ”という感じですが、実際の生のやりとりを示すメール等の内容がやけに爽快な彼女とは対照的に無言の説得力を放っていました。

CAは一連の業務が問題視されると、以前は公私で自慢するかのように功績をアピールしていたニックスさえも一転、不利になると「話せない」の連発。

そしてそんなCAに莫大なデータを提供していたのが、世界有数の巨大プラットフォームを持つ、ITの巨人「フェイスブック」。創業者兼会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグは、今回のCA問題が原因で聴聞会に呼ばれ、被害者半分加害者半分のような歯切れの悪い立場でオドオドするばかり。

グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル

人は、案外、簡単に変えさせられる

これだけだと、『シチズンフォー スノーデンの暴露』で題材になった、エドワード・スノーデンによるアメリカ政府の情報監視と同質な問題に見えますが、このCA問題は少し異なると思います。いわゆる“権力者の不正を暴いてやったぜ!”というカタルシスには単純にはなりません。


その本作の複雑性を象徴しているのが、告発者のひとりであるブリタニーです。

彼女の経歴がとにかく興味深いです。昔はオバマ陣営でインターンで参加し、SNSを担当。その後、アムネスティ・インターナショナル、国連などでの人権保護のためのロビー活動を身を投じた、と。そして、偶然にCAのアレクサンダー・ニックスと出会い、正反対な世界に転身。仕事だけでなく彼女のパーソナリティさえも変化したようで、コンサバで上品嗜好なライフスタイルに変わり、射撃もやって、全米ライフル協会の会員にもなったと、本人から語られます。

ブリタニーがなぜこうも激変したのかは本人もよくわかっていないようでしたが、このエピソードがユニークなのは、つまり彼女自身が“情報によって人間は変わる”ということを体現している存在だということ。

CA問題への反論でよく言われるのが、そんなターゲティング広告程度で人は変わらないという意見です。確かにそうかもしれません(まあ、だったら広告自体意味ない、詐欺ビジネスじゃないかという話になりますけど)。

でも人の人格や価値観を決めるのは、結局のところ、“情報”なのではないの?というのもひとつの真理。その情報を信じるか否かで左右されます。

例えば、本作の二人の告発者は絶妙に互いを信用せずに対立関係にあるのも、“情報と信用”の関係を示していますよね。クリス・ワイリー勢はブリタリーに懐疑的。

人は何を信用して、何を信用しないか、その積み重ねで“今”がある。その積み重ねをデータとして定量化してしまったのがデータ・ビジネス。その新興ビジネスに支えられているのが、私たちの経済社会。

なんか引き返せないところに来てしまった感じがします。

たぶんこのドキュメンタリーを観ても、あまりにも漠然とした“不気味さ”だけが心にじんわりと広がるだけで、何をすればいいのかもわからないと思います。あなたの目の前に殺人鬼が迫っています!とかだったら、すぐに人は防衛行動をとるものです。でもインターネット世界であなたの“データ”に起こっているこの問題は、危機感のスケールがイマイチ判別しにくい。しかし、それこそが怖さなのです。目に消えない、痛みすらもない凶器ほど、怖いものはないじゃないですか。

対立ではなく、データ権を

この『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』こそ、反トランプ派のプロパガンダだ!という声も聞こえてきそうですが、実際、CA側は「世界のリベラル派メディアが私に組織的な攻撃をしている」と“こっちが被害者である”という主張していることが、作中でも示されます。

確かにCAやフェイスブックだけの問題ではないはずです。それこそデータ・ビジネスに手を出している企業は山のように存在します。

日本もつい最近、選挙があったばかり。そこでもテクノロジー企業がたくさん関わっていました。表向きは「選挙に関心を持ってもらうため」「わかりやすい選挙の情報提供」など、綺麗な目的を掲げていますが、そこでもデータは確実に取られています。支持政党調査という名目でネットアンケートをしたことがある人もいるでしょう。その際、いちいち利用規約を読んでいますか? 何に使われるか、知っていますか?

作中でデータ権を訴えるキャロル・キャドワラダーの言葉が胸に残ります。
「右派と左派、離脱と残留、トランプ支持か否かではなく、これは自由で公平な選挙を行えるかどうかです」
「これが私たちの望んだことですか? 暗闇の中でスマホをいじることを」
データ権が基本的人権として認められる未来は来るのでしょうか。それとも私たちはデータを提供する家畜みたいな存在で生きるしかないのでしょうか。

本作の冒頭にはネバタ州で行われる「バーニング・マン」というイベントの模様が映ります。これは何もない荒地に、一定期間だけ既存の社会から乖離した、全く独立の社会をゼロから築こうとするコミュニティ実験を兼ねたお祭りです。

こうやって人間社会は破壊と創造を繰り返しながら、より良い社会の実現のために試行錯誤するしかないのか。少なくとも今の欠陥が見え始めたインターネット世界は永遠には続かなさそうです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 90% Audience --%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix