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『カルト集団と過激な信仰』感想(ネタバレ)…国葬してもカルトまでは葬れない

カルト集団と過激な信仰

国葬してもカルトまでは葬れない…ドキュメンタリーシリーズ『カルト集団と過激な信仰』の感想です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Cults and Extreme Belief
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年に配信スルー
製作総指揮:アーロン・セイドマン ほか
性暴力描写 児童虐待描写

カルト集団と過激な信仰

かるとしゅうだんとかげきなしんこう
カルト集団と過激な信仰

『カルト集団と過激な信仰』あらすじ

信仰の自由は保障されている。しかし、有害で危険な信仰が人々の心と体を蝕むこともある。世界中に存在し、拡大し、暗躍しているカルト。その実体は元信者にしかわからない。なんとかそのカルトから抜け出した元信者たちが重い口を開き、壮絶な体験を語っていく。次の被害者を生まないために…。そしてカルトの専門家たちがその巧妙なマインドコントロールの手口を解説する。あなたのそばにもカルトはいる…。

『カルト集団と過激な信仰』感想(ネタバレなし)

目を開いて現実を見よう

2022年7月8日、衝撃のニュースが日本を震撼させました。私はこの日は映画館で映画を観ていたのですけど、妙に周囲の外に人が少ないなと思ったら、みんなニュースに釘付けだったんですね。

11時31分頃、参議院議員通常選挙のために奈良市で街頭演説をしていた“安倍晋三”元首相が銃で撃たれ、死亡するという事件が発生。銃犯罪自体が珍しい日本でまさかここまで元首相で今も絶大な影響力を持つ政治家が殺されるというのは前代未聞。しかし、その裏にある背景の方がよほど異常でした。

その場で逮捕されたのは元海上自衛隊員の40歳代の人。この凶行におよんだ動機は、家庭が「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の信者であり、多額の寄付によって家庭が崩壊したことへの恨み…。

統一教会はもともとカルトとして専門家から厳しく非難を集めており、その霊感商法高額献金、結婚の強要、人権軽視といったあれこれは問題視されていました。しかも、政治…とくに自由民主党(自民党)との繋がりが深いことも指摘されており、殺された“安倍晋三”元首相も頻繁に広告塔のように統一教会に関与していました。

この事件を機にこの「統一教会と政治」の問題はかつてないほど注目を浴びます。続々と判明する統一教会と政治との癒着。一方で、統一教会側やその擁護者は「これは宗教だから、信仰の自由がある」とかばいます。でも宗教とカルトは異なるものです。

こうしたカルトを軽視したことによる凄惨な事件は日本ではこれが初めてではありません。かつて「オウム真理教」も同じでした。つまり、カルト絡みの大事件を日本はまたみすみすと繰り返したことになります。

それもまた日本に暮らす私たちが「カルトとは何か」という問いと向き合ってこなかったゆえです。

しかし、それを疎かにして現政権は“安倍晋三”元首相の国葬を9月27日に実施。葬儀は終わっているので、これは国葬という名の16億円以上を投じた追悼イベントであり、当然ながら批判が噴出しています。

ここで追悼ムードで問題に幕引きを図りたい魂胆が見えますが、日本は正真正銘の岐路に立たされていると思います。日本は国家自体がカルトに蝕まれているということです。日本は(カルトにとって)美しい国になっているんじゃないか。

日本の歴史上最もカルトを身近に感じる事態となった今、カルトを知るためにも今回はこのドキュメンタリーを紹介します。

それが本作『カルト集団と過激な信仰』です。

本作は「A&E」というアメリカのケーブル・ネットワークが制作したドキュメンタリーであり、ジャーナリストでレポーターである“エリザベス・バルガス”がホストを務め、カルトの専門家や元信者の出演を交えつつ、アメリカを中心に7つのカルトを取材しています。その中には統一教会系関連団体である「サンクチュアリ教会」もあります。

「カルトとは何か」という漠然とした問いに答えるものであり、本作を観ればカルトとそうじゃないものの違いが明白です。同時にどんなものでもカルトになり得る怖さも見えてきます。

国葬ではカルトは葬れません。目を背けることはまさにカルトの術中に取り込まれるだけ。本当に悲劇を繰り返したくないと思っているのであれば、目を閉じて黙祷するくらいなら目を開いて現実を見てみませんか。

『カルト集団と過激な信仰』を観る前のQ&A

✔『カルト集団と過激な信仰』の見どころ
★カルトの実態が生々しく伝わる。
✔『カルト集団と過激な信仰』の欠点
☆性暴力や児童婚の実態は気分は悪くなる。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:カルトを知りたいのなら
友人 3.5:興味関心ある者同士で
恋人 2.5:気分は盛り上がらない
キッズ 2.0:子どもに不適切な人ばかり映される

『カルト集団と過激な信仰』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『カルト集団と過激な信仰』感想(ネタバレあり)

NXIVM(ネクセウム)

“キース・ラニエール”という実業家が1998年に設立した「NXIVM」。表向きは能力開発セミナーということになっており、自信のない人たちがここで肯定感を獲得し、評判が人を集め、どんどんと人気の団体となっていきます。

この「NXIVM」は宗教というよりはビジネス系のコミュニティ寄りで、オンラインサロンとかに近いですね。

ラニエールはIQ240の天才と称され、先入観がないと高潔な人に思えたと元信者は語ります。しかし、実態はセックスカルトであり、倫理観ゼロのコミュニティでした。

大勢の女性が霊的な力が授かると誘われセックスすることを誓い、ラニエールのイニシャルの焼き印を体に施されたり、はたまた恐怖の実験として女性の首を切断する映像(スナッフ・フィルム)を見せられたり…。

この「NXIVM」の回では、いかにしてカルトが女性を道具に利用するかがわかります。女性を看板に起用し、勧誘の強力な手段に使う。その先導者だったのが『ヤング・スーパーマン』に出演していた女優の“アリソン・マック”で、女性限定のグループである秘密結社「DOS」が築かれていきました。

「女は男に忠実に服従すべきだ」という明らかにヤバそうな思想も著名人のブランディングでいとも簡単に抵抗感がなくなってしまう…。恐ろしいかぎりです。

エホバの証人(Jehovah’s Witnesses)

別名「ものみの塔教会」とも呼ばれる「エホバの証人」。世界に830万人以上の信者がいるとされ、日本でも活動は盛んです。作中では「勧誘に来る人たち」というイメージだと指摘されていましたが、まさにそんな感じ。

“チャールズ・テイズ・ラッセル”を創始者とし、統治体という借り物のカリスマで成り立ち、教会と呼ばずに王国会館と呼び、ハルマゲドンで信者以外は絶滅すると教えるなど、独自の世界観を構築しています。

勧誘によって多忙で子ども時代を奪われた信者は多いですが、問題はそれだけではありません。

この回では、コミュニティ内での犯罪がいかに隠蔽されやすいかが浮き彫りになります。虐待を受けても、男性しかいない長老たちという男は支配する世界で、しかも密室で裁きを決めるという閉鎖空間。悪行を訴えるには2人の証人が必要ですが、加害者を擁護し、被害者を嘘つきと言い放ち、それはまるで加害者保護の要塞と化します。

実際、多くの訴訟を隠していたことがわかり、聖書を犯罪を揉み消しするのに都合がいいように解釈し、加害者の罪は赦されていました。脱退の難しさも映し出されます。

ホモソーシャルな閉鎖性という闇は別にカルト以外でもあるでしょうが、その特性自体がまさにカルト的なのかもしれませんね。

神の子供たち(Children of God)

1968年から始まった「神の子供たち」、今の組織名は「ファミリー・インターナショナル」。創始者の“デービッド・バーグ”の教義では「女性は体を男を喜ばせるために使うべきだ」とされ、美しさを解き放つことを推奨。バーグの誕生日にはベール1枚で女性たちを躍らせ、子どもも混ざっていたというのですから、聞いているだけで吐き気がしてきます。

その歪んだ性的搾取の魔の手はバーグの孫のメアリーにまでおよび、祖父との性交を拒んだことで処罰の対象になり、矯正合宿で悪魔祓いを…。

女性を広告塔に利用するカルトもいれば、「神の子供たち」のように創始者の欲望を満たす食い物にしかしないカルトもいる。共通しているのはやはり女性は道具だということです。なぜカルトは女性を狙いやすいのか、その理由が透けて見えます。

自殺率の高さも取り上げられ、バーグの義理の息子リッキーは幼い頃から信者との性交を強要され、最終的にリッキーは信者を殺害し、自殺を遂げるという顛末。

カルトに苦しめられた若者が暴力でしか逃げ場がなくなる。既視感のある出来事です。

U.N.O.I.(United Nation of Islam)

これまではどちらかというと白人主体のカルトでしたが、この「U.N.O.I.」はアフリカ系アメリカ人を餌食にする黒人主体のカルトです。

創始者“ロイヤル・ジェンキンス”は元「ネーション・オブ・イスラム」の信者で、「ネーション・オブ・イスラム」の“ルイス・ファラカン”の活動は失敗だと考えており、アフリカ系アメリカ人の未来を切り開く自分なりの方法を模索。

それはいいのですが、その後「バリュークリエイターズ」と組織の名前を変えて以降、ジェンキンスはアラー本人であり、神であると教えるようになり、黒人の歴史は他の惑星に起源があると主張。明らかに人種差別撤廃とかとは別次元に突き進んでいる…。

そして黒人の子どもを各所から集め、共同生活を送らせて「Hallo」や「Hi」という単語の使用禁止を徹底し、体罰で支配。あげくに児童労働に駆り出してカネ稼ぎに利用するという…。

人種差別に苦しんでいたはずのアフリカ系アメリカ人をあろうことか黒人中心のカルトが今度は虐げていく。最悪のパターンであり、言語道断なのですが、こうした出発点は差別の打破であっても、いつの間にか狂信的で常軌を逸したカルトへと変貌していることは起きうるわけで…。

カルトって本当にどんな種からも芽生える悪魔の植物みたいですよ…。

世界平和統一聖殿(サンクチュアリ教会)

「結婚式を執り行います。参列する男女は王冠とAR-15ライフルを備えてください」…この耳を疑うアナウンスから始まる「統一教会」の分派となる「サンクチュアリ教会」の合同結婚式の様子。数百人レベルで一挙に結婚するのさえも意味不明なのに、アサルトライフルを全員が抱えているという、ギャグでやっているにしては気合入りすぎでは?と思ってしまう光景ですが、当人たちは真面目です。

そこに追撃を加えるかのごとく、サンクチュアリ教会の広報の人がこんなコメントを発します。「何をもってカルトというのか。私は人に好まれない小さな宗教団体だと考えます。それがカルトでしょう」…この認識の人に何を言っても無駄だと察するに時間はかかりません。

統一教会とは“サン・ミョン・ムーン”が先頭に立つ組織で、イエスが果たせなかった使命を成し遂げた王の中の王である救世主と名乗り、原罪のない種族を繁栄させるという名目で合同結婚式を世界で乱発しています。2012年に“サン・ミョン・ムーン”が死去してから3派に分離。未亡人となった“ハク・チャ・ハン”は中核組織を統率し、三男の“プレストン・ムーン”は巨額な資産を手中に。そして“ショーン・ムーン”は銃にハマり、聖書にある「鉄の杖」を「銃」と解釈し、全体的主義で自分の武装団体を築いていました。

もともと人権なんてなんのそので、反LGBTQで、何でもありなのですが、武装までしだしてしまうと露骨にヤバさが増します。銃社会のアメリカでさえもドン引きです。「キリスト教の宗教団体ではありません。パラノイアのグループです」と識者に評されるのも無理ないです。

統一教会系コミュニティのカルトとしての突出した異常さが嫌というほどによくわかります。

十二の使徒(Twelve Tribes)

子どもを体罰でしつけするというのは日本社会でも平然と行われてきたことですが、今は批判のまととなっています。そしてこの体罰が行き着く先はやはりカルトであるということがわかるのがこの「十二の使徒」です。

創設者“ユージーン・スプリッグス”は独自の教義を次々と考えだしているわけですが、その中には「奴隷制の廃止は間違っている。黒人を奴隷にすることは素晴らしい機会である」というものまであり、その考えを支えているのは子どもへの体罰の絶対的な支持でした。

「生後6カ月から棒でしつけなさい」と言い切り、誰の子どもでもしつけることができるこのカルトでは、この体罰に倫理的な疑いすら持ちません。人は暴力でコントロールしてもいい…この固定観念があります。

それは身体的な暴力だけでなく、精神的な虐待もカルト内で蔓延しており、そうやって身も心もズタズタにされた子ども時代を過ごした元信者がたくさんいて、今も子ども時代を過ごしている子もいる…。

また、一見するとオシャレな若者の溜まり場に見えるイエローデリ・レストランをあちこちで経営し、大学のキャンパス近くに出店することで、学生を勧誘している実態が明らかになり、カルトがいかに身近にいるのかを痛感できます。

FLDS(末日聖徒イエス・キリスト教会原理派)

カルトは指導者を逮捕すれば消滅する?…そんな考えは甘いことを突きつけるのがこの「FLDS」の回。

末日聖徒イエス・キリスト教会から原理主義的な思想で再構築されたようなFLDSは一夫多妻制を基盤にし、指導者である“ウォレン・ジェフス”は絶対に正しいとメサイア・コンプレックスで信者に思いこませています。

信者たちは自分らの生き方に微塵も疑いを持っておらず、このドキュメンタリーの取材も快く受け入れ、共同体の内部を案内。質素な自作の服装と祈りによる穏やかな生活で、部屋には預言者の写真があり、親しみを込めて「ウォレンおじさん」と呼んでいると和やかに語ります。

けれどもその「私たち異常じゃありませんよ」といくら穏やかに取り繕っても、十何人と妻がいたり、19人産んだ女性もいたり、「結婚に不適切な年齢はありません、2歳でもいいです」と児童婚をあっけなく肯定して断言したり、そんな姿を見せられるとその穏やかさがむしろ狂気を底上げしている…。

共同体は外界から隔絶し、それ以外の情報はシャットダウン。自分を客観視はできません。「違う世界を知るのは共同体で生き続けるより辛いのです」と指摘する専門家の言葉が胸に残ります。

FLDSについてはドラマ『アンダー・ザ・ヘブン 信仰の真実』でも実際の凄惨な事件に基づいて実態が描かれているので気になる人はそちらも視聴してみてください。


これらのカルトを取り上げていくのを観た後で、「私は無神論者だから大丈夫」とまだ思っているなら、それは危険です。

なぜならカルトはどこにでも、何でも、存在しうるからです。

本作で扱ったのも氷山の一角。宗教やビジネス、教育を基盤にしたものから、趣味やカリスマ性のある著名人を利用するものもありますし、カルトなんていくらでも発生します。人間であればそれだけでカルトにハマる可能性がある…そう思った方がいいでしょう。

私たちの信仰の自由にはこうしたカルトを拒絶する自由も含まれます。

拒絶していきましょう。それがひとりひとりにできるカルトへの対抗策です。

『カルト集団と過激な信仰』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)A&E Networks

以上、『カルト集団と過激な信仰』の感想でした。

Cults and Extreme Belief (2018) [Japanese Review] 『カルト集団と過激な信仰』考察・評価レビュー