きみの鳥はうたえる
映画『きみの鳥はうたえる』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:きみの鳥はうたえる
製作国:日本(2018年)
日本公開日:2018年9月1日
監督:三宅唱

きみの鳥はうたえる

あらすじ

函館郊外の書店で黙々と働く“僕”と、一緒に暮らす失業中の静雄、“僕”の同僚である佐知子の3人は、夜通し酒を飲み、踊り、遊んで、笑い合う。微妙なバランスの中でかろうじて成り立つ3人の幸福な日々は、誰かに理解されることもなく続いていたが、いつも終わりの予感とともにあった。互いすらも理解しているのかわからない。そんな関係はまたも揺れ動く。

『きみの鳥はうたえる』感想(ネタバレなし)

亡き作家「佐藤泰志」は映画で蘇る

この人の小説は映像化されると必ず良作になる…そういう人物がたまにいます。

もちろん映像化した製作陣の力量だって良し悪しを大きく左右するのですが、やはり原作の力というのは偉大なもので、圧倒されてしまうことがあるのですよね。

そんなことを感じる人物を挙げるなら「佐藤泰志」の名前を忘れるわけにはいきません。

北海道の函館生まれの小説家。高校時代からその文才が高く評価され、作家生活を本格的に始動してからも芥川龍之介賞候補に何度もあがり、三島由紀夫賞候補にもなったり、これだけ見ると文句なしの評判じゃないかと思うものです。しかし、作家本人の心のうちは読めぬもの。1990年、自宅近くの植木畑で首を吊って自殺。41歳。唐突に命を絶ったのでした。

それ以降は作品は絶版になってしまったらしく、創作者の死とともに作品も葬られた状態になったのですが、再出版となり、新しく光があたることになります。

そして佐藤泰志の名を輝かせることになったのが映画化です。2010年に熊切和嘉監督によって『海炭市叙景』として映画化。続いて2014年には呉美保監督によって『そこのみにて光輝く』が公開。さらに2016年には山下敦弘監督によって『オーバー・フェンス』が作られ、これら3作を合わせて「函館3部作」と呼ばれました。いずれも非常に高い評価を獲得し、映画ファンの間でも佐藤泰志は記憶に刻まれました。

この3作の製作に携わり、生みの親のようになっているのが“菅原和博”です。函館に住んでいて映画館を運営している“菅原和博”が偶然「佐藤泰志作品集」を紹介されて、そこで知ったという運命的な出会い。映画作りのノウハウもない中で、資金集めも探り探りでやってみたそうで、それでまさかここまでの名作揃いになるとは…。映画って何が起こるかわからないものですね。

まさにこの世から消えた作家を映画で復活させたようなものです。

そんな佐藤泰志作品がまたも映画化され、しかも期待どおりの素晴らしい出来でやってきてくれました。それが本作『きみの鳥はうたえる』です。

原作は佐藤泰志の初期の作品(1982年)で、印象的なそのタイトルはビートルズの楽曲「And Your Bird Can Sing」の直訳に由来しています(作中でもこの曲は使われています)。

中身も佐藤泰志作品らしい、地べたを這いつくばるような閉塞的社会の下層で生きる者たちのささやかな交流を描いていくもので、ほんのわずかな人生への渇望が心に染みます。これまでの佐藤泰志作品の映画が気に入っている人は今作も夢中になれるでしょう。

『きみの鳥はうたえる』は2018年の映画ですが、批評家からの評価も非常に高く、「キネマ旬報ベスト・テン」にランクインしていました。映画ファンのコミュニティ内ではそこまでの熱狂的な盛り上がりを見せていたわけではなかったと思いますが(当時は『カメラを止めるな!』に全ての熱が持っていかれている感じでしたね)、その年のマイベスト10に入れる人もチラホラと目立っていました。

監督は『やくたたず』『Playback』『密使と番人』の“三宅唱”。なお、“三宅唱”監督も北海道出身です。良い原作と良い監督がミックスすれば、それは最高な映画が生まれるよねという組み合わせですね。

俳優陣は、まず主人公を演じるのは『居眠り磐音』『アルキメデスの大戦』『火口のふたり』の“柄本佑”。両親も兄弟も俳優で、妻は安藤サクラという、どっぷり俳優ファミリーですが、そのせいなのかなんなのか抜群の演技力の持ち主で、今作でも彼にしかできないようなキャラクター性をいかんなく発揮しています。

その主人公の友人を演じるのが“染谷将太”です。こちらも文句なしの若き名俳優。結構クセが強く、どの作品でも“染谷将太”カラーが出るのですが、別に違和感もない…馴染んでしまう能力が凄いなと毎度毎度思います。

その二人の男に混ざり合っていくヒロインを演じるのは、主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で高く評価された“石橋静河”。俳優の石橋凌と原田美枝子の間に生まれた次女という背景を背負いつつも、圧倒的な演技を見せ、本作でさらにステージアップした感じです。

ということでこれら役者勢のアンサンブルが惚れ惚れするほどに見事すぎる作品でもありますし、原作の素晴らしさもあって見逃しているのは本当にもったいない一作です。『きみの鳥はうたえる』を観れる機会があったら、ぜひとも鑑賞してみてください。

オススメ度のチェック
ひとり◎(邦画ファンは必見)
友人◯(シネフィルな邦画好き同士で)
恋人◯(恋愛模様も見られます)
キッズ△(大人のドラマです)

『きみの鳥はうたえる』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『きみの鳥はうたえる』感想(ネタバレあり)

いつまでも続くような気がした

函館の夜の街。「飯どうする?」と会話する男二人がいます。「兄貴にカネを借りる」と静雄は言い、もうひとりの男(主人公=“僕”)はさらりと納得して歩きます。

「僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした。9月になっても10月になっても次の季節はやってこないように思える」

主人公が働いているバイト先の本屋。そこでも森口という男が「あいつそろそろクビにした方がいいんじゃないですか」と連絡もせず来ないその“あいつ”をやじっています。それに対して店長である島田は「まあそうかもね」とそっけなく返します。

夜の街でひとりぼっとしていた主人公に帰宅中で偶然出くわした島田が「おい」と話しかけてきました。「なんでさぼったんだ。ちゃんと来いよ」と言い放ち、立ち去っていきました。その後ろをついていくように歩く女性。彼女は佐知子と言って、同じバイト先の同僚です。その佐知子は、主人公の横を通り過ぎざまに一瞬に触れるようにして過ぎ去ります。

そんな一瞬のことにもとくに動じないように見える主人公ですが、その場で立ったまま、心の中で数字を数えだします。120になったら消えようと思いながら、カウントを続ける主人公。

…117、そこまで数えたとき、佐知子が戻ってきました。「良かった、心が通じたね」そう言いながら「ねえ、どっか飲みに行かない?」と誘う佐知子に、いったん帰って飲み屋で待ち合わせしようという流れにし、連絡先を交換します。

一方で、静雄は母である直子に「いくらカネ持ってる?」と聞かれていました。失業保険は切れたと説明するも、母は「私が変な病気になったら治療とかしないでね」などと呟き、いつものように静雄に接してきます。

その夜中、静雄のいる部屋に主人公が来ます。二人は同じ部屋で同棲していました。静まり返った港や街で二人は無邪気にじゃれあいます。とくに目的もなく。

翌日、軽食店で主人公は佐知子と会います。「昨日、店には行ったの?」と聞くと「一緒にあんたの悪口で盛り上がったよ」と店の人との話題を口にし、「なんで約束破ったの」と聞いてきます。「気づいたら寝ていた」と答える主人公。「やっぱり誠実じゃない人なんだね」と言う佐知子。

しかし、二人は急速に仲を深め、主人公の家でキスをし、体を交えます。

静雄が帰ってきて玄関を開けるが、佐知子の声が聞こえてそっと退散。「さっきの友達?」「気づいてたの?」「悪い事したかな?」と行為が終わった後に会話する主人公と佐知子。

静雄が帰ってくると、初対面の佐知子と紹介し合います。静雄いわく前にアイスクリームの工場で知り合ったとのこと。

3人はコンビニへ行き、ひとつの傘に3人で入り、いつのまにかすっかり親密になっていきました。

あまりどこかに遊びに行くのが好きではないらしい主人公は、静雄が佐知子を映画に誘っていても全然良いらしく、「行って来いよ」とあっけなく後押し。

3人はそれからも頻繁に遊び、ビリヤードをしたり、夜通しで交流は続きます。

本当にそれはいつまで続くのか、それはわからずに…。

きみの鳥はうたえる

嘘をつけるか、つけないか

『きみの鳥はうたえる』はとくに大きな事件が起きるわけではありません。殺人とか誘拐とかもないですし、人生を賭けた大勝負が待っていることもない。ただ働いて、遊んで、そういう繰り返しです。つまり、物語としてのわかりやすい面白味はないように見えます。

でもなぜこんなにも惹きつけられるものがあるのか。それはあの3人の関係性の揺らぎだけで観客の心を持ち去っていく…そういうパワーがあるからです。

その本作の主たる見どころになる3人の関係性ですが、説明的な要素はありません。普通であれば男と男と女…三角関係のように描くものですけど、そういうベタなフォーマットに収まるものにもしていません。そこは観客の解釈に委ねています。

もちろん三角関係的に捉えても全然いいのです。あまり自分を表に出さない主人公が、付き合い始めた静雄と佐知子を前に、無関心を装いつつも、ラストは「好き」という気持ちを告げる。そういう愛の告白のストーリーなんだという解釈でも普通に成り立ちます。

ただ私の個人的な見方としては、あの3人はすごく「ポリアモリー」なんだろうなという感覚で受け止めていました。

3人の関係性を把握するうえで役に立つのが作中で何度も登場する「嘘」。どうやら主人公と静雄は嘘をつかない関係のようです。序盤で「さっき嘘ついた。兄貴に会えなくて母さんに会った」と静雄は主人公に告げるのですが、傍から見るとそんなに重要なことでもない気がするし、それを明かすこともない情報です。でも素直に真実を言う。それが二人の信頼の証なのでしょう。

一方で、主人公はそれ以外の人にはあまりにも平然と嘘をつきます。バイト先の男性陣へも「体調悪くて1日中寝てました」などと息をするように嘘をつきますし、当初は佐知子に対しても「気づいたら寝ていた」と待ち合わせに来なかった理由をでっちあげます。

しかし、佐知子と映画に行って来いよと言われた静雄にはあからさまに「なんでそういうこというの」と微妙な反応をします。これはきっと主人公の中に潜む嘘に気づいたからなのではないかなと。

また、静雄の母が訪ねて来たことを「言わないで」と言われていたのにいとも簡単にポロっと静雄に喋るあたりといい、普段から静雄には嘘をつかないのが体に染み込んでいるのでしょうね。だからこそ主人公の佐知子への反応には静雄的には引っかかるものがある。

そしてラストで主人公は「さっき俺、嘘ついた。本当に静雄と付き合うのか。俺は佐知子のことが好きだ」と嘘を告白します。数字を数え終わらず自ら駆け寄ったり、完全に立場は逆転。

この時点で主人公と静雄との関係と同じように、佐知子とも“嘘をつかない”関係を築けたことになり、本当に対等な三角の関係ができました。

関係性を表す演出の数々

『きみの鳥はうたえる』は3人の関係性をさりげない演出で示していて、そこが本当に味わい深くて良いのですが、それは「嘘」にまつわる部分だけではありません。

例えば、主人公と静雄が同棲しているという事実を、主人公が最初に家に帰ってきたことを映すシーンでの暗い部屋に「ただいま~」と呟く場面だけで、本当にさりげなく示してみせたり。

スマホでコミュニケーションし合う場面も何度か登場しますが、そのスマホは割れて一筋大きなヒビが画面に入っており、それだけでも少し歪に欠けた交流が行われていることも匂わせたり。

最初に3人が揃うシーンで、雨で塗れた佐知子にTシャツを貸して、帰りに送っている最中にそれが静雄のものだと説明しますが、そのTシャツは静雄と佐知子が出かける際に静雄が着ています。そういう視覚的な情報が入ることで、この静雄と佐知子の関係の前進を感じさせます。

逆に静雄と佐知子がキャンプに行ったはずなのにそこは描かないなど、ドラマ性を出せる部分をあえて避けているのもとても抑えたストーリーテリングです。でもそのTシャツの件だけでもなんだか観客には伝わる人は伝わる。そういうさりげなさがいいですね。

また、主人公と佐知子がセックスする際に、佐知子についた虫を主人公が窓から外に逃がします。「殺すと友達が嫌がるんだよ」と言って。で、中盤で主人公は調子いいことを言う森口に異様な勢いで暴力を振るうシーンがあります。虫も殺さないはずなのにこのバイオレンス。この2つの場面を見ていると、おそらくこの主人公は過剰な暴力性が抱えていて、それを抑え込めるのは静雄だけなんだろうな、と。佐知子にはそれができず、だから書店でも一触即発になることがあるのでしょうし…。

つまり、主人公には静雄と佐知子の両方が必要であるということを意味するわけで…。それを説明ゼリフではないシーンの積み重ねで表すのは上手いもんだななんて勝手に感心したり。

他にもあの3人以外のキャラクターの織りなす関係性も良い感じで、単純な嫌な奴を出さずにそれぞれの人間的弱さを描き、それが関係性で補完される感じは見ていて心地いいです。森口と島田はあのまま万引きハンターに勤しんでいる姿が見たいなと思うしね…(なんだそれ)。同じバイト先のみずきを演じた“山本亜依”も少ない場面ながらとても人間性のこぼれる名演で印象に残りました。

忘れてはいけない函館のロケーションもさすがにハマりまくっていました。原作では東京郊外が舞台らしいですけど、それを函館に変えるだけの価値はありました。函館は観光地として有名ですけど、ああいう閑散とした空気感はやはりあって、やはり“地方”なんですよね。その街の捉え方がよくでています。生っぽくてほんと良い空気です。

“菅原和博”による佐藤泰志作品の映像化はまだまだ続くようなので、これは期待しないわけにはいきませんね。

『きみの鳥はうたえる』
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
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シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)HAKODATE CINEMA IRIS  君の鳥は歌える

以上、『きみの鳥はうたえる』の感想でした。