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ドラマ『Mo モー』感想(ネタバレ)…テキサスのパレスチナ人、盗んだバイクで走りだす

Mo モー

テキサスのパレスチナ人、盗んだバイクで走りだす…ドラマシリーズ『Mo/モー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Mo
製作国:アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
原案:モー・アマー、ラミー・ユセフ
恋愛描写

Mo モー

もー
Mo モー

『Mo モー』あらすじ

アメリカのテキサスに暮らすパレスチナ人のモーは、トラブルに追われる日々を送っていた。自分の亡命申請は一向に進展する気配もなく、働き場所を失い、自分なりの稼ぎを得ようと偽造商品を売り始める。恋人や家族との関係もどう転ぶかわからない。事件に巻き込まれてしまうこともある。それでもこの様々な人種の人々がごちゃ混ぜになって生きているテキサスの街でモーは今日もその場しのぎで這いつくばっている。

『Mo モー』感想(ネタバレなし)

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テキサスにもパレスチナ人はいます

2022年に行われたアメリカの中間選挙。結果は接戦でしたが、上院は民主党、下院は共和党が多数派で勝利を収めました。当初の予測というか一般的なセオリーでは野党になっている側が優勢になることが多いのですが、今回は想像以上にバイデン政権を支える民主党が持ちこたえました。今のドナルド・トランプでは赤い波のフィーバーを起こす力はないようで、共和党は今後の戦略を考えないといけません。若い世代の支持率が高い民主党は将来的な支持層の拡大もまだ望めます。

と言っても民主党も安心できません。依然として保守派の牙城となっている州では苦戦するばかりだからです。それどころか選挙の公平性にさえも暗雲がたちこめています。

The Texas Tribune」によれば、保守層の土台が頑丈なテキサス州では、法律の改正によって選挙の規制が厳しくなり、主に人種的なマイノリティの有権者たちが投票しづらくなっているようです。ドキュメンタリー『すべてをかけて:民主主義を守る戦い』で指摘されていたような選挙制度そのものの不平等が一部では悪化しているんですね。

そんなテキサス州ですが、こういう状況を見聞きしていると、まるで白人ばかりの地域に思えてきますが、そうではありません。2020年の国勢調査によると、白人の割合は42.5%、ラテン・ヒスパニック系は39.3%、アフリカ系は12.8%、アジア系は6.1%…。つまり有色人種の方が多いのです。

今回紹介するドラマシリーズはそんな“人種のるつぼ”になっているテキサスで、ときに情けなくときに健気に奮闘しているパレスチナ人の悲喜こもごもを描く作品です。

それが本作『Mo モー』

え? 牛の鳴き声? …そう真っ先に連想するのも気持ちはわかりますが、これはこのドラマの主人公の愛称です。本作の主人公の名前はモハメド・ナジャー。でもアラブ系にはこの「モハメド」という名の男性が非常に多いので、この主人公は「モー」という愛称を自分で利用しています。作中でも「モハメドという名が多すぎて困る」というネタが何回が登場したり…。

そんな感じでこのドラマ『Mo モー』は、アメリカに暮らすパレスチナ系・アラブ系“あるある”なネタが盛沢山です。大半の日本人はもちろん、アメリカ在住の多くの人でさえ、こういうピンポイントな当事者のネタというのはわからないと思いますが、本作を観るとそのあたりが垣間見えます。

それだけでなく難民申請中のパレスチナ系の男が家族や恋人、友人たちに囲まれてテキサスでどんな生活をしているのか…その生々しさが伝わる物語です。

こういうマイノリティな移民に焦点をあてたタイプの作品はドラマ『リトル・アメリカ』など他にもありますが、この『Mo モー』は基本はコメディである…という点が見やすさになっています。

社会制度や偏見のせいで悲惨な目に遭うのですが、それでもたっぷり笑わせてくれる…泣き笑いの毎日が切実に描写されていて…。

そんなシリアスになりがちなテーマに巧みにコミカルさをブレンドした『Mo モー』を生み出したのが、“モー・アマー”というコメディアン。本作はこの“モー・アマー”のパレスチナ難民として生きてきた経験に大まかに基づいているそうです。“モー・アマー”自身が脚本も書き、主演もしています。主人公の生い立ちや人間関係はかなり“モー・アマー”と重なる点が多いです。“モー・アマー”は『ブラックアダム』にもでていましたね。

共同制作者には、アメリカのニュージャージーで暮らすムスリムの生活を描いて高い評価を受けたドラマ『ラミー 自分探しの旅』“ラミー・ユセフ”も名を連ねています。

このドラマ『Mo モー』も批評家からは絶賛されており、傑作の更新という感じでしょうか。2022年11月時点で「Rotten Tomatoes」での本作のシーズン1の批評家スコアは「100%」となっています。

ドラマ『Mo モー』はNetflix独占配信で、シーズン1は全8話。1話あたり約23~30分程度なので、サクサク見れます。2022年の見逃せない小粒な良作ドラマシリーズのトップランナーなので、時間があるときに見ちゃってください。もちろんビンジ視聴(最初から最後まで一気見)もOKです。

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『Mo モー』を観る前のQ&A

✔『Mo モー』の見どころ
★社会問題のテーマだけど見やすいコメディ。
★アメリカに暮らすパレスチナ系の視点が新鮮。
✔『Mo モー』の欠点
☆展開は早めなのであっさりしている。

オススメ度のチェック

ひとり4.5:良作ドラマをお探しなら
友人4.0:紹介し合って
恋人3.5:ロマンス要素もあるにはある
キッズ3.5:子ども向けのコメディではない
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『Mo モー』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『Mo モー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):これでも頑張っている

テキサス州、ヒューストン。モーはポール・ウォールの曲「Sittin’ Sidewayz」を流しながらノリノリで車を飛ばしていました。職場のスマホショップに到着し、さっそく働き始めます。修理はお手の物で、ここでは誰よりもよく働いていました。

ところが奥から店長のラーマンに呼ばれます。なんだか良くない知らせを告げそうな顔つきです。なんでも移民関税執行局(ICE)が来たそうで、「もう君を守れない。許してくれ」と口にし、労働許可証が無いのでクビにすると言ってきます。

「ホゼも不法就労では?」「店を実質経営しているのは俺なのに?」

そんな抵抗も虚しく、店長は「亡命申請して20年だろう?」と言葉を投げかけ、「正確には22年だ」とモーは訂正しますが、なすすべなく失望しながら店をでるしかありませんでした。

モーにはメキシコ人の恋人であるマリアがいました。2人は仲がよく、結婚も考えていましたが、モーの母ユスラにはまだ正式に話せていません。マリアがキリスト教徒であるというのもありますが、モーにしてみれば面倒事は増やしたくなく、今はモスクという言葉すらも聞きたくない様子。「キリスト教の女性だってベールを被る、あれもヒジャブみたいなものだ」…そう言ってマリアとベッドで横になります。

母のいる実家へ帰りますが、クビになったとは言えません。部屋でどうしたものかと意気消沈していると、呑気に猫を抱えた兄のサミールに買い物を猫の餌を買ってきてと頼まれます。

やむなく出かけて、まずは親しい仲間と食事。モーはまた偽商品を売るしかないと考えていました。さっそく車で商品販売を開始。道ゆく人に口車に乗せて何でも売りつけていきます。カニエ・ウェスト絡みのサンダルだと嘘吹き、シャネルのバックをつけて、手当たり次第です。

マリアと友人のニックと食事しながら、「刑務所に行くことになるぞ」と忠告されますが、「そこでもビジネスしてやる」とモーは強気です。

夜、猫の餌を買いに行った店でフムスのチョコレートが売っていて文句をつけていると、突然白人が起こした銃乱射事件に巻き込まれてしまいました。気が付けばモーは担架に乗せられており、今まさに救急車に運ばれそうになっています。しかし、モーは保険に入っていないのでその場を退散。

仲間のチェンに片腕の銃弾を摘出してもらい、痛みに耐えながら惨めに帰宅。

当然、母にバレてしまい、野良犬に襲われて…と苦し紛れに誤魔化すも意味なし。ついでにタトゥーがバレてしまい、そっちに激怒する母。「ムスタファ」という小さな文字で、それは父の死後に入れたものでした。

モーたちは湾岸戦争時の1991年、クウェートのアフマディから父のムスタファを残してそれ以外の家族全員で渡米して避難してきたのでした。

その後、父は亡くなってしまい、今のモーは母と兄と暮らしており、姉のナディアはカナダの白人と結婚しています。難民申請は全く進んでおらず、業を煮やして弁護士のロンダ・モダドに不満をぶちまけ、関係を解消し、別の弁護士ホロウィッツに依頼することにしました。

難民申請さえ通れば全部が上手くいくはず…。そう信じながら…。

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多彩な人種がそこにいる

『Mo モー』を見ていて真っ先に印象に残ったのは多様な人種です。テキサス州は白人の地域ではない、こんなにもいろいろな人種の人が混ざり合って暮らしているんだ!ということを、まさに示してみせるかのように、本作にはとにかく主人公モーのまわりに様々な人種の人たちが密接しています。

例えば、モーの恋人であるマリアはメキシコ人。クリスチャンではありますが、そんなにモーと対立する様子もなく、信仰面では穏やかです。マリアは自動車整備工場で中心的な存在となっており、彼女あってこその経営となっています。

本作は女性表象も良いですよね。家庭ではなく職場を切り盛りするマリアもそうですし、モダドやホロウィッツといった女性弁護士も飄々としていて、ステレオタイプな感じが全くしません。男性優位の世界で突き進むだけのパワフルさがあります。

そんな真面目なマリアですが、父がクレジットカードを使いこんでしまい、カネに困ります。そこで友人のインド系のシーラに支援を渋々頼みに行ったり…。同じマイノリティな人種でも富の差は生じるという現実が突きつけられます。女性の場合の生活の安定感が結局は「どの男と結婚したか」に左右されてしまうのが悔しいところなのですが…。

モーの男友達も多彩です。モーの幼馴染の友人であるニックは黒人で、かなり何でも屋で助けてくれるチェンはアジア系。そして白人の知り合いもいて、オリーブ外交で親交を深めていたりする。終盤には先住民系のキャラクターも登場し、とても複雑な人間模様のバランスを見せていきます。

第7話の難民申請の裁判シーンでは、他の難民申請に来た人たちがいろいろ映り、きっとそんな人たちにもドラマがあるのだろうなと察することもできます。

人種が違うからって分離して生活しているわけではなく、それぞれが関係性を繋いでいるという、テキサスのヒューストンのありようが切り抜かれているドラマでした。やはり現地を肌で知っている地元民の“モー・アマー”だからこそ作れる内容なんでしょうね。

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父の喪失が“男らしさ”を彷徨わせる

そんな世界で生きている『Mo モー』の主人公であるモー(モハメド・ナジャー)はどういう人間なのか。

アメリカに暮らすパレスチナ系・アラブ系“あるある”なネタが最初は目につき、そこで彼を知ることがまずできます。

亡命申請中なので保険に入れず救急搬送も断らないといけないとか、冒頭からなかなかに壮絶な目に遭っているのですが、それでもモーは痛みに耐えながら踏ん張っています。

あとやはりイスラム系ゆえにテロリスト的な誤解を避けようと必死になるというのがよく描かれていましたね。ニックとハミードと車に乗っているときに検問所で警察で止められるシーンで、アドリブで聖歌を歌い出して切り抜けるとか、そのへんは爆笑場面なのですけど、何度もキリスト教のふりをするというネタがぶっこまれるのは定番ギャグなのかな。

モーは英語、アラビア語、スペイン語の3か国語をペラペラ話せて、語学という点においてもかなり優秀です。でも定職は全くない。そこに現実があります。

そんな経済面でも威勢は良くても苦戦するモーですが、心の奥底では周囲に全然話していない苦悩を抱えています。それはのことでした。

モーは子どもの時からかなり父を慕っていたようで、父の喪失感をまだ引きずっています。自分は父の代わりに家長になるべきなのではというプレッシャーもありつつ、でもモーはわりと優しい性格ゆえか(マリアとそんなに性的関係を持ちたがらないあたりからもあれこれ読み取れる)、そういう家長という柄ではありません。それはそれでモーの中で劣等感のようにくすぶっています。父が拷問を受けていたという歴史の暗部を知り、余計に心かき乱されるモー。それでも弁護士からカウンセラーを薦められても断ったり、あちこちで「男らしさの意地」が邪魔をしている様子が見て取れます。友人の結婚を「政治的な下心ありきだろ」と小馬鹿にしているのも劣等感がチラ見えしてます。

教会で告解してみたり、リーン依存症に沈んだり、本当に彷徨いまくりです。

こういう中東系の人物を対象とした「男性性」を切り口にする作品はまだまだ少ないです。おそらくこの人種的な空気としてそういうジェンダー観点でアプローチすること自体がタブー視されているからなんでしょうけど…。

本作は“男らしさ”の描き方が単一的ではなく非常にインターセクショナリティに基づいていて、それでいて軽やかに描いてみせている。語り口が絶妙だと思います。

最も自分の弱音を打ち明けられていたマリアとさえも関係にヒビが入ると、いよいよモーのメンタルは不安定になっていき、荒れていきます。第8話では母と兄に謝罪し、初めて家族と向き合うことができた気がするモー。

でも一難去ってまた一難、メキシコに迷い込んだモーは国境沿いにそそりたつ壁に阻まれてバイクで突っ走るしかない…。今のアメリカらしい皮肉なオチです。

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中東コミュニティにおける自閉症

一方で『Mo モー』のもうひとりの主人公と言えるサミールの存在も印象的です。

モーの兄であるサミールは明らかに自閉症スペクトラムであることが窺えます。でも作中で「自閉症」には言及されず、サミールがそんな診断を受けている雰囲気もありません。

サミールを演じている“オマール・エルバ”も自閉症当事者で、当事者キャスティングという意味ではドラマ『思うままの世界』と同様で先駆的ではあるのですが、『Mo モー』が素晴らしいのはそこに中東コミュニティにおける自閉症スペクトラムの扱われ方という交差性を題材にしていることです。

Middle East Eye」というメディアのインタビューでも“オマール・エルバ”は答えていますが、中東では自閉症はタブー視されており、医療へアクセスする機会も限られているのが現状だそうです。30代になっているサミールがいまだに適切なケアも受けられず、ああやって家族の中で半ば放置されているのもリアルなのでしょう。

第7話で、サミールが母に「僕の結婚式の話題はなぜしないの? 長男なのに言われないから…」と疑問を呈して、それに母が苦し紛れに答えている姿は辛いシーンです。

家庭内で徹底的に過小評価されているサミールですが、そんなサミールは働いているファストフード店でハラールチキンを売ろうと試みたりしています。それは実際に客の反応をみて、この多様な人種がいる地域ならそれに合った商品を売りだせば客がより増えるとわかっているからで、実は非常にビジネス戦略に長けているのがわかります。自閉症だからといってお荷物なわけではないのです。

『Mo モー』はこのサミールのドラマ面にも注目していきたいですね。

『Mo モー』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 90%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『Mo モー』の感想でした。

Mo (2022) [Japanese Review] 『Mo モー』考察・評価レビュー