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『好きだった君へのラブレター』感想(ネタバレ)…アジア系だって恋をする!

好きだった君へのラブレター

アジア系だって恋をする!…Netflix映画『好きだった君へのラブレター』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:To All the Boys I’ve Loved Before
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:スーザン・ジョンソン
恋愛描写

好きだった君へのラブレター

すきだったきみへのらぶれたー
好きだった君へのラブレター

『好きだった君へのラブレター』あらすじ

男の子を好きになるたび、こっそりラブレターを書くだけで渡すこともなく保存してきたララ・ジーン。それは誰にも明かせない自分だけの恥ずかしい思い出。しかし、出すつもりのなかった秘蔵の手紙がなぜか本人に届けられ、妄想の恋が大変な事態に発展する。

『好きだった君へのラブレター』感想(ネタバレなし)

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アジア系だって普通に恋をします!

今、ハリウッド映画界ではアジア系俳優を起用したラブコメが空前の熱狂を見せています。

まず最初にアメリカ映画におけるアジア系俳優の扱いについて簡単に説明しないといけませんが、ハッキリいってそれは酷いものでした。昔の作品だと、戦時中のプロパガンダに登場する風刺絵をそのまま体現したようなアジア人のキャラを描いたり、アジア人からしてみれば不快でしかないものも珍しくありません。さすがに今はそこまで極端なものはなくなりましたが、なおも偏見は深く残っています。よく言われるのは「アジア系男性は、男らしくない役or不法移民。アジア系女性は、従順で可憐な役か、売春婦or不法移民」というステレオタイプです。あとは、武術や刀など身体能力にやたらと特化しているとか…。とにかく画一的な描かれ方しかされない傾向に今でもあります。

とくにアジア系俳優が蚊帳の外に置かれていたのが「恋愛」のジャンル。アジア系俳優は恋愛の対象ではないというのが白人を中心とした欧米主要層の考えのようです。実際の映画にもそれは表れていて、例えばFacebookを創設したマーク・ザッカーバーグを描く伝記映画『ソーシャル・ネットワーク』では、主人公の恋人は白人に改変されました(史実はアジア系です)。

しかし、本当に最近になって事情が変わってきた気配があります。

思えば、最初の話題作として最大級のインパクトを与えたのは、2017年に公開された大ヒット作『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』でした。シリーズ前作の『フォースの覚醒』の時点から、女性や黒人などマイノリティを主役に置いた新しさを売りにしていたわけですが、この『最後のジェダイ』ではアジア系俳優を投入。主要キャラとのラブロマンス的な雰囲気さえも醸す展開が用意されていました。ところが、作品自体が賛否が分かれるなか、その問題の役を演じた“ケリー・マリー・トラン”に差別的な攻撃が集中して論争になりました(無論、作品の賛否両論に便乗して、人種差別をする行為なんて断じて許せません。そんな奴にはジャバ・ザ・ハットでしか性的興奮を得られない体になる呪いをかけてやる…)。

幸いなことに、これでロマンス分野でのアジア系俳優の起用が萎縮するようなことはありませんでした。その後のハリウッド大作でも恋人はアジア系というパターンがチラホラ見られます(『デッドプール2』の“忽那汐里”演じる役など)。

そして、いよいよアジア系の主人公でラブコメを堂々と描くアメリカ映画も登場しました。それが本作『好きだった君へのラブレター』です。

お話を簡単に言うと、アメリカ版『勝手にふるえてろ』です。なのでストーリーはベタです。でも、それをアジア系で実現しただけで、大きな一歩なのです。

ヒロインを演じるのは、“ラナ・コンドル”というアジア系女優なのですけど、全然まだ有名ではないですね。デビュー作は『X-MEN: アポカリプス』で、ジュビリーという火花を発する能力を持つミュータントを演じていたのですが、ほとんど出番がない(シーンがカットされた)という可哀想な出演でした。でも、『好きだった君へのラブレター』ではその雪辱を晴らすように魅力全開です。

原作小説を執筆したのはアジア系アメリカ人の作家ジェニー・ハン。アメリカではアジア系だって普通に恋をしているんだ!という思いがたっぷり詰まった一作になっています。

批評家も大絶賛の本作。ぜひ同じアジア人として、鑑賞しておくべきような気がしてきませんか?

↓ここからネタバレが含まれます↓

『好きだった君へのラブレター』感想(ネタバレあり)

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恋愛遍歴(脳内妄想)はプロ級

母を早くに亡くし、シングルファザーの父に育てられ、姉と妹がいる、学年は「grade 11(日本でいうところの高校2年生)」のララ・ジーン。頼りにしていた姉のマルゴは大学に行くために遠くへ引っ越し、ララは家族を引っ張るという役割を担う大事な存在に。しかし、当の本人は恋愛に夢中でした。といっても、それは脳内恋愛。出会ってなんとなく「いいな」と思った男の子を相手に、熱い恋のストーリーを頭の中で紡ぎだすのが日々の活力であったララは、すでにケニー、ピーター、ルーカス、ジョン、そして姉の元カレであるジョシュという男子をターゲットに、すでに充実した恋愛遍歴(脳内妄想)を経験。「もう5人と付き合ったんだ、私!」という自慢を証明するのが、密かに書いていたラブレター。この手紙だけがララの恋愛が脳内以外で表現されたものでした。しかし、門外不出のラブレターが紛失し、なぜか何人かの想いを寄せていた男の子に今になって送られてしまうという事件が発生。この異常事態はララの脳内恋愛遍歴を持ってしても太刀打ちできるものでなく、ひたすらパニック。さあ、どうなってしまうのか…。

少し具体的に導入部分を説明するとこんなストーリー。

正直、今のSNS世代の子どもたちはラブレターなんてわかるのだろうかと思ったのですけど、アメリカ国内の高評価っぷりをみると、ちゃんと理解してくれているようです。やっぱり、媒体がSNSであろうがメールであろうが手紙であろうが、好きな気持ちを文章に込めて感情を発散するというのは時代を超えて共通なんですね。

前述したとおり、アメリカ版『勝手にふるえてろ』と表現していいくらい、プロットは共通。恋愛音痴な女の生々しい奮闘記をコミカルに描いています。手紙が届いたのは、ルーカス、ピーター、ジョシュの3人で、うち黒人のルーカスは早々にゲイだと判明。結果、ピーターとジョシュの間で揺れ動くことになり、意図しないままに二股かけているような状況になるなんて、『勝手にふるえてろ』そっくり。どこの国でも同じなのですね、こじらせた女は。ただ、物語の畳み方は違います。

手紙流出事件の成り行きで、元カノと関係を戻したいピーターと偽カップルになることになり、恋人計画を立案。恋愛小説くらいでしか恋人体験を知らないですが、それでもジョン・ヒューズ監督の映画的なロマンチックな発想力で、恋愛を半ば強引な開き直りで進めます。このパートでは、まだララは脳内恋愛のときからあまり変わっていません。恋愛ごっこの延長です。

しかし、ホットバスでのキス動画流出事件などを経験して、初めてリアルで想い人と向き合い、文章を言葉にして、ララは初めて脳内ではない現実での恋愛をスタートさせる。実に青春らしい着地で映画は終わっていました(届かないと思っていた別の男の子が手紙を手にして家に現れるというオチつき)。

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アジア系女子がフィールドに立った!

ストーリーとしてはとくに捻った展開もなくド定番な本作『好きだった君へのラブレター』。人によっては「普通じゃん」と思ってしまうラブコメです。でも、先にも言ったように、アメリカの恋愛映画におけるアジア系俳優の歴史を重ねれば、本作の達成したことは偉大な一歩であり、ストーリーも意味深く感じられます。

まずヒロインのララ。本作は彼女のキャラクター性に関して、アジア系にありがちなステレオタイプはほとんどありません。これまでの白人が演じていたラブコメに登場するキャラクター性をそっくりそのまま移行してきたものです。そういう意味では、いかにもわざとらしいアジア要素もなく(ちょこちょこ韓国ネタが入る程度)、これがアジア系を起用した作品だと忘れるくらい、素直に見れるものに仕上がっています。くどいようですが、この普通のことがこれまでのアメリカ映画では実現できなかったわけで、やっとここまできたかという感じです。

だからこそ、本作のエンディングでララがリアルでの恋愛をスタートさせる結末は、まさにアメリカ映画史でもアジア系俳優のラブコメがスタートしたという話と重なり、余計に思いが強まります。しかも、「ラクロス場」というアメリカ恋愛カーストでも最上位にいるジョックスの世界に、あの見向きもされなかったアジア系女子が自分の意志で立っているのですから。アジア系はアジア系同士で仲良くしてろよ…ではない。私だってこの世界のプレイヤーなんだという自負。このわかる人にはわかるカタルシスが素晴らしいです。全米のアジア系女子へのエールになったことでしょう。

そんな本作の魅力を支えるのは生き生きとしたキャラクターと、それを熱演した俳優陣。個人的にはヒロインまわりの女性陣の印象が素晴らしかったと思います。

3姉妹のあの喧嘩もするけどやっぱり頼りにしている感じの雰囲気も良かったです。妹のキティーは終始コメディキャラで、しかもラブレター騒動の元凶なのですが、可愛いので全部許せる。姉マルゴもときおり見せる痛々しさがララに通じるものがあって、姉妹だなと。

また、ララの数少ない親友クリスもいいキャラでした。あの学校行事には参加しないと言い張るサボりキャラでありながら、ララにとって大事なイベントになるであろうスキー旅行に嫌々ながらも同伴してくれるあたり、良い“ウーマンス”が見られました。

あと、全然話は逸れますが、ホットバスでのキス動画流出事件が児童ポルノ法違反で動画を削除するという手段で比較的あっさりそこまで尾を引くことなく解決する展開はイマドキだなと思いました。よくありがちな邦画だとネチネチとインターネットの危険性を語りがちじゃないですか。それをせず、あの程度で済ますのは、現代の若者感がよくでていますよね。こんなのでいいんです、基本は。

『好きだった君へのラブレター』が切り開いた、アジア系俳優によるアメリカ恋愛映画への開拓史はこれからが本番です。アメリカではまさに今、『クレイジー・リッチ!(原題:Crazy Rich Asians)』というオールアジア系キャストによるラブコメがまさかの大ヒット。さらに今後はディズニーがアジアを舞台したアニメ『ムーラン』の実写化を準備中。これまたとんでもない花火になる予感。

日本の俳優の皆さん、ハリウッドに進出するなら今です。普通に恋ができますよ。

『好きだった君へのラブレター』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 93%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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関連作品紹介

アメリカを舞台にアジア系が頑張るラブコメ

・『オー・ルーシー!/OH LUCY!』
…日米合作、寺島しのぶ主演のまさかのラブコメ。中年版『勝手にふるえてろ』であり、痛々しい恋がこちらでも展開されます。

(C)Netflix

以上、『好きだった君へのラブレター』の感想でした。

To All the Boys I’ve Loved Before (2018) [Japanese Review] 『好きだった君へのラブレター』考察・評価レビュー