何度も何度も…Netflix映画『大洪水』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:韓国(2025年)
日本では劇場未公開:2025年にNetflixで配信
監督:キム・ビョンウ
だいこうずい

『大洪水』物語 簡単紹介
『大洪水』感想(ネタバレなし)
普通ではない大洪水
2025年12月20日、この日は日本付近に暖かい空気が流れ込み、各地で季節外れの暖かさとなりました。北海道の札幌は10度近くまで気温が上昇し、1日中暖かく、異例の温度でした。
暖かいのは良いことじゃないか、雪が解けるし、過ごしやすいし…と思うかもしれませんが、雪国住みの人はそのデメリットも理解しています。確かに雪は部分的に融けるのですが、その融けた雪の水で一帯が水浸しになり、その水が次の日の寒さで凍るので、全体的に路面がツルツルの氷状態になってしまうんですよね。
こうなってくると滑って怪我しないように慎重に歩かないといけません。凍った足元は本当に危険です。
そんな暖かい日に今回の映画を家でのんびり観たのですが、現実の外はびちゃびちゃになっているのに、鑑賞する映画の中の世界はもっとびちゃびちゃで、随分と水まみれの印象が残る日になりましたね…。
それが本作『大洪水』。
本作は2025年の韓国映画で、タイトルにあるとおり、大洪水が襲うというディザスター・パニックものです。こんなの、説明すら野暮ですよね。
韓国映画で水関連のディザスターパニックと言えば、2009年の『TSUNAMI -ツナミ-』を思い出しますが、「それと同系統か…」と思って観始めたら…。
はい。本作『大洪水』はネタバレ厳禁なタイプの一作です。ああ、もう、何も書けなくなってしまう…。こういう映画をネタバレなしでどう紹介すればいいんだ…。
とりあえずディザスターパニックらしいシーンはいくつもあるので、その映像面は楽しめるのですが、正統派なディザスターパニックを期待はしないほうがいい…とだけ…。
舞台はマンションに絞られており、そのロケーションという意味ではスケールは狭いです。ロケーションという意味ではね…。
映画『大洪水』を監督するのは、『テロ、ライブ』や『PMC:ザ・バンカー』の“キム・ビョンウ”。すっかりVFX多めの映画を担当する監督というポジションになっている感じ。ちなみに今作は撮影は2023年1月ぐらいに終わってたみたいですけど、配信までに随分と時間がかかりましたね。その間に次作だったはずの監督作『全知的な読者の視点から』が先に韓国で公開されたくらいですし…。
主演は、最近もドラマ『ナインパズル』などであっちこっちに引っ張りだこで大人気な若手の“キム・ダミ”。今回は母親役なので、少し印象が違っていますが…。ほぼ“キム・ダミ”の演技で突っ切る映画だと思ってもらっていいです。
共演は、ドラマ『イカゲーム』や『悪縁』の“パク・ヘス”。観てもらうと、実際はそこまで出番は多くないとわかるのですが、“パク・ヘス”の活躍をたっぷり拝みたいという人には少々物足りないかもしれません。
ボーっとしながら眺めていても頭に入ってくるタイプの単純明快なエンターテインメントとかではないので、『大洪水』を観る際はやや集中モードが必要です。
『大洪水』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2025年12月19日から配信中です。
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 子どもが酷い目に遭うシーンが一部にあります。 |
| キッズ | 低年齢の子どもにはわかりにくい物語かもしれません。 |
『大洪水』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ソウルのとあるマンションの一室。ク・アンナはベッドで寝ていましたが、隣で水泳ゴーグルをつけた幼稚園児の息子ジャインが「泳ぐ練習」と言いながらごそごそとしていました。やたらと元気で「起きて」とせがんできますが、アンナは眠たいので目を閉じます。それでも諦めない息子のためにやや付き合ってあげ、起きることにします。
ジャインは絵を描きたいようですが、スケッチブックは母が見てくれないと考えているようで、デジタルでのお絵描きを求めます。
カーテンを開けると外は雨。どこも土砂降りのようです。アンナの母のいつものお節介な電話を聞き流し、料理の準備をします。
しかし、さっきから何か水が流れるような音がします。トイレの音…とも違う。妙な音です。ふと気がつくと床が水浸し。そして窓の外には波打つ水面。周囲が水没しています。あまりの光景に呆然とするしかありません。
さらに管理事務所からの音声が流れ、マンションの2階もしくは3階が浸水していることを淡々と知らせてきます。避難指示があり、なおも駄々をこねる息子を怒鳴り、急いで身支度をします。
そこにセキュリティ・チームのソン・ヒジョと名乗る男から電話。アンナはAI開発の主任研究員で、この男は職場関係者らしいです。しかも、救助してくれると言います。「荷物は諦めてとにかく上階へ…」と指示してきますが、そこで停電。電話も不通となりました。
もう膝下近くまで浸水する中、アンナは息子を背負って玄関を出ます。3階の通路は同じように逃げる人で混雑しています。みんなそれぞれ混乱していました。荷物を抱える人も多く、狭い通路が余計に狭くみえます。
階段は人で渋滞。どうやら上は詰まっているようで、全く進む気配がありません。アンナは外階段を利用することにします。マンションの周囲では水に流され助けを呼ぶ人たちの姿もありました。それでもパニックになるわけにはいきません。息子を前に平静を保ちながら、歌を歌ってあげます。
なんとか4階に辿り着き、ホっとするも水位は増えているようにもみえます。油断できません。
そんな中、ふと目を離したすきに手を握っていたはずのジャインが行方不明になり、一心不乱に見つけようとします。あちこちを探していると、遠方から全てを薙ぎ払うような大津波が迫ってくるのが見え…。

ここから『大洪水』のネタバレありの感想本文です。
ニューマン77
さて…ネタバレしないといけない時間です。ここから先は核心部分のネタバレを大いに含んだうえでの感想になります。
『大洪水』は、ディザスターパニック…の皮を被ったSF映画でした。
真相は膨大な水量に押し流されて水没してしまったかのようになかなか見えてきませんし、わかりやすく説明もされないので、最後までちんぷんかんぷんだった人がいてもおかしくないでしょう。
まず前半。一見すると普通のディザスターパニックであり、母子が命からがら必死に生き延びようとしている姿が映し出されます。しかし、アンナの息子のジャインが発作のような状態で苦しみだした後、ヒジョが「データで蘇生させればいい」というようなことを口走り、そこで違和感を観客に感じさせます。もしかして…ジャインは普通の人間ではないのか、と。
そのとおり、ジャインは普通の人間ではありませんでした。
しかし、本作はここにさらに上乗せでもうひとつの捻りが加わるので、混乱が増します。
中盤、屋上にやっとたどり着いたのに、ヒジョは使い捨てで殺され、ジャインの頭のデータは回収され、アンナだけがヘリに乗って、ロケットで地球を脱出。でもロケットも宇宙空間で事故に遭い…。その次の場面はまたあのマンションのベッドで目覚めるシーンです。
タイムループではありません。経緯はややこしいです。そもそもアンナはAIの専門家で、イム部長と開発にあたっていました。所属するダーウィンセンターが取り組んでいたのは、新しい人類の誕生。完全な人工生命体でした。ボディ(身体)は作れるようですが、感情(心)はまだ未完成。そこでひとまず人間の子どもを作りだし、育児する過程で感情を芽生えさせるという案を思いつき、アンナは「母」としてジャインという「子」を育て始めます。
つまり、ジャインは人造人間(「ニューマン77」という名称らしい)です。おそらくその子の「父」として役割を果たす男性が派遣されてきたかのような描写もあるので、実験のための「用意された家族」だったのでしょう。
前半では実の子が車水没事件で死亡して、その子をAIで模倣してジャインを作り出したかのようなミスリードもありましたが、最初からこれは実験だったようです。
そして世界大洪水事件が発生。小惑星が南極に落ちたことが原因らしいですが、ともあれアンナはジャインのデータを明け渡してしまいます。でも後悔が残ります。ところがロケットでイザベラ研究所の宇宙ステーションに移動中に、事故が起き、アンナは瀕死。そこで最後の意識をデータとしてアップロードし、一連の実験の最終段階を自ら被験者として完遂しようとします。次は「母」の完成です。
そして作中で映し出されるのは、何度も思考実験が繰り返されるシミュレーションの映像化です。前半は実際にあった出来事ですが、後半のマンション水没はシミュレーション内の架空の出来事。そこでアンナは何度も何度もこの出来事を経験することになります。
前半では無地のTシャツを着ていたアンナですが、シミュレーション内では胸あたりに数字が書かれており、「491」→「4007」→「13417」→「21499」と、しだいに増えていきます。これは試行回数を示していると思われ、つまりそれだけの膨大な数のアンナがシミュレーションで生成されているということですね。
シミュレーション内でアンナは記憶を取り戻し、これがシミュレーションだと自覚するようになります。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』みたいに、失敗してはそこから学んで打開策を思いつき、そのうえ以前は見殺しにしてしまった人たち(エレベーターの子や妊婦)を助け、感情を自分で納得いくかたちで再定義します。
そして何よりも息子ジャインを見捨てずに自分の傍に置く…。これで感情エンジンとしては完成のようです。
ラストでは、地球に向かう小型宇宙船内にアンナとジャインの姿がありますが、ついに新人類は完璧に生み出されて、次なる時代を作りにいったのでしょうか。
そんな感情エンジンで大丈夫か?
とまあ、自分の理解の整理のためにも『大洪水』の背景をおさらいしましたけど、正直、めちゃくちゃ強引なプロットではありましたね。
根本的な話、なぜヒューマイド的な人工生命体が新人類にならないといけないのか、イマイチ釈然としません。人間ではなくAIの時代になるということを象徴的に示したかったにせよ、現実的に考えれば考えるほど「AIが必要になる意味」はみえてきません。設定ありきの導入に思えます。
それはさておくとして、そのAIを作るのに感情が大切だという前提で話が進んでいくのですが、そのプロットの根幹もよくわからないままでした。今のAI技術をみていてもわかるけど、AIは人間側の便利な道具であって、感情はむしろ邪魔ですよね(人間が自己満足に浸れる感情もどきをアピールしてくれるのは都合がいいけど)。逆にAIに感情が芽生えると、それこそよくある映画のように自立したAIの反乱とかが起きるわけだし…。
一番の問題は本作における感情が「母の役割を果たすこと」、つまるところ「母性」に集約されてしまっている点です。
感情なんていくらでもいろいろなものがあるし、ハッキリ言えば、中には明らかに個人にとっても社会にとっても有害な感情もあります。支配欲や加害欲なんて有害な感情の筆頭ですよね。
しかし、本作は感情を純真で人間らしさの象徴としてあまりに単純に神格化しており、あまつさえその感情を母性という理想さに見いだしてしまっています。
もう少し感情の複雑さに向き合う物語が要るだろうと思います。これだけ大規模なシミュレーションをやっているくせに、仮定としている理論はそんな浅はかさなのかとげんなりしてしまいます。
大洪水と母子の感情の物語を掛け合わせる意図もなんかね…。母なる水のイメージかもしれませんが、それはそれでやっぱり今回の場合はダメなほうに傾きすぎてるし…。
『M3GAN ミーガン 2.0』のAIなら「子どもなんて最低限の飯を食わせておけば、それだけで母として100点満点中90点くらいよ!」と叫んでくれそうだけど…。
いや、真面目に「母の感情」のテーマを考えるなら、『大洪水』で母親としてのプレッシャーに押しつぶされるアンナをもっとさまざまな人たちが手を差し伸べて助けてくれ、母であることを放棄までできるようになる…ぐらいの到達点には達してほしかったところです。
ということで、このAIの感情エンジンは大洪水で沈んだままでいてほしいです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『大洪水』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Netflix
The Great Flood (2025) [Japanese Review] 『大洪水』考察・評価レビュー
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