ピエロは昔のほうが元気です…ドラマシリーズ『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン1:U-NEXTで配信(日本)
ショーランナー:ジェイソン・フックス、ブラッド・ケイン
イジメ描写 人種差別描写 ゴア描写 恋愛描写
いっと うぇるかむとぅでりー

『IT イット ウェルカム・トゥ・デリー』物語 簡単紹介
『IT イット ウェルカム・トゥ・デリー』感想(ネタバレなし)
IT スピンオフ!もしくは過去編!
インタビュアー:お久しぶりです。5年、いや6年ぶりでしょうか。元気でしたか?
ペニーワイズ:はい、私はおかげさまで全然元気ですよ。
インタビュアー:パンデミックもあったりして、大変だったでしょう?
ペニーワイズ:まさか町から人がいなくなってしまうとは思いませんでした。こうなると怖がらせる相手もいないので…。
インタビュアー:そうですよね。そんな大変な出来事も乗り越えて、今回は映画ではなくドラマシリーズで帰ってきたとのことですが…。
ペニーワイズ:本格的なドラマは初めてだったので緊張しました。ちゃんと視聴し続けてもらえるかなと心配になってしまいますね。
インタビュアー:あなたのようなプロでも不安になることがあるんですね。どうやって対処したのでしょうか?
ペニーワイズ:それはもう、働いて働いて働いて働いて働いて…笑顔でカメラの前に立つことです。そうするとみんなコロっと好印象で受け入れて騙されてくれますよ。
インタビュアー:さすが頭が冴えていますね。
ペニーワイズ:ええ、ピエロですから。
インタビュアー:そうやって今回も支持者(ファン)のために頑張ったのですか?
ペニーワイズ:それはもう。子どもをたくさん八つ裂きにしました。それが私のワークライフです。楽しかったですよ。ぜひご期待ください。
こんなインタビューが見たかった…(またも長い妄想)。
というわけで、2017年と2019年に公開され、ホラー映画史にその名を刻んだ二部作『IT イット “それ”が見えたら、終わり。』。“スティーヴン・キング”のブランド・パワー、ここに極まれり…という大成功でした。
そのIPをワーナー・ブラザースが捨てるわけもなく、ドラマシリーズの企画が動き出し、2025年についに配信となりました。
それが本作『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』です。
う~ん、もう「”それ”が見えたら、終わり。」の副題、やめにしないか? 全く終わってないぞ…。
本作は映画二部作の前日譚となっています。過去編です。映画1作目の時代設定は1988年でしたが、本作ドラマシリーズは1962年がメインで描かれます。
もちろんあの「ピエロ」も元気です。本作では恐怖の起源が明らかに…。
そして何よりも今作も…いや、映画以上に子どもに容赦ありません。やっぱり配信ドラマだとレーティングを気にしなくなるのか…。ペニーワイズさん、本領発揮です。映像も映画級のクオリティで、めちゃくちゃカネがかかっています。
ドラマ『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』の企画で中心にいるのは、映画二部作の監督を務めた“アンディ・ムスキエティ”で、今回のドラマでは一部のエピソード監督も手がけています。
ショーランナーを任せられているのは、『ARGYLLE/アーガイル』の脚本を手がけた“ジェイソン・フックス”と、ドラマ『TOKYO VICE』の脚本を手がけた“ブラッド・ケイン”。
ドラマ『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』はアメリカ本国では「HBO Max」配信なので、日本では「U-NEXT」で扱われています。
全8話で、1話あたり約60分とボリュームは多めです。
『IT イット ウェルカム・トゥ・デリー』を観る前のQ&A
A:とくにありません。前作の映画二部作を観ていなくても物語は理解できます。ただし、接続点は多少あります。
鑑賞の案内チェック
| 基本 | ゴア描写が多く、とくに子どもが残忍に殺される描写があります。 |
| キッズ | 非常に残酷な描写が多いです。 |
『IT イット ウェルカム・トゥ・デリー』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
1962年、アメリカのメイン州デリー。とある映画館にて、上映中のスクリーンの座席では、熱心に観ている人もいれば、無関心な人もいる中、ポツンとひとりで座って眺めている子どもがいました。おしゃぶりを吸っているこの子の名はマティ・クレメンツ。しかし、スタッフが目ざとく見つけ、映画館から追い出します。実はチケットを買わずに潜り込んでいただけだったのです。
バレたので一目散に逃げるマティ。その一部始終を見ていたロニー・グローガンという女子はその子をかばいつつ、父のハンク・グローガンと一緒に去っていきます。
雪降り積もる夜道をヒッチハイクしようとするマティ。そこに1台の車が止まってくれます。見知らぬ家族が乗っている車で、夫妻は心配してくれます。降ろすべき場所を聞いてきて、マティは「デリー以外ならどこでもいい」と答えます。
乗り込んで車内で家族の様子を観察するマティ。隣のアリーンという名の少女といい、この家族は妙におかしい感じです。しかも窓に目をやると先ほどの同じ看板。同じところをぐるぐる回っているのか…。
マティは声をかけるも無視され、さすがに怪しいと感じて「出して!」と叫びます。ハンドルを握り、運転を止めようとするも、妻が絶叫してりきみだします。その妻の膨らんだ腹は内部でうねり、何かを出産。夫は「美しい」と恍惚な声を漏らします。
それは羽のついた化け物。車内を飛び回ると家族は笑い出し、怯えるマティは目と耳を閉じておしゃぶりを吸い、無視しようとします。しかし、化け物は襲いかかり…。
4か月後、ポーリー・ルッソ大尉とリロイ・ハンロン少佐が、空軍のデリー空軍基地に到着。出迎えたフランシス・ショー将軍はリロイをB-52のパイロットを任命します。基地の一画には厳重に封鎖された場所がありましたが、それは「特別なプロジェクト」のものだと言い、それ以上の説明はないです。整備班と対面するも、黒人のリロイは人種差別が滲む対応を受けます。
ところかわって、デリーの地元の高校。リリー・ベインブリッジは、1年前にピクルスの瓶詰め工場の事故で亡くなった父親の死をまだ引きずっていたものの、学校ではイジメられていました。同級生で眼鏡のマージは心配してくれるも、マージはイケてる女子グループに加わりたいようで、どっちつかずな態度です。
一方、テディ・ユリスはマティの行方不明事件でショックを受けたままで、友人のフィル・マルキンはテディを励まそうとするも、それをお節介としてテディは突っぱねます。
そしてそれぞれでマティの気配を感じる恐怖体験をしたテディ、フィル、リリーは、地元の図書館でマティの失踪事件を一緒に調査。マティを最後に目撃したのはロニーという子でした。
そしてテディ、フィル、リリー、ロニー、そしてフィルの妹スージーも交えて、映画館でマティが観た映画を確認しに行きますが…。

ここから『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』のネタバレありの感想本文です。
ドラマでも子どもに容赦しません
『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』、立ち位置としてはスピンオフで過去編なので、ペニーワイズさんの準備運動程度かなと思ったら、とんでもない…映画以上に張り切りまくっているじゃないですか。
というか、このデリーという町、もういろいろ終わりすぎだろ…。本作を観てしまうと、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のあの町がだいぶマシにみえてくる…。さすが“スティーヴン・キング”の創作的邪念が一挙に凝縮する場所なだけはあります。
第1話からその露悪性が解放されています。「ああ、今回はこの子たちが主役なのね…」と思わせて、5人中3人を惨殺!…ですから。なにが「ウェルカム・トゥ・デリー」だ…。
子どもに容赦ないことに定評のあるペニーワイズは、その子の内に秘めるトラウマを最悪のかたちで表現して体験させる、大変子ども思いな器用さをお持ちのかたです。
今回も第2話にて、母の出産後の死にトラウマを持つロニーには子宮から生まれてその性器そのものが牙を向けてくる絶望を味合わせ、ピクルスの瓶詰め工場での父の死にトラウマを持つリリーには不気味なピクルス・モンスターをお見舞い。いや~、毎度毎度よくこんな凄まじいビジュアルで作り込んでくるな…。ペニーワイズさん、職人だよ…。
でもビジュアルで一番だったのはやっぱりマージの経験するアレですかね。眼球がニョキニョキ伸びてそれを工具で切り落とすという…。どんな発想だよ…。
リリーを演じた“クララ・スタック”とか、今後も伸びていきそうな若手俳優が軒並み酷い目に遭っていたので、次の仕事は平穏な役だといいですね…。
惨劇として長回しで巧みにみせていたのは、第7話のブラックスポット襲撃炎上事件。今作ではリロイやハンクをとおしてブラック・ホラーの要素も長めの軸を持って展開されていきましたが、その最終局面となるあの事件はペニーワイズ抜きにしても恐怖のシーンとして飛び抜けていました。2025年は『罪人たち』でも同じようなシチュエーションのシーンがあったので、若干のネタ被りはありましたけど。
ペニーワイズのチート能力
『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』を観て、今作は始まりの時点で「完成された悪役」がもう確立されているのが優位だったなと思いました。しかも、本作の「It」はチート級の能力を持っていることがあらためて明示されました。
一般的にこういう前日譚のスピンオフは過去の話が描かれるだけです。未来は既に決定済みなので、その未来に終結する話が描かれます。なので「今はこんなふうに酷いことがあっても、結局は最後は倒されるんでしょ?」とどこか安心して観ていられます。
でもこのペニーワイズは違います。どうやらコイツは、時間軸を超越できる存在らしく、つまり、どの時代にも存在し、過去に戻って未来に自分を倒す人間の先祖を殺して相手を抹消することも可能なようです。こうなってくると、もはやペニーワイズさん、1度倒せば安心…というわけにはいきません。
この非線形に実存する最恐のペニーワイズにどう立ち向かうのか?という物語が、究極的にはこのシリーズの主人公たちに降りかかる最大級の難問です。
今作ではペニーワイズの起源も映像化されます。それははるか昔の数百年前、隕石によって地球に現れた、ネイティブアメリカンには邪悪な精霊として伝わる“何か”だったり…。この先住民のパートだけで1話、いや全シリーズを作ってほしかったところもありました。
はたまた、1908年にとあるサーカスの余興ステージで子どもを笑わせるピエロ「ペニーワイズ」に扮する仕事をしていたボブ・グレイで、その娘イングリッドもピエロに憧れて「ペニーウィンクル」になるという継承があったり…。このへんはまだ語る余地がありそうなので、今後しだいで描かれるのかな。“ビル・スカルスガルド”の素顔の演技もみられるし…(でもなんか素の顔すらも怖い…)。このパートのボブを演じる“ビル・スカルスガルド”の演技が本当に素晴らしくて、映画一本でたっぷり眺めたいくらいです。
あと、もうひとりの重要キャラクターである『シャイニング』にも繋がっていくディック・ハロラン。彼の存在も今回のドラマシリーズで少し掘り下げられましたが、いつか彼の単独ドラマとか作られそうなほどにはポテンシャルがありました。
そんなこんなで“スティーヴン・キング”・ワールドの底なしの奥行きを満喫できるドラマでした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Warner Bros. Television ITウェルカムトゥデリー
It: Welcome to Derry (2025) [Japanese Review] 『IT/イット ウェルカム・トゥ・デリー “それ”が見えたら、終わり。』考察・評価レビュー
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