その愛の結末はわかっているけど…映画『マリー・ミー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年4月22日
監督:カット・コイロ
恋愛描写
マリー・ミー
まりーみー
『マリー・ミー』あらすじ
『マリー・ミー』感想(ネタバレなし)
アメコミはスーパーヒーローだけじゃない
「アメコミはスーパーヒーローものばかりだ」…なんて言い切る戯言が日本ではときおりネット上で飛び出しては、そのたびにアメコミに精通した人たちから総ツッコミを受けるのが毎度の風景になっています。学習しろよ…という感じですけど…。
でも確かに「アメコミ=スーパーヒーロー」だと錯覚してしまう気持ちもわかります。ヒーロー系の作品は有名ですから。しかし当然アメコミはそれだけじゃないわけで…。さまざまなジャンルの作品が存在していますし、とくに昨今は読者の好みも多様化していて、創作活動もネットベースで拡散しやすいので、本当にたくさんのジャンルを取り揃えたアメコミ(「コミック」ではなく「グラフィックノベル」という言い方をしていることも多い)が日々生まれ、読まれ、愛されているのです。
そんな中、「アメコミはスーパーヒーローものばかりだ」という主張が懲りずに拡散していたちょうどその時期も日本ではアメコミ原作ながらヒーローものじゃない映画が公開されていました。
それが本作『マリー・ミー』です。
『マリー・ミー』はいわゆる「ロマコメ(ラブコメ)」。一時期の大量生産されていた全盛期が過ぎ去り、ロマコメの氷河期が訪れましたが、今は新しい時代に突入し、再び少し活気づいてきました。劇場公開作だけを見ると作品数は少ないように思えますが、現在は動画配信サービスが主流。おそらく劇場では派手な大作を観て、動画配信サービスではロマコメのような小粒な作品を親しい人と自分たちだけの空間でゆったり観る…というような鑑賞スタイルの住み分けが確立されてきたことも背景にあるのでしょう。
これまで恋愛で日の目を浴びなかったアジア系などマイノリティを題材にした作品も増えましたし、他にも「“キャリアのある女性”が“キャリアのない男性”を見いだして引っ張って恋をしていく」という従来の構図を逆転させたタイプのロマコメも目立ちます。『ノッティングヒルの恋人』(1999年)など昔からあるにはあったのですが、最近は『いつかはマイ・ベイビー』(2019年)、『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(2019年)とバラエティが充実してきて、ロマコメを定点観測している側にとっては面白い世の中になってきているのでは?
そんな中でのこの本作『マリー・ミー』は、数学教師の地味な男がある日突然世界で有名なポップスターの女性にプロポーズされてしまうというロマンティック・コメディになっています。
で、この映画の原作は前述したとおりアメコミなんですね。原作は“ボビー・クロスビー”がライターで、イラストは“Remy Eisu Mokhtar”が手がけた2012年のグラフィックノベル「Marry Me」。絵柄は親しみやすい感じで、いかにも漫画的です。話のノリもコミックらしいノリで、リアルではあり得なさそうなことがポンポンと起きていくので、軽く読めるストーリー。
その原作を映画化した本作では、主人公で物語の要となるポップスターの役を“ジェニファー・ロペス”に任せるというこの一点で強力な個性を発揮しています。
…と書いたものの、ふと冷静に考えると“ジェニファー・ロペス”を知らない若い世代もいるのか…。なんか当然知っているよねという感覚で紹介してしまいがちだけど…。“ジェニファー・ロペス”ももう50歳ですもんね…。
“ジェニファー・ロペス”は、プエルトリコ系アメリカ人。当初は俳優としてデビューし、1986年の『マイリトルガール きらめきの夏』に始まり、『アナコンダ』(1997年)みたいなモンスターパニック映画にもでましたし、『セレナ』(1997年)という著名な歌手の伝記映画や『アウト・オブ・サイト』(1998年)では賞ステージにあがるほどに高く評価されたり、1990年代後半の映画界隈ではすっかり広く話題の人物になりました。
一方で歌手活動でも成功を治め、00年代はミュージック・アーティストとしてスターへと突き進んでいき、“ジェニファー・ロペス”は多くのファンを得て伝説になりました。ちなみに「J. Lo」が愛称になっているので「J. Lo」と書かれていればそれは“ジェニファー・ロペス”のことです。
最近の“ジェニファー・ロペス”はまた俳優業に舞い戻ってきており、そのスター性そのままに製作も担いながら、『ハスラーズ』といった新しい時代を切り開くような映画を誕生させています。まあ、“ジェニファー・ロペス”は時代を築く信頼できる女の旗頭みたいなもんです。
その“ジェニファー・ロペス”が『マリー・ミー』で主演&製作を務めるとなれば、「今度は何を見せてくれるんですか、姉様!」と期待するファンが集まるのも当然で…。実際、この映画『マリー・ミー』はものすっごく“ジェニファー・ロペス”色に染まり上げられているので、その期待にはしっかり応えてくれるんじゃないでしょうか。
共演は、ドラマ『ロキ』の“オーウェン・ウィルソン”、『シュガー・ラッシュ』の声の出演でもおなじみの“サラ・シルヴァーマン”、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』でも印象的だった“ジョン・ブラッドリー”、さらにコロンビアの歌手の“マルーマ”も出演しています。
監督はドラマ『シー・ハルク:ザ・アトーニー』を手がける“カット・コイロ”です。
とりあえず“ジェニファー・ロペス”のオーラに圧倒されたい人、古きロマコメの継承を眺めたい人…そんなあなたにオススメです。
オススメ度のチェック
ひとり | :ロマコメ好きなら |
友人 | :俳優ファン同士でも |
恋人 | :異性愛ロマンス主体 |
キッズ | :性描写は直接的にはない |
『マリー・ミー』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):結婚するの!?
カタリーナ・ヴァルデス、愛称「キャット(カット)」はスーパースターであり、そのパフォーマンスは世界を熱狂させ、セレブとして常に話題の中心にいました、今はフィアンセのバスティアンとの熱愛がマスコミとSNSを騒がせています。キャットの最新曲「マリー・ミー」はバスティアンとのデュエットであり、2人のラブラブっぷりがあってこその歌でした。
カットはそのバスティアンとの公開婚約&結婚式をライブパフォーマンスの最中に実施することを発表し、この世紀のビッグカップルの愛の結実に大勢が関心を寄せています。キャットの優秀なマネージャーであるコリン・キャロウェイはメディア対応に大忙し。キャットの楽屋にはたくさんの花束がひっきりなしに届きます。
同じ頃。バツイチの数学教師であるチャーリー・ギルバートは12歳の娘・ルーと一緒に慎ましく暮らしていました。チャーリーは再婚するなんて気もなく、今は仕事と娘のことでいっぱいです。
チャーリーの同僚のパーカー・デッブスはロキシーという女性と交際を始めたばかりで、なんだか周囲の多くの人がキャットの「マリー・ミー」の話をしてムードが盛り上がっている様子。でもSNSもやらないチャーリーにはわからない世界です。
いよいよキャットの結婚式パフォーマンスの日。世界がワクワクする中、パーカーはロキシーと突然別れることになって嘆いていました。行く予定だったあのキャットのチケットが3枚あるそうで、チャーリーとルーをライブに誘います。娘もキャットのファンなので喜んでくれるかもと思い、チャーリーは行くことに決めます。
ライブは大盛り上がりです。チャーリーはやや雰囲気に乗れず横で立っているだけですが、パーカーは「Marry Me」と書いたプラカードを持って大はしゃぎ。パーカーはプラカードをチャーリーに渡し、ロキシーを煽る映像を撮って調子に乗っています。
キャットの圧巻のパフォーマンスが終わり、彼女は裏で今回のためのウェディングドレスに着替えている間、バスティアンがステージに立ちます。
しかし、会場の観衆の一部が少し雰囲気が怪しくなります。みんな何かスマホを見ている…。
そこへコリンがキャットに土壇場で話しかけ、コリンは「フェイク映像だと思う」と遠慮気味で言いながらスマホを出しました。キャットがその動画を再生すると、なんとキャットの付き人の女性とキスして浮気をするバスティアンの姿が映っていて…。
ショックでスマホを落としながら、ステージへ虚しく上昇。固まるキャット。頭が真っ白。
音楽を止めさせ、キャットはよろめきつつ、階段を降ります。そして例の映像の話をし、「結婚はできない」と口にします。会場はおどろいてどよめきます。必死に励ます観客もいますがムードは吹き飛びました。
するとキャットの目に「Marry Me」と書いたボードを掲げたチャーリーの姿が…。そしておもむろにキャットがチャーリーに向かって指を指し、「あなたと結婚する」と言い出したので、会場は騒然。自分が映像に映ってチャーリーもびっくり。パーカーや娘など周囲に押され、ステージへあがります。
ステージに立ったチャーリー。そのまま流れに乗って式が始まり、あれよあれよという間に誓いの言葉。周囲からは後押しの声もあがり、チャーリーは「OK」と言ってしまいます。そしてキス…。
誰も予想しなかったカップルの誕生。一体どうなってしまうのか…。
原作との違い
映画『マリー・ミー』の話をする前に原作についてもう少し説明すると、実は原作は映画とかなり違っています。これだけ違ってくると「原作」とクレジットしなくてもいいんじゃないかというほどの相違点があるかもしれない…。
まず原作は20代の男女のロマンスの物語になっています。主人公となる女性も世界的に有名なポップアイドルであり、映画の“ジェニファー・ロペス”のような大ベテランのレジェンド的な感じではありません。“ビリー・アイリッシュ”がいきなり「私はこの人と結婚します」と観衆の中から指名し出したようなものですかね。どちらかというと日本で言うようなアイドルに近いアイコンの若い女性が主役であり、見方を変えれば「あのアイドルに突然求婚されてしまった男の話」でもあり、ちょっとラノベとかアニメに通じるノリでもある…。
それを映画では中年男女のロマンスに変換しています。しかも、“ジェニファー・ロペス”と“オーウェン・ウィルソン”の組み合わせ。だからこのキャスティングもあって、新しさよりも余計に古きロマコメのカムバックのような雰囲気が漂っており、懐かしさを感じた人もいたはず。
この前提を基に「原作と違うので面白くない」と感じてしまう人もいるのはしょうがないのですけど、一方で“ジェニファー・ロペス”のパワーが強すぎることもあって、まごうことなき“ジェニファー・ロペス”映画としては完全に独自性を確立している。そう考えると本作はイレギュラーな映画化とも言えるかもしれません。
でもこうやって主演俳優のカリスマ性が前面に出てしまうというのも、なんだかひと昔前のロマコメ映画っぽいんですよね。
恋愛伴侶規範に染まりすぎない配慮
『マリー・ミー』はベタな再婚喜劇であり、最終的なハッピーエンドも見え見えです。
しかしながら、大枠はオーソドックスでも中身のパーツはかなり新規性があって、現代的な価値観を意識している部分が多く見られます。
例えば、作中ではキャットもチャーリーもそんなに恋愛伴侶規範に傾倒していません。結婚しなきゃ幸せになれないとか、恋愛感情があってこそ結婚するものという固定観念もないことが記者の質疑応答などの場面から推察できます。信頼感さえあれば、それが恋愛かどうかに限らず、互いに寄り添って生きる道を選んでもいいという、結構な直球のクィアプラトニック・リレーションシップを実践しようとしている感じにも思えます(まあ、性的関係は持つのだけど)。
「Marry Me」という曲も古い結婚観を象徴する楽曲として配置されているようなプロットですし、だからこそ「On My Way」という新曲の存在が光ります。”規範”から“個人の自己実現”にフォーカスするものを変更する話でもありますね。
最後は女性であるキャットから男性のチャーリーにプロポーズをし直して、きっちり逆転の構造を完成させるあたりも丁寧です。
その一方でバスティアンもそんなに悪者にしない方向性にとどめており、彼との関係で見た場合は中年女性がはるかに年下の男性と交際するという、これはこれで脱規範的なカップルなので、そこも否定しないようにしているのかなと思います。
でもまた古さは残る…
その配慮も感じる『マリー・ミー』ですが、やはりロマコメの古めかしさを残している部分もあって、そこは確かに残念なポイントです。
パーカーは典型的なゲイフレンドであり、冴えない男の親友のレズビアン女性という立ち位置は『スニーカーシンデレラ』と同じ。
『マリー・ミー』の場合は、ただでさえ結婚を扱っている話なので、同性愛者が異性婚を祝福する話を無邪気に楽しめるかは、その観客のいる国や地域の同性結婚の制度化の現状によっても感触は変わってくるものですよね。パーカーが「Marry Me」のボードを持ったままだったら、キャットはパーカーにプロポーズしたのかな…その場合の社会の反応はどうなのかな…とか考えてしまう…。
あと、マネージャーのコリンがいいやつすぎるので、彼には愛でなくていいので、労働に対する正当なボーナスを与えてほしいです。
私なんか現実的に見てしまって、損害賠償請求とかどうなるんだろうって思ってしまう…。普通に考えたらバスティアンに非があるとして法的責任を問えそうだけど、あの場でキャットがチャーリーに求婚してしまったので、かなり互角の法廷闘争になりそう…。
恋愛伴侶規範に全く染まらず、脱規範的な関係性を構築していく男女のラブコメとしては、2022年は『スターは駐車係に恋をする』なんかもあるので、今後もバラエティは広がっていきそうです。
とりあえず“ジェニファー・ロペス”が楽しそうで、その姿で満足しました。もっと窓とか割って弾けてほしいですね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 60% Audience 92%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 Universal Pictures マリーミー
以上、『マリー・ミー』の感想でした。
Marry Me (2022) [Japanese Review] 『マリー・ミー』考察・評価レビュー