自己肯定し合うガールズラブ…ドラマシリーズ『Pluto』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:タイ(2024~2025年)
シーズン1:2024~2025年にYouTubeで配信
監督:Snap25
イジメ描写 児童虐待描写 交通事故描写(車) LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写
ぷるーと

『Pluto』物語 簡単紹介
『Pluto』感想(ネタバレなし)
タイからGLドラマの星をお届け
タイの「BL(ボーイズラブ)」&「GL(ガールズラブ)」の話をしましょう。
東南アジアの一国であるタイは、今やBLとGLの作品で大注目されている産地です。日本でもどんどんファンダムを膨らまし、「これは金鉱脈だぞ」と気づいた各社はタイの作品を扱おうと次々と手を伸ばしています。
そもそもタイでは『Love Sick』(2014年)や『SOTUS』(2016年)などのBLドラマで、BLブームが自国内で熱気を高め、2020年代に『2gether』(2020年)の大バズリ以降、量産されるようになると、国外にもその盛り上がりが知られ、LGBTQコミュニティの拡散力もあって、瞬く間に注目が上がりました。BLと並んでGLドラマも盛んに作られ、勢いはなおも上昇傾向です。
さらにタイでは2024年に同性結婚がついに法制化し、2025年1月23日から発効。この社会変化がどう表象に作用するのか…それも興味深いですね。こういうのをリアルタイムで観察できるって貴重な瞬間だと思います。
私もそこまでタイのBL/GLドラマを隅々まで履修できていないのであれですけども、今は頑張って追ってるところです。正直、前述した同性婚実現の変化もあって、現在最もモニタリングしていて楽しい国のひとつだと感じています。
今回紹介するのは、そんな絶好調の2024年~2025年にかけて配信されたタイのGLドラマです。
それが本作『Pluto』。
本作は“チャオプラノイ”のペンネームで知られるGL作家の小説が原作です。“チャオプラノイ”はタイのGL文学界隈では人気筆頭のクリエイターで、数多くの作品を世に送り出しており、『ギャップ・ピンクセオリー(GAP: Pink Theory)』はドラマ化で日本でもファンを増やしたばかり。
そんな人気クリエイターの作品の新たなドラマ化だったので、すでに始まる前から熱烈なファンダムに支えられていたのですが、出来の良いドラマが生まれてくれました。
ドラマ化したのは、タイでは有数のエンターテインメント企業である「GMMTV」。BLやGLのドラマを精力的にリリースしていることでも知られ、『Pluto』は『23.5』に続くGMMTV制作のGLドラマ第2弾となりました。
主人公を演じるのは、「ナムターン」の愛称がある“ティパナリー・ウィーラワトノドム”で、双子姉妹を一人二役でやってます。お相手の恋人を演じるのは、「フィルム」の愛称がある“ラチャーナン・マハーワン”。2人とも今のタイで勢いのある若手俳優です。
『Pluto』はどんな物語かを簡単に説明すると、双子の姉妹が主人公で、男性との結婚式を終えたばかりの妹が事故で意識不明となってしまうのですが、実はその直前に「別の恋人がいるので私のふりをして別れを告げに行ってほしい」と姉は頼まれていたのでした。そして会いに行ってみると、その「別の恋人」は女性で、姉はその女性に惹かれていく…。そんな導入です。
軸にあるのはロマンチックなロマンスですが、背景にあるのはシリアスな錯綜した人間関係。でもハッピーな着地をするので、とりあえず安心してください。
『Pluto』は、公式のYouTubeチャンネルである「GMMTV OFFICIAL」で無料で配信されており、日本からでも普通に観れますし、日本語字幕もついています。全12話で、1話あたり約50分ですが、1話が4分割されて配信されています。
タイのGLドラマを初めて観るという人にもオススメです。
『Pluto』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 親から子への児童虐待、同性愛差別、イジメなどの描写のシーンが一部にあります。 |
| キッズ | 控えめな性描写のシーンがあります。 |
『Pluto』予告動画
『Pluto』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
とある学校の教室にて、天文学の授業の中、双子の姉 Ai-oon と妹 Ob-oom(Oaboom)は同じクラスにいました。Ob-oom は優等生で博識、どんなことにも正確に答えます。Ai-oon はお調子者で、出来が良すぎる Ob-oom がずっと疎ましく思っていました。10代の頃はそうやって張り合う日々。両親が亡くなり、祖母の保護のもと双子の支え合いで生活してきましたが、気持ちは複雑でした。
月日が流れ、大人になっても状況は変わっていません。しかし、ある出来事が全てを変えます。ある夜、Ai-oon のもとに Ob-oom が交通事故に遭ったという知らせが飛び込んできます。祖母と急いで病院に駆けつけますが、救急処置も虚しく Ob-oom は目を覚ましません。昏睡状態に陥ります。
その10時間前、実は Ob-oom は結婚式を迎えていました。豪華な会場に Ai-oon はラフな格好で愛用のバイクで颯爽と現れます。祖母にガミガミ言われつつ、着替えて会場へ。Ob-oom は結婚相手の男性 Paul の前で「運命の人でした」と幸せいっぱいの言葉を口にしていました。2人は末永い愛を誓い合います。
ところがひと気のない廊下でウェディングドレス姿の Ob-oom と会った Ai-oon はピリピリした空気の中である頼みごとをされます。
「私のふりをして恋人と別れてほしい」
そっくりな双子なので学生時代もたまになりすましたりしたことがありましたが、Ob-oom はそれを嫌がっていました。それにさすがに今回の内容には耳を疑います。恋人がいる? 二股していたということ? 詳しくは話してくれません。とにかく代わりに別れてくれとのこと。「最低だ」と Ai-oon はその場を去ります。
それからまだ時間も経っていないのに、こんな事故が起きるとは…。
Ob-oom は Paul の運転していた車で事故に遭ったようで、Paul は亡くなりました。Ob-oom の友人 Jan が見舞いに来ますが、Ai-oon は Ob-oom の例の恋人の話を持ち出し、問い詰めます。そして居場所を知りました。あの願いを聞くかどうかは別にして、真相を知らなければ…。
Ob-oom のふりをしてそこへ行きます。なかなかに優雅な屋敷です。恋人の名は May(Metawee)というらしいです。どんな男なのかとそわそわしながら待ちます。
そこにひとりの女性が2階からゆっくりやってきて、Ob-oom のふりをした Ai-oon に近づき、目が見えないのか手で顔のかたちを確認した後、口にキスをしてきます。まるでいつものことのように…。
Ai-oon は驚きとともに身を任せますが、しかし、温かい感情にも包まれていきます。わからないことが多すぎて頭がついていきません…。

ここから『Pluto』のネタバレありの感想本文です。
自己肯定の星を見つける
ドラマ『Pluto』は導入から設定が盛り盛りですね。「正反対の双子」「秘密の恋人」「しかも盲目」「双子なりかわり」…。まあ、ジャンルとしては定番なのですが、それをサフィックなロマンスでやりました!ってところがこの作品の土台です。
最初は「一体なぜこんなことになったのか?」という謎を追及するミステリーが始まりそうな予感がします。要するに「Ob-oom(以下Oom)はどうしてMayと付き合い、別れるに至ったのか」「あの事故の裏には何かあるのか」…そういった疑問の答え探しです。実際、観客とほぼ同様にわけのわからない状況に置かれる主人公のAi-oon(以下Ai)は、妹Oomになりすますという二重生活を部分的に送りながら、セルフ探偵をしていきます。
しかし、前半はわりとその謎解きはどうでもよくなり、すっかりAiとMayがイチャイチャするパートが続くことになり、物語は停滞気味になります。
ようやく動き出すのは第6話の最後です。ここから核心のネタバレ。MayはAiがOomになりすましていることを知っていました。このオチは察しやすいものだと思います。相手が知っていれば、なりすましていたという一線を超える行為の罪悪感も薄れ、穏便に片付きますし…。
ただ、このMayが想像以上に背景の中心にいる人間で、あまりにややこしいので「ええ…?」と整理するのが観ていて少し大変でしたよ。
まずAiは以前から友人たちと不良っぽいことをよくしていて、とくに友人のBenとバイクをかっ飛ばして危険運転していたのですが、それを制裁しようとした自警団気取りのBatmanという男がBenに傷害を負わせる事件が発生。車椅子生活となったBenは家計も苦しく母も自死してしまい、困窮。MayはこのBatmanの弁護士でした。そしてAiのもうひとりの友人であるKosol(Aiの元カレでもある)が、Aiの何気ない感情的な発言に動かされ、弁護士のMayに逆恨み的に復讐を単独で敢行し、暴行によってMayの目は見えなくなります。
これだけでも込み入っているのですが、ここにさらに別の背景が重なります。Mayは生徒時代はイジメられがちで、そこにたまたまOomの名札のある制服を着たAiが出くわし、助けてあげたことで、ひとめ惚れ。Mayの初恋となりますが、後に大人になって客室乗務員のOomと出会って、初恋のあの人だと勘違いして付き合いだします。しかし、結局、OomはMayはAiを好きなのだと事情を理解し、Mayが暴行事件で目が見えなくなった頃に縁を切って、そのままPaulと結婚。
う~ん…とりあえず言いたいのは、Mayは弁護士として、それ、利益相反とかの倫理規定に反したりしないのかな…。タイの司法業界のルールを私は知らないから何とも言えないけど。
とにかく「あらら…」としか言えない人間関係の多重追突事故状態なのですが、でも起きてしまったことは今さらどうしようもできないのでね。
それよりも本作『Pluto』は自己肯定に重きを置いていて、そこは良かったです。「あなたは自分が思っている以上に愛されている」という肯定感を得られるか…ですね。
Aiは妹や祖母から「不出来」というレッテルを貼られすぎて自己嫌悪が蓄積されまくっており、本当に可哀想な状況にありました。卑下するだけの人生から愛に触れ、作家への夢を目指す姿は応援したくなります。
一方のOomも実は「私は誰にも愛されていない」と自己否定が強く、やっとのPaulも失い、完全に孤立無援に。
Mayもまた父からの性的指向の否定だったりと、裕福な家庭ながらその居場所は家にありませんでした。
Ai・Oom・Mayの3人が対立し合うのではなく支え合う関係を再構築できるラストにひと安心です。
そんなメインの3人の脇で、Jan・Pang・Pimの3人の色恋模様も三角関数で展開されていくのですが、こちらもハッピーエンドでまとまって何より。
本作は原作とはかなり違うところもあるようで、ドラマ化によって各キャラクターの存在が単純にはいかないニュアンス豊かになって、誠実な脚色だったのではないでしょうか。
イチャイチャな広告
綺麗に丸く収まったとは言え、ドラマ『Pluto』に不満点がないわけでもありません。
例えば、やっぱり一番デカいところで言えば、障害の扱い方はさすがにプロット上の都合がいいように利用されている側面が強かったです。
いや、製作陣もそこは配慮していて、本作では視覚障害者となったMayが、バス内での「どうして障害を証明しないといけないの?」などと、社会的な不平等が障害を生み出していることを批判するシーンをあちこちに用意し、問題意識を持っていることを随所で表明しています。ただ、それらも基本的に製作陣のポジショニング・トークに終始している面は否めません。
それに本作は視覚障害のみならず記憶喪失とか、いろいろな障害をフルコースでプロットに使ってしまっているのでね…。もうこれは原作からの根本的な欠点です。
また、Mayの父親の同性愛差別な態度が最終話でいきなり改心するのも、さすがに急展開すぎるところはありました。
あとは、やっぱりこれにも言及しておきましょう。プロダクト・プレイスメントです。
本作は、作中で妙にAiとMayがラブラブモード全開で特定の商品を使ったり、食べたりするシーンが唐突にあるのですが、あれは広告です。タイでは普通なのかもですが、すごく露骨にプロダクト・プレイスメントを(しかもわりと長めに)挿入してきます。これぞレインボー資本主義!って感じだったな…。あそこまでわかりやすいともうギャグ的ですらある…。
広告って異性愛を描いているときもステレオタイプな描写になりがちですが、やはり同性愛であろうとも「イチャイチャ」みたいなステレオタイプになるんですね(ポジティブなイメージで売ろうとするとどうしてもそうなるんでしょうけど)。今作でそれがよくわかりました。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
以上、『Pluto』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)GMMTV
Pluto (2024) [Japanese Review] 『Pluto』考察・評価レビュー
#タイドラマ #双子 #視覚障害 #レズビアン
