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『見えない目撃者(2019)』感想(ネタバレ)…邦画の可能性を目撃する

見えない目撃者

邦画の可能性を目撃する…映画『見えない目撃者』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Sightless Witness
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年9月20日
監督:森淳一
性暴力描写

見えない目撃者

みえないもくげきしゃ
見えない目撃者

『見えない目撃者』あらすじ

警察学校の卒業式の夜、自らの過失で弟を事故死させてしまった浜中なつめ。自身も失明し警察官の道を諦めた彼女は、事故から3年経った現在も弟の死を乗り越えられずにいた。そんなある日、車の接触事故に遭遇したなつめは、車中から助けを求める少女の声が微かに聞こえてくることに気づき、誘拐事件の可能性を警察に訴えるが…。

『見えない目撃者』感想(ネタバレなし)

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韓国映画を日本映画にするには…

2019年の米アカデミー賞で『パラサイト 半地下の世界』がまさかの作品賞を受賞したことをきっかけに、日本でも普段は邦画やハリウッド大作の有名なものしか見ない一般層や、映画関係者にとっても「韓国映画」というコンテンツの再認識が進むのではないかなと思う、今日この頃。

韓国映画から見習うべきことはいっぱいあるので、私もそういうフィードバックは大歓迎です。

ただ、邦画は韓国映画を無視していたわけではなく、これまでも“活用”をしていた事例はありました。例えば、『22年目の告白 私が殺人犯です』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』のような、韓国映画を日本映画としてリメイクするパターンです。

しかし、あくまで個人的な感想を言うなら、私はそういう韓国映画を流用したリメイク邦画の数々に対して、そこまで大満足した経験はなく…。なんというか、悪い意味で邦画のマイナス面が追加されてしまうところもあって、結果的にオリジナルである韓国映画から表面上のアイディアだけ盗んできた感じしかしないというか…。こういうのは邦画だけでなくハリウッドでもよくある話なのですが、やっぱり外国の映画を自国作品として再構成するとどうも個性が消えて、良く言えばマイルド、悪く言えば凡庸な映画になってしまう気も…。あらためて難しいなと実感します。

そんな中、この2019年に公開された邦画は「おおっ!」と思った一作でした。それが本作『見えない目撃者』です。

本作は2011年に韓国で公開された『ブラインド』という作品の日本版リメイクです。この作品は、中国でもヤン・ミー主演でリメイクされており(邦題は同じく『見えない目撃者』)、インドでもリメイク化の企画が進行中だとか。

それだけリメイクが相次いでいるということは、作品のアイディアが良い証拠だと思いますが、本作は視力に障害があってほぼ見えない女性が凶悪犯罪者を特定して追い詰めていくというクライムサスペンスです。「障がい者+スリラー」というは今やひとつのトレンドになりつつありますが、本作も同類のカテゴリ…と言えなくもないですね。

で、その日本版である『見えない目撃者』ですが、もちろん元の韓国映画版も良かったのですが、日本版も負けず劣らず、いやひょっとすると総合的なクオリティは上回るくらいの良さがあり、偉そうな物言いになりますけど思わず「邦画、凄い!」と見直してしまいました。

具体的にどこが凄いのかはネタバレになるので後半の感想で語るとして、本作を手がける東映は『孤狼の血』や『初恋』といい、最近は残酷要素の強い作品を仕上げるというもともとの会社伝統の長所を上手く活かす作品を連発している雰囲気があります。R指定もいとわず、ガンガン攻めていく姿勢は私も喜びたいところ。大ヒット…とはいかなくても一定数の需要は絶対にありますからね。

日本版『見えない目撃者』は主演を務めた“吉岡里帆”の好演も見逃せません。

私は芸能人をほぼ映画でしか知らないので、ドラマやテレビ、雑誌などでどう活躍しているかまではそこまで網羅的に把握していないのですけど、私の中での“吉岡里帆”の印象は、“綾瀬はるか”の後継者的なポジションなのかなと思っていました。出演映画も元気・楽しく・コミカルに!みたいな作品が目立つ気もしましたし。

しかしどうですか。この『見えない目撃者』の中での“吉岡里帆”はそういう要素は皆無で、非常に知的で勇猛で正義感溢れるキャラクターであり、完全にこれまでのパブリックイメージを覆す存在感を発揮。私はこういう役柄の方が彼女に合っていると思うので、ぜひ今後もこんなスタイルで活躍してほしいな、と。

“吉岡里帆”が満開に花開く主演作ですが、その脇を支える他の俳優陣も魅力的。あまり詳細に言及していくと、誰が真犯人なのかというネタバレに触れそうになるので書かないでおきますけど、とにかくキャスティングに隙はありません。

監督は『重力ピエロ』や『リトル・フォレスト』の“森淳一”。脚本には『ミュージアム』の“藤井清美”が参加しています。

残酷描写もかなりドシドシ投入されていくので、そういうものに耐性がないならちょっと視聴を遠慮したくなる気分もわかりますが、見逃すのはもったいない邦画なのは間違いありません。その目に焼き付けてください。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(ハードな映画が好きな人に)
友人 ◯(緊迫感を共有しよう)
恋人 ◯(スリルを感じたいなら)
キッズ △(残酷描写が満載です)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『見えない目撃者』感想(ネタバレあり)

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暗闇に沈んだ正義が目覚める

訓練なのか、鋭い目つきで銃を撃つ女性警官候補生。真ん中に命中し、その射撃能力を実証。走り込みでも体力の高さを見せつけ、鑑識、柔道、あらゆる面での才能にも欠点はなさそうです。見事に必要な知識と実技を身に着け、警察署に赴任することが決まり、職務に邁進する覚悟を宣言。浜中なつめの警官としての人生が始まろうとしていました。

一方、そんな彼女にも心配事が。浜中大樹という出来の悪い高校生の弟がおり、この警察学校卒業式の日も夜中に不良連中とうろついているところを浜中なつめに目撃され、引っ張られていきます。

浜中なつめの運転する車内。1週間後には交番勤務だと説明するもしばらくは関係性の続く厳しい姉にうんざりそうな弟。ふと弟がティアベルを取り出し、けれども足元に落としてしまいます。自分では届かない位置に落ちたらしく「取って」と言ってきますが運転に集中する浜中なつめは拒否。それでもしつこくせがんでくるので手を伸ばし、自分でも位置を確認するべく、ほんの少し目を逸らした瞬間…。目の前にトラックがいることに気づき、咄嗟にハンドルを回し、車は横転。

目を覚ました浜中なつめは誰かに助けられたことに気づきますが、弟はひっくり返った車内で足が挟まって動けない状態のようです。しかも車は出火。しかし、浜中なつめは自分の視界がやけに悪いことに混乱していました。「姉ちゃん、助けて」という悲痛な声を聞くも「逃げて」としか言えない姉。そんな状態にもがく中、爆発炎上した衝撃が空気で伝わってきます。「大樹」と呼びかけるもその声に返事はなく…。

その悲劇から3年。浜中なつめは盲導犬を連れて歩いていました。警官ではなく、今は家で仕事をしています。「弟の墓参りに行きたくない」と母に言うも「もう3年経ったのだし、乗り越えよう」と言われてしまい、それでも反発して先に帰る浜中なつめ。あの事件は目だけでなく心にも大きな傷を残していました。

モヤモヤした感情を抱えたまま夜道をひとり(盲導犬も一緒)で歩く浜中なつめ。その横を勢いよく通るスケボーか何かに乗った人の気配がします。すぐに急ブレーキ音が前方で聞こえ、駆け寄ると、車のラジオ音、そして何かの声ドアを叩く音が耳に聞こえてきました。しかし、誰かが車に乗り込むと、何も言わずに急発進するだけ。

浜中なつめは誘拐だと直感で考え、警察に相談。声の雰囲気でだいたいの年齢がわかると自信を見せ、あれは「10代女性」「れいさ」と聞こえたと証言します。さらに運転席からアルコールの匂いがしましたと報告。

しかし、対応した警察の吉野直樹木村友一は浜中なつめは信用できないと半信半疑。彼女は精神科に通院していると言う話も知り、幻聴ではないかと疑っています。それでも折れない浜中なつめは自分以外の目撃者としてスケートボートで通りかかった人がいると伝え、確認するようにお願いするのでした。

スケボーを趣味とする者たちが集まるパークへ足を運んだ木村&吉野。該当者となる国崎春馬の存在はすぐにわかり、話を聞きますが、どうやら車と接触事故を起こしそうになったのは事実のようですが、別に女の子なんていなかったと証言。「本当にその人、見ているんですか?」と言われ、警察としては何も言い返せません。

結局、事件の可能性は低いと判断。捜査しないことになり、それを聞いて怒った浜中なつめは自分自身で国崎春馬のもとに聴取に行き、独自で“捜査”を開始しますが…。

その裏には誰にも見えていない、日本社会で蠢く闇があり…。

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刑事二人も良い仕事です

日本版『見えない目撃者』の一番の良さは、変な味付けもせずに、スマートに仕上げているそのストイックさにあると思います。ベタベタな展開にだっていくらでもできそうな題材に対して、あくまでスリラーとして特化することを貫いているのが台無しになるのを防いでいました。

前述したとおりキャスティングは100点満点。SHERO(女性の主人公)を熱演した“吉岡里帆”のハマり方は最高で、演技の抑制が効いていることもあって、淡々と、でも確実に正義の心を燃え上がらせている姿を上手く体現していました。視覚障害者という性質上、顔のアップになるシーンも多いのですが、無駄に表情を作ることもなくサラッと演じているのがなおさら良くて…。やっぱり視覚障害者を演じなければ…という意識があるせいなのですかね。

その“吉岡里帆”演じる浜中なつめとバディを組むことになる国崎春馬を演じる“高杉真宙”。あの絶妙な面倒そうな振る舞いとか、そういう単純な仲間ではない感じがよくでていてこちらも良かったです。浜中なつめとはバディ関係になるにはなるのですが、立ち位置としては「弟」であり、ましてや浜中なつめの本当のバディはあの盲導犬なので、終盤までは割と一歩引いているのが良くて。だからこそ本当にバディとなる終盤のアツさに繋がってきます。

そんな中、個人的にはあの刑事二人、木村&吉野を演じた“田口トモロヲ”“大倉孝二”がやはり推したくなる部分で…。言っちゃ悪いですが、この二人は結構どうでもいい役柄を演じてしまうことも多いじゃないですか。でもこの本作では若者勢に張り合えるくらいの健闘を見せる。そこがアツい。最終的には二人とも命を落とすのですが、その結末のロジックも、あの二人がバディで動いていれば対処できたかも…と思わせるのもテーマに合致している感じですね。

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観客にだけは見える恐怖

日本版『見えない目撃者』のスリルに繋がるサスペンスのシーンは、元の韓国映画やリメイクの中国映画と一致する面も多いのですが、ここでもしっかり集中して作り込んでいるだけあって、なかなかに手に汗握ります。私は元映画を観たことあるくせに、本作でも緊張してしまいましたからね。

浜中なつめが一瞬拉致され、なんとか逃げ出して逃走劇に発展する、中盤以降の大きな見せ場シーン。あそこはスマホのビデオ通話を活かすという、もともとの関係作品ベースのアイディアですが、本作でも緊張感は抜群。エレベーターに逃げ込むシーンへのシームレスな繋がりといい、構成も無駄なく、文句なし。盲導犬が犠牲になるので、犬好きにはツラいですけどね…(でもそれがあるおかげで、次は国崎春馬が死ぬかもというフラグにもなってきて大事な演出なのですが)。

ちなみに本来の盲導犬はああいう危険人物から飼い主を守るようには教わっていないみたいです(あくまで障害物を避けたりするような行動のみ)。まあ、自主的に行動する犬もいるかもですが。

そして終盤の敵本拠地での室内サスペンス。ここは部屋を暗くしての有利シチュエーションを作る展開が決め技に。このへんは『ドント・ブリーズ』とか『サイレンス』を思い出させる演出ですね。とくに『サイレンス』は障害者スリラーの究極系みたいなところがありましたから、この『見えない目撃者』と比較もしたくなります。本作はかなりギミックは少なく、最後のティアベル伏線回収での一撃必殺くらいですかね。あれはあれでシンプルでいいと思います(ちょっと成功率が低いような気がするけども)。

浜中なつめが視覚に問題があるとはいえ、他の感覚が常人以上に研ぎ澄まされ、完全な超人みたいになっているわけではないあたりは(相手の年齢などをあてるくらい)、リアルな一線を越えていなくて安心できるところでもありました。

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日本の闇が見えてくる

日本を舞台にする以上、その事件もどこの国でも通用する汎用なモノではなく、日本社会の闇を象徴するものにしてほしいところですが、そこもしっかりクリアしているあたりもこの『見えない目撃者』の良さ。

本作では一部の10代女子高生と密接に関わるJKビジネスが背景になっており、そこの描写も逃げずに映し出すのもさすがR指定。そんな大人の男たちに搾取されるティーンたちを、風俗の世界から救いだしてくれる神様としての「救様」。その正体にして、実際は残忍な殺戮をしているのが生活安全課少年係の刑事というのも皮肉が効いているというか。

今の日本の男社会のおぞましさを見せると同時に、それ自体は結局のところ何も解決はできないというのも現実的。レイサあらためレイという被害者の情報を教えてくれたネットカフェ暮らしな女子高生に、浜中なつめが「うちにくる?」と親切で提案しますが、丁重に断られます。この“自分はそこまで可哀想な人間なんかじゃない”という自尊心がまさに男たちの格好の餌食になる弱みにもなっているのですが…。そんな女子高生の生の表情や働く姿を、視えていないという浜中なつめの力不足さもここでは切実に響いてきますね。

「六根清浄」…眼根(視覚)、耳根(聴覚)、鼻根(嗅覚)、舌根(味覚)、身根(触覚)、意根(意識)…のネタは、厳密には日本要素ではないのですが、儀式殺人としてのビジュアルは日本風になるので、まあ、それはいいのかな。

個人的にあえて苦言を呈するならば、あの情報提供者の女子高生に「写真を撮ってもいいですか?」と聞かれ、浜中なつめが自分が撮られると勘違いするも実は犬だったというギャグ。あれは微笑ましいので全然ネタとしては笑えるのですが、たぶん視覚障害者はああ言われてポジティブに捉えないだろうなと思うし(あれは演じる“吉岡里帆”を知る観客向けのメタ的なユーモアなのはわかりますが)、あそこは製作陣の部外者目線がポロっとで出ているかな、と。

制作時にはどれくらい視覚障害者当事者の意見や考証があったのかは知りませんが、もっと当事者ならではのユーモアもあってもいいかもしれませんね。

あと最後のシーンで、「警官になれるかな」と聞かれて「なれるよ」と素直に返す…というのはちょっとベタかな。ましてや直前に思いっきり刑事が惨殺されて殉職しているわけだし。「簡単にはなれない」と厳しく返す…くらいのオチでも私は好みだったです。

ともあれ私はこの『見えない目撃者』の完成度に満足ですので、シリーズ化してほしいくらいです。理想は私も大好きな『特捜部Q』シリーズというデンマークの映画があるのですが、ああいう社会の闇にガンガン迫って凄惨な展開もバシバシ描くバディ・ミステリーですね。

東映さん、見えてないと思うけど、お願いします。

『見えない目撃者』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019「見えない目撃者」フィルムパートナーズ (C)MoonWatcher and N.E.W.

以上、『見えない目撃者』の感想でした。

Sightless Witness (2019) [Japanese Review] 『見えない目撃者』考察・評価レビュー