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『AVA エヴァ』感想(ネタバレ)…ジェシカ・チャステインも暗殺者になる

AVA エヴァ

ジェシカ・チャステインも暗殺者になりました…映画『AVA エヴァ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Ava
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2021年4月16日
監督:テイト・テイラー

AVA エヴァ

えば
AVA エヴァ

『AVA エヴァ』あらすじ

暗殺者として圧倒的な実力を持ち、手馴れた対応で粛々とターゲットを葬っていくエヴァ。そんな彼女は完璧に任務をこなしながらも常に「なぜ標的たちは殺されるのだろうか」と自問自答を繰り返していた。ある日、エヴァは極秘の潜入任務に臨むが、組織から事前に与えられていた情報の誤りから、エヴァの正体に気づいた敵との銃撃戦へと突入してしまう。なんとか生き延びたエヴァだったが、さらなる魔の手が迫っていた。

『AVA エヴァ』感想(ネタバレなし)

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今日の仕事は暗殺です

「暗殺」なんて私には現実感のないものなのですが、人類の歴史にとっては暗殺は頻出する出来事です。

人類史の暗殺の歴史はそれこそ紀元前からあります。エジプトでも、ローマでも、中国でも、暗殺が起きていました。皮肉なものですが、暗殺によって時代が動くこともしばしばです。

最近になって起きた暗殺事件と言えば、やはりドキュメンタリー『わたしは金正男を殺してない』でも取り上げられた、2017年にマレーシアのクアラルンプール国際空港で起こった、北朝鮮の朝鮮労働党委員長・金正恩の実兄・金正男に対する暗殺事件でしょうか。この事件は白昼堂々と空港で、しかもごく普通の若い女性が知らぬ間に暗殺に関与してしまったという、なかなかに衝撃的な一件でした。暗殺ってこんなふうに日常の中で起きるものなのかと震撼しました。

対する映画の中、とくにジャンル映画の世界での暗殺はずいぶん荒唐無稽です。先ほどの金正男暗殺事件では一般女性が暗殺者に仕立て上げられていましたが、映画における暗殺者は女性であっても今やとにかくアグレッシブ。そんなことしちゃったらバレるのでは?ってくらいに大暴れしまくりです。

『悪女 AKUJO』(2017年)、『アトミック・ブロンド』(2017年)、『レッドスパロー』(2017年)、『ANNA アナ』(2019年)、『オールド・ガード』(2020年)と、アクション満載のアサシン・ウーマンをいっぱい眺めてきました。

女性の暗殺者を描く映画はまだ男性と比べたら少ない方なんですけどね。

そんな中、今度はあの名女優が暗殺者の仲間入りです。それが本作『AVA エヴァ』

ちなみによく似たタイトルの映画が多いので勘違いしないでください。『アヴァ/Ava』やら『EVA エヴァ』やら、いろいろあるんですが、本作は暗殺者を描く『AVA エヴァ』だと思ってもらえれば。

さっきから何度も言っているように本作は女性暗殺者を描くサスペンス・アクション映画。割とそれ以上のことは言及することはないくらい、シンプルな内容です。頭にパッと思い浮かんだイメージどおりだと思います。

肝心のその暗殺者を演じるのが、“ジェシカ・チャステイン”です。2011年の『テイク・シェルター』『ツリー・オブ・ライフ』『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』で続々と高評価を連発、翌2012年には『ゼロ・ダーク・サーティ』でアカデミー賞主演女優賞にノミネート。まさにキャリアをガンガンに伸ばしていった実力派の俳優です。

『ゼロ・ダーク・サーティ』ではCIA分析官を演じ、戦争という殺しすらにも無感覚になる過酷な世界で精神的に疲弊していく女性を熱演していたのですが、今回の『AVA エヴァ』では真逆で自らどんどん殺人を実行していく役柄に。でも実は“ジェシカ・チャステイン”はキャリア初期の出演作『ペイド・バック』(2011年)にてモサドの工作員を演じていたので、こういう裏社会で倫理に反する仕事をする人物を演じるのはそこまで初めてではありません。

最近は2016年の『女神の見えざる手』や、2017年の『ユダヤ人を救った動物園 〜アントニーナが愛した命〜』『モリーズ・ゲーム』といった主演作も充実しているし、2019年の『X-MEN: ダーク・フェニックス』『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』のようにブロックバスター大作でも活躍しているしで、隙のないキャリアを歩んでいます。

その“ジェシカ・チャステイン”が比較的小規模なジャンル映画で主演するのも意外な感じです。激しいアクションシーンも展開されるので、カッコよさがさらに引き立ちますね。

共演は、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』などのこちらも実力派男優“コリン・ファレル”、そして『バーニング・オーシャン』『ベルベット・バズソー: 血塗られたギャラリー』など今も活躍が絶えないベテランの“ジョン・マルコヴィッチ”。さらに、ラッパーであり俳優としても活動する“コモン”、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』でも印象抜群だった“ダイアナ・シルヴァーズ”も登場。

監督は、『ガール・オン・ザ・トレイン』や『マー サイコパスの狂気の地下室』を手がけた“テイト・テイラー”です。“ジェシカ・チャステイン”とは監督作『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』での付き合いがありますね。

ベタな暗殺者モノを観たいのであれば、『AVA エヴァ』は需要に答えてくれると思います。もちろん俳優のファンにとってはチェックリストに入れておきたい作品になるでしょう。

オススメ度のチェック

ひとり 3.0:俳優ファンなら
友人 3.0:ジャンル映画好き同士で
恋人 3.0:デートにはハマらずか
キッズ 3.0:人がいっぱい死にます
↓ここからネタバレが含まれます↓

『AVA エヴァ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):暗殺者は追われる

フランス。車を運転するひとりの女性。ハンドルを握るかたわら、口紅を塗り、身支度を車内で整えます。空港に到着し、ビジネスマンと思われるスーツの男・ハミルトンを迎える…その女性の名前はエヴァ

男性を後ろに乗せ、エヴァは発車させます。その車をバイクに乗った何者かが追います。

車内で談笑するエヴァとハミルトン。会話は弾み、車を止め、後部座席で和やかにトーク。しかし、その模様は背後で追跡するバイクの女によって盗聴されています。

相手のハミルトンはすっかり油断していましたが、エヴァは「なぜあなたを殺さないといけないの?」と理由を問いただし、おもむろに銃を突きつけてきました。男は事態に気づきます。彼女は暗殺者だと。

エヴァは迷いなく発砲し、男は怪我を負います。完全に余裕が吹き飛び、焦りまくる男。エヴァは淡々としており、つまらない相手だと思ったのか見るのさえやめます。男が一瞬、反抗の目を向け…エヴァは見向きもせずに引き金をひき、撃ち抜くのでした。

後方のバイクの女は殺害を確認し、すぐさま立ち去ります。

エヴァはターゲットの殺害を報告。車をまたも走らせます。車内で顔についた血をふき取り、口紅をぬぐい、カツラをとり、服も脱ぎ、素に戻っていくエヴァ。これが彼女のいつもの仕事。

ホテルにチェックイン。部屋を物色。何も怪しいものはありません。夜にランニング。それが終わると部屋に大きなプレゼントボックスが届きます。中には札束と銃、そしてパスポート。

こうやってエヴァは次々と指示を受けてターゲットを殺害して回るのです。

アメリカ、ボストン。エヴァはバーを訪れます。そこでライブで歌うひとりの女性。終わった後、ジュディと呼びかけるエヴァ。彼女は妹です。久しぶりの会話ですが、ジュディから責められ、何も言い返せないエヴァ。家族との関係は疎遠であり、その状況はすっかりエヴァを孤立させていました。病院に入院していた母に会っても、どこかよそよそしいです。

エヴァにとっては仕事が全て。次の任務指示を聞きます。場所はサウジアラビア。ゴージャスな赤いドレスでターゲットとなる将軍に接近。部屋で足の指の間に注射をうち、自然に殺害をカモフラージュします。

ここまでは完璧。ところがなぜか侵入者としてバレており、どんどん警備員やほかの兵士が乱入。やむを得ずエヴァは倒しまくっていき、銃撃もものともせずに格闘。警報が鳴り、廊下へ。「助けて」と狼狽したふりをして現場を退避。兵士に支えてもらい、下の階へ。発煙弾で周囲を混乱させ、ダッシュで退散。出くわした兵の銃を奪い、銃撃。

なんとか危機を脱したものの、これは深刻です。情報が洩れているのか。

フランス北西部のバルヌヴィル=カルトゥレ。エヴァは暗殺命令の管理をするデュークを問い詰めます。しかし、仕事に疑問を持ち始めたエヴァを、サイモンという裏業界の大物は邪魔者として認定しました。

こうしてエヴァはこの世界ですらも居場所がなくなっていくことに…。

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実は苦労人です

『AVA エヴァ』は“ジェシカ・チャステイン”の存在で8割は成り立っているような映画です。

“ジェシカ・チャステイン”について巷の反応を漁っていると、どうも美貌とかプロポーションとか、そういうビジュアルで評する声が大きいように見受けられるのですが、私の考えるポイントは違います。

私は“ジェシカ・チャステイン”の持つ魅力は、外見に隠された内側にある“苦労人”感にあると思うのです。

確かに“ジェシカ・チャステイン”はどの映画に出演していてもカリスマ性があって、ビューティーでカッコいいキャラクターです。でもその中身は結構複雑で、何よりも苦労を抱えている役柄が多いように感じます。

例えば、『女神の見えざる手』や『モリーズ・ゲーム』はキャリアアップに悩みながら模索する女性のリアルな姿を体現していますし、『ユダヤ人を救った動物園 〜アントニーナが愛した命〜』はナチス支配下の中で信念を貫いて仕事に徹する女性を熱演。『ゼロ・ダーク・サーティ』だって苦悩しかないような職場ですよね。『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』も過去のトラウマを抱えたまま大人になってしまった女性です。

だいたいが見た目に反して内なる心ではあまり声に出せない苦労を堆積しまくっているのです。

これは“ジェシカ・チャステイン”の実人生にもおそらく重なってきているのだと思います。

順風満帆なキャリアを獲得した成功を掴んだ女優に世間的には見えますが、生まれた時から苦労が多かったようです。“ジェシカ・チャステイン”はそもそも自身の家族についてあまり語りたがりません。「チャステイン」というのも母の旧姓だそうで、父とは縁が切れているのだとか。カリフォルニア州サクラメントで生まれ、自分を産んだときの両親はまだ10代。妹は薬物中毒で自殺。継父や祖母が安心できる人物だと答えているほどです。

“ジェシカ・チャステイン”が俳優としてのキャリアを掴み取れたのも、察するしかないですが、プライベートでの苦悩をバネにし、必死にもがいた結果なのでしょう。悠々自適とはいかなかったのは間違いありません。2008年に『Jolene』という作品で映画デビューし、そこから数年で一気に名俳優になれたのは努力の賜物ですかね。

こういう背景を知ってしまうと、“ジェシカ・チャステイン”を「勝ち組白人美人女性」みたいな安易なレッテルを張って語るのはどうも受け入れられないですよね。

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キャリア・アサシン・ウーマン

『AVA エヴァ』の主人公も苦労人です。冒頭の登場シーンからしてそれが伝わります。

車内でエヴァはまるで忙しいライフスタイルの中、通勤途中に化粧をするキャリア・ウーマンのように身支度を整えます。そしてそれが終われば、いそいそとその仕事スタイルを解除し、素に戻る。

つまり、エヴァにとってこの暗殺という仕事はあくまで職務として与えられたものに過ぎず、ワーカホリックなどではないし、仕事こそ自分の人生ですと一体化して考えているわけでもない。そういうスタンスが見えてきます。

一方で、プライベートが楽しいわけでもありません。家族との関係性はすっかり冷え込んでしまっているし、恋愛などの余暇も全く上手くいっていない。

そう考えるとこのエヴァは中途半端に浮いてしまっている女性であり、こういうどっちつかずに流れで生きている感じは確かにわからなくもありません。

また、アルコール依存症の治療の真っ最中のようで、グループカウンセリングにも通っており、暗殺の仕事中でもアルコールの誘惑に耐えるのに我慢の連続(でも暗殺・潜入業でアルコールを回避するのも難しくないのかと思うのですが…)。

夜にランニングするのが日課になっているのも、単なる戦闘のための体力づくりというよりは、日頃の蓄積するストレスを解消するための目的が大きいんじゃないかと思いたくなります。

そんなエヴァが結局は開放的になっていくのは殺しの瞬間のみ。今作ではド派手にアクションを展開し、敵を容赦なくバシバシにぶちのめしていく、かつてない最強モードの“ジェシカ・チャステイン”が見られます。

ただ、その殺しにさえも疑問を持ち始めてしまい、完全に居場所が不在に。このあたりの主人公のバックグラウンドの構築は良かったなと思いました。

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監督のいざこざがやや影を落とす

で、問題はその後であり、この『AVA エヴァ』、最初はいい感じだったのに、途中&後半と内容の奥深さは薄くなり、尻切れトンボになっていきます。

エヴァの存在自体も、「美しき女暗殺者」というステレオタイプをどうも抜け切ることができていませんし、なんだかんだで性愛とかそういう感情に着地してしまうのは残念だったかな、と。この映画もなんだかんだで、今、一部で非難囂々のNetflix映画『彼女』と同じ「male gaze」の問題を抱えているような…。

女性の暗殺者を描いたものとしてもやや古い印象です。最近は『ガンズ・アキンボ』のあのイカレっぷりが清々しい奴とか、ドラマ『キリング・イヴ』のトリッキーなサイコパス暗殺者とか、強烈に旧時代性を吹っ飛ばす女暗殺者が続々登場していますからね。『AVA エヴァ』は1周遅れに見えます。

また、何よりも観客が期待していたのは、あのサイモンの娘であるカミーユとの対決でしょう。それをあの幕引きでのオチで期待させて終わりというのはいかがなものか。観客が一番見たいと思っているものを見せてくれない…。

あそこで若いカミーユという存在とどう折り合いをつけるのかで、エヴァの今後の在り方が決まってくるようなものなのに。

私なりに思うのは、エヴァにはまさにジュディやカミーユといった女性同士の繋がりによる支え合いが必要なんだろう、と。その要になるパーツがごっそり抜け落ちた感じでした。

この作品の不完全さは製作のいざこざにも影響を受けたのかもしれません。実は本作の当初の監督は“マシュー・ニュートン”という人物でした。しかし、この人、以前から素行が悪く、暴行事件や家庭内暴力などのトラブルが続出。普通に有罪になったりしていました。双極性障害という診断もあったり、とにかくいろいろです。今作はその“マシュー・ニュートン”にとっても久々の復帰作で、脚本も手がけていたのですが、MeToo運動を支援していた“ジェシカ・チャステイン”がそんな女性に手をあげていた監督とタッグを組むのはダブルスタンダードじゃないかと批判を浴びることになり、結果、“マシュー・ニュートン”は降板。

でも脚本は“マシュー・ニュートン”のものですから中途半端な残影だけが残った状況ですよね。とりあえず映画としては形になっているけど、実際のところどうしたかったのか。

第一、女性に暴力を振るっていた男が、映画内でジェンダーと暴力の構造があるジャンルをエンターテインメントにしていていいのか。その点も引っかかるものがないと言えば噓になります。

“ジェシカ・チャステイン”としてもちょっと背負いづらい別の苦悩ある映画になってしまったのかな。

『AVA エヴァ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 17% Audience 30%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
3.0
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関連作品紹介

女性暗殺者を描く映画の感想記事の一覧です。

・『悪女 AKUJO』

・『アトミック・ブロンド』

・『レッドスパロー』

・『ANNA アナ』

作品ポスター・画像 (C)2020 Eve Nevada, LLC.

以上、『AVA エヴァ』の感想でした。

Ava (2020) [Japanese Review] 『AVA エヴァ』考察・評価レビュー