閃光少女
映画『閃光少女 Our Shining Days』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:閃光少女 Our Shining Days
製作国:中国(2017年) 
日本公開日:2018年8月18日(9月8日) 
監督:ワン・ラン

あらすじ

高校の伝統音楽部に所属する少女ジンは、西洋音楽部のリーダー的存在であるワン先輩の気をひくため、部活仲間のヨウとともに、コスプレ集団と協力してバンドを結成する。はじめのうちはやる気のないメンバーたちだったが、バンド活動を通して少しずつ自分たちを見つめ直すと同時に、伝統楽器の素晴らしさを再認識する。

ネタバレなし感想

中国伝統音楽&日本オタク文化

中国映画と聞けばどんな印象を持つでしょうか。現在において最も成長著しい経済大国であり、ゆえにド派手に資金を投入した大作映画というイメージも強いです。確かにそういう映画も多く、VFXをじゃんじゃんぶちこんだ映像に特化した作品も目立ちます。また、政治的な意向が強く、プロパガンダ的な要素の濃い作品も少なくありません。検閲も厳しいため、描かれる内容もそこまで多様性に富んでいるとは言えないかもしれません。最近ではハリウッド映画が中国資本で製作されることが増えたため、アメリカ映画を観ていても中国ナイズされたものがあったりして、「どこの国の映画を観ているんだっけ?」という疑問を持つことさえもあります。

そんな下手をするとワンパターンな固定観念を抱きがちな中国映画ですが、なかにはそれらのイメージとは全然異なる“新しい風”を吹き込むような作品もあるのです。

その代表作として最近話題を集めたのが本作『閃光少女 Our Shining Days』です。

本作は中国国内で高い評価を獲得し、例えば、上海国際映画祭メディア大賞では最優秀作品賞、新人監督賞、新人女優賞、助演女優賞、脚本賞を受賞。他にもさまざまな賞でノミネートされるフィーバーっぷりです。

この『閃光少女』の何が新しいのか。まず、本作は学校を舞台にしたラブコメ要素ありの青春映画です。日本ではこのジャンルの作品は毎月のように公開され、2018年も『ちはやふる 結び』など映画ファンの間でも評価の高い学園青春映画が生まれていますが、観飽きている人も多いでしょう。
といっても中国でもこの手のジャンルがそこまで極端に珍しいわけではありません。実はティーン向けの青春映画(たいていはネット小説が原作)というのは中国では近頃普通に作られ始めています。予算をそこまでかけずに製作できるので、作りやすいのもあるのでしょう。さすがに中国もバカ高い大作ばかり作っていたら燃費が悪すぎますから。ただ、これらの作品はあまり日本では公開されないため、なかなか私たちの目に入ることはないのが残念な部分。結果、珍しく感じてしまう…というのもあるでしょう。

では、本作の新鮮さはどこにあるかといえば、その青春の内容です。舞台は架空の音楽学校で、中国伝統音楽(Chinese orchestra)と西洋音楽(Classical orchestra)の2つの部(専攻/コースみたいなもの)に学生は分かれているのですが、その2者が互いのプライドをかけて激突するというのが、ざっくりしたあらすじ。そして、主人公が所属する伝統音楽部が助けを求めるのが、日本のオタク・カルチャーの影響をどっぷり受けたコテコテのオタク少女なんですね。つまり、西洋音楽に勝つために、中国伝統音楽と日本オタク文化がタッグを組むという、非常に異色な交流映画なのです。

日本のオタク・コンテンツが世界に拡大し、無論、中国の若者にも浸透していることは、知っている人は承知の事実だと思います。そんなまさに“今(now)”な中国の青春を切り取っているのが本作であり、別に大人が青春を懐かしんでノスタルジーに浸るための作品では全くありません。今の若者に届けるための青春映画として、ここまで潔く特化した構成は斬新。

正直、同じ内容を日本が映画化してもそこまでフレッシュではないです。中国が“これ”をするというのが良いのであって…。検閲だ規制だと窮屈さを内外で感じる中国ですが、その国で暮らす若者たちはインターネットの発展にともない、意欲的に他国文化を自分たちの生活にミックスさせているんだなと痛感します。大人に導かれなくても、若者は勝手に異文化コミュニケーションしているのです。

日本と中国の関係を考えるうえでも良いですし、ただ青春映画にどっぷり浸かりたいだけでも良いです。日本ではマイナーな扱いですが、ぜひとも見逃せない中国映画ではないでしょうか。古臭い偏見を忘れて、新しい日中交流を発見するチャンスです。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

個性豊かなメンバー

本作は青春映画では“あるある”ですが、登場人物の味付けが濃く、かなりフィクション度は強め。一方、そのキャラクター造形が個々で魅力的なので、いわゆるキャラクター映画といてじゅうぶん楽しめる出来栄えになっています。

まずはなんといっても主演でありヒロインである伝統音楽少女チェン・ジン。後にビジュアルだけで目を奪うオタク少女たちが登場するためか、このジンは結構すでに個性強めの状態でスタート。意欲旺盛、猪突猛進、受容力高めという、典型的な主人公キャラ。顔に対して大きすぎるメガネと、クソださファッションが、みんなのマスコット感を表す愛嬌を生んでいます(個人的には、作中で着ている割れ物取扱注意Tシャツが意味不明で好き)。担当楽器は「揚琴(ようきん)」という打弦楽器の一種。

演じている“シュイ・ルー”は、本作で新人賞を総なめにしており、今後の活躍が期待されますが、子役でも活躍していた人みたいですね。本作より前に、2014年の『一又二分之一的夏天(One and a Half Summer)』というテレビドラマシリーズで注目を集めていたようです。本作のコミカルな演技を見ていると、“綾瀬はるか”っぽいと思ったりもしましたが…。

そのジンの同級生にして、秘書というか“手下その1”になっているメガネ男子リ・ヨウ。冒頭からジンの手駒になっている関係性をハッキリ露わにする彼ですが、途中からメガネをとってキャラ変。メガネをかけることで本気モードに突入する男と、メガネを外すことで本気モードに突入する男の2種類が世界にはいるけど、後者だったのか…。本作ではボケ担当であり、かつロマンスも担う、美味しい役どころ。担当楽器は「大堂鼓」という太鼓。ヨウ(メガネ抜き)の本気の太鼓さばきはカッコいいです。

そして、仲間になるオタク少女グループの4人。秘密を抱えたクール系のシャオマイ(担当楽器は「古筝(こそう」)。しゃべらない不思議系のサクラ(担当楽器は「二胡(にこ)」)。KAWAII系のいつも一緒なベイベイとターター(担当楽器は「中阮」と「琵琶」)。この彼女たちは、ベッタベタなオタクのイチ形態を体現しているので、最初は「映画の画面に耐えられるのか」とお節介ながら心配してましたが、案外普通に馴染んでましたね。

対する、立ちはだかる西洋音楽部のメンツも、絵に描いたような優等生“お坊ちゃま”&“お嬢様”揃い。

それでも、本作は見た目のキャラ性はクセがあっても、最終的には等身大のあくまで「ティーン」の範囲に収まっているので、一定のリアリティラインを破壊してはいないのが良いバランスだったと思います。

ちなみに教育局領導の男性を演じた“イーソン・チャン”は、有名な歌手だったんですね。そう考えると、なるほどあそこでこの人にジャッジさせたのは言葉以上に深い意味があるんだなと思ったり。

閃光少女

音楽交流に特化したパフォーマンス

そんな伝統音楽部vs西洋音楽部の対決が見せ場になる本作ですが、当初は何をもって勝ち負けを決めるのだろうかと疑問に思いながら鑑賞していたら、まさかあんなわかりやすいバトルステージが用意されているとは…。

審判になりうる人物を挟んで学校そのものをフィールドに音楽対決をしてみせるという、これまた大胆な構図。たぶんこのシーンを撮りたいがために、あの学校の間取り構成になっているのでしょうけど、そこに一点突破したアイディアは素直に凄いなと思いました。 しっかり伝統音楽にしかできない技で一本とるあたりも見事。


本作は青春映画としてある要素が欠けていて、それが「成長」の部分。一般的にはそれほど上手くない下手な人がいるか、敵わない強敵がいて、それに関してどう成長して乗り越えるかがストーリーの肝になるものです。しかし、本作は基本、全員が楽器はできる、というかチート級に卓越している人ばかりで、もう完成されているんですね。あとは戦うのみという臨戦態勢。そういう意味ではカタルシスに乏しいともいえますが、その代わり「交流」に焦点を絞れているので、良い部分でもあります。今作の場合はこれで良かったのかもしれません。

その交流のメインであるオタク文化の受け入れですが、巷でありがちなオタク・バッシングの要素もいれつつ、主人公勢は割と簡単にすんなりオタクを取り込んでしまうのは、イマドキ感ありますね。ジンのオタク勉強パートでアニメ化するあたりといい、セリフや知識に頼らない見せ方で、語りだすと面倒なオタク文化に対する一番煙の立たない演出妥協点だと思います。これで「オタクとはこうこうこういうものである…云々かんぬん」とか作中で議論始めると、荒れるだけですから。これくらいの付き合い方が、個人で多様な価値観があるオタクへはほどよいのでしょう。

そんな交流の見せ場になる「Animation Comic Game(ACG)コンベンション」での「2.5次元」バンドステージも、これだったらオタクなら盛り上がってくれる、動画サイトで再生数を稼げそうという説得力あるパフォーマンスだったので、納得。


まあ、終盤の発表会での伝統音楽部の演奏で、挿入されるサイリウム隊&謎CGエフェクトは何だったんだ感はありましたが…。あのサプライズ出演は強引すぎた気もしないでもないですが、まあ、いいか。どうせなら西洋音楽部と合同で何かパフォーマンスをしてほしかったなというのが本音です。

とりあえず、この手の音楽映画は、ミュージック・パフォーマンスさえ決まっていれば、割と最終的な印象は良くなるという安全牌なヒット作セオリーなのですから、日本の配給会社ももう少し本作に注目しても良かったのではないかと思います。ちゃんと宣伝すれば日本でもヒットする中国映画になったかもしれないのに…。邦画とハリウッド大作だけで儲かるからと言わずに、新商品で市場を開拓していきましょうよ。

『閃光少女』、ぜひ続編も観てみたいので、日本からも応援しています。

ROTTEN TOMATOES 
Tomatometer --% Audience --%
IMDb 
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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