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『The Brainwashing of My Dad』感想(ネタバレ)…“極右化した父親”観察ドキュメンタリー

The Brainwashing of My Dad

お父さん、なんで極右になっちゃったの?…ドキュメンタリー映画『The Brainwashing of My Dad』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Brainwashing of My Dad
製作国:アメリカ(2015年)
日本では劇場未公開
監督:ジェン・センコ
The Brainwashing of My Dad

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『The Brainwashing of My Dad』のポスター

『The Brainwashing of My Dad』簡単紹介

ドキュメンタリー作家のジェン・センコの父親は以前は際立った政治的見解もなく、政治にあまり関心のある人物ではなかった。ところが転職後にいつの間にか右派的な政治主張を頻繁に口にするようになり、家族もその父の変貌っぷりに困惑していた。どうして父はこうなってしまったのか…。その影響を探るべく、身近なメディアと政治の関わりを整理していく。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『The Brainwashing of My Dad』の感想です。

『The Brainwashing of My Dad』感想(ネタバレなし)

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どうしたの?

「外国人が日本を乗っ取ろうとしているってさ」

「ディープステートがジェンダーイデオロギーを裏で推進しているらしい」

「左派はヤバいよ。ナチスも左翼だったんだぞ」

あなたの家族や友人など身近な人がいつの間にかそんなことを言い出すようになった…。以前は政治に全然興味なさそうだったのに…。そんな経験はありませんか?

いや、別に政治に関心を持つのは悪いことではありません。政治的信念を持っても何も構いません。左派⇔右派、またはリベラル⇔保守などの政治的傾向が変化してもそれは変ではないです。政治的な価値観というのは、個人の中でも複雑で、変動するものですから。

しかし、特定の属性を危険視したり、誹謗中傷にまで抵触したり、陰謀論を吹聴するようになったら…さすがにそれは「どうしたの?」となります。

実際に一体何が起きたのでしょうか?

当然、その出来事の背景は個々人で違ってくると思いますが、今回紹介するドキュメンタリーは、そんなとても身近で起きた「どうしたの?」という感情に落ち着いて対処し、向き合っていった作品です。

それが本作『The Brainwashing of My Dad』

本作は、ドキュメンタリー作家の“ジェン・センコ”が、自分の父親の変化の背景を探るという、かなりプライベートな動機で始まるアメリカのドキュメンタリーです。その高齢の父は以前は際立った政治的見解もなく、政治にあまり関心のある人物ではなかったのですが、いつしか右派的な政治主張を頻繁に口にするようになり、他の家族のメンバーとの関係も悪化していきました。

どうして父はこうなってしまったのかという理由を知るべく、父の身近にあったメディアを手がかりに、そのメディアと政治の関わりを整理していく…というのがだいたいの流れです。

『The Brainwashing of My Dad』は2015年に完成している作品なのですが(アメリカ本国での一般公開は2016年)、2017年からの“ドナルド・トランプ”大統領誕生を予見するようなベテラン政治評論家の切れ味はないにしても、むしろこういう庶民目線から政治的作用を取り上げるほうが、あの権力者の出現の背景を説明できている気がしますね

主題はあくまでアメリカのメディアを中心としていますが、日本も他人事ではない風景です。まさにこういう「個人の変化」が大小さまざまなメディアによって続発しまくっている時代。エコーチェンバーに無縁な人はいません。

「どうしたの?」から次に進むためのドキュメンタリーと言えるのではないでしょうか。

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『The Brainwashing of My Dad』を観る前のQ&A

✔『The Brainwashing of My Dad』の見どころ
★身近で起きる家族の問題に向き合っている。
✔『The Brainwashing of My Dad』の欠点
☆政治的歴史の解説はやや駆け足ぎみ。
☆日本で視聴のアクセスの機会は乏しい。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 2.0
低年齢の子どもにはやや不適切な言葉などが流れます。
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『The Brainwashing of My Dad』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『The Brainwashing of My Dad』感想/考察(ネタバレあり)

ここから『The Brainwashing of My Dad』のネタバレありの感想本文です。

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身近な範囲から政治を考える

『The Brainwashing of My Dad』には政治的な歴史の解説はあるにはありますが、やや駆け足ぎみで、正直、その部分を知りたいならもっと良質な資料が現時点でたくさんあります

ドキュメンタリー映画『Bad Faith』を観れば、アメリカにおける保守的なロビー活動の始まりの歴史をさらに深く知れるでしょう(『The Brainwashing of My Dad』は宗教的な論点を避けがちではあったと思います)。

アメリカ最大の保守系メディアである「Fox(フォックス)」の会長だった“ロジャー・エイルズ”が、当時の“リチャード・ニクソン”大統領の政権が良しとする「伝統的な家族の価値観」にそぐわない人物(主にマイノリティや人権活動家など)を意図的に批判的に報じることで、政権を支援した実態。これについては『The Murdochs: Empire of Influence』のようなドキュメンタリー・シリーズがたっぷりと幅広くまとめています。

物議を醸す問題についてバランスのとれた報道をするよう求めた連邦通信委員会(FCC)の原則が、“ロナルド・レーガン”大統領の政権下で廃止されたことにも『The Brainwashing of My Dad』では軽く触れられていきます。

そのあたりを濃密に解説する政治評論家的な切れ味は『The Brainwashing of My Dad』には乏しいです。

でも私はこれはこれで『The Brainwashing of My Dad』は良いのだとも思います。なぜなら全く別の視点を用意しているからです。それは格調高いジャーナリズムではない、もっと庶民目線の疑問への寄り添いです。

本作がホームビデオ形式で始まることからも明らかなように、このドキュメンタリーは「家族に起きる身近なこと」をテーマにしています。「結婚する」とか「子どもが生まれる」とか「病気になる」とか「死別する」とか、そういうものと同じ延長線に並んでいる…。

身近な人が急に過激な政治信念に傾倒し、家族との間に不和が生じたとき、それは一体なぜそうなったのか、そしてどうすればいいのか…。

私はこの問題を身近な範囲で考えることは結構大事だと思うのです。もしこれが赤の他人だったら他者化は容易く、「知るかよ」と他人事になります。絶交すればいいだろうとか、ブロックすればいいだろうとか、そういう「対処」で片づけてしまいます。そんな風景はネット上に今はありふれていますよね。

しかし、親密な家族だとそう簡単に切り捨てられない。それが苦悩にもなるのですが、同時にこの現象への向き合いかたの糸口にもなりえます。じっくり腰を据えて「どうしてこうなってしまったのだろう?」「何か対応を間違えたのだろうか?」「もしかしてまだなんとかなるのか?」と、あれこれ思案する。

これを「対話」という言葉で表現するのは綺麗すぎるかもしれません。もっと泥臭い悪戦苦闘ですよ。本作の場合、それは監督にとっての「良い結果」のオチになったようですが、もちろん上手くいかない家族もいるでしょう。本作はあくまでひとつの家族の事例にすぎません。

作中でも示されるとおり、同じような家族の出来事に直面している当事者はいっぱいいます。そのひとつひとつに異なる政治的軋轢があり、何が起きるかわかりません。中には凄惨な結末を迎える家族だっています。

身近な範囲から政治を考えるのが大切なのは、政治は個人の人生に密接していることの証でもありますね。

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誰しもがメディアの影響を受けている

『The Brainwashing of My Dad』は、“ジェン・センコ”監督の父親(dad)の事例を基点にしています。

かつてはのんびりとしていて政治に関心がなかった父親。どちらかと言えば温厚な非政治的なケネディ時代の民主党員だったそうで、その変化の始まりは仕事が新しくなったこと。通勤時間が延び、そこでトークラジオを聴くのが長くなり、家でも「FOXニュース」をどっぷり視聴し始め、いつしか過激な政治主張をするように…。

別に熱心な共和党員になったというわけではなく、露骨に極右的な見解を、周囲も顧みずに発するようになった…という変貌に、何よりも家族が困惑していた様子が語られます。

この父親はかなり高齢のおじいちゃんなのですけど、その見た目に反して凄まじくアレな主張がすらすらと口から連発される姿の映像は、確かにちょっとインパクトがあります。本作のタイトルは「brainwashing(洗脳)」と、ややセンセーショナルな言葉をつけていますが、そう言いたくなる気持ちもわかります。急に別人格に乗っ取られたみたいです。

一般的に、政治信条とは個人の不可侵な信念で、アイデンティティであり、プライバシーである…と暗黙的に考える人は多いです。しかし、実際はそうなのかという話。実社会においては、私たち個人の政治信条は自分でも自覚できていないほどに身近なメディアに左右されやすいです。あまり「自分はメディアの操り人形だ」と認めたい人はいないでしょうが、それが現実だったりします。

こういうとき、「情弱だ」などと言って、個人のスキルの問題に矮小化しようとする人もいますが、そうではなく、これは人間なら誰しもそうだということ。本作のあの父親はことさら何か問題性を抱えているわけではないでしょう(こういうのを老化のせいとかにするべきではないです)。たまたまある偏ったメディアに依存していると、自分の政治的価値観も影響を受ける。寒いところにいれば体が冷える…くらいの当たり前の結果です。

どんなに「自分は知識があるから」「政治と距離を置けるから」と豪語していても、連日のように「FOXニュース」のコンテンツを浴びていたり、極右のトークラジオショーのホストとして有名な“ラッシュ・リンボー”の威勢のいい論調を耳にしていれば、影響がないわけはない。

本作はそういう「変わってしまった人」を責めるようなドキュメンタリーではありません

あくまで「人はメディアによってここまで変えさせられることがある」という現実を真っすぐ受け止める作品だったと思います。

この監督の姿勢として良いのは、そういう人を晒しものにするわけでもなく、しっかり向き合っている点。やはりそこでも「家族に起きる身近なこと」であることが重要になっていたなと感じました。

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遅すぎる自覚か、先見の明か…

『The Brainwashing of My Dad』は2015年のドキュメンタリーであり、それ以前の政治情勢での出来事を映しています。知ってのとおり、2017年からの“ドナルド・トランプ”大統領による第1次政権が始まり、2025年からはトランプ政権の2期目が始まりました。そして2025年以降、アメリカどころか世界は激変してしまいました

こういうのもあれですけど、あの父親が2025年以降の世界を知らずして亡くなったのは幸せだったかもしれない…。

2026年の世界は始まって早々にカオスそのものです。アメリカのミネソタ州ミネアポリスにて、移民関税執行局(ICE)の職員が、移民支援をしていたレニー・ニコル・グッドという白人女性を射殺。トランプ政権は彼女を「国内テロリスト」と言い放ち、トランプ支持の保守系メディアもその主張に追従していますMedia Matters for America。さらに“トランプ政権はグリーンランドを手にしたいあまり、ヨーロッパ諸国と対立姿勢をかつてないほどに強めています

どれもメディアが人を変えた積み重ねの末、その最悪の結末に収着するように…。

こうなっては『The Brainwashing of My Dad』は、遅すぎる自覚だったのか、先見の明だったのか、ちょっとわかりません。

ただ、本作は白人中心的なドキュメンタリーだったなと思います。それは欧米社会の構造的欠陥でもあるのですけど、白人中心社会は白人が危機に立たされたときにやっと問題の深刻さを自覚します

家族のミニマムなスケールでも、国際的なスケールでも同じ。白人が白人に危害を与え始めたとき、「なんてことが起きているんだ!?」とあわてふためく…。

そんなとき、往々にしてマジョリティの人たちは「分断が深刻な問題だ」と今になって嘆き憂う仕草をします。しかし、マイノリティの人たちはこの世界がもっとはるか前から、もっと言えば人の世界が誕生した瞬間から分断されていたと知っていました。

なので「身近なこと」でやっと問題を認識できるという状態に甘んじることなく、できれば早急にその認識範囲を拡大し、「身近でなくても」いち早く対応する…。そういう姿勢も大切だと思います。

本当に今から間に合えばいいのですが…。

『The Brainwashing of My Dad』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

メディアの影響や倫理を題材にするドキュメンタリーの感想記事です。

・『陰謀論の代償 アレックス・ジョーンズの法廷闘争』

・『アンチソーシャル・ネットワーク 現実と妄想が交錯する世界』

・『Qアノンの正体 / Q: INTO THE STORM』

以上、『The Brainwashing of My Dad』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Cinco Dedos Películas ザ・ブレインウォッシング・オブ・マイ・ダド

The Brainwashing of My Dad (2015) [Japanese Review] 『The Brainwashing of My Dad』考察・評価レビュー
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