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映画『マーズ・エクスプレス』感想(ネタバレ)…フランスからアップロード中

マーズ・エクスプレス

それが完了すれば次の時代へ…映画『マーズ・エクスプレス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Mars Express
製作国:フランス(2023年)
日本公開日:2026年1月16日
監督:ジェレミー・ペラン
マーズ・エクスプレス

まーずえくすぷれす
『マーズ・エクスプレス』のポスター

『マーズ・エクスプレス』物語 簡単紹介

西暦2200年のロボットが人類社会に溶け込んだ世界。火星を拠点とする私立探偵のアリーヌと相棒のアンドロイドのカルロスは、ある男から「行方不明になっている大学生の娘を捜してほしい」という依頼を受け、都心部で捜索に乗り出す。そしてこの社会の暗部に足を踏み入れていくと、底知れない権力を持つ大企業の陰謀や、それに決死の覚悟で抗う人たちの存在がみえてくる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『マーズ・エクスプレス』の感想です。

『マーズ・エクスプレス』感想(ネタバレなし)

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フランスとSFの相性は今も健在

フランスSF…この組み合わせはジャンルの歴史をわかっている人には切り離せないものなのは今さら言うまでもないです。

「SFの父」としてジャンルの開祖と語りつかがれるフランスの小説家“ジュール・ヴェルヌ”に始まり、その彼の作品を映画化し、SF映画を開拓した『月世界旅行』(1905年)。その後も、フランス映画はSFを先導し、“ジャン=リュック・ゴダール”監督はヌーヴェルヴァーグを下地にSFとポリティカル・サスペンスを混ぜて『アルファヴィル』(1965年)を生み出したりもしました。『猿の惑星』だって、元はフランスの“ピエール・ブール”の小説が原作です。

フランス産のSFは日本のSFにも多大な影響を与えました。

では今のフランスのSFは…と言うと、あまりSFは儲からないと考えられているようで、有能なクリエイターはホラーなどもっと売れる分野に移ってしまった現実もあって…。

そんな中、フランスから新進気鋭のSFの才能が、コアなSFマニアもヨダレのでるクールなアニメーション映画を作り出してくれました

それが本作『マーズ・エクスプレス』

本作は、未来の人類社会を舞台に社会の裏に潜むテクノロジーが絡む陰謀と権力を暴く物語であり、まさに『ブレードランナー』的なハードSFネオノワールのど真ん中を貫く作品です。『チャイナタウン』を彷彿とさせる私立探偵、『攻殻機動隊』のような存在義を自問するアンドロイドたち…。もうこれだけ書けば、SFファンは「ああ、そのタイプね」とわかるでしょう。

ビジュアル的にはものすごく「バンド・デシネ」(フランスの漫画文化)の印象が色濃く、「フランスでSFならこれだ!」という観たいものがそのまま観れるアニメーションでもあります。

この『マーズ・エクスプレス』を監督したのが、“ジェレミー・ペラン”というフランスの映像クリエイター。キャリアはすでにいろいろ重ねており、2016年には『ラストマン』というフランスのアニメーション・シリーズを手がけました。今回はこれが長編映画監督デビュー作となるようです。

2023年の映画ですが、日本では2026年に劇場公開され、観るチャンスがやってきました。SF好きはチェックしておきましょう。

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『マーズ・エクスプレス』を観る前のQ&A

✔『マーズ・エクスプレス』の見どころ
★SFマニア好みなビジュアルと世界観。
✔『マーズ・エクスプレス』の欠点
☆世界観の背景の説明は乏しいので序盤はわかりづらい。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 2.5
性的な話題があるほか、暴力や死体の描写があります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『マーズ・エクスプレス』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

西暦2200年、火星の首都ノクティス。学生である黒髪の女性ドミニクは寮部屋の居住スペースでまったりと過ごしていました。紫色の液体に気づいて、猫型のコンパニオン・アニマルロボットの体毛を背をなぞることで脱がしてあげ、自分もラフな格好でくつろいでいます。

そのとき、部屋のドアがノックされ、警察を名乗る男が入ってきました。彼はいきなりドミニクの頭部を掴み、容赦なく首を折って殺します。そして泡でいっぱいのバスルームを見渡し、猫ロボットを銃で破壊。それ以上の人影はなしと判断します。

実はその浴槽にはもうひとりの女性が息を潜めていることを知らずに…。

ところかわって地球のとあるホテル。一室にいるのは独特なボディが露わなロボットのレム。今はロベルタ・ウィリアムズとビデオ通話中ですが、妨害があるのか動画は乱れます。

そこへアリーヌ・ルビーカルロス・リヴェラがやってきます。違法なロボットの脱獄(ジェイルブレイク)を依頼するためです。

ロボットは人間に危害を加えないように厳しい制限が課されています。これを破ることは法的に禁止です。もしそれを実行できれば、この世界で人間社会に馴染んで溶け込んでいるロボットは無法者になれます。乱暴な言葉も、暴力もなんでもありです。

カルロスは頭部が投影型のロボットであり、今回はこのカルロスの脱獄を頼みに来たようです。アリーヌは禁酒中らしく、酒の付き合いは拒否します。

まずはハッカーのロベルタが作業する前に、レムによってアリーヌをスキャンし、不審な要素がないか確認されます。

実はアリーヌは私立探偵で、ロベルタを捕まえるために火星から派遣されていたのでした。あっけなくその正体はバレます。別部屋にいたロベルタは逃げようとし、高所ですが窓の縁を歩いて外へ。アリーヌも追いかけます。

ビルの真下ではロボットに反対するデモが行われ、人間の労働者の保護を主張するプラカードを掲げた者たちが大勢で抗議していました。カルロスに突き落とされ、抗議者のいる地面に叩き落されたレムは不満の蓄積した民衆にボコボコにされます。

逃走劇の末、ロベルタを捕まえられ、火星のノクティス行きのマーズ・エクスプレスにアリーヌとカルロスに連行されて乗せられます。宇宙の旅はあっという間です。

しかし、到着早々にトラブルが起きます。ロベルタの逮捕状は取り消されており、これ以上の拘束権限は無くなっていたのです。仕方なく釈放するしかないです。

一応、今回の仕事の依頼主である火星の大企業「ロイジャッカー産業」の社長であるクリス・ロイジャッカーに報告。大富豪らしく贅沢な暮らしをしていました。

ところが休む暇はありません。次は、ある男から娘のジュン・ショウを探してほしいと依頼が来ます。チューリング大学のサイバネティクスを専門とする学生だそうで、ルームメイトと一緒に行方不明になったのだとか。大学で聞き込みをすると、人型ロボットであるアンドロイドを脱獄させることに長けていたらしいです。

彼女が消息不明になった寮部屋を調べることにするアリーヌとカルロスでしたが…。

この『マーズ・エクスプレス』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2026/02/06に更新されています。

ここから『マーズ・エクスプレス』のネタバレありの感想本文です。

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人とロボット…その次の時代

『マーズ・エクスプレス』はこれまで全く描かれてこなかった斬新なテーマを映し出しているわけではありません。むしろジャンルがずっと探究してきたテーマに対する、新たなクリエイターによる自己表現。これを繰り返すことで、このジャンルは洗練された奥深い文化を維持してきました。このプロセスは、機械的なディープラーニングでAIが最良の答えをだせるようにするのとは真逆です。SFはテーマに対する最適解を欲しているわけではなく、魅力的な芸術を追及しています。

冒頭からショッキングなキャンパス学内での殺人事件で幕を開けますが、それよりもSF的に注目したくなるのが、さりげなく描かれる学生と猫のひととき。それは厳密には猫ではなく、精巧な猫の毛皮を被ったメタリックなボディを持つアニマル・ロボットでした。

別にあの素のボディのアニマル・ロボットのままでもじゅうぶんペットになるでしょうけど、少なくともあの学生は猫の毛皮を着せている。そこに「人間がロボットに何を求めているか」という思考が見え隠れするディテールです。

一方、次に登場するロベルタとレムのコンビはまた極端です。とくにこのレム(LEM)というロボットは一応は二足歩行のヒューマノイドなのですけども、頭部は全く人間を模しておらず、ボディもどことなく未来的なフォルムで、まるで人に順化する気がないです。あからさまに人ならざる者としての異質感を与えるものであり、怖そうでもあります。

当然、これはロベルタとレムの目的と重ねれば納得いきます。この2人は人間社会に真っ向から歯向かっているのですから。我が道を行っており、慣れあう気は無しです。

そうは言いつつ、しっかりウィットに富んだ会話ができるレムは本作の愛嬌になっています。

では主人公のコンビはどうか。アリーヌとカルロスの2人はかなり歪というか、中途半端です。カルロスは5年前に紛争で亡くなるも、その意思は今のアンドロイド・ボディに受け継がれ、生存しています。しかし、以前の妻や子との縁は切れており、カルロス自身はそのことに整理がついていません。本作の中でも非常に人間臭いキャラクターです。

しかも、このカルロスのボディは頭部は投射だけで構成されるという、随分と安上がりな状態で(これなら余計に家族は嫌がるだろうという見た目)、カルロスの心情的揺らぎも体現されているかのようでした。

また、本作では人間側もトランスヒューマニズムによって部分的なサイボーグ化が相当に浸透しているようで、人間はどちらかと言うとロボットに近しくなっています

そこまでならよくある設定なのですが、そこに上乗せするかたちで登場するのが「有機体(オーガニック)」。あまりにもロボットが普及しすぎた世界において、逆に有機物こそが将来性のある次のテクノロジーとして評価される…。そういう世界を提示しています。

考えてみると滑稽な技術革新です。最初はみんな有機物だったのに、ロボット化して、今度は「やっぱり有機物だ!」と原点回帰しているのですから。

本作の世界では、例えばそれこそセックスワークの産業でもロボットが活用されまくっており、男女のみならず非規範的なボディのロボットたちが客の多彩な好みに応えるべく従事しています。

性の相手すらもロボットで良いとされる時代。その時代に新世代の知能体と評される有機体が人に何をもたらすのか。人がロボット化することはサイボーグと理解できますが、人が別の有機体と結合するとそれはもはや何なのか。それこそ「人」と呼べるのだろうか…。

『マーズ・エクスプレス』はその有機体と人間の未来の展望を描くことに主眼を置いていません(終盤に暴れるあの存在といい、明らかに次なる戦争の暗い未来を暗示させてはいますが)。これは常にロボットの物語。ロボットがこの時代に対して何を決意し、どこに向かうかの話でした。

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ロボットの旅立ち

そのロボットの物語として『マーズ・エクスプレス』は「ロボットの反乱」をとおして「ロボットの主体的な存在意義」を描いているわけですが、これもまたSFのジャンルでは原始からの王道です。

「ロボット」という言葉が最初に生み出した“カレル・チャペック”の1920年の戯曲『R.U.R.』では、人工的な労働者たちがプロレタリア蜂起を起こし、世界を震撼させます。このアプローチが誕生して以降、創作においてアンドロイドというのは常にその寓話が現代の階級不安やマイノリティの迫害を反映するものになってきました。

『マーズ・エクスプレス』を観ていると、最近の作品として一番に似ているのはゲームの『Detroit: Become Human』(2018年。こちらもフランスの会社が制作)ですかね。こちらのゲームでは、人類社会に溶け込んだアンドロイドがしだいに人間への服従に抵抗し、己の権利の獲得のために、社会運動を旗揚げしていく過程がじっくり描かれています。

『マーズ・エクスプレス』もかなり似ていて、まず人間の底辺労働者の中には「反ロボット」感情が増幅しており、そもそも人間同士の格差が解決しないままに放置されています。『マーズ・エクスプレス』はそれを「火星」「地球」というデカい舞台で描いており、地球は持たざる者になってしまった人間の溜まり場です。

そんな人間を差し置いて、今度はロボットが自分の主権を得ようと立ち上がります

そのロボットの反乱のきっかけとなる一斉的な脱獄(ジェイルブレイク)が、学生のおカネ稼ぎの行動がきっかけで始まっていく流れはスリリングです。

終盤で自我と自由を得たロボットたちは、非暴力的に黙々と行進するようにして、目的地を目指します。これも実際の人類が行ってきた人権運動をなぞるような光景なのですが、その行き先はとてもSF的な結末です。国会議事堂でも裁判所でもない。人間社会のモニュメントなど興味はない。なぜなら彼らは非人間…ロボットです。

そこに加わるカルロスの視点こそがこの大いなる時代の転換点に、私たちが交じり合えるわずかな時間となります。OSの名、モデル名、カーネル・バージョンの型番…それらを口にして、ボディを捨てる。星を離れるロボットたちが持っていくのは何なのか。単にそれをデータとか、プログラムと表現してもいいものなのか。

壮大な物語をコンパクトに収めた『マーズ・エクスプレス』の後味は、私みたいな地球に縛られた人間には少し遠いものに感じました。

『マーズ・エクスプレス』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

以上、『マーズ・エクスプレス』の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Everybody on Deck – Je Suis Bien Content – EV.L prod – Plume Finance – France 3 Cinéma – Shine Conseils – Gebeka Films – Amopix マーズエクスプレス

Mars Express (2023) [Japanese Review] 『マーズ・エクスプレス』考察・評価レビュー
#フランス映画 #ジェレミーペラン #火星 #ロボット #ハーク配給 #トムスエンタテインメント

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シネマンドレイク

ライター(まだ雑草)。LGBTQ+で連帯中。その視点で映画やドラマなどの作品の感想を書くことも。得意なテーマは、映画全般、ジェンダー、セクシュアリティ、自然環境、野生動物など。

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