言いたいことはいくらでもある…映画『グッドワン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2026年1月16日
監督:インディア・ドナルドソン
セクハラ描写
ぐっどわん

『グッドワン』物語 簡単紹介
『グッドワン』感想(ネタバレなし)
キャンプの鉄則
キャンプは必ず信頼できる人とだけ行くように。
これは私が強くオススメしたいキャンプの鉄則です。なぜならキャンプという場はとても限られた閉鎖的で狭い空間を共有しないといけないので、信頼できない相手といるととにかくストレスフルだから…。私も何度か信頼できない相手の混ざるキャンプ空間を味わったことがありますが、もう苦痛なんてものではないです。『ゆるキャン△』なんてものとはかけ離れた現実をお見舞いされますよ。
今回紹介する映画は、微妙なキャンプ、気まずいキャンプ、うんざりキャンプ、反吐がでるキャンプ…それらを全部1本に凝縮した嫌なキャンプ作品です。
それが本作『グッドワン』。
本作は2024年のアメリカのインディーズ映画で、17歳のティーンエイジャーが自分の父親とその父の友人と共にキャンプ&ハイキングに行くという、本当にそれだけの物語です。
別にそこで悪魔召喚アイテムを拾うでも、殺人鬼に遭遇するでも、コカインの食べ過ぎでおかしくなった熊に襲われるでもない…とくに大事件が起きることはありません。
しかし、自然を味わって気分スッキリ…ということにもならない。なんとも複雑な気持ちにさせられるキャンプ体験で…。
私はこの映画、ほぼ前情報無しに観たのですけど、思いのほか、自分の過去の嫌な記憶が呼び覚まされてしまって、鑑賞後にじわっとダメージを受けました。「ああ、このいや~な気持ち、身に覚えがある…」とね…。
青春映画は青春映画でも、トラウマティックな青春映画です。忘れておきたかった記憶がうっかり映像化しちゃったような…。
でもこれは人によって体験の格差があるタイプのものなので、わからない人は「?」ってなるでしょうし、下手すれば「それも良い思い出、成長の1ページってことでいいんじゃないの?」という反応すらでてきそうではあるなとも。
救いがあるとすれば、この映画こそがそのツラさに寄り添ってくれることです。わかってる、わかってるからね、と。
『グッドワン』を監督したのは、これが長編映画監督デビュー作となったアメリカの“インディア・ドナルドソン”。父は『バウンティ/愛と反乱の航海』や『スピーシーズ 種の起源』を手がけた“ロジャー・ドナルドソン”で、でも“インディア・ドナルドソン”自身は当初は全然違う業界で働いており、40歳代近くで映画界で注目される遅咲きの新人となりました。
『グッドワン』で主演するのは、2022年に『Palm Trees and Power Lines』で「映画デビューを果たしたばかりの新人である“リリー・コリアス”。本作で初の主演となります。
共演は、『ショーイング・アップ』の“ジェームズ・レグロス”、『ロスト・バス』の“ダニー・マッカーシー”。“リリー・コリアス”合わせて、ほぼこの3人の会話劇です。
日本では2026年1月から劇場公開となりましたが、さっそく私の中では今年の映画ベスト10にランクインするであろう作品に出会えました。
隠れた良作として『グッドワン』をぜひお見逃しなく。
『グッドワン』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | セクシュアル・ハラスメントに該当する言葉のシーンがあります。 |
| キッズ | 低年齢の子どもにはわかりにくい物語です。 |
『グッドワン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
17歳のサムはアメリカのニューヨーク州キャッツキル山地へ2泊3日のキャンプに出かける前日でした。父親のクリスと、友人のマット、そしてマットの息子のディランと一緒の予定です。
慎重な父は荷物の準備に余念がなく、何か忘れていないかとチェックをしています。対するサムのほうはトイレでタンポンを使いながら、生理の対応を慣れた感じでこなし、平常でした。今日は部屋には同年代のジェシーもいます。2人並んで熟睡します。
朝、バックを抱え、車に詰め込むと、出発です。助手席でサムはまだ眠気が残っていたのか、目を閉じます。
マットの家の前に来ますが、何やらマットは玄関前でディランと盛んに口論しており、ディランは引っ込んでしまいます。マットは最近になって離婚したのですが、そのことでディランは怒っており、どうやら今日は土壇場で同行は取りやめのようです。
車に不機嫌そうな顔で乗り込んだマットは「出発してくれ」とだけ言い、苛立ちを抑えています。それでも気分を切り替え、車はキャンプ地へ向かいます。
途中でダイナーに寄ったり、いくつか必要なものを買ったりします。父とマットは同年代同士で付き合いも長く、冗談を言ったり、小言をぶつけたり、自由気ままです。
サムは後部座席で丸まりながら到着までの時間を潰すだけ。ときおり運転中の父の代わりにスマホでメッセージを打って送信してあげたりもします。
最初は小さなホテルに泊まります。3人とも同じ部屋です。到着すると、とりあえず食事。サムはハンバーガーを頬張ります。
「ベジタリアンじゃなかったか?」「ジェシーって友人なのか?」などと目の前のマットと父にいろいろ言われますが、「肉も食べてたよ」「友達だよ」とテキトーに応えるサム。
それが終わると、父とマットにベッドを譲ることに。サムはまくらだけもらい、床に寝袋を敷いて先に眠り、やはり枕は戻します。男2人はバーで会話しています。
次の日、まだ慣れないサムが運転することになり、父は隣で教えます。でもサムはかなり無難にハンドルを操作し、とくに問題はありません。キャンプ地に着くと、バックパックを背負っていざハイキング。
天気は良いです。木漏れ日に照らされた小川と樹木、その合間には小動物が蠢いている自然豊かな光景の中を、3人で歩いていきます。
そしてテントをたてるのにちょうどいい場所に辿り着き…。

ここから『グッドワン』のネタバレありの感想本文です。
最初から諦めモードの17歳
『グッドワン』の舞台はキャッツキル山地(変な名前ですが、語源は不明らしい)。自然レクリエーションで有名なところで、気軽にハイキングやキャンプを楽しめます。いたって普通の観光地です。ニューヨーク市民が訪れやすい敷居の低いレジャー・エリアなので、平穏そのもの。
ただ、17歳の女子が中年男性2人(父とその友人)とキャンプに行くのは…正直「それって何が楽しいの?」と誰しも思ってしまうシチュエーションだと思います。当初は父クリスの友人のマットの息子であるディランも行く予定だったので、ある程度、参加年齢のバランスもあったのかもしれませんが、直前のキャンセルでそれも無くなりました。
ここで注視したいのは本作の主人公であるサムの心情です。サムは本心を全然喋りません。というか、ずっと父とマットに合わせて過ごしています。
おそらくサムは親など大人の前ではかなり行儀よく振る舞うタイプの若者で、自我をだすよりは同調してやり過ごすほうが無難と考える人間なのでしょう。無論、それはサムの唯一の性格ではなく、同年代の前では違う振る舞いをしているのは、なんとなくジェシーとのテキストのやりとりでも察せられます。
そういう性格ゆえに父やマットからは「大人しい良い子」という評価を得ているようです。しかし、サムは無垢ではなく、実際のところ、はるかに大人びており、もっと言えば大人というものに対して達観しすぎている感じさえあります。
その雰囲気は作中の前半の3人の会話からも伝わってきます。
とくに印象的なのは食事時の会話。ここで父は「ベジタリアンじゃなかったか?」と聞いてくるのですけど、サムは「違うよ」と答えます。でも冷静に考えれば、今さらこんなキャンプに連れてきておいて、ここで言われても手遅れというものです。この会話だけでも父はサムにそんな気を遣っていないのがわかります。
続いて、マットがサムにふと話題にでたジェシーについて「彼女は友人なのか?」と質問してくるのですが、ここでは「lady friend」という単語をわざわざ使っています。日本語だと伝わりにくいニュアンスなのですけど、「girlfriend」は「恋人」という意味になるので、「(恋愛的な付き合いのない)女性の友達」を強調するために、「lady friend」という言い回しが用いられるケースがあります。
それは異性愛男性に対して向けられやすい言葉ですが、この場ではサムという女子に使っており、つまり、クリスもマットもサムが「女性に惹かれる」性的指向であることを認知していると示唆しています。その後に、ダメ押しのように「男子なんて糞だ」とマットが呟きますし…(自分の息子とのいざこざを考えての発言でもあるでしょうけど)。それにしてもこの「男子なんて糞だ」発言は、本作終盤の出来事を考えると「お前が言うな」案件です。
とにかくここでサムは「友達だよ」なんて軽く言って会話は終わるのですが、ジェシーとの接し方をみているとあからさまに恋人っぽいです。
要するに、サムはこの会話、そして他の会話において、自分から話題を広げるつもりが一切なく、ひたすらに最短ルートでの会話終了に徹しているスタンスが見て取れます。「こんな中年男性とまともに会話しても時間の無駄だし」と割り切っているように。
この会話のしかた、私はすっごく身に覚えがある…というか、私自身がこういう会話をしがちなので…。他人と会話するのが苦痛で、なるべく早く会話を終わらせたくて、でも失礼に思われたくないので、全肯定的かつ最小の会話で済ます…。
もうこの前半から私は本作を観ていて若干の共感性羞恥にそわそわしていました。
父のクリスも、またはマットも露骨に嫌な態度はとりません。むしろ表向きはフレンドリーです。サムのクィアネスも否定しません。ゆえに本作はクィアであることがそのままテーマにもなっていません。
でも何ていうのか…引っかかってる感じなんですよ。差別による緊張関係ではなく、どんなに親しくても理解はできないであろうと諦めてしまう断絶関係…みたいな…。たぶんクィアな当事者なら経験がある人はいるでしょう。
クリスやマットもデリカシーがないと言えばそれまでですが、デリカシーだけでどうにもこうにもなるものでもないですよね。年齢も違って、そのうえシスヘテロな男性となれば、体験がまるで異なる…思い切った言い方をするなら別種の生き物です。対等なコミュニケーションは望めない…。
『グッドワン』はこの何とも言えない感覚を捉えるのが抜群に上手かったなと思います。
耐える必要なんてなかった
そんなこんなで最初から諦めモードの17歳であるサムですが、『グッドワン』の大部分を占めるキャンプ&ハイキングのシーンでは、会話以外でもひたすらにサムは2人の中年男性のサポートに回ります。
やらされているというか、これをしているくらいしかすることがないというか…。会話するよりはむしろひとりで黙々と作業している方がマシなのかもしれない…。
その最中にサムは生理のタイミングが運悪く重なってしまったがために、タンポンをこまめに変える手間が加わります。サムの孤立っぷりが増す演出です。
あげくに3人のハイカー男が途中で混ざって、ますます男だらけの空間になるし…。
流れが変わるのは、キャンプも最終夜のとき。怖い話をすることになり、マットと父の女性関係の話題に対して、もう聞き役にも耐えられなくなったのか、初めてサムは自分の意見を発言します。それでもここでも「真面目な良い子」で片づけられるサム。
しかし、この後。父が先にテントに引っ込み、マットと2人きりになったときの、マットの何気ない発言。本人は完全にジョークのつもりで、場を和ませる気楽さで口にしたであろうあの言葉。けれどもそれはサムの「耐えられる大人の一線」を超えました。
マットが俳優であると考えると業界的にこの17歳に放たれたセクシュアル・ハラスメントはいろいろ暗示するものもありますが…。
ともあれ、“ケリー・ライカート”監督作のようなキャンプの日常のひととき…のふりをした忍耐を試される10代の物語は、そののんびりとした我慢耐久戦から一転、あの瞬間から実質的にホラーに変わります。
そのうえの翌日の父の態度。たぶんサムの中では父はそれでも信頼できる最後の大人のはずだったのに、その父からも見放されたツラさ。些細な、でも鋭利な性暴力への無言の告発が軽視され、涙を流すサムはここから大人を振り切ります。もう付き合いません。付き合う必要なんてなかったのかも…。
そしてラストは父のバックに詰めた小川の石で車内の隣に座る父の頭部を滅茶苦茶になるまで殴打し、撲殺。全身が返り血を浴びたサムはスッキリしたように笑みを浮かべる…。なんてことはなく(ないよね?)、けれども何もないということもないでしょう。この父子の関係が次はどうなるかは観客にはわかりません。
しかし、これぐらいしかできないという等身大の10代の弱さに見事にフォーカスしたエンディングをみせた『グッドワン』。私の中ではキャンプ映画の傑作として残るでしょう。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
以上、『グッドワン』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2024 Hey Bear LLC.
Good One (2024) [Japanese Review] 『グッドワン』考察・評価レビュー
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