2026年からです!…映画『スペルマゲドン 精なる大冒険』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:ノルウェー(2024年)
日本公開日:2026年2月13日
監督:トミー・ウィルコラ、ラスムス・A・シーバートセン
性描写 恋愛描写
すぺるまげどん せいなるだいぼうけん

『スペルマゲドン 精なる大冒険』物語 簡単紹介
『スペルマゲドン 精なる大冒険』感想(ネタバレなし)
下品な映画ではありません
2026年は日本では生殖の正義が大きな前進を遂げた記念すべき年になることはもう決定事項なのですが、問題は認知度ですかね…。
なにがって、日本初のOTC緊急避妊薬(アフターピル)の一般販売が始まったからです(決して日本の某女性首相のおかげではないです)。
望まない妊娠を防ぐことができる緊急避妊薬。熱望する声はあれど、日本では薬の承認が遅れてきた過去がありましたが(病院でしか手に入らなかった)、それも昔の話。
2026年2月2日から「ノルレボ®」が発売されました(第一三共ヘルスケア)。性交後に服用することで排卵を抑制し、受精を防いだり、受精卵の着床を阻止する作用があり、性交後の72時間以内の服用による妊娠阻止率は81%。薬剤師による販売可否確認が必要ですが、薬局で処方箋なしで買えるOTC(Over The Counter)なので気軽に手に入ります。購入にパートナーや親の同意は不要ですし、年齢制限もありません。
性交時に「避妊に失敗した!」と思ってもまだ焦らないで…。緊急避妊薬を買いに行けばいいのです。
ただ、さっきも言ったように、日本では緊急避妊薬はあまりに世間に知られていないので、知ってもらわないことにはね…。映画『鬼滅の刃』の上映前に緊急避妊薬PR動画とか流してもいいくらいですよ。
そもそも避妊に関する世の中のリテラシーを高めないと…。そんなとき、ノルウェーからぴったりなアニメーション映画がちょうどいいタイミングでやってきました。
それが本作『スペルマゲドン 精なる大冒険』。
本作は、『インサイド・ヘッド』や『はたらく細胞』と同じで、人体の内部でミクロに起きている生理的もしくは神経的な出来事を、擬人化して豊かな世界観で表現するタイプのファンタジー。ただ、今作が主題とするのは「精子」。性交時に卵子めがけて突き進む精子たちをユーモラスにCGアニメで描いています。
この設定だけを聞くと「下ネタありきの作品」と安直に笑い飛ばして扱う人も多そうですけど、確かに表向きは下品にみえますが、『ソーセージ・パーティー』みたいな下品さを露悪的に狙った作品ではないということは声を大にして言っておきたいところ。
むしろその逆で、世間的に下品だとみなされる題材を、しっかり教養的観点から語り直すことに明白な意図があり、ビジュアルからは伝わらないかもですが、非常に真面目な映画です。
そういうこともあり、この『スペルマゲドン 精なる大冒険』は、R指定にもなっていませんからアダルトアニメではありませんし、大人のみならず、思春期を迎えた子どもにこそ観てほしいという製作者の熱意が込められています。性教育の教材になると言い切ってもいいと思います。
本作を監督したのは、『バイオレント・ナイト』の“トミー・ウィルコラ”と、『Just Super』などアニメを手がけてきた“ラスムス・A・シーバートセン”。2人ともノルウェー出身です。
当初はハリウッドで企画するも全然進まず、一方でノルウェーだと企画を止める人はいなかったとのことで、ノルウェー作品になったのだとか。実際、観ると「これは保守的なハリウッドには無理そうだな…」と納得です。ちなみに、配給会社から唯一もらった注意指示は「乳首は見せない」だったらしく、本編では乳首を映さないようにしています(精子はいいのに?)。
日本の配給の様子だと、ふざけた下品さを売りにした宣伝が行われている感じで、『スペルマゲドン 精なる大冒険』をちゃんと適切に10代の子どもにオススメできる大人になれているのか、そこすら試されている気がしますけどね…。
しっかりした大人のサポートがあれば、子どもにとっても、本当に本作は良い教材ですよ。後半の感想では、代わりと言ってはなんですが、サポートになる補足もしています。
『スペルマゲドン 精なる大冒険』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 思春期の年齢の子どもには教育にもなるかもしれません。 |
『スペルマゲドン 精なる大冒険』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
とある人間の睾丸の中。精子たちはこれまでの勇敢なる先人たちの歴史を振り返っていました。
卵子に辿り着くという唯一の目的を果たすべく、それこそ無数の精子たちが外へと放出され、駆けだしていきましたが、その結果はたいていは悲惨なものに終わります。あるときは人体の肌の上で行き場を失い、あるときは靴下の中で洗濯機に放り込まれ水死し、あるときは胃酸で無残に溶かされ、あるときは精子バンクに冷凍される運命を辿ったものも…。
そんな講義を受ける若き精子たち。その中でも眼鏡をかけたひとりの精子であるシメンはあまり卵子に興味ありません。どこか上の空で先生に怒られ、同級生に揶揄われます。唯一の親友であるカミラだけが話に付き合ってくれます。もしかしたらチャンスが来るかもしれないのだから…。
この精子たちがいるのが16歳の少年イェンスの精巣です。
今、赤毛のイェンスはキャンプ合宿に連れてこられるところでした。本人は興味なさそうに振る舞っていましたが、そこにリサという女子も参加していることをその目で確認し、呆然とします。イェンスの脳内では衝撃的な感情を感知。これは恋愛の刺激かもしれない…。
その頃、まだ何も知らない睾丸の精子の街では、大勢の精子が行きかい、そのときを待っていました。
やけにやる気に溢れるビジネス・マッチョな精子は装甲服を開発し、あらゆる危機をこれで乗り越えようと企みます。もし自分の前に立ちはだかるのが同類の精子であろうとも容赦なく殺すつもりです。殺戮兵器を目の前で実演し、その威力を証明します。
その頃、イェンスとリサを含む友人たちはゲームをし、その流れでイェンスはリサにキスされます。イェンスの脳内はかつてない刺激に大パニック。そして睾丸の街では警報が鳴り響きます。
精子たちはついに出番が来たと、大慌てでその瞬間に備えます。
そしてベッドでイェンスとリサがぎこちなく体を交え、大量の精子たちは解き放たれるときがきました。どうかこの先に幸せな結末がありますように…。

ここから『スペルマゲドン 精なる大冒険』のネタバレありの感想本文です。
避妊は大変です(精子目線)
前述したように本作『スペルマゲドン 精なる大冒険』は、下品なおふざけアニメではありません。思春期を迎えた子どもに性教育的なメッセージをしっかり伝えています。「うわ~、精子だって(ニヤニヤ)」と気恥ずかしさを笑いで誤魔化す小学生や中学生に、「でもこれは真面目なことなんだよ」と語りかけるような…。
私としては『インサイド・ヘッド』よりも野心的な一作だと思います。
「精子が卵子と合体すれば受精卵になる。これが妊娠の第一歩」というのは、初歩の性知識があれば誰でもまずは知るところでしょうが、問題はもっと別です。
“トミー・ウィルコラ”監督も、大の大人が性に関する踏み込んだ真面目な質問に全然答えられない光景をみて、この映画の着想のひとつになったそうですが…。
本作の序盤で、人間側の主人公であるイェンスが父にキャンプまで送ってもらいます。そこで父は「セックスってわかってるか。ちゃんと避妊するんだぞ」的ないかにも親っぽいことを息子に言うわけですが、これが典型的な性知識の浅い親の代表例みたいになっています。
例えば、「避妊ならコンドームを使えばいいんでしょ?」という知識がいかに間違っているかを本作はちょっと馬鹿げた誇張も交えつつ、教えてくれます。作中ではコンドームは何度も使われていますが、精子たちの進行を食い止めるのに役に立ちません。実際、破れたり、使い方を間違えたりと、トラブルも多く、コンドームの避妊失敗率は約15%(つまり避妊率は約85%。これは大雑把な平均値であり、破れていれば避妊できないのは当然)とも言われたりしています(セイシル)。
なので、複数の避妊方法を併用するのがいいのですが、お相手のリサはそこはちゃんとわかっていて、殺精子剤(Spermicide)を作中で使用します。日本では入手がほぼ不可能なので知られていませんが、これはセックスの直前に膣内に精子を殺す薬品をいれる方法です。本作では殺精子剤成分が煙のように広がって蠢く青い凶悪モンスターの塊のように描かれており、なかなかにホラーです。
でもこの殺精子剤も避妊率は約75%ほどなので、作中のように逃げ切れる精子もいます。
他にも避妊方法はありますが(事前の低用量ピルなど)、作中ではこの2つが主に取り上げられます。なお、本作では緊急避妊薬は登場しませんが、ノルウェーでは特定の若い年齢期間なら保健センターで無料で手に入るそうです。
そして極めつけの最後のオチは…中絶です(緊急避妊薬と中絶薬を混同しないように!)。あんなに頑張って精子が卵子に辿り着くところを見せておいてラストは中絶エンドなのか!って感じですが、そこも大事なところ。これはバッドエンドじゃない、とても清々しい閉幕。子どもを持つ喜び? それも否定はしないけど、でも中絶を選択する自由があるので…。
いや、でもこの中絶の権利を高らかに支持するエンディングは、アメリカで製作していたら、保守派の人たちが「Wokeだ!」と騒ぎ立てるに決まっていますから、やっぱりノルウェーだから作れる気持ちの良さなんでしょうけどね。
そう言えば、あのイェンスはあの無数の蜂にペニスを刺されて、そっちのほうが心配になるくらいなのですけども、彼は不屈の男か何かなんですかね。
女の精子もいてもいいだろ!
こんな感じで現実の社会問題としての「性の正しい知識の不足」を補うべく、ハードル低く伝えるためのアニメーションというアプローチだったわけですが、『スペルマゲドン 精なる大冒険』はもちろん脚色というか、フィクション…大嘘もいっぱいです。
現実では、精液たった1ミリリットルあたり1500万~2億個以上の精子があり、射精後に相手の体内に移ると、膣、子宮頸部、子宮を通り、最終的に卵管へと移動し、卵子を目指します。あっという間の出来事であり、素直に物語にしてもすぐに終わってしまいます。
そこであれこれ試行錯誤して一本の映画を持たせているのが本作です。
誤って肛門から侵入して大腸菌に出会い、尿とともに体外へ一旦出るも陰毛を上って再び膣へ…なんていう、『インディ・ジョーンズ』級のダイナミックな大冒険を繰り広げたり…(ちなみに精子は体外の室温の環境で最大1時間生存できるようです。あくまで可能性としてですが)。
ミュージカルだってするぐらいに今作の精子はアクティブです。そんなことにエネルギーを使ったら本番前に力尽きるだろうに…。
無論、最大の嘘は、各精子に自由意思があり、自分で自在に動き回っていることですけどね。さすがにこれはプロ・ライフ側の人でも想像はしないよね…。だって精子すら命であると定義したら、もう何もできないもんね…。
あと、本作では実に多彩な精子たちがいて、明らかに老齢の精子もいるのですけども、実際の精子は常に作られ続け、精巣内で約2.5ヶ月間生き続けることができるものの、存在期間が過ぎれば、睾丸内で精子細胞は死滅して体内に再吸収されます。だから現実の精子はみんな若いんですね。
びっくりしたのが、擬人化された精子の中に、精子側の主人公シメンの親友のポジションでカミラという女性バージョンがいること。「精子なら男だろう」という決めつけを見事に覆す大胆なデザインです。
結果的に、本作は「精子が卵子へ辿り着く」というその主軸だけならどう考えても異性愛前提な作品になりかねないところを、女の精子が女の卵子を目指すという設定で、半ば強引にクィアな勢いを発揮しているのが凄い…。こんな荒業あるのか…。
でもこれぞアニメーションのイマジネーションによる魔法でしょう。アニメなんだから現実を捻じ曲げてときに想像性の翼を広げてもいい…。たとえ、それが精子の女性化でも…。
日本も精子の美少女化とかやるべきです。ノルウェーに負けていますよ。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『スペルマゲドン 精なる大冒険』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)74 ENTERTAINMENT AS スパルマゲドン
Spermageddon (2024) [Japanese Review] 『スペルマゲドン 精なる大冒険』考察・評価レビュー
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