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アニメ『光が死んだ夏』感想(ネタバレ)…ニセモンを愛するクィア・ホラー

光が死んだ夏

嫌いにならないで…アニメシリーズ『光が死んだ夏』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:The Summer Hikaru Died
製作国:日本(2025年)
シーズン1:2025年に各サービスで放送・配信
監督:竹下良平
自死・自傷描写 恋愛描写
光が死んだ夏

ひかるがしんだなつ
『光が死んだ夏』のポスター

『光が死んだ夏』物語 簡単紹介

高校生の「よしき」は幼馴染の「ヒカル」と田舎で自分たちなりに青春を過ごしていたが、ある日、ヒカルが地元の山で行方不明になる事件が起きる。ヒカルは発見され、今は普通の生活に戻って半年が経過したが、よしきには引っかかることがあった。それを口にするべきか迷っていたが、普段どおりの何気ない下校中、その疑念を本人を前に告げる。そして「それ」は現れる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『光が死んだ夏』の感想です。

『光が死んだ夏』感想(ネタバレなし)

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日本産クィア・ホラーも元気です

最近、私の中で「クィア・ホラー」熱が燃えがっているのですが、まだこのサブジャンルの名自体がそれほど普及していないので、まずはクィア・ホラーの歴史を整理する記事をいつか作りたいな…と思っている今日この頃です。

2025年は日本でもアメリカの映画『テレビの中に入りたい』が劇場公開され、クィア・ホラー史に新たな名作が加わりました。

そんな中、2025年は日本からも忘れがたいクィア・ホラーのアニメシリーズが猛暑に紛れてやってきたのを見逃すことはできません。

それが本作『光が死んだ夏』

本作の原作は、『ヤングエースUP』にて2021年から連載中の“モクモクれん”による漫画です。これが初連載らしいですが、スゴイ才能の新鋭がいたんですね…。

物語は日本の山間部の田舎で暮らす2人の男子高校生に焦点をあてています。青春モノで、それでいて田舎ホラーです。この「青春×ホラー」の組み合わせは、別に珍しくもありません。

特筆すべきはさっきから何度も挙げているとおり、『光が死んだ夏』は濃密なほどにクィア・ホラーなんですよ。私もびっくりしました。単に性的マイノリティの登場人物がでてきます…ということではなく、クィアネスがホラーとして描かれているのです。

「BL(ボーイズラブ)」としてカテゴライズされていませんが、じゅうぶん「BL」っぽいですし、でもやはりこれこそクィア・ホラーと堂々と銘打ちたくなりますよね。

どうやら原作者の“モクモクれん”も「クィア作品」と明言しているようですが…。

私の勝手な評価ですけども、本作はもっと世界的に知名度を上げていけば、ガンガンとクィア賞レース界隈でスポットライトを浴びていけると思います。

日本はこの2025年は“王谷晶”『ババヤガの夜』が「ダガー賞」を受賞し、「ラムダ文学賞」にもノミネートされたりと、クィア作品が大注目された1年だったと思います。しかし、どうも日本国内のマジョリティな世間は「クィア」という視点を軽視しているところがあるので、こういったクィア作品がクィア作品として世界にリーチする後押しが今一歩な面があるなと日々感じています。

今回の『光が死んだ夏』もこの2025年にアニメ化されたことで、世界により広まるといいですね。すでに海外のメディアでは真っ先にその「クィア」な作品性が紹介されているわけですしPolygon

『光が死んだ夏』の監督・シリーズ構成は『夜のクラゲは泳げない』“竹下良平”。アニメーション制作は「CygamesPictures」です。

映像化によってホラー演出も強化され、一層怖くなったアニメ『光が死んだ夏』。その怖さの中に滲むクィアネスを味わいたい人はぜひ。

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『光が死んだ夏』を観る前のQ&A

✔『光が死んだ夏』の見どころ
★日本の田舎の青春を背景にクィアなホラーを混ぜ合わせる技巧。
★キャラクターのクィアネスな心理表現と視覚化。
✔『光が死んだ夏』の欠点
☆—
日本語声優
小林千晃(よしき)/ 梅田修一朗(ヒカル)/ 花守ゆみり(朝子)/ 若山詩音(結希)/ 中島ヨシキ(巻)/ 小林親弘(田中) ほか
参照:本編クレジット

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 2.5
ホラー演出が多くあるほか、残酷な描写があります。
セクシュアライゼーション:なし
↓ここからネタバレが含まれます↓

『光が死んだ夏』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

2020年1月、希望ヶ山町の北にあるクビタチ村という集落に位置する丹砂山。雨が降りしきる夜、村人は行方不明になった忌堂光(ヒカル)という高校生を探していましたが見つからないので一旦退避してしまいます。。しかし、その闇夜に紛れていた辻中佳紀(よしき)は大切な人を懸命に探すのをやめませんでした…。

半年後、ナツアカネが飛び交う夏。よしきとヒカルは暑い中、田舎の村の小さな店で小さなアイスを買い、気楽な会話をしていました。2人は幼馴染で、いつも一緒に登下校をしています。

よしきはふと切り出します。

「あの山で一週間も行方不明だったのを覚えてないんか?」

全く覚えていないヒカルは調子のいい口調でよしきを揶揄います。

そして、よしきはさらに続けます。

「変なこと、聞いてもいいか? これはな、お前が行方不明になって帰ってきたときから思っとったことなんやけど…お前、やっぱヒカルちゃうやろ

そう言われたヒカルは「なんでや、完璧に模倣したはずやなのに…」と呟き、様子が変わります。それでも「誰にも言わないで」と懇願し、初めて人として生きたことの楽しさを切実に語り、よしきを抱きしめてきます。

「お前のこと大好きやねん。だから殺したくない」 

よしきは複雑な感情の中で「偽物でも傍にいてほしい」という気持ちにすがりつき、そして受け入れるのでした。このヒカルを…。

よしきは以前のヒカルがもうこの世にいない喪失感を独りで抱えながら、自室で起床します。そして迎えに来たヒカルと何事もなく登校。このまま過ごせればそれでいい…。

ヒカルは普通でした。いつもの姿、いつもの反応。2人はまた一緒に帰り、くだらない会話をしながら、その時間を共有します。あの告白が嘘のように目の前のヒカルはメンチカツを食べて感激し、記憶はあるけども実際に食べたのは初めてで、無邪気に驚いています。傍から見れば無害そのもの。

このヒカルは自分が何なのか説明できない様子です。このヒカルは当時の記憶が曖昧のようです。少なくともあの以前のヒカルが死んだのは紛れもなく事実のようで…。

下校中、ある老婆がヒカルを見て「ノウヌキ様が下りてきている!」と錯乱しながら去っていきます。

よしきは「お前、俺のこと好きか?」と突然質問し、その問いにヒカルは「好きや、めっちゃ好き」と素直に応えます。

「だったらもう勝手におらんくならないで」

よしきは心中を押し殺しながらこのヒカルの傍にいるしかできません。

そんな中、あのヒカルを見て錯乱していた老婆の松浦が翌日に変死したことがわかり…。

この『光が死んだ夏』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/10/10に更新されています。
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ニセモンでも傍にいてほしい

ここから『光が死んだ夏』のネタバレありの感想本文です。

『光が死んだ夏』はクィア・ホラーとして分析するならば、その素体となるのは『魔人ドラキュラ』のような吸血鬼モノでしょうか。吸血鬼モノは、吸血鬼自体が同性愛の欲望の重ね合わせられ、その世間から「恐怖の対象」とみなされ、忌み嫌われる存在というかたちでメタファーとして解釈されてきました。身近な人が「吸血鬼」になって近づいてくるかもしれないという怖さもそうです。でも同時に陰ながら生きるしかない吸血鬼の儚い立場が、また性的マイノリティと深く一致するものでもありました。

ひとまず、主要人物の関係性から整理したいと思います。辻中佳紀(よしき)と忌堂光(ヒカル)は幼馴染ですが、例の事件(ヒカル行方不明)前から2人の間にどんな感情があったのかは明示されません

しかし、回想および過去を思い出すように語るよしきの乏しい言葉や内心からは、いわゆる「友情」とも違う「強い想い」が感じられます。

ここで付記しておきたいのは、この2人が暮らす田舎における保守的な空気、とくにジェンダー規範がことさら強調されるシーンも目立つこと。例えば、親戚が家に集まった際に、「カノジョはおらんのか」と言われたり、よしきの妹で不登校のかおるに対しても「嫁に行って子を産む」という前提の会話がなされたり…。よしき自身も、女性の恋人に関する異性愛者の男子高校生がいかにも好みそうな話題をハッキリ避けたがります。

とある回想では、同じ村の雄介という子が世間的に「病気」と吹聴されながら、よしきは彼が「同性愛者」だと認識しています。当然、こんな村ですから、同性愛への差別も根深いでしょう。

このシーンでは、よしきは「同性愛者」を他者化したように口にしており、これは自分は「同性愛者ではない」と認識しているようにも受け取れますし、一方で内面化されたホモフォビアを抱えているとも受け取れます。

「内面化されたホモフォビア」というのは、「仮に自分に同性愛者的な性質があったとしても、その自分自身にさえも嫌悪感を抱いてしまい、否定的態度として現れるもの」を指します。これは異性愛規範の強い環境にずっと浸ってきた当事者によくみられ、同性愛当事者でも同性愛に差別的な態度をとることがあります。

よしきは差別的な態度を露骨にはみせていませんが、自己嫌悪の感情は非常に濃いのが見て取れます。よしきは父との関係も険悪で、内向的な性格もあって、相談できる相手もいないようです。

よしきの性的指向が何であれ、この田舎は自分を素直に表明できる場ではないと思っているのは明白で、だからこそ出ていきたいと考えているのでしょう。でも「大切な人」であるヒカルがいるこの田舎をあっさり捨てられない未練もあって…。

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アイデンティティの探究は恐怖

そして例の事件(ヒカル行方不明)後、よしきとヒカルの関係に転機が訪れます。本来であれば、大切な人の死を偲ぶ期間になったはず。無論、そのよしきにとってのヒカルに対する感情は、周囲の人が捉える「友情」とは違うので、よしきの抱く本当の悲しみは理解されず、ズレが生じるのでしょうが…。

しかし、『光が死んだ夏』はもっとズレてしまいます。ヒカルの体が「何か」に乗っ取られて現れたことで…。

ここからはよしきとヒカルの双方でアイデンティティと向き合うというテーマが展開されているように感じます。作中では「スワンプマンの思考実験」が引用されていましたが、「自分の帰属意識」はどこに宿るのか。体か、心か…。どこまで自分で決定でき、決定できないのか…。

ちなみにこの「大切な人とそっくりな存在が出現する」という展開は同じ年にアニメ化された『九龍ジェネリックロマンス』でもやっていて、あちらも半分はクィア・ホラーだったので、偶然の集結でした。

皮肉なことにこの新しいヒカルは、異性愛規範をまるで気にしていないようで、よしきに対して「好き」という感情を何の隠しもせずに直球で伝えてきます。よしきにしてみれば、それはもうドキドキものです。結果、よしきにとっては自分のセクシュアリティと対峙することにもなります。

ヒカルに導かれて彼の腹から胸へと内部によしきの手を入れ、ヒカルが気持ちいいと感想をこぼすやりとりは、それこそゲイ・セックス的な表現になっています。

よしきにとってこの新しいヒカルを受け入れられないことはセクシュアリティへの自己受容の挫折と同じようなものであり、中盤、それは希死念慮を彷彿とさせる展開へとショッキングに移行します。

しかし、母親に最期のメッセージを残したよしきの包丁はヒカルを殺めることができません。ヒカルが人ならざる者だからこそ…。ここでBury Your Gays」の型を突破してみせたことで、本作は決定的にエンパワーメントに傾きますね。

第1期のラストの海辺での「俺も化け物や、いつも本当の自分をバレないように隠して生きている」というセリフは、よしきの自己受容の大きな一歩だったと思います。

暮林理恵という中年女性が第3者の相談相手として支えになるのも、作中ではあくまで怪異的現象について訊ねていますけども、クィアな当事者がアライを必要とするのと似ているなと思ったり…。

対するヒカルですが、ヒカルはさらに非規範的なアイデンティティの在り方を自分で開拓しないといけないので大変です。

本人は「動揺すると“キモイの”でてしまう」と表現していましたが、ヒカルのあの中身がこぼれ出る演出はボディ・ホラーとしてもインパクト大。また、あの中身は作中では「ラファネッリ」の1519年の『地獄のスケッチ』に一致していることになっていました。これは架空の画家の絵ですが、実際のルネサンス期には絵画に同性愛的なクィアネスを密かに織り交ぜる画家が何人もいたので、あの演出自体からもクィアネスを見いだせます。

舞台となっている地域の秘密といい、忌堂家の罪といい、日本的な因習が土台になりつつ、キリスト教も交えており、宗教風刺が多彩な作品です。もちろん宗教はクィアネスを迫害する側でもあったのは言うまでもありません。

ヒカルは「恋でも友情でもない化け物の感情」「大好き」とよしきに向けながら、居場所を求めるのは傲慢かと自分を卑下しつつ、第1期のラストではよしきとの支え合うことを確認します。輪廻の輪の外側で疎外化しても2人にしかわからない愛を見つけて「生存」していくように…。

『光が死んだ夏』は、私としては日本産のクィア・ホラーの素晴らしい完成度をみせてくれ、大満足でした。

『光が死んだ夏』
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『ぷにるはかわいいスライム』

・『先輩はおとこのこ』

作品ポスター・画像 (C)モクモクれん/KADOKAWA・「光が死んだ夏」製作委員会 ヒカルが死んだ夏

以上、『光が死んだ夏』の感想でした。

The Summer Hikaru Died (2025) [Japanese Review] 『光が死んだ夏』考察・評価レビュー
#男子高校生 #クィアホラー #BLアニメ #ゲイ同性愛