ホワイト・ファング アラスカの白い牙
Netflix映画『ホワイト・ファング アラスカの白い牙』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:White Fang(Croc-Blanc)
製作国:フランス 
製作年:2018年 
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信 
監督:アレクサンドル・エスピガレス 

【個人的評価】
 星 5/10 ★★★★★

Plot Summary

人間たちがゴールドラッシュに群がるアラスカの大地。過酷な大自然をひとり生きることになってしまった1匹のオオカミ犬が出会ったのは、生きる術を教えてくれる動物や人間たちだった。それぞれに全く生き方も考え方も異なる主人たち。決して忘れることのできない大冒険をとおして、ホワイト・ファングと呼ばれる命がたくましく成長していく。

ネタバレなし感想

「白牙」のアニメ化

「ジャック・ロンドン」というアメリカの作家をご存知でしょうか。

1876年にカリフォルニア州サンフランシスコで生まれたこの人物は、とにかく社会の底辺を這うような過酷な人生を歩んできました。そんな彼を救ったのが、執筆活動。1903年に出版された「野性の呼び声」によって、ジャック・ロンドンに初めて光があたります。

「野性の呼び声」は非常に有名な文学作品であり、知っている人も多いと思いますが、簡単にストーリーを説明すると、人間に飼われて快適な生活を送っていたある犬が、誘拐されてアラスカとカナダの大自然で“そり犬”として生きることになり、しだいに野生に目覚めていくという話です。犬を主人公にして、犬の目線から人間社会や自然を見ていくのが特徴であり、今ではありがちな動物の擬人化のようなファンタジーではなく、あくまでリアル。当時としては新鮮な動物作品でした。

というのも、まだこの時代の人間社会は自然や動物を“下等なもの”として見下す、人間優位な思想が強かったわけです。そのへんのエピソードは『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』でも描かれていましたね。
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この思想が、ダーウィンが進化論を提唱した1800年代半ばから徐々に徐々に崩れ始め、それが文学にまで反映されたのが「野性の呼び声」でした。この作品では、人間の世界も自然(動物)の世界も、残酷な暴力や理不尽な関係に満ち溢れているという事実をフラットに描いています。

そして、飼い犬が野生に帰っていく「野性の呼び声」と構成が真逆の作品として、ジャック・ロンドンが1906年に書いたのが「白牙」でした。こちらは野生に生きる犬が人間社会に適応していく話です。

この作品は、1991年に若きイーサン・ホーク主演で『ホワイト・ファング』の邦題で実写映画化されており、またそれより前の1982年には日本で『白い牙 ホワイトファング物語』というタイトルでテレビアニメ化もしています。

それがなぜまた今の時代なのかはわかりませんが、この2018年に再びアニメーション映画化されました。しかも、製作しているのはフランス。監督は、『9 ナイン 9番目の奇妙な人形』でシニア・アニメーターをつとめ、『アイアンマン3』でビジュアルエフェクトを手がけた、“アレクサンドル・エスピガレス”という人で、初長編監督作となるらしいです。

日本ではNetflix配信で、その絵面から子ども向けと思われるかもしれませんし、確かに子どもが見ても全く問題ない作品です。ちょっと怖いシーンもありますが、愛くるしい姿もたくさん見せます。しかし、根底に息づくジャック・ロンドンの作家性は、前述したとおり大人でさえも“う~む”と考えてしまう深いテーマです。

キッズ作品と馬鹿にせず、ぜひ鑑賞してみてください。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

リアルではないけどリアル

まず本作のアニメーション表現についてですが、昨今ではすっかり潮流となった3DCGによる超高密度なフォトリアル的なものではなく、ポリゴンをあえて抑えたようなスタイル。3Dと2Dの間ともいうべきアニメーション表現といえば、日本でも『BLAME!』や『GODZILLA 怪獣惑星』を制作している「ポリゴン・ピクチュアズ」などがありますが、『ホワイト・ファング アラスカの白い牙』は明るい野外のシーンが続く場面でも綺麗に映像化しており、とても見やすい作品でした。

とくに本作は世界観の設定上、どうしたって大自然を描写することは避けられません。木漏れ日に照らされる草花、うっそうとそびえたつ樹木の絨毯、飲み込むように勢いよく流れる渓流、一瞬の雪化粧で装いを変える冬の森…そのどれもが丁寧に描写されていました。

また、そこに暮らす動物たちは、よくありがちな極端にキャラクター化された擬人的な描写ではなくて、野生動物のリアルな姿を極力残したままフィクションの中に再現していて、そこも好感が持てます。おそらく実際の動物の動きを観察するか、モーションキャプチャーを駆使して、アニメーションを作ったのだと思いますが、生命力溢れていました。

対する人間は、立場もさまざまな人たちが登場するのですが、それも個性豊かに描いていました。ちょっとホワイト・ファングを闘犬として半ば奪い取るあの男は、人相が悪すぎる気もしますが、まあ、許容の範囲かなと。

ホワイト・ファング アラスカの白い牙

どちらの世界にも暴力がある

本作は一見すると、悪い人間に捕まって虐げられたオオカミ犬が、再び解放されて自然に帰っていくという、ベタなストーリーラインに見える構成になっており、人間側、とくに闘犬男はそうとうな悪者として認識されやすい構図です。もちろん、その認識でも問題ないし、動物を暴力的に扱うのは許せないという気持ちももっともなので、良いのです。

ただ、本作の根底にあるジャック・ロンドン的思想で汲み取るのであれば、この作品から「人間=悪」とか「暴力=悪」というような教育的価値観を得るよりも、もっと人間社会と自然世界の共通項を見出すほうが良いと個人的には思います。

例えば、闘犬男がホワイト・ファングを言うことを聞かせるために暴力で屈服させますが、よく見れば、ホワイト・ファングもまた最初は反抗していたそり犬たちを力によって信頼を獲得していました。実を言うと、両者ともやっていることに差はありません。

また、序盤、ホワイト・ファングが子どもの頃、外にひとりで飛び出て、イタチを追いかけていると、上空から猛禽類がイタチをかっさらう場面。この時点から自然界の弱肉強食という強烈な暴力性を垣間見せています。この後も、孤独の中で弱っていくホワイト・ファングを襲い、食べ物を情け容赦なく奪う他の動物たちが描かれます。つまり、自然の世界だって、暴力や残酷に満ち溢れているということの証明です。そして、その暴力や残酷性は、人間社会と自然世界どちらでも限りなく等しいんだという現実。

どうしても私たちは人間社会と自然世界を区分けしたがりますが、その境目はないのではないか…ただ過酷な世の中で懸命に生きる命があるだけはないか…そんな見方もできるのではないでしょうか。

そういう意味では、ラストのオチ。原作とは趣も異なる、どっちかというと「野性の呼び声」的な雰囲気も感じる幕引きですが、あれは作り手がどう考えてそうしたのかはわかりません。もしかしたら、やはり元の環境こそがふさわしいというシンプルな判断なのか。だとしたら、それも今の時代の価値観らしい判断です(ちなみにジャック・ロンドンが原作を執筆した時代は、まだ今のような「自然保護」の思想も科学もありませんでした)。

しかし、個人的には、単に「自然に帰る」という人間社会と自然世界を区分けする思考を飛び越えて、これからホワイト・ファングは“自分の”コミュニティを築くんだという未来を感じ取るラストだなとも思いました。ちょっと同時期に観た『ジュラシック・ワールド 炎の王国』と同じ匂いを感じましたね。
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自分が落ち着ける群れを探すこと…人間もオオカミも同じ目的で生きているんですね。

原作者のジャック・ロンドンは、作家デビュー後、社会主義に傾倒、最後は自宅で自殺しました。40歳でした。

関連作品紹介

おすすめ PiCKUP!
↑ジャック・ロンドン著「白い牙」。
↑ジャック・ロンドン著「野性の呼び声」。
(C)Netflix