それで別にいいじゃん…アニメシリーズ『マーダードローンズ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:オーストラリア(2021~2024年)
シーズン1:2021~2025年に各サービスで放送・配信
監督:リアム・ヴィッカーズ
恋愛描写
まーだーどろーんず

『マーダードローンズ』物語 簡単紹介
『マーダードローンズ』感想(ネタバレなし)
グリッチ・プロダクションズを知っているか?
「YouTube」は創作活動の場として盛況です。それはアニメーションでも例外ではありません。アニメというとどうしても大きなスタジオが話題になりがちですが、こうしたプラットフォームでは同人活動的な延長でさまざまな個性豊かなアニメ作品(インディーアニメ)が生み出されており、それがときに大きな飛躍を遂げることもあります。
近年だと『ハズビン・ホテルへようこそ』がまさに大成功を掴み、日本では2025年は『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』が話題になりました。
私もわりと「YouTube」のこういう世界中のインディーズのアニメをほぼ無名な時期からチェックしているのですが、尖った作品も多くて飽きません。
そんな中、「グリッチ・プロダクションズ(Glitch Productions)」というオーストラリアに拠点があるインディペンデント系のアニメーション・スタジオをご存じでしょうか。
“ケビン・レルドウィチャグル”と“ルーク・レルドウィチャグル”という兄弟によって2017年に設立されたスタジオで、当初は「グリッチ・ボーイ(Glitchy Boy)」というスタジオ名でした。この2人は以前から『SMG4』という任天堂の「スーパーマリオ」の二次創作的なアニメを作っていました。
グリッチ・プロダクションズとして新たなスタートを切り、初期は『SMG4』のスピンオフが多かったのですが、2021年に完全な新作を配信。これが大ヒットします。
それが本作『マーダードローンズ』です。
本作は、“レルドウィチャグル”兄弟ではなく、“リアム・ヴィッカーズ”というクリエイターが製作・監督・脚本を務めています。“リアム・ヴィッカーズ”は以前に『CliffSide』というアニメ企画で注目されたのですが、それはシリーズ化はしませんでした。
『マーダードローンズ』は自律的な意思を獲得したロボットが主題であり、ドラマ『マーダーボット』などでも見られるよくある導入で始まりますが、よりエッジの利いたコミカルとシリアスの中間を突き進むストーリーをアニメーションで提供しています。

何よりもキャラクターのビジュアルが魅力的で、どことなく可愛らしいデザインなのですが、ダークな雰囲気もまとっており、表現豊かです。これは人気がでますよね。好きな人はドハマりする癖の強いキャラクターたちで溢れていますから。
完全なアダルトアニメではないのですが、結構残酷な演出も多く、ただ基本的に登場人物はみんなロボットなので、身体が切り裂かれようとも、そこから血や内臓のようなものが吹き出ようとも、全部ロボットの部品ということで片づけられ、レーティング的にはそんなに高くないです。
ホラーのジャンルのパロディが盛りだくさんなので、そちらを楽しむこともできます。
『マーダードローンズ』は「YouTube」で配信され、2021年から2024年8月にかけて全8話で完結し、2025年には「Amazonプライムビデオ」でも扱われるようになりました。なので目にとまる機会が増えたと思います。
ぜひ「日本のアニメばかり観ていて、海外のアニメなんてディズニー以外知らない」という人にほど観てほしいところです。
グリッチ・プロダクションズは現在も『The Gaslight District』、『The Amazing Digital Circus』、そして『Knights of Guinevere』(あの『アウルハウス』でおなじみのクリエイターの“ダナ・テラス”の新作)と、続々と魅惑的なアニメーション作品を送り出し始めているので。今後も要チェックですよ。
『マーダードローンズ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 多少の怖いシーンがあります。 |
『マーダードローンズ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
「コッパー9」という惑星では人間が資源採掘をしていましたが、もっぱら働くのは労働するためだけに従事する自立式ロボットの作業ドローンたちでした。「JCジェンセン in SPAAAAACEE!!!!」という惑星間商社がドローンを管理し、控えめに言ってもドローンにとっては劣悪な扱いが当たり前。
ところがある日、惑星から人類が絶滅してしまう大事件が起き、環境の激変で、ドローンだけが取り残されます。そして星に残されたドローンたちは自分たちの自由を得ます。人間に縛られない自分たちの社会を築き始めました。
しかし、親会社はそれを放置しませんでした。地球から作業ドローンを破壊する使命を受けた分解ドローンを送り込んで後処理を実行したのです。多くの作業ドローンはバラバラになり、逃げることができた者は避難用シェルター内に籠るしかできませんでした。こうして作業ドローンの生き残りはそこで生活を再構築します。
でも作業ドローンのウージは、そんな生活に満足せず、分解ドローンに武器で対抗して立ち上がるべきだと考えていました。けれども、その好戦的な態度は周囲に理解されず、孤立していました。ウージはカーンの娘としてかなり有名ですが、父カーンはシェルターから出る気はないようです。
ウージはお気に入りのレールガンを手にし、こっそり抜け出そうとします。しかし、あっさり父に見つかります。父とその仲間は頑丈なドアの内に籠り、それで満足していました。ウージは上手く騙し、外へひとりで飛び出します。
外は凍り付いた極寒の地。無数のドローンの残骸が散らばる中を歩いていると、1体の分解ドローンに遭遇。戦闘に特化した分解ドローンは素早い身のこなしで翻弄するも、ウージの放ったレールガンの攻撃が分解ドローンを吹き飛ばしました。でも倒したはずの分解ドローンは再生能力によって起き上がり、喋りだします。
「N」と名乗り、どうやらエラーが生じているようで、ウージのことを分解ドローンの仲間だと認識しています。VとJという仲間が他にいると説明し、Nは宇宙船で来たようですが壊れています。
分解ドローンは企業に忠実で、自分たちがいずれお払い箱にされると理解はしていません。そう指摘し、ウージはNのもとを離れます。
シェルターのドアに戻るも再起動したNが侵入。襲われるウージを父は見捨ててしまいます。
そんな姿にNは同情してしまい、攻撃の手を止めます。そしてVとJに会社は本当に自分たちを見捨てないのかと懸念を口にすると、反逆として不良品扱いで捨てられてしまいました。その場で隠れていたウージは危険が去るとNを修理してあげます。
こうしてウージとNは奇妙な関係を結びます。ドローンの宿命を実感したウージは人類殲滅を目指すと言い放ち…。

ここから『マーダードローンズ』のネタバレありの感想本文です。
ドローンでホラーのジャンル遊び
『マーダードローンズ』に欠かせないドローンたち。とくに作業ドローンは、どういうわけか社会文明を築くまでになっており、完全に人間同然の暮らしを送っています。服も来ているし(人間の死体から奪ったのだろうか…)、食べ物を食べる飲むみたいな動作もするし(必要ないはずだけど…)、人間の支配から逃れたはずなのに人間の社会文化を模倣することにノリノリです。
ウージたちの暮らすシェルター(コロニー)も全容までは描かれていませんが、少なくともウージの生活圏は学校生活スタイルになっており、本作の前半は事実上の「学園モノ」の雰囲気で展開されます。生徒に該当するドローンたちも個性豊かな若者です。
そんな中、ウージは典型的なややグレた反抗心のある危なっかしい不良ガール。そのウージがNという分解ドローンでありながらもどこか垢抜けない少年と出会うという、ガールミーツボーイの導入で本作は幕を開けます。
ただ、そんなことはさておき、『マーダードローンズ』は毎話、何かしらのホラーのジャンルのパロディを盛大にやるという遊び心満載なエピソード構成になっていて、もはやメインストーリーの流れを喰うくらいの勢いがあります。
全エピソードの諸悪の根源にいるのは「アブソリュート・ソルバー」という起源不明の極めて高度で敵対的な不可思議な知性体であり、あらゆる生命を貪り尽くし、ウイルス的な拡散し、星々を壊滅させることだけに機能します。地球もこのアブソリュート・ソルバーで滅び、分解ドローンもアブソリュート・ソルバーが裏で動かしているだけでした。
第2話『Heartbeat』では、第1話で撃退されたJのボディの中からバイオメカニカルコアが見つかるも、Jのアブソリュート・ソルバーが起動し、その体は「エルドリッチ」という凶悪そうなマシーンに変貌し、シェルター内の人々を閉所で次々と襲います。その生物的なデザインから『エイリアン』っぽいですし、ホログラムで他人に偽装するあたりは『遊星からの物体X』を彷彿とさせます。要はモンスターパニックのジャンルを土台にしていますね。
第3話の『The Promening』では、プロムクイーン候補を次々と裏で殺すドールに始まり、最終的にはプロム会場で大波乱が起きます。マンハント・スラッシャー風であり、『キャリー』の色合いが濃い、最も学園っぽいエピソードです。ロシア語を話す寡黙で謎めいたドールは、母イェヴァがウージの母ノリと深い繋がりがあり、実質的にはドールも影の主人公みたいなものでしたね。
第4話の『Cabin Fever』では、もう露骨ですが、若者たちがキャンプで寝泊まりし、そこで人間関係が渦巻きながら、殺戮が起こっていく…わかりやすすぎる「キャビンもの」の路線をなぞっていきます。
第5話の『Home』では、エリオット邸での過去をデータから振り返る始まりで、N、V、J、Cyn(シン)、そして人間のテッサとの関係が映し出されます。歴史のありそうなお屋敷が舞台で、そこにおどろおどろしい惨劇が巻き起こる…これは言わずもがなテンプレな怪奇ゴシック風の屋敷ホラー。殲滅の始まりとなるCynですけども、再起動でアブソリュート・ソルバーに乗っ取られている時点でもどこか癖と愛嬌のある振る舞いなので、放っておけないですね(そんなCynを虐待するあの家主に同情してやる価値もない)。
第6話の『Dead End』では、舞台は一転して閉鎖された研究所であり、センチネルというドローン攻撃プログラムがなぜか恐竜(ラプトル)のデザインであるゆえに、すっかりこのエピソードは『ジュラシック・パーク』状態になっています。
第7話の『Mass Destruction』では、ノリとイェヴァの因縁が明かされ、舞台が教会聖堂なので、完全に宗教ホラーの流れに。悪魔的な憑依を連想させる展開の連続なのですが、まあ、ドローンもいろいろ憑りつかれて大変ですね…。
ともかく“リアム・ヴィッカーズ”、こんなにもホラーが好きなのか…。
ドローンはセカイなんてどうでもいい
先ほども触れたように『マーダードローンズ』は、ウージとN(間にVも挟みながら)のガールミーツボーイで始まり、最終的には凄まじい壮大な世界の命運を賭けた戦いに発展します。
でもいわゆるセカイ系のトーンに着地はしません。確かに世界をアブソリュート・ソルバーから救ったとは言えるかもしれないけど、どのみちこの世界は救いようがないほどに愚かで荒廃しているし、そもそも人間はもう絶滅しているし、たぶん人間自体はろくでもない奴らだったろうし…。
全体的にあのウージの性格も反映してか、ダウナーなんですよね。世界に対して冷笑的というか、暗い気分のまま、現状維持が一番いいかと開き直る…。本作のラストの後味もまさにそれです。
でも自分は破壊者にはなりたくないという選択肢を選んだところがあのウージの成長なのかもしれませんけど…。みんなと一緒にこの退屈な生活を送るのもそう悪くはないのかもしれない…そういう青春の小さなアップデートでした。
『マーダードローンズ』は大雑把すぎるところはちょっと難点ではあります。細かい設定もわかりにくく、普通に1度の視聴で世界観を理解するのは難しいこともあるでしょう。いちいち説明してもくれませんし…。
とは言え、こういうのこそがインディーズ系らしい粗削りの魅力であるでしょうし、ファンは考察意欲が高いので放っておいても勝手に世界観を分析してくれます。これくらいのスタンスでも全然成立するのだと思います。
『マーダードローンズ』ぐらいのキャラクターの訴求力があればファンダムはしっかり盛り上がるでしょうし、このワンシーズンで終わらせるのはもったいない作品でした。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『マーダードローンズ』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)Glitch Productions マーダー・ドローンズ
Murder Drones (2021) [Japanese Review] 『マーダードローンズ』考察・評価レビュー
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