所要時間は約100分。小さい子は乗れません…映画『SCREAM BOAT スクリームボート』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年11月14日
監督:スティーヴン・ラモート
ゴア描写 性描写 恋愛描写
すくりーむぼーと

『SCREAM BOAT スクリームボート』物語 簡単紹介
『SCREAM BOAT スクリームボート』感想(ネタバレなし)
ウォルト・ディズニーはどんな顔で見てる?
今やB級スラッシャー映画の界隈では「パブリックドメイン・ホラー」が大ブーム。なんでか知りませんけど、昔からある人気キャラクターの著作権が続々と切れだしたからなんでしょうか。ちょうど1920年代あたりからキャラクター・ビジネスが盛り上がったこともあり、著作権も一斉に切れ始める時期を迎えました。
話題の先陣を切ったのは2023年の『プー あくまのくまさん』だったと思いますが、それからはもうあれやこれやと連発されまくりで、整理しきれない量産状態です。
まあ、大半は便乗しているだけで、当たればラッキー程度の乱発だと思いますし、品質もそう期待するものではないです。B級スラッシャー映画ならそんなもの…と慣れた映画ファンは割り切っていますが…。
そんな中、超大物のキャラクターの本格デビュー作の著作権が切れたことで、こいつが生まれました。
それが本作『SCREAM BOAT スクリームボート』。
隠してもいないですが、本作はあの1928年11月18日に公開されたディズニー制作の短編アニメーション作品である『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』を原作に、残酷なスラッシャーへと変貌させたホラー映画です。『蒸気船ウィリー』は“ウォルト・ディズニー”が渾身を込めて贈りだしたアニメーション史に残る一作であり、「ミッキーマウス」はこの短編によって超有名になり、ディズニーは世界のキャラクター商売大企業への階段を上り始める一歩となりました。
実は『蒸気船ウィリー』の著作権はかなり揉めた経緯があり、何度か延長した後(その延長に繋がった法律は皮肉を込めて「ミッキーマウス保護法」とまで呼ばれるまでになりました)、アメリカでは2024年からパブリックドメインとなりました。なお、日本はもう少し前にパブリックドメインになっていると考えられています。
“ウォルト・ディズニー”はミッキーマウスを生み出す前に「オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット」というキャラを作っていたのですが、当時の権利はユニバーサルにあり、“ウォルト・ディズニー”のものにはなりませんでした(なのでミッキーマウスを作った)。
それでもついに『蒸気船ウィリー』までパブリックドメインになって、今まさに殺人鬼に変貌したのですから、天国の“ウォルト・ディズニー”や“アブ・アイワークス”(ミッキーをデザインした人)はどんな顔でこれを見ているのでしょうかね…。
ちなみに、あくまでパブリックドメインになったのは『蒸気船ウィリー』であり、ミッキーマウス自体の知的財産権が消失したわけではありません。
当然、あの天下のミッキーマウスですから、本作『SCREAM BOAT スクリームボート』を監督した“スティーヴン・ラモート”(スティーブン・ラモートもしくはスティーヴン・ラモルテ)以外にも、何人ものクリエイターがこのパブリックドメイン化に飛びつきました。そのため、『マッド・マウス ミッキーとミニー』(2024年)、『I Heart Willie』(2024年)、『Mouse of Horrors』(2025年)、『Mouseboat Massacre』(2025年)と、この1~2年でもう5作は製作されています。みんな、ミッキー、好きだな…。
その有象無象の中でも本作『SCREAM BOAT スクリームボート』は、スラッシャー映画でありつつ、船パニック映画にもなっており、一応、最も原作愛が溢れている…かもしれません。
気になる人は血塗れのミッキーマウスに会いに行ってあげてください。握手や記念撮影はしてくれると思いますが、その代償で命を奪い取るネズミですけど…。
『SCREAM BOAT スクリームボート』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
| 基本 | 激しいゴア描写が多いです。また、ヌード描写があります。 |
| キッズ | 性行為や暴力描写があるので、子どもには不向きです。 |
『SCREAM BOAT スクリームボート』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
深夜も活発なニューヨーク・シティの摩天楼。それを背景にした暗闇を、スタテン島(スタテンアイランド)に向かう1隻のフェリーが運航しています。ここを何度も行き来するのがこの船ではいつものことです。ニューヨークの街並みに溶け込んでいる風景のひとつ。
その船の機関部で、ヘルメットを被った作業員が暗がりにライトだけで作業をしていました。ひとりの慣れていない作業員が物音に驚きますが、ベテランは動じません。この船は「モーティマー号」という名のかなり古いフェリーで、整備士のニールとドミニクはそんな船の過去を喋りながらデッキ下の固くなった床戸をこじ開けます。
なんとか開きましたが、妙な音がします。そのときドミニクは何かに殴られます。ニールは支えますが、今度は場違いな口笛がどこからともなく聞こえます。自分たち以外に誰かいるなんて知りません。
ニールは一転して怯えながら工具を構えます。ゆっくり現れたのは丸い大きな耳を持つ…何か…。
それはニールに飛びかかり、致命的に噛みついてきます。ドミニクは走って逃げますが、デッキの下に落とされてしまい…。
ところかわって、セレナは全力でスタテン島を走っていました。誕生日会のために調子づいている5人の着飾った女性たちがしつこく、逃げていたのですが、フェリーの従業員ピートが上手く誤魔化してくれます。こうしてセレナはフェリーに隠れて潜り込むことができました。
ビル・クラーク船長の指揮のもと、フェリーは多くの乗客を乗せて出航。誕生会で泥酔している女性たちはここでもうるさいです。他にも救急隊員のアンバーやディアス警部補などが乗っていました。
セレナは静かな船内の場所でピートと再会。一緒に街並みを眺め、ピートはそれを魔法のようだと語ります。アーティストになるという夢を諦めていたバーテンダーのセレナはそういう気持ちにはなれません。
その船内にて、ひとりまたひとりと無防備な人間が殺される事件が勃発していました。いずれも無残です。
たまたま単身でいたセレナも、ひとりの警官が吊り下げられてスクリューでズタズタにされて殺害される姿を目撃。その殺人の元凶であった存在は、身体は小さいものの、恐ろしく不気味な動物で…。

ここから『SCREAM BOAT スクリームボート』のネタバレありの感想本文です。
ディズニー愛が乗船中
『SCREAM BOAT スクリームボート』は『蒸気船ウィリー』だけでなく、他のディズニー作品のオマージュも散りばめられており、ストーリー自体もディズニー的なエッセンスを軸にしており、案外と言っては失礼ですが、ちゃんとディズニー愛が伝わる作品でした。少なくともディズニーが嫌いで、ディズニーを単にバカにするために作られた映画ではないことがわかります。
メインのホラー・アイコンである今作のウィリーは、原点のミッキーマウスとなるべく似せるべく、小型のサイズです。他のパブリックドメイン・ホラーの多くが、通常のヒト・サイズで被り物のように頭がミッキーみたいな存在(テーマパークの着ぐるみ風)で描き出していることを考えると、この『SCREAM BOAT スクリームボート』は手が込んでいます。
ただ、この小型サイズのデザインゆえに、実在感のリアリティが薄めになってしまったのはやや欠点になってしまいましたけどね。せっかく『テリファー』シリーズのアート・ザ・クラウン役でおなじみの“デイヴィッド・ハワード・ソーントン”が演じているのに、アート・ザ・クラウンのような「そこにいる!」という恐怖は乏しく、なんだかはめ込み映像の合成っぽさが浮き出てしまっているし…。
その難点には目をつむれば、ウィリーが船長の首をワイヤーで豪快に切断し、いよいよ舵を手にしてあのBGMで上機嫌に船を操り始めた瞬間など、このウィリーだからこそのオマージュの面白さが輝きます。
今作のウィリーは単なる凶悪なモンスターや殺人鬼で終わらず、ウォルター(ウォルト)という心優しい船長が助けた「非道な実験で変貌してしまったネズミ」という設定で、同情の余地があるキャラクターです。しかも、その過去を語るシーンでは、しっかり原作を意識したアニメーションで表現してくれて、ファンサービス満載。
もとの『蒸気船ウィリー』自体が1928年の『キートンの蒸気船』のパロディでもあったのですけども、今作『SCREAM BOAT スクリームボート』でさらにパロディが重なり、こうやってオマージュの連鎖で映画は作られるんだなとあらためて実感しますね。
また、『蒸気船ウィリー』だけでなく、先ほども触れたように他のディズニー作品もオマージュしており、手広く細かいディズニーマニアックさを披露しています。
わかりやすいのは、あのパーティーガールズで、全員が歴代のプリンセス風のドレスで、各プリンセスを意識しています。シンシアは『シンデレラ』でわざわざ靴を片方落とすという小ネタもきっちりクリア。他にも『美女と野獣』、『眠れる森の美女』、『リトル・マーメイド』、『アラジン』など揃っています(みんな死ぬけどね)。アンバーの名は『ちいさなプリンセス ソフィア』からの引用らしいです。
そして何よりも『SCREAM BOAT スクリームボート』の主人公であるセレナが、王道のディズニーヒロインの系譜をなぞります。赤い靴でわかるとおり、ミニーマウスの人間版になっているわけですが、ピートという王子様ポジション(もちろんピートの名は『蒸気船ウィリー』のあのキャラクター)とロマンチックに出会い、しかし、恋愛ありきで終わらず自分の夢への情熱を再起させるというエンディング。わりとちゃんとヒロイン像を描いていました。
ずっとふざけたままでもいい
『SCREAM BOAT スクリームボート』のジャンル的な部分に注目すると、乗り物パニック、とくに船を舞台にした作品としては最低限の見どころを備えていました。
まずスタテン島(スタテンアイランド)へと往来するフェリーを舞台にしていることにしっかり軸足を置いており、なんでも監督の“スティーヴン・ラモート”がそもそもスタテン島出身で、スタテン島のフェリーを舞台にしたホラー映画をずっと撮りたいと思っていたそうです。あのこだわりはそこに端を発するんですね。
こういうローカルなフェリーって小規模で、乗っている人もざっくばらんじゃないですか。本当にただの酔っぱらいな人もいるし…。そういう日常のあられもなさを表現し、そこに凄惨な事件が起きたら…という遊び心を上手く盛り込めていたと思います。
ウィリーが乗船者を殺していく展開も、毎度違う趣向を凝らしたものになっていて、船らしさをアイディアにしているので飽きません。感電死というやけに効率的な殺害方法で、モブを一掃するのは清々しさすら感じます。
下僕になってしまったドミニクはもう少し役目があると良かったですね。ミッキーヘルメットは可愛かったです(普通にグッズになるレベル)。
あと、セレナがウィリーの恋人(ミニー)の格好をして騙す作戦は、さすがにバレるだろというツッコミ待ちなのはわかるにしても、出オチが強すぎました。あそここそセレナの才能を魅せるシーンでもあるはずなのですが、セレナが想像以上に凡才だとみせたいのか、セレナなりの頑張りをみせたいのか、焦点がイマイチよくわからなかったかな。
全体的に無駄に壮大な音楽BGMといい、暗すぎる&重すぎるというシリアス方向にところどころ傾きがちな面もあって、もっと終始軽いノリでもいいのになとも思ったり…。
次があるとすれば、全編にわたってドタバタ劇でふざけまくるだけでもいいですかね。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
パブリックドメイン・ホラー映画の感想記事です。
・『子鹿のゾンビ』
以上、『SCREAM BOAT スクリームボート』の感想でした。
作品ポスター・画像 (C)2025 SB PRODS LLC スクリーム・ボート
Screamboat (2025) [Japanese Review] 『SCREAM BOAT スクリームボート』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2025年 #スティーヴンラモート #パブリックドメインホラー #乗り物パニック #船舶



