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『フェイフェイと月の冒険』感想(ネタバレ)…Netflix;中国の月へ行く自信の表れ

フェイフェイと月の冒険

中国の月へ行く自信の表れなのかな?…Netflix映画『フェイフェイと月の冒険』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Over the Moon
製作国:アメリカ・中国(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:グレン・キーン、ジョン・カース

フェイフェイと月の冒険

ふぇいふぇいとつきのぼうけん
フェイフェイと月の冒険

『フェイフェイと月の冒険』あらすじ

大好きな母親がよく話していた月の女神の物語。しかし、それを本気で信じている者は自分以外、周囲にはいなかった。このままでは母親の想いが忘れ去られてしまう。少女・フェイフェイはそんな月にいるはずの女神の存在を証明すべく、豊かな発想力を駆使して大胆な行動を開始する。その先にはまだ見ぬ大冒険が待っているとは考えもしなかった。

『フェイフェイと月の冒険』感想(ネタバレなし)

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月に最も近い中国だからこそ

1969年7月20日、アポロ11号が月に着陸し、ニール・アームストロング船長が人類で初めて月面に降り立ちました。ドキュメンタリー映画『アポロ11 完全版』を見ればその全容が克明に映像で伝わるでしょう。

それから50年以上、つまり半世紀が経過したのに、私たち人間はあれから月に行っていません。あの時に月に行ったのはなんだったのかという話ですよ。
しかし、今、月に2度目の人類到達を果たそうと本気モードで先頭を走っている国があります。

それは「中国」です。

中国の宇宙開発に賭ける意気込みは凄まじく、すでに最近はアメリカやロシアよりもロケットを毎年飛ばしまくっています。2022年には中国版宇宙ステーション「天宮号」を稼働させ、2030年代には最終フェーズとして月面に有人研究基地を建設させるという壮大なプロジェクトのゴールを設定。全力で突き進んでいます。コロナ禍で多少停滞したものの、経済成長も復活して安定していますし、中国ならやってみせるでしょうね。

そんな月へまっしぐらな中国を象徴するようなアニメーション映画が登場しました。それが本作『フェイフェイと月の冒険』です。本

作は中国を舞台に、月を題材にした神話を信じるひとりの少女が月に向かって冒険に出かけるという、ファンタジーアドベンチャーになっています。中国の月へ行く自信の表れかな?

製作しているのはNetflixであり、最近のNetflixのアニメーション映画大作への力の入れ具合は熱があります。『クロース』が超高評価を獲得しましたし、アニメ映画業界でも覇権をとる気、満々ですね。

それにしても近年はアメリカと中国がタッグを結び、中国を題材にしたアニメ映画を作る傾向が目立ちます。Netflixの『ネクスト ロボ』(2018年)、ドリームワークスの『スノーベイビー』(2019年)など、毎年何かしら連発している状況です。

巨大な中国市場を狙っているのか、それとも手っ取り早く予算を確保するのにベターな布陣なのか、それはわからないですけど、競争の激しいアニメ映画界もロケットを飛ばすような挑戦をしているのかな。リアルではアメリカのトランプ政権は中国に敵意剥き出しですけど、クリエイティブな世界ではすっかり連帯ムードですね。

『フェイフェイと月の冒険』を製作しているスタジオは「パール・スタジオ」という中国の企業で、これまで『カンフー・パンダ3』や『スノーベイビー』を手がけてきました。おそらく今後もさらに力をつけていくスタジオになると思われます。

『フェイフェイと月の冒険』を監督するのは“グレン・キーン”というアニメ界のベテランです。彼はディズニー出身であり、『リトル・マーメイド』『アラジン』『美女と野獣』などの黄金期のアニメーターを手がけ、最近も『塔の上のラプンツェル』で重要な指揮をとっていました。“グレン・キーン”は『フェイフェイと月の冒険』で初監督となり、想い入れもたっぷりなようです。ちなみに彼の父親は漫画家として著名な“ビル・キーン”なんですね。

キャラクターに声をあてる俳優陣はアジア系ばかりを起用しているのも特徴です。主人公を演じる“キャシー・アン”は本作での大抜擢となる若手。他には『クレイジー・リッチ!』の“ケン・チョン”、『search サーチ』の“ジョン・チョー”、ブロードウェイ『ハミルトン』の“フィリッパ・スー”、ドラマ『キリング・イヴ』の“サンドラ・オー”、『スパイダーマン スパイダーバース』やドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の“キミコ・グレン”などなど。ちゃんとアジアのキャラにはアジア系を起用する…アニメでもこうした徹底をしてくれると、ただでさえ仕事がないアジア系俳優ですから、大助かりです。これが当たり前になってほしいものです。

わざわざ日本語版主題歌を作ったり、Netflixもかなり本腰を入れているので、外に出づらい今日この頃、家族でお家でファミリーアニメ映画の鑑賞会を開いてみませんか?

『フェイフェイと月の冒険』はNetflixオリジナル作品として2020年10月23日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(大人も涙なストーリー)
友人 ◯(アニメ映画好き同士で)
恋人 ◯(気軽に暇をつぶすなら)
キッズ ◎(子どもには楽しい世界観)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『フェイフェイと月の冒険』感想(ネタバレあり)

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母を信じて月へ飛び立つ

「月が満ち欠けする本当の理由はスペースドッグが月にかじりつくから…」

そんな荒唐無稽な語りを楽しそうに聞く幼い少女・フェイフェイは、母の語る突拍子もない物語が大好きでした。父はそんな非科学的な話に呆れ顔でしたが、妻と娘の幸せそうな姿に満足げです。

フェイフェイは母に「月の女神・チャンウー」の物語をせがみます。母は語りだします。

「美人のチャンウーはハンサムなホウイーと恋をした。でも魔法の薬を飲んで不死となり、ひとりで空に浮かんで月の上でホウイーを待っている。ジェイド・ラビットと一緒に…。ホウイーは死んでしまったが、それでもずっと…永遠に…」

フェイフェイの家は月餅(げっぺい)を作って売っており、家族経営の小さな店です。しかし、しだいに母の健康は悪化し、杖をついて歩くのもやっとに。そんな中、母からプレゼントでウサギをもらいました。まるでチャンウーの友達であるジェイド・ラビットのように。赤ちゃんウサギにバンジーと名付けて可愛がります。

それでも愛溢れる家族にも不幸は訪れます。母はこの世を去りました。葬式が静かに行われます。

4年後。成長したフェイフェイは母に髪を整えてもらうこともなくなってぼさぼさ髪になり、月餅を自転車で運んで売っています。バンジーも一緒です。工事現場で売り歩くと、そこではマグレヴという最新の電車が建設されており、これは車輪がない磁気浮上で動くものでした。フェイフェイは学業も優秀で科学も得意なので、その仕組みもわかっていました。

フェイフェイが家に帰ってくるとゾンという見知らぬ女性がいます。ナツメを使った新しいレシピに挑戦している父は、何やらそのゾンの仲良さそうです。

すると、チンという幼い少年も乱入。この子はゾンの息子だそうで、カエルを持ち込んだり、壁を通り抜けられると豪語して激突したり、奇行が目立つのでフェイフェイはドン引き。

おばさんたちがやってきて、家は賑やかになります。ゾンと距離をとるフェイフェイでしたが、おばさんたちはチャンウーの神話をバカにし始め、黙っていられなくなったフェイフェイは「月にいる」と熱弁します。イライラが募る中、チンに「ぼくたち兄弟になるんだよ」と言われ、ますます怒りが爆発。父が母を忘れて再婚なんてするわけがない…それなのに…。

悲しみに暮れているとバンジーが外へ。追っていくと母への気持ちが沸き上がってきます。パパはママを忘れてしまったのだろうか、みんなが母の教えてくれた月の神話を真面目に受け止めてくれない、月にいるのをどうやって証明できる?

そしてふとアイディアが湧いて出てきます。自分でロケットを作ろう。自分で月に行こう。

部品を購入し、お手製で開発していくフェイフェイ。例の新型電車の磁気浮上を応用する案を思いつき、一気に製作は進みます。

試作機がついに完成し、意を決して飛びたつフェイフェイとバンジー。ところがチンが紛れて乗っていたことで予想外の事態が発生。ロケットは上空へ飛んだものの、落下していきます。

ところが謎の光が降り注ぎ、機体は不思議な力で浮上し始めます。しかも、謎の羽のはえた獅子2匹に襲われ、滅茶苦茶になっていき…。

墜落し、気を失うフェイフェイ。目覚めるとそこは月でした。呼吸がなぜかできます。目の前には信じられない光景が…。

そこにはチャンウーが実在したのですが…。

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科学は男の子のものじゃない

『フェイフェイと月の冒険』はシンプルに言ってしまうと「空想科学」です。日本で言えば『ドラえもん』と同じステージにある作品です(ドラえもんも月に行く映画がありましたしね)。

ユニークなのは女の子を主役にした「科学ロマン」だということです。何かと科学すらも男の世界になってきた歴史があり、科学フィクションも男の子が主役になりがちです。『ドラえもん』だって「しずかちゃん」は男の子たちを支えるサポート役という役目を背負わされてきました。

しかし、本作はフェイフェイが真っすぐに科学に向き合っており、そこをあえて露骨にテーマにすることもなく、自然に物語の中で描写しています。何気ないことかもしれませんが、これはとても大事なことだと思います。ドキュメンタリー『マーズ・ジェネレーション』でも女の子ゆえに科学好きだというとバカにされることに悩む少女が出ていましたが、もうそんなつまらない性差別は吹き飛ばしていこう、と。

これからも「空想科学」を描く作品にこそ女の子の主役はもっと求められるでしょう。

本作の場合、そのスタンスはとても良かったのですが、肝心の科学発明において、結構フェイフェイが簡単にロケットを作れてしまっているのは、やや引っかかるものがありましたが…。割と自力開発で飛べちゃっていましたからね。

『ベイマックス』だと最新の科学が揃う大学というバックアップを描くことで、科学といえども魔法ではなく、ちゃんと仲間と施設と制度のサポートあってこそなんだと描いていたので良かったのですが…。

せめてフェイフェイに同年代や先輩のサイエンス仲間が欲しいですよね。卓球少年・チンのキャラクターも面白いのですけど、あの子、科学とは真逆の猪突猛進型だからなぁ…。

それに前半は科学要素があるのですけど、後半はすっかり消え失せてしまうのももったいなかったです。最後にもうひとつ科学的な発明で事態を変えるシーンがあれば、なおグッドでした。

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ここでも躍進するK-POP

月に到着すると、予想の斜め上を行く、壮大な摩訶不思議ワールド「ルナリア」が展開されていき、しんみりムードだった序盤の空気を爆散させます。やりすぎなくらいです。

とくにチャンウーの初登場時のパフォーマンス。母の語る神話内では、いかにも男性を待つ“おしとやかさ”や“献身的な愛”というステレオタイプな女性像でしたが、それを上書きするようなハイテンション・ミュージック。「わらわの絶世の美しさを讃えよ」ととんでもない自己肯定感。

明らかにK-POPの影響を受けているサウンドです。最近のK-POPは本当に凄くて、「BTS」や「BLACKPINK」など韓国のトップアーティストたちが、グローバルな世界でチャート1位を獲得していたり、すでに世界的な社会現象下しています。映画界では『パラサイト 半地下の家族』が頂点に立ち、音楽界ではK-POPが頂点に立っています。私も音楽はそこまで詳しくないのですが、もうK-POPをよく知りませんとはいってもいられない状況になってきたので、ちょっとずつ勉強中です。

ましてやこうやって映画の世界観にまでK-POPが進出しているのですからね。『トロールズ ミュージック★パワー』でもそうでしたけど、音楽をフィーチャーすれば絶対にK-POPは出てくると思った方がいいですね。

「BLACKPINK」などに象徴されますけど、既存の女性像を破壊する音楽センスを打ち出しているので、昨今のテーマ性とも相性がいいんでしょうね。

なお、チャンウーは中国神話の「嫦娥」がモデルになっています。「嫦娥奔月」であり、月にはウサギがいるという日本でも知られる逸話もこういう中国由来の伝承です。

個人的にはそんなチャンウーに熱狂しているのが、喋るカラフルな月餅たちというカオスが楽しい。なんか『アドベンチャー・タイム』みたい…。

ゴビというやたらうるさい発光するヘンテコ生物が出てきたり、やたら息巻いてくるチキン・ルナリアンが出てきたり、巨大カエルが浮遊していたり、バンジーが耳にピンクの不思議な力を宿したたり、個性の強いキャラや現象の目白押し。

インパクトはあるのですが、それらが上手く噛み合っていたかと言うと、そうでもないのが残念なポイントでしたが…。

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作品の裏にある実際の別れ

『フェイフェイと月の冒険』は「死別」をテーマにした作品で、これまた昨今のアニメ映画ではなぜか多いように見受けられます。

『2分の1の魔法』なんかはもろにそれがテーマで、全体を通して亡き父との関係が根底に描かれていましたし、それへのラストの着地も予定調和を外した意外なものでした。

こういう死別を描く作品はたいていは作り手の実体験が元になっていることも多く、とてもプライベートな物語だったりまします。

例えば、一見する人気作の続編という定番に思える『アナと雪の女王2』。あれも実は監督のクリス・バックが1作目の完成直後に息子を亡くしており、その喪失が物語には込められています(『アナと雪の女王2』で登場するライダーというサブキャラはクリス・バックの亡くなった息子の名前からとっているなどが、『イントゥ・ジ・アンノウン~メイキング・オブ・アナと雪の女王2』を観るとわかります)。

この『フェイフェイと月の冒険』はさらに事情があって、脚本を手がけたのは『ヘイト・ユー・ギブ』『モダン・ラブ ~今日もNYの街角で~ 』など多数の作品に関わる“オードリー・ウェルズ”だったのですが、彼女は2018年に亡くなってしまったんですね。つまり、遺作になってしまったわけで、おそらくこの『フェイフェイと月の冒険』自体も作っている最中は残された者はその喪失と向き合っていたはずです。

なので本作は脚本のブラッシュアップができずに、だからややシナリオ構成にいまひとつな部分があるのかもしれませんが、そういう事情を知ってしまうとやむを得ないのかなとも思います。

ともあれ、ストーリー的にはもう少し挑戦があってもいいような惜しい一作ですが、世界観はとても楽しく、前向きなアニメ映画でした。月にあんな感じのテーマパークを作るなら、中国を応援しますよ。

『フェイフェイと月の冒険』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 84%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Pearl Studio, Netflix

以上、『フェイフェイと月の冒険』の感想でした。

Over the Moon (2020) [Japanese Review] 『フェイフェイと月の冒険』考察・評価レビュー