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『13時間 ベンガジの秘密の兵士』感想(ネタバレ)…いつものマイケル・ベイ

13時間 ベンガジの秘密の兵士

いつものマイケル・ベイ…映画『13時間 ベンガジの秘密の兵士』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:13Hours:The Secret Soldiers of Benghazi
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にDVDスルー
監督:マイケル・ベイ

13時間 ベンガジの秘密の兵士

じゅうさんじかん べんがじのひみつのへいし
13時間 ベンガジの秘密の兵士

『13時間 ベンガジの秘密の兵士』物語 簡単紹介

2012年、リビアでは秘密裏に設置されたCIAの拠点「アネックス」に軍事組織GRSの6人の警備兵が派遣される。緊迫した中でも職務を淡々とこなす彼らだったが、イスラム教を侮辱する映画が公開されたことで、不穏な空気に包まれる。そして、9月11日の夜、米国領事館にどこからともなく銃を持った群集が殺気だって集結し、ついに銃声が鳴り響く。それは凄惨な13時間のはじまりだった…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『13時間 ベンガジの秘密の兵士』の感想です。

『13時間 ベンガジの秘密の兵士』感想(ネタバレなし)

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史実もこの監督の手にかかれば…

現代の、とくに中東を舞台とした戦争映画は数あれど、本作『13時間 ベンガジの秘密の兵士』が題材としている2012年9月11日にリビアで起きた「アメリカ在外公館襲撃事件」は、他とは異なる特筆点があります。

それはこの事件のきっかけとなったのは“映画”だということ。

その映画は『Innocence of Muslims』というタイトルで、イスラム教を侮辱する内容だとしてイスラム教徒から猛烈な批判を浴びました。事実、この映画を製作したのは反イスラム活動をしている人たち(イスラム教の聖典を燃やすパフォーマンスなどで有名)であり、イスラム教徒が怒るのも無理はない話です。

映画製作者に批判が集まるべきだったのですが、それが関係ない人にまで飛び火してしまって起きたのがこの事件です。当時はリビアだけでなく世界各地に反米デモが拡大しました。

そうした背景を考えると、“映画”が火種となった事件が映画化されるのは意味深いものを感じます。映画として語るべきこともたくさんあるでしょう。

ただ、本作はそういう社会派メッセージは基本的にメインではありません。そう、主要なテーマにはなっていません。え、ないの? はい、ないです(断言)。

というのもなんていったって監督はあの“マイケル・ベイ”です。

マイケル・ベイといえば『トランスフォーマー』シリーズでおなじみであり、彼の作風である爆発満載のド迫力アクションはもはやお家芸。なんというか、ここまで監督が作家性をハッキリと背負っているのは珍しいし、それも映画に詳しくない一般人でもわかっちゃう特徴というのがまたね…。完全にネタになってきています。

ご多分に漏れず本作でもそれは健在です。マイケル・ベイ監督の手にかかれば、史実の事件もこうなるのか…と見せつけてくれます。やはり戦闘映像のクオリティは超一流。マイケル・ベイのてがけた大衆向けブロックバスター映画と違って、きっちりゴア演出をやってくれるのも映像のリアルさに拍車をかけています。

なので、どうしたって戦争の悲惨さを伝えるといったような社会派な面よりもエンターテイメント性が印象に残ります。もうそれはしょうがないですよ。だって、マイケ(以下略)。

あえていうなら「戦争ゲーム」の映画化っぽいです。とくに最近のハイエンドなハードの戦争ゲームはすっかり映画との境界がなくなってきましたが、本作はその状態をまた強く印象付ける感じでした。それを踏まえて楽しめる人には、この映画は堪らないと思います。

繰り返しますが、『ゼロ・ダーク・サーティ』や『アメリカン・スナイパー』のような社会派的側面から評価される映画ではありません。アメリカが主人公、アメリカが活躍する、アメリカ一筋の単純戦争ドンパチ映画です。

皆大好き(?)マイケル・ベイ監督作といえどさすがに華がないと判断されたのか、日本ではDVDスルーになりました。まあ、マイケル・ベイ好きと戦争ドンパチ映画好きだけ買って観てればいいでしょ…ということなんでしょう。 でも個人的にはこれは劇場でやってほしかったです。絶対に大きなスクリーンで映える映像だらけですから。やっぱり大スクリーンで観るほうが映える映画だったなぁ…。ほんと、なんでビデオスルーにしたのかな。もしかして残酷表現があるのでレーティングで年齢規制がかかって上映を広げづらいと判断されて避けられたのかな。

これから鑑賞するという人はとにかく大きな画面で観てください。少なくともテレビ。スマホやパソコンはダメです。映画の凄さが半減しますよ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『13時間 ベンガジの秘密の兵士』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):戦えるのは自分たちだけ

2012年、アメリカの外交拠点は世界に294。そのうち12か所は警戒レベルが「危機的(Critical)」とされていました。2か所はリビアトリポリベンガジです。

2011年10月、アメリカ・フランス・イギリスはリビアを空爆。42年間も独裁を続けたカダフィを退陣させました。民兵たちはカダフィの武器庫を襲撃。その武器で紛争は激化します。多くの大使館が閉鎖される中、アメリカは領事館とCIAの秘密基地を残しました。その基地を守るのは元軍人の精鋭6名。コードネームは「GRS」

リビアのベニナ空港に降り立ったひとりの男。車に乗るとすぐにサングラスの男も乗ってきます。装填済みの銃を渡され、「チームは?」と訊ねると「元海兵隊3人と元レンジャー1人。お前が来ると助かる。よく来たな」と返事を返します。

ジャックは友人のロンがチーフを務めるGRSにアメリカから赴任してきたのでした。

和やかに車内で談笑しながら運転していると路地の狭い道でトラブルが発生。前も後ろも進めなくなってしまいます。あたりには武装した者たちがたくさんおり、重機関銃まであります。殉教旅団という味方に応援を要請するも、状況は緊迫。銃を突きつけられ、一触即発。「上にドローンがいるぞ」とハッタリで脅し、なんとか事なきを得ます。

基地に到着。クリス・“タント”・パラント、ジョン・“ティグ”・タイジェン、デイヴ・“ブーン”・ベントン、マーク・“オズ”・ガイストといった仲間を紹介してもらいます。CIAチーフのボブは感じ悪く命令してくるだけです。CIAいわく、ここに危険はないし、銃があるだけで不安が増すだけなので、あまり戦闘要員を求めていないようです。

さっそく仕事。石油会社の重役夫婦への対処。ソナという女性を護衛します。ジャックは夫の役です。周囲ではチームが警戒にあたります。すぐに危険を察知したチームメンバーは撤収を指示。車に乗り込み、退散。追跡されており、なんとか巻こうとします。今日は切り抜けました。

5週間後。アメリカのクリストファー・スティーブンス大使が赴任してくることになります。領事館に滞在するとのことですが、警備は手薄。大使護衛のスタッフと合流。広さは3万6000平方メートル。リゾート地のような豪華さもセキュリティが行きわたっていなければ、ただのマトです。

「5人では守れない」

現地を視察してそう結論するのも無理はない話でした。武装集団でも来ようものならば一巻の終わりです。ただ、大使護衛はあまり深刻に考えていないようでした。

休む暇はありません。大使が市長を訪問することになり、今度はその護衛です。内密とのことでしたが、メディアが大勢入ってきており、テロリストがいくらでも侵入できます。

そして領事館に到着し、明日は出かけないことを確認。なぜなら明日は9月11日。アメリカ同時多発テロ事件が起きた日であり、緊張が高まるからです。

しかし、その日、最悪の事態が勃発してしまうことに…。

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マイケル・ベイ、炸裂

なんだかんだネタにされる“マイケル・ベイ”監督ですが、でも本作『13時間 ベンガジの秘密の兵士』は普通によくできた戦争映画でした。最初から最後までマイケル・ベイ要素がたっぷりつまってます

私はこの監督、流れに乗っかってバカにしている風なことも書くことがありますが、基本はとても映画人として尊敬しています。決してヘタクソではないというのは断言しておきたいところ。確かに『トランスフォーマー』シリーズはめちゃくちゃやってましたよ。すでにシリーズとして収拾ついていないじゃないかというくらい。とりあえず爆発させとく?みたいなノリでしたよ。でも確信犯的にふざけていることはあっても、素でヘマしているわけではない。つまり、バカなふりをしている天才なんですよ。いや、大袈裟言ったかな…う、あ~、うん、天才なんですよ(繰り返し)。

だから基本は上手い。むしろ平均よりもはるかに才能がある人物。そうなんだと思います。

『13時間 ベンガジの秘密の兵士』ではそんなこの監督の才能の事実が結構わかりやすく示されていたのではないでしょうか。

本作で上手いのは「タメ」の演出です。

序盤からあわや戦闘か?という一触即発シーンが続くのですが、戦闘にはならず…じらしてきます。そして、9月11日、日常の穏やかなシーン(待ってくれる家族との会話)があり、反イスラム映画のニュースが流れてだんだん不穏な雰囲気になり、銃をもって抗議する集団が近づき…あっという間に米国領事館は占拠されてしまいます。この占拠の場面もほぼ無抵抗なまま進行するので、ドンパチはありません。主人公たちも上司の判断の遅さもありなかなか出動しないので、見てる観客としてはまだじらすのかとハラハラします。

さんざんタメにタメて、ついに万を期してのGRSの出陣。突然の発砲からのドーン! マイケル・ベイの独壇場ですよ。銃撃、爆発、ゴア、情け容赦ないシーンの連続…あいからず景気よく爆発してくれます。今回ばかりはこのエクスプロージョンも意味のないお遊びではなく、シチュエーションの惨劇を強調して観客もろともパニックに陥らせる効果として機能していました。一種のディザスター映画でもあります。戦争という災害ですね。

カメラワークは抑え気味ですが、マイケル・ベイらしさが炸裂していたのはラスト戦闘の迫撃砲。迫撃砲に追尾するカメラ視点からの着弾演出…最後にマイケル・ベイ流の大見せ場をもってきます。ここはさすがにやりすぎだと思いましたけど、まあ、この監督だし、いっか。

戦闘は派手なんですが、劇中では史実に違和感のない必要最小限の範囲の重火器しか使っていないのが地味に凄いです。派手さを出すために戦車とか航空支援とかは登場させたりしません。これにより、さらに絶望感が増して、戦闘の緊迫感が増してます。よく全滅しないものだなと思うのですが、そこはひとつの主人公補正なのか、なんか切り抜けていきますけどね。

緊迫感と一時の平和の緩急も心地よく、上手いです。また、誰が敵なのか味方なのかわからない混乱感もよかった。それに唯一の敵・味方判別方法(手のサイン)も伏線としてしっかりしてて関心しました。

“マイケル・ベイ”監督映画なのに、あれ、全然最高じゃないですか(失礼)。

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マイケル・ベイは寄り道しない

本作は「13時間」というタイトルで、短そうに見えるわりには、しっかり映画自体は140分超えと長めでなんですね。でも、映像的にも目が疲れることもないし、監督作としては異例のほどよい鑑賞体験。飽きることはなかったですから、これは凄いです。え、マイケル・ベイ監督作じゃないみたい…。

でも冷静になってみると140分もあるのに、ひたすら戦闘を描くというのはどうかしてますね。普通、ここで社会派な問題提起をじっくり描こうとか思うのもありだと考えるじゃないですか。それを綺麗さっぱり捨てている、本作の潔さ。寄り道する気なんてないぜと言わんばかりの猪突猛進なバトル・スタイル。それもいいのかもですけど、いいのか…。

あえて苦言を言うなら、CIA基地での籠城戦は計3戦もあり、もう少し数を減らしてもいいのではとも思いましたが…。この籠城戦、すごーくFPSゲームっぽいシチュエーションで、あえてそれを狙っているのかもしれません。徐々に難易度が上がって苛烈さを増していくあたりに意図的な見えざるレベル調整を感じますよね。

史実の事件をエンターテイメント的派手さで汚しているという意見もあるかもしれませんが、戦争の悲惨さを伝えるうえでも「派手であること」は最も印象に残る手っ取り早い方法です。それは単なる派手で終わると意味もないのですけど、本作のバランスはギリギリありなのかな。少なくとも日本ではこういう戦争映画はもう作れなさそうですし、じゅうぶん羨ましいです。

エンターテイメントといっても蛇足なドラマはなかったのも良いところ。「心配する妻、そして可愛い子どもたちを祖国で待たせながら、任務を遂行する男たち」という王道であり、ベタをしっかりやりぬいてました。そのぶんシンプルすぎるだろうという指摘も納得ですが。

まぁ、リビア人通訳の活躍とか、リビア民間人への被害とかを描いているにもかかわらず、戦闘の派手さばかり印象に残るのは、マイケル・ベイ監督作品だからしょうがない不可避な欠点です。結局、本作は最初の企画時点のハードルの高さをそこそこに抑えているので、“こういうもの”ってことなのでしょう。

こういう映画がたまにはあってもいいんじゃないでしょうか。たまには…ね。

『13時間 ベンガジの秘密の兵士』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 51% Audience 82%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

以上、『13時間 ベンガジの秘密の兵士』の感想でした。

13Hours:The Secret Soldiers of Benghazi (2016) [Japanese Review] 『13時間 ベンガジの秘密の兵士』考察・評価レビュー