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『クリミナル 2人の記憶を持つ男』感想(ネタバレ)…クズオヤジでも成長はできる

クリミナル 2人の記憶を持つ男

クズオヤジでも成長はできる…映画『クリミナル 2人の記憶を持つ男』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Criminal
製作国:イギリス・アメリカ(2016年)
日本公開日:2017年2月25日
監督:アリエル・ブロメン
クリミナル 2人の記憶を持つ男

くりみなる ふたりのきおくをもつおとこ
クリミナル 2人の記憶を持つ男

『クリミナル 2人の記憶を持つ男』物語 簡単紹介

米軍の核ミサイルさえも支配できるプログラムを開発した謎のハッカー「ダッチマン」の居場所を知る唯一の人物で、CIAのエージェントのビリーが任務中に死亡した。その死でもって事件が封印されることはない。危険は残っている。「ダッチマン」の情報を知るため、ビリーの記憶を他人の脳内への移植することになり、その最重要の移植相手として死刑囚ジェリコ・スチュアートが選ばれた。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『クリミナル 2人の記憶を持つ男』の感想です。

『クリミナル 2人の記憶を持つ男』感想(ネタバレなし)

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ライアン・レイノルズ…またお前か!

「別の人間の記憶を移植された主人公」という設定は流行っているのでしょうか。

サスペンスアクションものだと、去年は『セルフレス 覚醒した記憶』がありました。この映画は、未練があって死期を恐れた大富豪の老人が自身の記憶を若い別の人間の肉体へ移植させるというお話し。この移植される先となる人間を演じたのは“ライアン・レイノルズ”でした。

私のこの映画の感想では「逆にライアン・レイノルズ演じる主人公が老人に転移するほうが面白いのでは?」なんて書いてましたが…ちょっと違う形で実現しちゃいました。

それが本作クリミナル 2人の記憶を持つ男です。今作もまたまたある人間の記憶を別の人間に移植させるのですが、『セルフレス 覚醒した記憶』では“ライアン・レイノルズ”は移植先でしたが、『クリミナル 2人の記憶を持つ男』では移植元になります。もう何が何やらで混乱する…。とりあえず“ライアン・レイノルズ”は別人キャラになりすぎです。あなたは『デッドプール』でしょ…。

「同じような映画か…」と思うのも無理ない感じではありますが、『クリミナル 2人の記憶を持つ男』は他とは違う特筆すべき点がひとつ。それは“ライアン・レイノルズ”演じる男の記憶が移植されるお相手が“ケヴィン・コスナー”だということ。“ライアン・レイノルズ”はそんな出番ないので、むしろケヴィン・コスナーがメインです。しかも、ケヴィン・コスナー演じるオヤジが実にイカレたサイコ野郎なんですね。このイカレたオヤジがだんだん変化していくという「オヤジ成長物語」となっており、意外と温かいドラマです。

SF的な部分で考えて見ちゃうとツッコミどころだらけなので、そこは目をつぶってください。まあ、別の人間の記憶を移植なんて、矛盾点がいっぱいでてくるのはしょうがないです。これをSF上の問題点なくキッチリ描き切るなんて無理ですよ。『トータル・リコール』みたいにあえて事実関係をフワッと解釈に任せて、後は映像で楽しませるスタイルなら全然いいのですけど。

それでも記憶の入れ替えとか移動というネタにこんなにも映画は飛びついてしまうのは(もちろん飛びついているのは観客もですが)、私たちがついついあり得ないと思っても気になってしまうからです。あの人は何を考えているのだろう、自分じゃない誰かになれたら…そんな「if」を妄想するのはSFとして最も親近感のある思考。きっと人類永遠のクセになるんじゃないかな(技術が実用化しないかぎり)。

話を『クリミナル 2人の記憶を持つ男』に戻すと、先ほども言いましたけど、オヤジ感で楽しむのがハズレなしだと思います。

オヤジ好き向け映画としての需要は確実に満たすことは間違いなしでしょう。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『クリミナル 2人の記憶を持つ男』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):俺は借りを何倍にもして返す

CIAロンドン支局の諜報員であるビル・ポープは店でバッグを受け取り、中を確認し、次の場所へ向かいます。

歩いていると娘から電話がかかってきて、妻のジルが変わります。しかし、怪しい車を目撃して、すぐに電話を切り、バスを使って追っ手をまきます。その場にあったバイクに乗り、逃走。

CIAロンドン支局長のクウェイカー・ウェルズは作戦室で監視カメラをフル動員して街中での追跡を実行していました。ビルを確認、でもバッグを持っていません。

ビルを追うのは無政府主義者のハビエル・ハイムダールと繋がっている人物。ビルはタクシーの中で追われていると支局にメッセージ。しかし、スマホのカーナビはハビエルに遠隔操作され、目的地とは違う場所に誘導されます。

そして車に囲まれ、銃撃を受けます。ビルも応戦して発砲。単独でここを突破するのは厳しそうです。すぐに弾切れし、悪態をつくくらいしかできません。そして捕まりました。

拘束されたビルの前にハビエルが登場。電流棒で拷問してきます。「私にはダッチマンが必要なんだ」とハビエルは容赦なく電圧をあげます。それはアメリカ軍の核ミサイルを遠隔で操作することが可能なハッカーのことでした。

部隊がビルの場所に到着しますが、ビルはもう息絶えていました。蘇生を試みるも死亡は確実でした。

その後、ところかわってフランクス博士のもとに政府の人間が押しかけてきます。「あなたの記憶プログラムで死んだ男の記憶を取り出してほしい」…人体実験はまだしていませんが、国家を揺るがす重大事態なので48時間しか猶予はないと宣告されます。

「死んだ者の記憶を生きている者に移せるか?」

「可能だ」と博士は答えます。機器とスタッフ、それに条件を備えた「受容者」さえいれば。

候補者はひとり。

アメリカのウェストバージニア州にあるヘイゼルトン刑務所。そこに収監されている男、ジェリコ・スチュワートが緊急で解放されます。普通はそんなことはあり得ません。衝動の抑制も社会適合もできないこの残忍な男が今のアメリカには必要でした。

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クズオヤジの成長物語

『クリミナル 2人の記憶を持つ男』は“ライアン・レイノルズ”や“ケヴィン・コスナー”以外にも、“ゲイリー・オールドマン”や“トミー・リー・ジョーンズ”といった名俳優から、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のワンダーウーマン役で注目を集めた“ガル・ガドット”まで、なかなかの豪華キャストでした。

ただ、やっぱり一番魅力的に輝いていたは“ケヴィン・コスナー”演じるジェリコ。

“ケヴィン・コスナー”は『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でオスカー監督となった俳優としての地位を得たという点では最高のキャリアを手にした遅咲きの人物ですが、昨今は『ウォーターワールド』でのコケっぷり以降からなんだかこう言ってしまってはあれですけど、旬の時期が過ぎた人というイメージも拭えない。すっかり昔こんな俳優いたよね…ってなっている。同じオスカー監督兼俳優のクリント・イーストウッドとは差が開いた、元も子もない言い方をするとそんな感じです。

それがまずこの『クリミナル 2人の記憶を持つ男』のジェリコというキャラクター性にフィットしている。もはやかける言葉もない死刑囚という事実上の死んだも同然な男。これが実はまだ良い人だったら、救いはあるのですが、そうではありません。

初登場の牢屋での「もはや動物園の猛獣扱い」からわかる狂ったクズさもあり、「女性の尻を触る」という馬鹿ストレートなセクハラからわかる庶民的なクズさもある…要するにクズです

このクズっぽさをちゃんと演じられる“ケヴィン・コスナー”はやっぱり俳優として上手い。彼の素晴らしいのは演技の機微の良さもありながら、アクション面でも両立してくれるところ。

アクション面も良い意味で粗雑なのが心地良く、序盤の車からの脱走シーンの強引さに始まり、硫酸で爆破する、サボテンで気絶させる、電気スタンドで殴りまくる、斧で殴りまくると、単純明快。最近は、ガン・フーだのカッコつけアクションが流行りですが、「そんなの知るか、殴れればそれでいいだろ」と言わんばかり。やはりクズ。

死亡偽装工作に民間人をためらいなく利用したり、公然と人前で暴力を振るったりと、情け容赦なし。被害者側にしてみればあまりの無慈悲な暴力に「なんで殴られたの?」と抵抗を忘れて困惑するしかない。まさにバイオレンスが一周回ってギャグになってました。ジェリコは敵を「サイコ」呼ばわりしてましたが、「一番のサイコはお前だよ!」と総ツッコミです。このへんのノリは、去年公開の邦画『ディストラクション・ベイビーズ』を連想しました。

間違っても付き合いたくないオヤジなのですが、映画上で見ているぶんには無害ですから…(他人事)。

そんな共感性ゼロのクズオヤジが、不本意ながらも記憶移植によって心を手に入れていく過程は、個人的にはグッと楽しめました。こういうクズが成長していく話は好きです。

それでも映画としては、“ケヴィン・コスナー”以外の要素がダメすぎました。まず「別の人間の記憶を移植された主人公」という設定にいい加減飽きたという語らずともな理由はもちろん、「ハッキングされて米軍のミサイル全てが敵の支配下に!」という設定ももう勘弁してです。敵も魅力なくて残念。それに、散々タイムリミットが迫るみたいな流れを押していたのに、そういうハラハラはあまり感じられず、終盤に急に慌て始めた感じだったのも…。そもそもあの「ミサイルブーメラン」細工のせいでタイムリミット関係なかったですし、あれはあれで危険だろうとは思っちゃいましたが。

監督の“アリエル・ヴロメン”は『THE ICEMAN 氷の処刑人』(2012年)を手がけていますが、イスラエル系の人で、ちょっとハリウッド流とは異なる作家性も持っている雰囲気があります。かろうじてその持ち味が主人公のドラマに見られた感じですが、いかんせんはハリウッドナイズされてしまったかな、と。

公式サイトのプロダクションノートで以下のように監督がコメントしていますが、“ケヴィン・コスナー”のこういう魅力を引き出した点だけでも個人的には評価したい気分。報われていない俳優だなとは思っていたのもありますけど。

「好感度の高い、魅力的な役柄を演じるケヴィンは見慣れてしまった。だから、一度、ボロボロにしてから、その魅力を再び披露することができたら最高だと思ったんだ。唯一の課題は、あそこまでたちの悪い、怒りに満ちた、粗野で凶暴な人間にケヴィンがなれるのかという点だった。でも、実に見事に演じてくれたよ。彼の演じる二面性には説得力があったし、ジェリコの旅路のあらゆる精神的レベルに達することができていた。こんな役を演じるケヴィンを見られるなんて誰も想像していなかっただろうから、彼を起用できたことは本当に監督冥利に尽きるんだ」

まあ、“ケヴィン・コスナー”を愛でれたからOKですね。

『クリミナル 2人の記憶を持つ男』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 47%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2015 CRIMINAL PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.

以上、『クリミナル 2人の記憶を持つ男』の感想でした。

Criminal (2016) [Japanese Review] 『クリミナル 2人の記憶を持つ男』考察・評価レビュー