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『ケイト Kate』感想(ネタバレ)…Netflix;アジア系ステレオタイプは装飾?

ケイト

アジア系ステレオタイプ問題を考えながら鑑賞する…Netflix映画『ケイト』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Kate
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:セドリック・ニコラス=トロイアン

ケイト

けいと
ケイト

『ケイト』あらすじ

どんな任務も冷酷無比に達成するように子どもの頃から鍛え上げられた暗殺者。しかし、日本で指示された殺害ミッションの一件以降、この暗殺者の心は自分でも驚くほどに揺れ動く。そして、自分に残された時間は24時間もないと気づいたとき、自分自身の最期の仕事をやり遂げると決める。報復に突き進む瀕死の暗殺者の前に立つのはひとりの少女。東京の夜の街で鮮血に染まることになるのは誰なのか。

『ケイト』感想(ネタバレなし)

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あのスタジオが日本で暴れる

多様性を重視した表象の要望がかつてないほどに高まっている昨今のハリウッド。最近はアジア系のキャラクターが登場する作品もグッと増えてきました。2020年代に入ってからは『ムーラン』『ラーヤと龍の王国』『シャン・チー テン・リングスの伝説』など大作映画でのメイン化も目立ち、いよいよ本格化してきたなという印象です。

しかし、そうなってくると持ちあがるのがこの話題。アジア系に対するステレオタイプな描写です。

例えば、女性のアジア系キャラを想定しましょう。従順で大人しい子ではないだろうか。家族を支える良き母親像を見せていないだろうか。髪の一部や全体がカラーになっているヘアスタイルではないだろうか。はたまたアクションがあるなら刀を振り回していないだろうか。

これらはアジア系に対するステレオタイプの一部。こういう指摘をすると「別にいいじゃないか! そういうアジア人もいるんだし! 実在の人を否定する気か!」と反論してくる人もいますが、当然ながらそんなことを言いたいのではなく、これはあくまでステレオタイプの問題。固定化されることを問題視しているのです。

そもそも映画にせよ何にせよ、クリエイティブというものは常にステレオタイプとの闘いです。ステレオタイプに無抵抗だと簡単にマンネリ化します。それに抗うことで革新的な演出や新ジャンルが登場したりする。その演出やジャンルが年月が経つとステレオタイプ化することもある。そのときはまた新しい脱却を試みる。この繰り返しが創作の歴史ですよね。マイノリティな側にいる存在を描く場合はこの試行錯誤に頻繁に直面しやすいのです。

そんなことを片隅に考えつつ、今回の映画も観てほしい。それが本作『ケイト』です。

『ケイト』はアメリカ映画ですが、舞台はずっと日本。とあるひとりの女性の暗殺者が日本の街を舞台に決死の戦闘を繰り広げるアクション映画です。制作するのはあの『ジョン・ウィック』でおなじみの「87North Productions」であり、“デヴィッド・リーチ”が製作に名を連ねています。アクション・ファンなら当然のように期待をするでしょう。あれだけ恍惚になるアクションの芸術を魅せてきた実力がありますからね。

主人公の暗殺者を演じるのは、『ジェミニマン』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』など最近はアクション界でも活躍を見せている“メアリー・エリザベス・ウィンステッド”。今回もアクションの連続ですっかりこういうジャンルが似合う俳優になってきました。

他には、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』でも大暴れ予定の“ウディ・ハレルソン”、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の“ミキール・ハースマン”など。

本場の日本勢からは“浅野忠信”、“國村隼”、“MIYAVI”、“田邊和也”、“内山信二”などが出演しています。

なお、本作は字幕と吹き替えが用意されていますが、オリジナル音声で楽しめる字幕で観る方が、本編で英語が話されているシーンと日本語で話されているシーンがハッキリ区別できてわかります。その日本語をチョイスする?っていうセリフもありますからね…。

監督は2016年の『スノーホワイト 氷の王国』で監督デビューしたフランス人の“セドリック・ニコラス=トロイアン”。視覚効果アーティストでもあるためか、今作『ケイト』もエフェクトかかりまくりな日本の街が映像化されています。『ゴースト・イン・ザ・シェル』でもそうでしたけど、日本っぽい街景観を舞台にした実写映画では、よくVFX畑の人が監督に起用されますよね。それだけビジュアルが大事だと思っているのかな…。

肝心の気になるポイントは、日本がどのように描写されているのか…という点だと思いますが、それは、まあ、大変語りがいのある様相になっていますよ。2021年、外国人の考える日本のイメージ最新版はコレ!…っていう感じの…。

気になる人は1日の空き時間にNetflixで『ケイト』を視聴してみてください。あなたのツッコミを待っている…!

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『ケイト』を観る前のQ&A

Q:『ケイト』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年9月10日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:アクション好きなら
友人 3.5:ツッコミながらネタに
恋人 3.0:ロマンスはほぼ無し
キッズ 3.0:暴力描写は満載
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ケイト』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):私はケイト

大阪の工業地帯。1台の求人宣伝トラックがやってきて、建物の陰に停車。しかし、その車内は普通ではありません。そこにいたのは男女。車内は物々しいデジタルなモニターがあり、さながら監視指示室のようです。

上司風な男は、準備している女を心配します。女は言います。

「ヴァリック、私は12年間、失敗なし。信用して」

ヴァリックと呼ばれた男は女に好物の飲み物のペットボトルを渡し、出発させました。女はひとり外に出て、黒づくめの格好でリュックを背負い、何やら護衛しているらしいスーツの男2人をいきなりぶち倒します。そのまま身軽な動作で上へ。

狙撃のポイントで待機。シーゾナルと無線で呼びかけられ、ターゲットを待ちます。

すると1台の車からターゲットの男が降りてきました。すぐにスコープで照準を合わせます。ところがさらに女の子が降りてきて、女は同様。中止を口にしますが無線では「撃ちなさい」と命令が飛んできます。

やむを得ず女は引き金をひき、女の子の傍にいた男を狙撃。男は即死で倒れます。隣の女の子は男に駆け寄り、「助けて!」と叫び…。

10か月後。東京。夜の街をランニングするのはあの女。実は女はあの一件以来仕事を辞める決意を固めていました。これが最後の仕事だと…。

お洒落な場所でスティーブンという男が話しかけてきて、いい雰囲気になり、楽しくワインを飲んで一緒に寝ます。

そしてその場を抜け出してさっそく最後の仕事です。ビル屋上でいつものように狙撃スタンバイ。ターゲットは大物ヤクザのトップ。男を確認。すると意識が少し乱れます。気を取り直して再び照準合わせ。しかし、撃つ瞬間に眩暈。銃弾は外れ、相手のヤクザの組長は逃げてしまいました。

走る車に狙撃し、それでも息が苦しくなり、吐きます。なんとか自分を奮い立たせ、一般の車を奪い、パトカーとカーチェイスしながら追跡。けれども気分がまたも悪くなり、ハンドルミス。盛大にクラッシュして…。

目覚めると病院です。医者に急性放射線症候群だと告げられ、ヨウ素131とタリウムが検出され、ポロニウム204も確認されたと聞いて、女はハッとします。あの男と飲んだワインか…。これは自分を策略にハメるトラップだ…。

医者の宣告は無慈悲でした。余命は1日。でも女はここで死を待つつもりはありませんでした。自分をこんな目に遭わせた奴に報復してやる…。

病院を抜け出した女は、すれ違いざまに刑事から銃を盗み出し、医者を脅して興奮剤も入手。

霊のスティーブンの居場所を特定し、銃を突きつけます。「誰の指示?」…その答えは佐藤カズオで、木嶋組の構成員のようです。これは東京最大の木嶋組の関与らしい…。

スティーブンの連れの女に名前を聞かれ、女は答えます。「私はケイト」

こうしてケイトの最期の戦いはこの東京の地で始まったのです。

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バニラの求人は暗殺者の隠れ蓑

欧米の女暗殺者が異国の日本でヤクザやら何やらをなぎ倒していく…この『ケイト』の構図はクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』(2003年)を彷彿とさせますが、それから18年で描写は全く進化していないことをまざまざと見せつける、そんな映画でした。いや、本当に外国人の考える日本のステレオタイプの見本市みたいでしたよ。全部揃ってる…。

まず冒頭から日本在住の観客を噴き出させるのが、求人情報サイトのピンクの派手な宣伝トラックがおなじみの「♪バ~ニラ、バニラ」の曲を大音量で流しながら走っているオープニング。いやいや、その場所では不自然すぎる、なんで普通のトラックにしないんだという…。

それ以降はずっと「外国人に聞きました。あなたの思い浮かべる日本は?」と質問したときの答えをひたすらにズラっと並べて映像に組み込んでいるようなものです。

居酒屋、銭湯、和室、歌舞伎、ネオン、ガールズバンド、KAWAII、刀…。

作中で登場するバンドは「BAND-MAID」という実在のロックバンドですが、まあ、メイドの容姿だからキャスティングされたのは間違いないですし、ケイトがヘンテコTシャツを着せられるのも本編の物語に全く関係ないですけど、なんとなく日本っぽいからなのでしょう。

そうです。本作は兎にも角にも日本っぽさを脈絡もなくぶっこんでくる。それだけ。

それが面白さに繋がればいいのですけど、違和感になったり、それどころかチープに見えたりするから困るもので…。例えば、序盤の室内ネオン装飾カーでチェイスするくだりも、車内ミュージックと疾走VFXのどことないダサさで想像以上に安っぽく見えるし…。白黒和室空間での戦闘も、あそこでもっと血しぶきが綺麗に周囲を染め上げていたらもう少しカッコいい絵になったかもしれないですが、そこまではやってないんですね。なぜなんだ…。

あとアクション要素が濃いシーンになるたびに毎回ポップソングを流すのも無理があるというか、せめて1度きりの演出にすればいいのに…。

ロケーションも日本撮影が活かせているのかは微妙。あらためて思いますけど、撮影地にある実際の看板 と今作の撮影のために新規に用意された看板の落差がスゴイですよね。まさしくこの映画の存在感を象徴している…。「キリン一番搾り」の看板の傍らに「光」とか「アクマ」とか「カレー」とかがネオンでギラギラ輝いている居酒屋横丁ですよ。逆に行ってみたいよ…。

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なぜそこでキャスティングを誤るのか

『ケイト』の最も残念なキャラクターは木嶋の姪だというアニです。

やっぱりかという感じでこのアニもヘアスタイルはカラー入りなのですが、それ以上に気になるのは全然日本に馴染んでいる人物に見えないこと。演じている“ミク・マルティノ”に非はないのですが、やはりなぜ日本語を流暢に話せる人をキャスティングしなかったのか、そこが悔やまれる。たどたどしい日本語なのにあえて女子高生っぽい言動(それもやや古いのですが)をさせているせいで、チグハグな感じが一層際立ってしまっているし、全体的に終始失敗しているキャラクター像になっている…。

あとおそらくこれは欧米人視点ゆえなのでしょうが、このアニはストーリーテリングにおいて必要以上に年齢を下に見られており、過保護になっていますよね。アジア系の若い女性をことさら年少扱いするという無自覚な偏見が染み出ているせいだと思いますが…。これが白人の少女を登場させるなら、ここまで子ども扱いはしないでしょう。『LOGAN ローガン』とか観ていればわかるとおり、それよりも年下の子でも白人なら大人顔負けの対等扱いで描かれたりしますしね。

主人公の“メアリー・エリザベス・ウィンステッド”自体はとてもカッコよく、彼女なりのクールさを全開にしていて良かったのですが、死んじゃうだけのオチなのがもったいない…。

“浅野忠信”や“國村隼”の扱いも無駄消費で終わった感じでした。“浅野忠信”は『モータルコンバット』ではあんなに大物感たっぷりに暴れられたのに、今回は斬られるだけの役だもんなぁ…。

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日本文化を消費するだけでなく

『ケイト』は基本的にビジュアル的なクールさだけで日本文化要素をつまみ食いして製作陣の欲を満たしているのですが、もっと学んでほしかったですね。日本文化の深いところを。

例えば、作中で“MIYAVI”演じる城島は蓮司の愛人ということでゲイだと思われるのですが、それがすごくステレオタイプなゲイっぽさを全開にしているのはともかくとして、そもそもヤクザのような典型的な日本のホモソーシャルな世界で、ゲイが平然と存在するのはどれほど困難をともなうか…そういうことを作り手は考えたのか。あんなペントハウスで悠々自適なリッチライフを満喫できるほど、日本の男社会は同性愛に優しくないですよ。

また、刀はカッコいい武器ってだけじゃない、男社会の象徴でもあるわけで、その男の暴力の道具たる代物を扱う意味を考えているのか。家父長的な搾取から脱する女性という物語構造ながらも、そこで非西欧圏の家父長制にはノータッチどころか、仲良くしちゃっているのはいかがなものか

それに放射能汚染の被爆描写もどう考えても変ですし、よりにもよってこの日本の地でその間違いだらけの被爆描写をやるなよ…歴史をわかっているのか…とは思うし…。

日本側の視点から西欧的な視点を風刺してみせるような角度を一切持ち合わせていないのも致命的です。『Giri/Haji』みたいに、日本文化の良い部分と悪い部分を批評する作品もできなくはないはずなのに。

こういうときこそ正しい助言が必要なのですが、わかってなさそうなNetflixジャパンさんには期待できないか…。バニラの求人で応募でもかけるかな…。

『ケイト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 42% Audience 61%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
3.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ケイト』の感想でした。

Kate (2021) [Japanese Review] 『ケイト』考察・評価レビュー