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『ディザスター・アーティスト』感想(ネタバレ)…クソ映画はこうして生まれた

ディザスター・アーティスト

クソ映画はこうして生まれた…映画『ディザスター・アーティスト』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Disaster Artist
製作国:アメリカ(2017年)
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー
監督:ジェームズ・フランコ
性描写

ディザスター・アーティスト

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ディザスター・アーティスト

『ディザスター・アーティスト』あらすじ

1998年のサンフランシスコ。映画業界で成功することを夢見る二人の若者は、全く前進していない状況を打破するために、ロサンゼルスへ向かう。そして、資金力だけを頼りにしつつ、自分たちで映画を作るという計画を実行に移すが…。

『ディザスター・アーティスト』感想(ネタバレなし)

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駄作でも愛は詰まっている

どんな映画を傑作だと思うかは千差万別ですし、映画の楽しみ方は人それぞれ。ド派手な映像に酔いしれるも良し、お気に入りの俳優に見惚れるも良し、ドラマチックな物語に涙して感動するも良し、社会派なテーマに深く考えさせられるも良し、謎めいた展開や仕掛けに考察して頭を使うも良し。全ての映画に自由な楽しみ方があるのが、映画の面白いところだと私も思っています。

そんな映画を楽しむスタイルのなかでも、ひときわハイレベルなのが「クソ映画」好きの人たちです。ずいぶん酷い言い方だと思うかもしれませんが、この“クソ”という表現は最高級の愛情のこもった言葉なので気にしないでください。いくら映画にはいろいろあると言っても、世間一般の常識でみればどう考えたって「駄作」としか思えない、そんな映画もあります。しかし、一部のマニアはそんな駄作にこそ愛を捧げて応援することができるのです。偏愛の領域に達しているツワモノもわんさかいます。B級サメ映画ファンなんかはそのクソ映画コミュニティのなかではわりと大きめのグループですね。

そして、数多のクソ映画のなかでも2000年代を代表する「キング・オブ・クソ映画」「史上最低のクソ映画」ともはや伝説化しているのが、トミー・ウィソー監督の『The Room』(2003年)という作品です。
上映時間99分のこの『The Room』、さすがというか、そのクソっぷりが尋常じゃない。普通につまらないとか、新鮮味がないとか、退屈とか、そういう次元ではないです。

まず、ジャンルとしては恋愛映画に分類されます。この時点で少しオカシイです。だって、SFやホラーなら奇抜な設定を盛り込みやすいので“クソ化”するのもわかります。でも、恋愛って…それをどうやったらクソにするんだ?という話でしょう。

さらにこの映画は製作費が600万ドルもかかっています。無名の監督が無名の俳優を使って小規模で撮影した作品のはずなのに、この資金投入額。それもそのはず、撮影期間は異例の半年。クソ映画は製作の段階でクソだというのがよくわかります。

結果、生み出されてしまった映画の中身は支離滅裂。小学生が考えた方がまだマシなんじゃないかと思うほどの破綻したストーリー、全く辻褄も合わない設定を抱えたキャラクター、必要性のよくわからないセリフの数々…ここまでまとまりがないと考察するのも不可能。

ところが、本作は一部の客層にバカウケ。カルト映画化したことで、大人気になり、黒字化までするという商業的にも大成功をおさめたのでした。世の中ってわからないものです。

その異常現象を巻き起こした『The Room』の製作の舞台裏を伝記映画として描いたのが本作『ディザスター・アーティスト』です。

巷ではアメリカ版『カメラを止めるな!』なんて呼ばれてもいるらしいですが、映像作品の製作側の想いとドタバタ劇を題材にした作品は最近も『ブリグズビー・ベア』があったりして、いずれも映画ファンに強く支持される傾向がありますが、この『ディザスター・アーティスト』はその極みといっていいでしょう。

『カメラを止めるな!』や『ブリグズビー・ベア』よりもはるかにマニアックでピンポイントな世界が繰り広げられており、ある種の「わかる人だけついてこい!」感もあるのも事実。それでもやっぱり前2作と共通するように、最後は「ああ、何かを創り上げるっていいものだなぁ」という感慨で心が満たされます。

元の『The Room』を鑑賞したことがなくても、まあ、大丈夫でしょう(日本だと観る機会がほぼないですし)。でも、本作を観たあとは、『The Room』が観たくてたまらない気持ちになるはずです。そうなったら、あなたもクソ映画の沼に片足を突っ込んでいますよ。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ディザスター・アーティスト』感想(ネタバレあり)

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ジェームズ・フランコのモノマネ芸

『ディザスター・アーティスト』はハッキリいって製作陣の「自己満足」だけで作られたと言っても過言ではないかもしれない…。

監督・製作・主演をつとめた“ジェームズ・フランコ”を始め、同じく製作に名前を連ね、出演もした“セス・ローゲン”、“ジェームズ・フランコ”の弟でグレッグ・セステロ役で出演した“デイヴ・フランコ”と、『The Room』のファンであることを公言している根っからのマニアたちが、「俺の愛を全部ぶちこんだ!」と言わんばかりにやりたい放題やった。そんな映画です。

なによりも“ジェームズ・フランコ”の「トミー・ウィソー」“完コピ”芸。本作の面白さの9割くらいはこのモノマネだと言えなくもない。ばかばかしいと言われれば反論はできませんけど、でも「俺は誰よりもトミー・ウィソーになり切れるんだ!」という根拠なきプライドが炸裂していて、しかも実際に上手いもんだから認めるしかない。

エンドクレジットでは、わざわざこれ見よがしに、元の本編の映像と本作の再現映像を並べて、どれだけそっくりにできたかを見せつけるという、まさに製作陣の満面の笑みの“ドヤ顔”が透けている、なんとも微笑ましい映画でした。ここまで自己満足を正々堂々とやられるとツッコむのもアホらしくなってしまいますよね。

本作の見事な名演によって“ジェームズ・フランコ”は、ゴールデングローブ賞でミュージカル・コメディ部門の主演男優賞を受賞。しかし、その後に複数の女性から過去のセクシャルハラスメントを告発されて、以後の賞レースからは消えてしましました(アカデミー賞では脚色賞にノミネートされるにとどまる)。

ちなみに、このせいで日本の劇場公開がなくなった…わけじゃないのでしょうね。以前から“ジェームズ・フランコ”の監督・製作の映画は日本では劇場未公開であることが多かったので関係ないでしょうし、むしろ今作はビデオスルーになっただけマシかもしれないですから。

ともあれ、“ジェームズ・フランコ”のプライベートな失態はトミー・ウィソーの顔にも泥を塗ったので残念ではあります。ただ、当のトミー・ウィソー本人はいたってマイペース。本作にもオマケ的に出演していましたが(あれが映画化の権利の条件のひとつらしい)、気になる本人の本作に対する評価は「99%素晴らしい」とのことで、「冒頭の照明が弱い」とだけ苦言を呈していたとか。しかし、本作が本国で公開された2017年のトミー・ウィソーのベスト・ムービーは『ファンタスティック・フォー』(2015年の映画です)だと答えるなど、相変わらずの珍名言を連発していました。

結論として、“ジェームズ・フランコ”はヤバさを完コピできたけど、トミー・ウィソー本人はさらにヤバさを更新し続けていた…ってことですかね。

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最低クラスのハードル競争

そんな感じで身内でゲラゲラ笑っているだけの映画に思えますが(実際限りなくそうですけど)、中身はちゃんと映画製作にとどまらない普遍的な「何かに挑戦しようとする人間」の苦悩を描いたものになっています。

本作のトミー・ウィソーの良いところは、本人には悪いですが、“才能がないところ”だと思います。平凡だと思っていた人が才能に目覚めていって偉大なことを成し遂げる作品はいっぱいあるじゃないですか。でも、このトミー・ウィソーは冒頭はビジュアルのせいなのか、いかにもカリスマ性がありそうに見えて、その実、すぐに化けの皮が剥がれるわけです。コイツ、たいしたことないぞ…と。デカイことを口にしているわりには全然ダメだぞ…そうパートナーであるグレッグ・セステロも気づくし、要するに世間一般で言うところの「イタイやつ」です。

でも、周囲の人間はそれを重々わかったうえで「お前には才能がない!」と責め立てるのではなく、同じ夢を分かち合って一緒にちょっとでもいいから前に進もうとする。なぜなら、ロサンゼルスでこの業界で花開くことを夢見るみんなはその気持ちをわかってくれているから。

ベッドシーンでは自分の尻を映したくてしょうがない無様な格好といい、聞き分けの悪いガキでしかないトミーですが、でも見捨てない周囲のキャストやスタッフたち。

後に『The Room』史上屈指の迷シーンと呼ばれる「I did not hit her. It’s not true. It’s bullshit. I did not hit her. I did not. Oh, hi Mark.」の撮影場面なんかはまさにその全員一致の象徴。テイクを67回重ねてもまともにセリフすら覚えられないトミーにイライラしつつも、やっと言えただけで大喜び。かつてないほどハードルが低く設定されたカタルシスですよ。赤ん坊が初めて立ち上がったことに大喜びする家族と親戚みたいなものです。

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クソ映画だから元気になれる

私も映画の感想で「この作品のここがダメだと思うけど、製作の段階でどうして直さないんだ」と偉そうに書くこともありますが、たぶん製作では気づいているんですよね。もっといえば明らかにダメダメな部分も製作の時点でわかっちゃったりする。でも、今ここで頑張っている人たちの雰囲気を崩したくないし、むしろ映画を作ろうという想いは一致しているから背中を押してあげる方でありたい。まあ、ゆえに駄作は生まれるんですが…その気持ちが痛いほど伝わる映画でした。

最後にプレミア上映で「俺を笑っている」と観客の反応にショックを受けるトミーの姿は、きっと誰でも経験したことのはず。初めての大役、経験、仕事…それらを前にしたとき、私たちは同じように緊張して自分がとても小さくなったような気分になります。

それでも、拍手してくれる人は必ずどこかにいる(本作だけを観ていると『The Room』が絶賛されたように感じますが、実際は世間は酷評ですから)。だから、堂々としていよう…そんな元気を観客ももらえます。

クソ映画を好きになる人たちも、意識しているかどうかはともかく、そういうエネルギーを作品から受け取っているに違いありません。それは文句のつけようがない傑作映画にはできない、クソ映画だけの役割なのです。

こういう「才能のない人間がそれでも堂々と生きる姿」を描くという作品は、『マダム・フローレンス!夢見るふたり』でもありましたね。こちらは音痴が題材ですが、やっぱり基本は同じ。ディザスター(災害)のようなアーティストでも、アーティストであることには変わりないのです。

『ディザスター・アーティスト』を観ると、人生につまずいたとき、壁にぶつかったとき、悩みでどうしようもなくなったとき、前に進む勇気をもらえる気がしてきます。そして、自分でも映画が撮れそうな感覚にすらなりますね。私はディザスターにすらなれないでしょうけど…。

『ディザスター・アーティスト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 86%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

(C) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINENT INC. ALL RIGHTS RESERVED. ディザスターアーティスト

以上、『ディザスター・アーティスト』の感想でした。

The Disaster Artist (2017) [Japanese Review] 『ディザスター・アーティスト』考察・評価レビュー